人間が生きていく上で必要とされる「衣食住」。この最初に「衣」がくる理由は何だと思いますか?
赤ちゃんがこの世に生を受けて自分で初めて呼吸をした後、最初に必要なものが”おくるみ”(=衣)。つまり、お母さんのお乳(=食)ではなく衣であることから、その順番になっているといわれています。
人間が生まれて最初に必要で大切な”衣”との関わりを見直したいー。そんな想いから始まった「Made in 長野 オーガニックコットンTシャツプロジェクト」(以下「Tシャツプロジェクト」)をご紹介したいと思います。
1枚のTシャツを通して見えてくるもの
「Tシャツプロジェクト」は、綿を育て糸の原料になるまでを体験できるフィールドを提供し、そこで収穫した綿がTシャツとなって、参加者の手元に届けられるプロジェクトです。1枚のTシャツが、いくつものステップを踏んでつくられることを知ってもらう機会を提供するとともに、all made in Japanのオーガニックコットン製品の事業化を目指しています。
始まりは4月。有機肥料を加えて土づくりをした後、綿の種を蒔きます。その後、成長とともに、草刈りや追肥、摘芯などの作業を経て10月に収穫、そして綿繰りという作業を通して糸の原料に仕上げます。そして、オーガニックコットンの基準を満たした工程を経て、Tシャツとなり参加者のもとに届けられるのが次の年の秋頃。約1年半かけてTシャツができ上がるわけです。
日本での綿の栽培を復活させよう
今の生活の中では、Tシャツって農産物なんですといってもイメージがわかないですよね。それをきちんと分かってもらうような機会をつくっていきたい。
と代表の渡邊智恵子さんは語ります。
渡邊さんは株式会社アバンティを立ち上げ、オーガニックコットン製品を先駆けて世の中に提供してきました。また、糸・生地・製品づくりは一貫して国内で行っています。原料となる綿はというと、日本国内での自給率は0%、輸入に頼っているという現状です。アバンティも同様、無農薬・無化学肥料の有機栽培綿を輸入しています。
というのも、綿は江戸時代には国内で広く栽培されていましたが、明治維新以降、中国やアメリカなどの海外から、安く、生地にしやすい綿が輸入されるようになり、国内産は衰退してしまったのです。しかしながら昔は、綿はたいてい農家の畑の片隅に植えられているような、身近な存在だったのです。
そんな中、綿の種の保存を絶やすことなく行ってきたのが、信州大学繊維学部です。日本で唯一の学部である繊維学部では、約30種類の綿の種を守ってきました。毎年種を蒔き、綿を育てることで種を保存していましたが、綿毛自体は活用していなかったそうです。そこで、アバンティと組むことで、綿を育てるところから、糸をつくり、生地にし、製品化するまでを、一緒に事業として行うことになりました。
足もとを見据えたものづくりを
綿も麻も農業で成り立っています。長野で綿を栽培しているのも、そのことをもっと大切にして、足もとを見据えたものづくりをしていきたいと思っているからです。農業、そして、土というものが私たち日本人にとって、どれだけ大切なものなのか、きちんと認識してもらいたいんです。
と渡邊さんは話します。机上で学ぶことも大切ですが、フィールドに出て五感を通して得られるものは、それ以上にたくさんありそうです。
また将来的には、all made in Japanのオーガニックコットン製品の事業化を通して、綿の国内自給率を上げ、日本の農業の活性化や遊休農地の活用にもつなげていきたいと思い描いています。
育てるところから関わること、つまり土を耕し、雑草を刈り、自然の中でたくさんの汗をかいて育てた綿からできるTシャツは、何よりも特別な1枚。太陽と土の恵みを受けて育った綿に思いを馳せながら、その肌触りを存分に味わってみませんか。
Tシャツを育ててみよう
オーガニックコットンの靴も!