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メイド・イン・ジャパンが絶滅したら、日本人は誰にも見向きされなくなる?本物のメイド・イン・ジャパンを伝える「Factelier」に聞いてきました!

GIORGIO ARMANIが採用した福島県川俣の絹織物。パリオペラ座バレエ団の衣装に、CHRISTIAN LACROIXが採用した石川県のオーガンジー。Jean Paul Gaultierのドレスの生産は岩手県。織り・縫い・紡績に、事例を挙げれば枚挙に暇がない日本の衣服の技術。

しかし、長引く不況と円高、何より低コスト化が進んだ結果、国内市場におけるアパレル品の国産比率は1990年からの10年で50.1%から4.5%まで減少。およそ20年にわたり、マイナス成長を続けているのが「メイド・イン・ジャパン」の衣服です。

この状況を変えるべく立ち上がったのは、1917年創業の婦人服店の息子として熊本で生まれ、日本製の上質な商品に囲まれて育った山田敏夫さん。商社や卸などの中間業者を通さず、工場と提携しオリジナル商品を製作し、ネットで販売するサービス「Factelier(ファクトリエ)」を立ち上げました。

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「工場」と「消費者」をダイレクトにつなげることで、コストを最小限に抑えて、最高品質の商品を提供しています。Campfireでのプロジェクトでご存知の方もいるかもしれません。

第1弾として提携する工場は、ワイシャツ工場「HITOYOSHI」。国内外の有名ブランドのシャツを手がける屈指の工場です。そのHITOYOSHIの前田寛明さん・佐藤浩一さん(以下、敬称略)と山田さんが打ち合わせしておられるところにおじゃまして、お話を伺いました。

「2億5000万枚の最高を作ってやる」

笑いの絶えない打ち合わせ。「夢ばかり語ってます(笑)」だそう。

笑いの絶えない打ち合わせ。「夢ばかり語ってます(笑)」だそう。

伊藤 FactelierとHITOYOSHI。この2つが手を取り合った経緯をまずは教えてください。

山田 GUCCIやHERMESといった世界の有名ブランドの多くは、ファクトリー(工場)から始まったことは知っていました。でも当初は、日本では無理だろう、と諦めていたんです。安価な製品を求める消費者の意見を重視して服を作るのが主流だからです。

でも、阪急メンズ館がオープンしたとき、業界紙・繊研新聞の一面にHITOYOSHIさんが、自社名を冠したブランドを立ち上げて人気商品となっているという記事が掲載されていたんです。それを見て日本にもファクトリー発信で直接消費者に訴求している会社があるということに感動しました。日本からも、世界で張り合えるファクトリーブランドが生まれるかもしれない。そう思ってとてもわくわくしたんです。それでその日のうちに連絡させていただきました。

HITOYOSHI社長が「目を見て決めた」という、きらきらした眼差しがすてきな山田さん。

HITOYOSHI社長が「目を見て決めた」という、きらきらした眼差しがすてきな山田さん。

山田 最高の「メイド・イン・ジャパン」のシャツを作ろうとすると、中間にさまざまな業者がおり、どうしても3万前後の価格になってしまいます。この中間を取っ払うことで価格を下げられれば、消費者がもっと本物の「メイド・イン・ジャパン」に親しむことができる。なおかつ世界のファクトリーブランドにしていくために、工場の最高の技術を結集させたものを作りたい。

そう訴えたら、HITOYOSHIの工場長さんに「今まで2億1000万枚作った中で一番のやつ、作ってやる」と言っていただきました。ものすごく嬉しかったですね。そのとおり、最高の製品ができましたよ!

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職人を育てる環境

伊藤 後継者不足が叫ばれる日本の工場の職人さんたち。職人さんってどういう方々なのでしょう? いろんな理由がありますが、なぜここまで危機に瀕するようになってしまったのでしょう?

佐藤 他の工場さんを見ると、職人さんは50~60代。工場長さんは60歳以上の方が多いです。「30年やっているけど、もう引退かな」と言っておられる方も多いんですよ。年齢には逆らえないので、どうしても目が見えなくなったり、体が動かなくなってきたりします。しかし工場で働くというイメージが湧かず、若い方が入ってきづらいイメージのまま続けてきてしまいました。

あと5年すればさらに工場の数は半減するのでは?と僕らは見ています。HITOYOSHIでは、工場長が学校などに出向き、シャツの生産を教えたりなどしながら、若い人に対して敷居を下げて入社してもらいやすくしています。

前田 HITOYOSHIが工場を熊本に置きつつ東京に事務所を構えているのは、東京でトレンドをしっかり捉えながら、工場の特別とみられるほど高度な技術に合うものを選定するため。他の工場さんの中には、地元だけでやっておられる方も少なくありません。何が流行っているのかということに始まり、どんなオーダーならその工場の技術に合うかを考慮しないまま、発注されるオーダーをひたすら受けてしまうというケースが少なくないのです。

そうなってくると、工場としては技術を磨く以上に、枚数をこなすことに力が向いてしまいます。それでは海外の大量生産の工場と変わりなく、「職人」と呼ぶことはできないのではないでしょうか。

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中間業者を否定するのではない

伊藤 中間にたくさんのプレーヤーがいることによって、価格が跳ね上がるという現状について、工場側としてはどういう見かたをしていたのでしょう?

佐藤 「昔からそうだから、そういうもの」とみんな思っているのではないでしょうか。工場と直接やり取りして作るのは完全買取になるなど条件が変わって、小売としては結構リスクがあるので、やりたいけど勇気が出なかったというのがあるでしょう。

前田 中間に入っているプレーヤーの一人ひとりが価値を発揮しているならば、それは排すべきではありません。それで値段が高くなるのであれば、価格と価値は一致します。しかしもし、価値を発揮していないプレーヤーがいることで値段が跳ね上がるのならば、それは納得がいかない。

我々は、真剣に良いものを作っています。だから真剣に良いものを売ろうと思ってくださる方のために作りたい。それで真剣に良いものを欲してくださる消費スタイルもちょっとずつでも作っていきたいですね。そのコミュニケーション部分については、山田さんに期待しています。

伊藤 では山田さん。「良いもの」って漠然とした言葉ですが、「良いもの」ってどうやって伝えていったらいいのでしょう? 「良いもの」って何なのでしょう?

山田 いろんなECサイトを見ても「良いもの」と書いてあるところだらけですし、そもそも「良いもの」って人によって違います。では一体なにが「良い」のか? 僕らは、並べられる事実をきちんと並べて伝えていきます。それでも「良い」と思わない方はおられるかもしれません。でも事実を伝えることで、一人ひとりが判断できる機会を作っていきたいです。

僕はファクトリー発の「ブランド」を作りたいと思っていますが、ブランドだから買いたい、という消費スタイルよりも、この商品は誰がどうやってどんな思いで作っているのか。作り手の温もりを感じられる服をというスタイルを定着させていきたいと考えています。

真ん中が前田さん、右端が佐藤さん

真ん中が前田さん、右端が佐藤さん

HITOYOSHIには、襟を作って20年、袖を作って30年という職人さんがおられること。襟のステッチは通常3cmに16個のところ、24個と細かくしてなじみやすくしていること。前身と後身をつなぐ縫製は、「巻伏せ本縫い」という縫い目が表に現れないような縫いで、自然な美しいラインを作っていること。ボタンは「鳥の足付け」で着脱しやすいようにしていることなどなど、サイトに丁寧に書かれた「事実」の数々

こうした事実を消費者も蓄積していければ、今後衣服を選ぶときの習慣が変わりそうです。そしてこれらの事実は、職人さんたちがシャツと向き合い技術を追求し続けてきた証でもあります。

最後に、「メイド・イン・ジャパン」についての思いを語っていただきました。

「メイド・イン・ジャパン」とは、日本人を表すもの

前田 「メイド・イン・ジャパン」って、日本人を表すものだと思うんですよ。日本人の一つのことに集中・追求できる真面目さ、というんでしょうか。シャツの技術を追求してきたことでその技術がどんどん際立つものになっていく。そうした国民性がものに現れたものが「メイド・イン・ジャパン」ではないかとも思いますね。

山田 世界の名だたるブランドが日本のものづくりに頼っています。でもそれを支えていた方々が次々引退したらどうなるのか。誰にも見向きもされなくなるのではないか。そうすると、大量生産もできない技術もない日本人というのはなんの価値がある人なのか? 飛躍かもしれませんが、そういう危機感を僕は抱いています。せっかく技術があり、それを擁する工場さんがいる。その価値をリアルに伝えていきたいと思っています。

(インタビューここまで)

手を取り合った工房工場と末永く付き合いながら日本発のファクトリーブランドを作りたいと語る山田さん。12月からも創業昭和11年という老舗手織りメーカー「KUSKA」(クスカ)のネクタイがFactelierのサイトで販売開始となりました。こちらも糸作りから染め・商品完成までをハンドメイドにこだわっているファクトリーです。

いったい何が「本当に良いもの」なのか。多くの方にとっては、それがよくわからないままだったかもしれません。しかし、良いものには「事実」がある。購入する側も自分の中に「事実」を積み重ねていくことで、自分にとっての「ホンモノ」がはっきり見つかるかもしれませんね!

メイド・イン・ジャパンを着よう!