みなさんは、どんなときにお花をいただきますか? きっと、お祝いなどうれしいことがあったときではないでしょうか。その後、そのお花はどうしていますか? 筆者はたいてい枯らしてしまい、捨ててしまっていました。
日々の生活にかぎらず、結婚式やイベント、テレビ番組のスタジオでは装飾花が彩りを加え、華やかで幸せな空間を作ってくれます。精一杯会場に幸せの色を添えたお花たちは、わずかな出番の後に捨てられてしまう場合がほとんど。
「助けてと叫ぶことのできないすべての花のために」。咲いたまま捨てられる花を美しく再生させるプロジェクトが、「SHY FLOWER PROJECT」です。
生まれ変わる作品は一点もの
「SHY FLOWER」と呼ばれる廃棄花をプロジェクトのメンバーが回収し、ドライフラワーにします。そしてフラワーデザイナーがそれらドライフラワーを用いてコサージュなどに仕立てあげるというもの。ドライフラワーは、耐久性に弱いところもありますが、柔らかくて丈夫なプリザーブドフラワーで周りを囲むように混ぜ、耐久性を向上させています。また、一般的なお花の仕入れとは異なり、そのときいただくお花を使用するため、全て完全な一点もの。それぞれ異なる命の輝きをそのまま身にまとうようです。
プロジェクトを始めたのは、広告会社サステナのコピーライター・古橋あや香さんと、フラワーデザイナーとしてフラワーブランド「Pacos」を運営する細貝泉さんという、これまたお花のように慎まやかで可憐なお二人。そんなお二人に、お花の魅力について存分に語っていただきました!
2時間で捨てられてしまう花
伊藤 SHY FLOWER PROJECTを始めようと思ったきっかけは何だったのでしょう?
古橋 前職でお花の教室等に携わる機会もあって、パーティーなどで捨てられる花がこんなにも大量なんだということ、そしてテレビ番組等ではたった2時間弱で捨てられる装花もあることを知って、ショックを受けました。ちょうど大学の友人である細貝が今年ドライフラワーとプリザーブドフラワーをミックスしたブランドを立ち上げたので、捨てられた花をドライにして作品にすることはできないかな?とメールしたのがきっかけです。
細貝 私はプリザーブドフラワーとドライフラワーを扱うブランドを主宰しているのですが、プリザーブドフラワーやドライフラワーは廃棄花があまり出ません。だから実は、あまり廃棄花の存在に気づいていなかったんです。たまに、パーティー装飾などの手伝いで生花を扱ったりしていたのですが、古橋から話を聞いたとき、生花がかなりの量で捨てられていたことを思い出しました。
パーティー会場などでたくさんのお花を使って装飾をしても、パーティーが終われば、お花屋さんは片付けをする必要があるため、捨てなければいけないのです。お花屋さんにとって、一度使用した花を捨てることは仕事の一部。でも、そうした「当たり前」に、疑問を感じたのです。
「実は、いつも捨てるのが辛かった」
伊藤 お花屋さんに廃棄花の提供をお願いしているとのことですが、きっと多くのお花屋さんが賛同してくれるのではないでしょうか?
古橋 廃棄花を提供してくださるお花屋さんを探すために、最初の2カ月は100軒くらい電話するところから始めました。でも全然相手にしてもらえませんでした。花は生ものだから、時間と戦いながら捨てていかなきゃいけません。そんな慌ただしい時間の中で送る余裕はない、というお答えばかりでした。また、私たちのような取り組みをやろうとした方は、以前にもおられたようですが、同様の理由からお花屋さんに断られることも多くて長続きしなかったようなんです。
そういったことも知って、自信をなくしかけていたときもありました。そんな中、1軒だけ西新宿のお花屋さんで共感してくださるところが見つかったのです。そのお花屋さんが、テレビ番組などに出されている花の装飾をそのまま届けてくださったのが最初です。それでやっと8月の終わりから活動ができるようになりました。
伊藤 そうだったんですね。現在、どういった方が提供してくださっているのでしょう?
古橋 やっぱりお花が好きな方です。ハサミを入れるのにも、「切るとき、いつも考えてしまう」っておっしゃるような。あとは、結婚式場やレストランの方が多いです。「実は、いつも捨てるのが辛かった」とおっしゃる方が多いですね。
細貝 でもお花屋さんも、決して捨てたいから捨てているわけではありません。たった1本の状態の良い花を使うために、10本仕入れる。お客様により最高のものを作るため、厳選に厳選を重ねているのです。そのために、どうしても廃棄しなければならないお花が出てしまうのです。そういう側面を知っていると、「捨てないで」とお花屋さんに言うのも、ちょっと苦しいものがありますね。実際にお話をしていても、辛そうな顔を浮かべる方もおられました。
古橋 だからではないですが、結果的にこのプロジェクトでは、パーティーやイベント、テレビ番組などの装飾花を主に取り扱っています。装飾花は捨てるのが前提にあります。最初の西新宿のお花屋さんも、装飾花を主に作っておられました。
細貝 パーティーや結婚式などのお祝いの場で使用された装飾花の出番はほんの数時間。でもそのわずかの間に幸せや楽しい気持ちをたくさん見て、照らしてきたお花たちです。いただいたお花をドライフラワーに仕立てているとき、このお花は祝福の花なんだと、ごく自然に思いをはせています。「このお花は、結婚式で幸せな二人を見てきたお花なのかな」「新商品のお披露目パーティーで使われたんだな」って。
お花が教えてくれる、生活の中で見落としていたもの
伊藤 そのほかにも、お花でもっといろんなことができるんじゃないかって可能性を感じます。
古橋 そうですね。私たちの活動を通じて、全てのお花を救えるとは思っていません。この活動を通じて、大量の生花が捨てられているという事実を知り、「何か自分でできることはないかな」って考えてもらえたらいいなと思っています。ひいては、今まで当たり前に捨てていたもの、当たり前に無駄にしていたものを、ちょっと見つめ直していただけるとうれしいですね。
細貝 私自身、ふだんからフラワーデザイナーとしてお花を扱っていたにもかかわらず、このプロジェクトを始めてから気づいたことがたくさんありました。例えば、野菜はへたの部分でも料理する方法があったりします。でもお花の切れ端にはそんな方法もなく、「ぜったいに捨てる部分」って思っていたところがありました。でもこのプロジェクトをやるようになってから、「この切れ端はSHYの作品のこの部分に使おうかな」と考えるなど、ちょっとした葉っぱの切れ端も使い道を探るようになりました。今まで当たり前に思っていたことを疑う、ということができました。
伊藤 私もお花をいただいても、せっかく気持ちを込めていただいたお花なので捨てるのがけっこう苦しい。でも押し花にする以外、方法も知りません。お花を捨てることを受け入れてしまっていました。
古橋 日本では、冠婚葬祭の際にはお花を使用しますが、日常的にお花を飾るというのは、海外と比較すると格段に少ないと感じています。日常的にお花を取り入れ、活用していただけるような工夫やアイディアを今後ご紹介していきたいと思っています。
花は気持ちを伝えるときに欠かせないもの
伊藤 ところで、今はフェスで主に販売しているとのことですが、なぜフェスだったのでしょう?
細貝 頭に花を付けて踊るというのが、どこかの国の伝統だと聞いたことがあります。そういう行事ごとでなくても、文明が発達していない頃から道端に咲いている花を頭に差したりしていたと思うんですよ。日本でも古事記・万葉集の時代から頭に花を飾っていたそうです。そういう昔から本能でやっているハッピーなことを、フェスでやったらハッピーだなって思ったんです。古代遺跡で花粉が見つかったニュースなんかも時折ありますが、古代人も花を手向けていたんですよね。
古橋 女性をデートに誘うときは、必ずお花を持っていかなきゃいけない、という国もあります。お花って、万国共通で気持ちを伝えるために使われてきたものだと思うと、お花って本当に奥深いですよ。
伊藤 そうですね、まさか大根をブーケにしてデートに誘うわけにいきませんよね……。
古橋 そう!お花が世の中からなくなったら、きっと困ると思います(笑)。
伊藤 お花って気持ちを込められるものですね。最後に、お二人の好きなお花はなんですか?
細貝 好きなものはいろいろあるんですが、グリーン系が好きです。葉っぱ、蔦、つる、苔みたいなモスとか。
古橋 5月……春だけに道端で咲いているオレンジのお花……アネモネが好きです!
(インタビューここまで)
お花以外にも、普段の生活を見渡してみると、いつもは気づかなかったムダがあるかもしれません。それに気づいたとき、きっとまた新たな彩りが生活に生まれそう。まるで、道端にちょこんと咲いているきれいなお花を見つけるみたいに!
SHY FLOWER PROJECTが教えてくれるのは、日常を新鮮なまなざしで見つめる勇気のように感じます。
現在、SHY FLOWER PROJECTは、クラウドファンディングサイト「GREEN GIRL」で支援者を募集していますので、ぜひチェックしてみて!
また、SHY FLOWER PROJECTのアイテムは、SHY FLOWER PROJECT出展のフェス、またはPacosデザイナー・細貝泉さんが出展する展示会で購入可能です。出展に関する情報など最新情報は、随時Facebookのファンページでお知らせされているのでぜひチェックしてみてくださいね!