なんと「ファッションで世界は救えない」と掲げるモードファッション誌が発売!?
そんなユニークな宣言をしている雑誌『E Magazine』の発行人がEthical Fashion Japan(EFJ)代表のイオさん。
EFJは、『「エシカル」なんていらない!』と考えるエシカルファッションメディア。ただ純粋に好きな服を作る/買う。その服でうんとおめかしして、その日一日明るく過ごす。それがどこかの誰かの一日も明るくしちゃってる――そんなファッションの方法やしくみを考えるきっかけとなる記事を配信しているニュースサイトです。
イオさんはイギリスでエシカルファッションの勃興初期からスタイリストとしてシーンを見つめてきました。今改めて創刊に至った『E Magazine』に込めるメッセージとは?イオさんにお話を伺いました。
ファッションで世界を救うとは?
伊藤 早速ですが、「ファッションで世界は救えない」とはいったいどういう意味ですか?
イオさん(以下、敬称略) ファッションとは”流行”の意味も強い以上、そもそもファッション産業とそれを取り巻く他の産業が変わるっていうこと自体とんでもなく難しいですし、途方もない道のりです。それでも諦めたくないのは、少しの可能性を着実に実現していく喜びがあるからなんですよね。
ある卸メーカーさんの話なのですが、その方はアフリカのメーカーさんとフェアトレードで生産をしています。そこでおっしゃっていたのは、「前(アフリカに)行ったときは6人だったスタッフが、次行ったら12人になっている。小さな一歩かもしれないけど、確実に新たに6人は救われてる。それを見ると辞められないんですよね」って言っていましたが、エシカルにしていくってそういうことなんですよ!
伊藤 そもそも、エシカルファッションって何なんでしょう?
イオ さまざまな取り組み方があって、一概に「コレこそがエシカル!」って言えません。国によって、団体によって、定義は違います。EFJでは、フェアトレード、オーガニック、ナチュラル(天然)、アップサイクル、クラフト(伝統技術保全)、ヴィンテージ、サステナブル素材(ハイテク系エコ素材、ヴィーガン素材)、スロープロダクション(ハンドメイド、ローカルメイド)の8つに分けています。
今のところは、そのいずれかに該当することがエシカルブランドたる条件としています。ただし、スロープロダクションに関しては、さらにもう一つ該当することが条件です。
もともとエシカルに興味なかった
伊藤 イオさんはイギリスでエシカルファッションの始まりからシーンを見つめていたということですが、その時の話を聞かせてください。
イオ 私、もともとエシカルに興味なかったんですよ。お針子でもなんでも、とにかく服を作る作業がしたいと思っていたときに、たまたま友人に紹介されたブランドが「Junky Styling」という、エシカルを最初にイギリスで始めた数ブランドのうちの1つだったんです。
その後、エシカルファッション誌『SUBLIME』でエシカルブランドだけを使ったファッション撮影に取り組むようになりましたが、スタイリングをするのも最初の頃はたいへんでした。当初は、服のバラエティも少なくて選択肢が極端に狭かった。それでも「モードっぽく仕上げろ」って言われるから、「これをどうやってモードにしろっていうんだ!」って思っていました。フォトグラファーとものすごい相談しながらやっていましたね。
伊藤 最初は興味なかったのに、なぜここまでエシカルが好きになったんでしょう?
イオ 「JUNKY STYLING」の彼らといっしょに働く中で自然とエシカルって何か学んでいったのですが、エシカルファッションって自分を出す場でもあると思ったんです。この服は誰がどうやって作っていて、それが正しいのか正しくないのか…そうやって「自分で考える」ことからエシカルって始まるんじゃないかと思います。自分で考えて行動するからこそエシカルファッションが好きになったのかもしれません。
意味のあるファッションとは
伊藤 日本には2010年の冬に帰国されましたが、震災前で、ちょうどエシカルという言葉がちらほら聞かれる頃だったと思いますが。
イオ 私は帰国したときは、ほとんど誰も”エシカル”って言葉を知らなかったですね。オーガニック、フェアトレード……って言ったらなんとか分かってくれるんですが、それでも「オーガニック系ね」って、イメージができあがってるような印象のほうが強かったです。それ以外の選択肢があるっていうことをまずは伝えたいし、選択肢を広げていきたいです。選択肢が増えれば増えるほど、日常に根づくいていくと思っています。
でもその後に起こった東日本大震災の時、ファッションをやっている自分は無力だと感じていました。ファッションの世界に身を置きながら何ができるのか悩みました。
伊藤 ファッションが世界を救えるのか、というところですね?
イオ 前から思っていたことなんですが、ファッションとは流行ですが、どうも”トレンドに乗る”ことに大賛成になれなかったんですよ。高校もファッション系の科でしたし、ファッションは好きです。でも、もっと意味を持ちたいと思っていたんですよね。「意味のあるファッション」って、なんだろうって。
漠然とそんな思いを持っているときにエシカルと出会って、「自分の好きなスタイルを表現しつつ、何かを守れる、助けられる。ファッションでそういうことができるんだ!」と感動もしたんですよ。自分で考えて服を一着選択することが、一つずつ意味があることになっていくんですよね。
ファッション誌についても同様、「ただ素敵なファッション撮影を見るだけのものに何か物足りなさを感じていた」と話すイオさん。『E Magazine』ではファッションで問題提示をし、みんなで議論する場を作りたいとも話しますが、たとえファッションに世界が救えないとしても、こうした場ができることで着実に何かが変わるように思います。
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