12/19開催!「WEBメディアと編集、その先にある仕事。」

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地場産業から被災地の為のデザインまで。社会に機能する「NOSIGNER」のデザインプロジェクト[マイプロSHOWCASE]

NOSIGNER代表 太刀川永輔さん

NOSIGNER代表 太刀川永輔さん photo by NOSIGNER

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

皆さんはデザイナーと聞くと、どんな人物や仕事を思い浮かべますか?

年代によってもこの答えは違うようですが、服をつくるファッションデザイナー、広告や本をつくるグラフィックデザイナー、店舗や部屋の内装をつくるインテリアデザイナー、近年ではWEBデザイナーやフードデザイナーなんていう職種も出てきています。

そんな中で、“見えない物をつくる”デザイナーもいるんです。えっ?見えない物って作れるの?そう思った人にこそ読んで欲しい、“デザインができる事ってカタチや色のスタイリングだけじゃない”そんな事例の数々を、デザイン事務所「NOSIGNER」代表の太刀川英輔さんにご紹介頂きます。

目に見えないものをデザインする

そもそも、デザインって何でしょう?なんとなくの雰囲気で見た目を整えるようなイメージもありますが、語源を遡ると計画や設計する、といった意味があります。では、仕組みづくりや場づくりなどの、目には見えない事はどのようにデザインできるのでしょうか?

デザインによるイノベーションを導くため様々な活動に取り組んでいるNOSIGNERの太刀川さんは、家具や商品パッケージのデザインから施設のサイン計画など、幅広いジャンルのデザインを手がけられています。そうしたお仕事以外にも、モノ作りだけではない仕組みのデザインをするプロジェクトも手がけられてきました。

書籍化もされた「OLIVE」

書籍化もされた「OLIVE」 photo by NOSIGNER

例えば、東日本大震災の際には被災地の生活で役立つアイデアを広く集めてみんなで共有・編集できる仕組み「OLIVE」。

震災の40時間後にWEBサイトが立ち上げられ、被災地への支援物資にプリントアウトして一緒に送られました。また、ボランティアによって4カ国語に翻訳され、OLIVEサイトに集まったデザインとアイデアを編集、加筆した書籍も発行されています。

他にも被災地支援の取り組みの一つに「OCICAプロジェクト」があります。牡鹿半島に住むお母さん達が地域の素材である鹿の角と漁網の補修糸でアクセサリーを作るという仕組みを、現地で活動する「つむぎや」と共同でデザインされています。

では、こうした地場産業の方との製品開発だけでなく、開発する為の仕組みづくりや素材づくりに取り組むきっかけや経緯とは何だったのでしょうか?

良いデザインをすることだけがゴールではない

東北のお母さん達による手仕事アクセサリー「OCICA」
東北のお母さん達による手仕事アクセサリー「OCICA」

デザインは、人が何かを創造しようとする行為そのものだと思っています。しかし20世紀に産業が発達していく中で、企業の中においては技術・生産・流通などを分業化した際の1プロセスになっていきました。デザインを1プロセスとして分業化した方が効率が良いと思われたのでしょう。

でもそんな誤解の結果、全体を見通したコンセプトを生み出すことが難しくなってしまいました。日本からイノベーションが生まれなくなった現状は、チームの設計方法と関わっています。

現代は、ある特定のデザイナーがカタチを決めることがデザインだという考え方ではなく、プロジェクトに対してチームで共有する美意識をデザインと考える方向に向かっていると感じます。

我々が関わるプロジェクトでは、完成したモノだけではなく、それぞれの関わり方の中で参加できる余地を残したり、参加した際に工夫する下地となるルールを作ったりする事で、デザインという美意識をみんなで共有できるようにしたいんです。

「はじめから社会課題に関わるデザインを目指していた訳ではなかった」

地場産業とのプロジェクト「Tr / Sq / Rh」 photo by HATTA
地場産業とのプロジェクト「Tr / Sq / Rh」photo by HATTA

はじめから社会課題に関わるデザインを目指していた訳ではありませんでした。ただ、デザインが好きでとにかくかっこいいモノが作りたかった。

そんな中で建築学科時代の大学院の研究室で高知県梼原町の地場産業のプロジェクトに関わる機会があり、ハードの部分だけでなくソフトの部分にも関わるプロセスを体験しました。これが大きなきかっけの1つかもしれません。

学生時代に製品開発のプロセスそのものへと関わる事を体験した太刀川さんは、卒業後にも地場産業とのプロジェクトに少しずつ関わるようになっていきます。

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磁力を持たせた人工真珠のプロジェクト photo by NOSIGNER

地場産業とデザインが結びついたら何かになりそうだな、というのは大学院時代から少しずつ考えていて、その後、家具デザインのコンペがきっかけとなって徳島の地場産業である木工家具をデザインする機会をいただきました。

その家具はデザインとしては高く評価され、沢山のデザイン賞をもらい、雑誌にも載りましたが、産地の問題を解決できたかというと、そうではありませんでした。

それは、流通の問題や、国際競争の中での人件費の差などの要因を含め、その産地の状況を読み込んだ上で提案できていなかったのが理由です。徳島のプロジェクトはいま3年がかりでようやく、流通を踏まえた構築をしています。

つまり、良い家具を作る事だけがゴールではなくて、産地を元気にする事がゴールなんですよね。課題の設定を意図的に変えることがまず必要だったんです。

商品をデザインする事だけでは解決できない問題を意識するようになった事で、課題設定そのものからデザインで関わるようになったと言う太刀川さん。そんな太刀川さんの目指す社会の為のデザインとは何なのでしょうか?

万人をデザイナーにしたい

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デザインは学び方さえ間違えなければ誰でも上達するし、アイデアには上手な出し方があります。どうすればデザインができるようになるのかを定義したくて、修士論文のテーマは「デザインを言語学的に文法化する」という内容でした。

もしもデザインの手法をシェアして、みんなが良いアイデアの出し方やデザインの手法を持てたとしたら、世の中はもっと面白くなる。

例えばコップをコップとして購入して消費するだけの状況から、コップを材料に花瓶として使ってみたり、割った破片で絵を描いてみたり、自分で自分の周りの価値を作っていく可能性ってすごいなと思うんです。

買うという選択肢がある一方で、近所のホームセンターへ行って材料を組み合わせて自分で作ってみる選択肢もある。いいものができたら、その手法を今度は誰かに教える。そうしてシェアする事で、色々な意見や工夫が集まってアイデアがどんどん良くなっていく。

そういう仕組みがきちんとできたら、きっと見た事もないおもしろいモノがどんどん出てくる世界になるかもしれません。消費社会以前はみんな当たり前にワラジを作ったり家を補修したりしていた。そんな、自分で物を作るという事を復権させたいんです。

オープンソースなデザイン手法でモノづくりをシェアしていく事で、デザインの手法を多くの人が学ぶ機会を作る。もしも、そんなシステムが実現すれば相乗的に色々なモノづくりの工夫が生まれてくることでしょう。

実は太刀川さんはこの仕組みづくりだけでなく、「ソーシャルベンチャー・スタートアップマーケット」(以下、SVM)の同期の方々のプロジェクトにもデザインで関われています。その中のいくつかをご紹介しつつ、ソーシャルプロジェクトとデザインの関わり方についてもお伺いしました。

photo by NOSIGNER

「和える」photo by NOSIGNER

SVMに関わる中で、彼らの持つ問題意識に共感する事がたくさんあります。社会起業家という言葉はあんまり好きではありませんが、SVMで出会った仲間の多くは、今ある社会のズレている所を見つけて、その課題をどうにかしたいと思って活動している人。

そこに対してデザインが関わる事で、彼らのプロジェクトがきちんとまわり始めれば、世界はちょっと良くなるかもしれない。「僕の代わりにお願い!」とか「一緒にやろう!」という気持ちなんです。なので、つい関わってしまっています。

SVMでNOSIGNERが関わった事例としては、「和える」「コフレ・プロジェクト」「ミラツク」「アートマンズ」「SYNAPSE」など。パッケージデザインやロゴデザインなど、事例によって様々な関わり方をされていますが、受発注のある納品して終了する関係性ではなく、一緒にプロジェクトを作っていくような関係性を作っているそうです。

本質的には、評価されるデザインかどうかは問題ではなくて、機能するデザインを作りたい。生きていく上で必要なものかどうか、価値があるかどうかなんです。自分がそれに魅力を感じたり、価値を感じる事にデザインが繋がっていて、それを感じるから消費が生まれてデザインが生まれる。上位には価値があります。

デザインは、その価値に対してアクセスできる仕事だと思います。僕は価値に対して正直でありたいと思っていて、それに向かうデザインという行為の素晴らしさやおもしろさをもっと多くの人に体験して欲しいんです。

デザインというと限られた特別な人の職能のように捉えられがちですが、そうした特殊能力としてのデザインだけでない、デザインの民主化にも方向性があるはずです。

自分で物を作ってみて、作った物をシェアしていく。デザインという美意識をみんなで共有する。太刀川さん関わるデザインに、今後も目が離せません。