東日本大震災から1年半以上が過ぎました。みなさんは震災を、原発事故を、今どのように捉えているでしょうか?ほぼ普段通りの生活を取り戻して震災は原発は時々しか思い出さないという方もいるでしょうし、脱原発を目指して積極的に運動に取り組んでいる方もいるでしょう。
でも、立ち止まってあの時感じたことを思い出そうとしたことはありますか?その感情を思い起こしてみると、その時と今の自分にズレを感じませんか?そんなことを問いかけてくれるのが今回紹介するドキュメンタリー映画『フタバから遠く離れて』です。
よく言われることですが、人間というのは忘れる生き物で、東日本大震災のような未曾有の出来事でも、時間の経過によって人はどんどん忘れていきます。いまは「そんなことはない」と思うかもしれませんが、1年半と比べて震災のことを思い起こす時間は確実に減ってきているでしょう。「忘れる」というのはまだ当てはまらないかもしれませんが、意識の中に占める割合は減ってきているのです。
例えば、双葉町の人達のことを最近考えたでしょうか?双葉町の人たちが集団で埼玉県加須市の旧騎西高校に避難したことを覚えている方は多いと思います。しかし、今もまだその旧騎西高校に180人もの方が依然として避難していることをご存知でしょうか?この映画は双葉町の人達がその旧騎西高校にやってきた4月から約半年間を追った作品です。
映画で語られる内容は、味気のない弁当ばかりの生活、原発があるために生きているかもしれない肉親を捜索できなかった悔しさ、ふるさとに帰りたいという想い、原発立地自治体としての苦悩など。それは、その当時話題になったり、私たちが考えていたことごとであり、それをその当事者の視点から捉えたものです。彼らの想いをそれからさらに1年がたった今見ることで、少し客観的に見つめることができ、また改めて考えさせられる構成になっています。
特に私が興味をひかれたのは、井戸川町長が原発が双葉町にやってきた頃から今までを振り返る中で、原発から様々な恩恵を受けながらそれを上手く扱えなかったということを口にするシーンです。原発が来たことで街も人々の暮らしも豊かになり、住みやすい町になった町長は語りますが、それは原発があるからこそ成り立つものであり、原発から落ちてくるお金が減ると双葉町はあっという間に財政難に陥ったといいます。そして、そこから抜け出すには増設を受け入れるしか選択肢がなかったというわけです。
これは非常に考えさせられます。原発を受け入れたことで「豊か」になったという事実と、そこには「紐」がついていたということ、その豊かさを維持するためにはさらなる原発を受け入れるしかなかったというのは非常にもやもやする話です。しかし、その話は震災によってまったく意味のないものとなり、双葉町の人たちは享受した豊かさのつけを別の形で払わされることになったのです。
季節が夏に移ると、一時帰宅が行われたり、双葉町から避難せずに牛の世話を続ける牧場主が登場するなどし、時がすぎるにつれて旧騎西高校の避難所からは人々が徐々に減り、秋が来て映画は終わります。
映像はそこで終わりますが、私はエンドロールにかかる坂本龍一さんの曲「for futaba」を聴いて何故かすごく気分が重くなりました。それはおそらく、その秋から今までの約1年をそのエンドロールの間に考えてしまったからでしょう。去年の秋の時点でまだ旧騎西高校にいた人達も、すでにどこかへ移住していた人達も、さらに1年新しい環境の中で暮らしを続けてきたのです、その想い、それは私には想像できません。
しかし、終盤に映された「双葉町を返せ」と叫ぶ首相官邸などのデモのシーンで、デモを終えた双葉の人たちは「返してもらえないことはわかってる」と口にし、さらに別の人は「返っても土地はあっても暮らしはない」というようなことを口にします。
エンドロールを見ながら私はそれを思い、暮らしとはいったい何なのか、映画の中でも度々口にされる「暮らし」という言葉を私たちは普段なにげなく使っているけれど、それはいったい何を意味するのか、そんなことを考えずにはいられなかったのです。
あの震災の日、私たちの暮らしも揺さぶられました。今あらためてそのことを思い出してみてください。双葉町の人達ほど劇的にではなくても、あなたの暮らしにも確実に変化があったはずです。それからあなたの暮らしはどのように変わったでしょうか?揺さぶられたことによって良くなったのでしょうか、それとも悪くなったのでしょうか?
東日本大震災と原発事故は非常に重く大きな出来事でした。それによって今もなお苦しんでいる人も数多くいます。それを乗り越えるには、やはりそれを忘れるのではなく、そこに度々立ち返って乗り越えるために何をすればいいのかを改めて考えることをしなければならない。この映画はその立ち返るためのきっかけを与えてくれるものなのだと思います。
ぜひこの映画を観て、1年半前に考えたあなたの「これからの暮らし」を今一度思い出してみてください。
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