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マンガ×ソーシャルデザイン=∞!「マンガナイト」山内康裕さんに聞く「マンガが社会のためにできること」 [マンガ×ソーシャルデザイン]

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世界に誇る日本の文化「マンガ」が嫌いな人っているの?「マンガが嫌い、絶対読まない!」という人は、あまり見かけないかもしれません。

けれど、「最近面白いマンガって何?」と聞かれたら、答えられない方も多いのでは?手塚治虫作品、藤子不二雄作品といった、どちらかというと昔の作品が思い浮かぶ人もいるかもしれません。でも、それだけではもったいない。マンガのさまざまな楽しみ方、そしてそれを共有する方法がたくさんあるんです!

私たち「マンガナイト」は、このマンガという存在を通して、人との広がりをつくることに挑戦しています。マンガが社会とどのようにつながるのか、問題を解決できるのか。そして、マンガのポテンシャルはどこまで広がるのか。それは、もしかしたらソーシャルデザインの一つかもしれません。

マンガナイトは、さまざまな角度から“マンガ×ソーシャルデザイン”を体現している人々へのインタビューや対談を連載します。第一弾として、昨今のマンガ事情、そしてマンガナイトの活動について代表・山内康裕が、greenz.jp編集長・兼松氏と対談しました。

「マンガがつまらなくなった」への問題意識

マンガナイト代表、山内康裕。一番好きなマンガは『め組の大吾』(曽田正人)
マンガナイト代表、山内康裕。一番好きなマンガは『め組の大吾』(曽田正人)

兼松 僕は1979年生まれなんですが、ちょうど小学校から中学校の頃がジャンプ黄金期で、『キン肉マン』の技を仲間でかけあったり、『スラムダンク』にもろに影響されてバスケ部に入ったり、どっぷりマンガにはまっていました。今でも『ワンピース』は立ち読みしてますし、月曜日と木曜日は毎週ワクワクしています(笑)。

安西先生の「あきらめたらそこで試合終了だよ」みたいな言葉に励まされたり、マンガが人生の節目に関わることってたくさんあると思うし、みんなが何かしら語れることがあるってすごいことですよね。だからこそマンガにはいろんな可能性があるんだななと、マンガナイトの活動をみていて感じています。

まずはマンガナイトの活動について、聞いてもいいですか?

山内 マンガナイトは2009年にスタートした、マンガを介して人と人がコミュニケーションできる、新しいマンガと出会えることをコンセプトとしたユニットです。

この団体をつくろうと思ったのは、ちょうど『スラムダンク』『幽☆遊☆白書』『ドラゴンボール』の少年ジャンプ三本柱の連載が終わったくらいかな……。1995年のピーク以降のマンガ市場、特にマンガ雑誌の売上が右肩下がりになっていった頃。これと時を同じくして、周囲で「マンガがつまらなくなった」「昔のマンガのほうが面白かった」という人が増えたように思ったんです。

ただ、僕の考えは違って。面白いマンガは今も昔もずっとあり、むしろ進化している。そのマンガを好む読者に、きちんと届いていないだけだと。

事実、単行本のタイトル数は今とピーク時を比べて約2倍近くになっているんですよ。その結果、自分に合ったマンガを探すことが大変になってきたのではないでしょうか。だから面白いと思えるマンガに出会うこと無く、過去の名作ばかりが注目を浴びているのでは? これじゃマンガは廃れてくんじゃ? という問題意識みたいなものがあって。

もっとカジュアルに、自分が面白いと思えるマンガに出会えて、それを語り合える仲間と出会える場をつくれないかと思ったのが、マンガナイトが生まれるきっかけでした。

マンガとの出会い、でいえばAmazonの「オススメ」もあります。でも、人間のオススメ感覚ってやっぱりすごい。単純にジャンルやストーリーが似てるからオススメというのではなく、相手をちゃんと見て、性格や雰囲気など複雑な情報から選んだオススメ作品はすごく面白いものなんです。「相手が自分のために選んでくれた!」っていうのも嬉しいし。

昔はマンガは「一人で読むもの」でしたが、今は「みんなで読むもの」。その作品の面白さを共有できないかと、リーディグイベントも開催しています。

兼松 「ひとり」から「みんな」へ、というのは面白いですね。具体的にはどんな感じなんですか?

山内 リーディグイベントでは、参加者のみなさんにマンガを一冊ずつ持ち寄ってもらって、それをテーマごとにテーブルに振り分けるんです。たとえば「唸った」「キュンとした」とか。そこで、そのテーブルに着席した参加者同士で回し読みしてどこが「唸った」ポイントなのか、「キュンとした」ポイントなのかを話して、新しい発見と、今まで自分では考えられなかった楽しみ方を見つけてもらう。そういったコンシェルジュ機能も、マンガナイトの活動の一つです。

マンガ×「?」=コミュニケーション

greenz.jp編集長 兼松佳宏氏は『ワンピース』(尾田栄一郎)や『BECK』(ハロルド作石)が大好き
greenz.jp編集長 兼松佳宏氏は『ワンピース』(尾田栄一郎)や『BECK』(ハロルド作石)が大好き

兼松 最近は『サマーウォーズ』など、アニメの舞台になることで地域が賑わったり、まちづくり×マンガも盛んになってきてますよね。

ジョジョ展も盛況のようですし、「ゴルゴ13」などマンガを使った広告もよく見かけます。ファンをコミュニティとして捉えて、そこにメッセージを届ける手段として、マンガやアニメが注目されている、ということなのでしょうか。

山内 それはありますね。マンガやアニメはわかりやすいし、熱狂的ファンが多く地域に結びつきやすい。手塚治虫記念館のように、漫画家としての歴史を絡めた「生きた証」、つまり記念碑として人を集めたり、最近オープンした北九州市漫画ミュージアムは地域活性化を狙ってますよね。

企画展も進化してきています。「井上雄彦 最後のマンガ展」のように、展示空間そのものをマンガ作品として見せる試みも増えていて、インタラクティブな体験型コミュニケーションとして今後も発達していきそう。もちろん、歴史あるコミケ(コミックマーケット:世界最大規模の同人誌即売会)にも注目しています。

兼松 ディズニーランドも、「自分もシンデレラやインディ・ジョーンズみたいになれるかも」みたいな、追体験できることが大きいですものね。マンガでも似たような楽しみ方ができるのかも。

山内 そうなんです。今まで、書評は雑誌でもウェブでもたくさんあったけれど、本当のマンガ好きは語り合いたいんですよ。もっと「このマンガの、ここがいいんだよ!」って語り合いたい。僕も語りたい!(笑)

面白いことに、マンガナイトのイベントはマンガ編集者や漫画家もくるんですよ。みんなフラットな関係で好きなマンガをオススメしあう。マンガを生み出す人、二次創作をする人、好きなマンガをオススメしたい人、そういう人たちの声をもっと広げたいし、それを自由にやれる場所がマンガナイトなんです。好きなマンガを「好きだよ!」って。

兼松 本当は秘めていた思いを、堂々と告白できる場所を提供しているんですね。

山内 恥ずかしくなってきました(笑)。でもマンガが注目されるようになった一方で、安易に「マンガにすればいいじゃん」「マンガでやれば売れる」という風潮も生まれたように思いますね。極端な例では、「うちの地元を舞台にマンガを描いてもらおう!」という人も。

でも、そういうのって読者は気づくし、爆発的に盛り上がっている例は見ないです。だから、安易な手段としてマンガを挙げるのはちょっと違うかも。

もちろん、漫画家自身がその土地が大好きで、それをテーマにマンガを描いてヒットした作品はあります。やっぱり愛ですよ!

今の若者世代で、マンガは大きく変わる

毎年年末に行われる「マンガナイトトークイベント 2012年度マンガドラフト会議〜書店員バトル〜」では、マンガのツワモノたちがマンガランキングを予想。白熱した戦いで盛り上がる。
毎年年末に行われる「マンガナイトトークイベント 2012年度マンガドラフト会議〜書店員バトル〜」では、マンガのツワモノたちがマンガランキングを予想。白熱した戦いで盛り上がる。

兼松 安易な手段ではないマンガの生かし方について、山内さんはどんなアイデアを持ってますか?

山内 今までは、どこにアクセスすればマンガについて情報を得られたり交流できるかが、誰にもわからなかった。

マンガに対して熱をもっていて、かつ詳しい人と言えば、出版社の漫画編集者や書店員。最近、漫画ランキングがさかんになって選書のために書店員の声もとりあげられるようになってきました。マンガの評論や研究は、京都精華大学でマンガ学部が設置されたのを皮切りに盛り上がり始めている。

発信している人がいるのに、欲しい人に届かなかった。そこをカバーする役目をマンガナイトで担えれば、変えられないかなと考えています。

兼松 マンガも小説も、そこに知っておくべきストーリーがあることが本質ですよね。登場人物の誰かに自分を重ね合わせて想像してみる。嬉しいこともあれば、ときに痛い思いをすることもある。そういう意味ではいつの時代も大切な存在だし、今の子供たちにとってもきっと同じなんだと思います。

山内 子どもたちに与えるマンガのパワーもすごいんですよ。東日本大震災の際、漫画家が被災地にいって子供達の似顔絵を描いたり、絵描き指導を実施して話題になりました。

僕が最近参加したものでは、しりあがり寿先生が「妄想デッサン教室」というワークショップで、そこに存在しないものを妄想でデッサンをしてみたり……。こういったワークショップイベントは、ソーシャルメディアと組み合わせればもっと進化すると思います。

兼松 楽しみですね。もうひとつ気になるトレンドのひとつが電子書籍です。3年くらい経ったらどうなっているのでしょう。

山内 2012年に大学を卒業した世代って、子どもの頃にパソコンでいうとWindows 2000ぐらいの世代ですよね。僕らの子どもの頃は紙の本だけだったけれど、その世代は電子媒体でマンガを読むのに全く抵抗がないはず。たぶん僕らだったら、タブレット端末なんかでマンガを読むと慣れるのに少し時間がかかるけど、違和感なく読めるはずです。

そうなると、一気に電子化の波が来る。漫画雑誌の代わりに電子版やウェブ版を読んで、でも紙の本としての単行本はコレクションとして売れる、みたいなハイブリッド現象が来年には起きるんじゃないでしょうか。

(対談ここまで)



まんが、マンガ、漫画一色の対談。いかがでしたでしょうか?単純に「好きなマンガ」について語るだけでも楽しいですよね。私たちの活動は、その延長線上にあるもの。みなさまの「このマンガが好き!」という声が、活動をかたちづくっているのです。

今後はマンガを読むのがもっともっと楽しくなるような記事を、greenz.jp読者のみなさまにお届けします!

(Text:マンガナイト・川俣綾加)

山内康裕
マンガナイト/Rainbowbird.inc代表。
1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科を修了。
仕事や勉強のかたわら20歳からマンガ業界の研究を始め、2009年にマンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成、各種イベントを実施。マンガナイトの活動から派生するかたちで、Rainbowbird.incを設立し、マンガ関連の販促企画・場のプロデュース・戦略立案事業、選書・執筆(『このマンガがすごい!』など)も手がける。

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