カイ・フランク《マグカップ「ティーマ」》現行製品(プロトタイプ1979-1980年)©Iittala
シンプルでおしゃれな椅子。木工でできた温かみのある雑貨。色鮮やかな食器…。日本でも人気の北欧デザインですが、すべてに共通するのが、”暮らしに根付いている”ということ。
その魅力を伝えようと、今年4月、フィンランドに焦点を当てた「フィンランドのくらしとデザイン展」という展覧会が始まりました。6月3日まで青森県立美術館で展示され、その後、栃木、静岡、長崎、兵庫と全国5箇所の美術館を一年かけて巡回されます。
今回は企画・運営協力を行っている、株式会社キュレイターズの吉澤菜摘さんに、そもそものきっかけについてお話を伺いました。
2007年に宇都宮美術館など全国4カ所で開催された北欧デザインの展覧会「北欧モダン デザイン&クラフト」展が好評で、日本で北欧に対する注目が高まっているという実感がありました。
そこで企画者であり宇都宮美術館の学芸員である橋本優子さんと、北欧一つひとつの国のデザインについて、生まれた背景など丁寧に紹介したいという話になり、まずは北欧の中でも独特の価値観を持つフィンランドを取り上げた展覧会を企画することになりました。
青森県立美術館での「フィンランドのくらしとデザイン」展示風景
暮らしから生まれたデザイン
フィンランドは、世界の中でも森林や湖が多く、とても自然豊かな国です。その一方で、冬は厳しい寒さが待っています。この豊かで厳しい自然環境がフィンランド特有のデザインを生むカギになりました。
例えば日本人にも人気の「マリメッコ」は、薄暗い冬の間でも、インテリアやファッションを明るく彩るカラフルなテキスタイルが特長です。暮らしの中からデザインが生まれているんですね。
マイヤ・イソラ《生地「ウニッコ」》現行製品(デザイン1964年)©Marimekko Corporation
また北欧ブランドの中でも有名なのが食器と家具。
フィンランドでは丁寧に選んだものを長く使う文化があり、家具や食器を何世代にもわたって継ぐことが多いのだそう。長く使い続けられるのはシンプルで実用性のあるデザインが大きな理由です。
展覧会で紹介されている、デザイナーのカイ・フランクのシンプルでおしゃれな食器は、ディナーウェアをなくすというアイデアから考案されたそうです。ヨーロッパでは、コーヒーカップはコーヒー用、このお皿はサラダ用、肉料理用、というように用途がそれぞれ決まっているのが主流でしたが、フィンランド人デザイナーのカイ・フランクは何にでも使えるような食器をつくったのです。
彼の作品は柄がないので飽きることがなく、代わりにカラフルな色合いを楽しめます。「今日はこのお皿に何入れよう?」と思わずワクワクしてしまいます。
カイ・フランク《食器シリーズ「ティーマ」》現行製品(プロトタイプ1979-1980年)©Iittala
デザインを通してフィンランドの世界観を伝える
展覧会の企画当初はこうしたモダンデザインにスポットを当てる予定でしたが、フィンランドに根付くライフスタイルをより深く伝えるために、19世紀後半から20世紀前半の絵画、建築、文学なども幅広く紹介することにしたそうです。
その一つがムーミン。画家で作家のトーヴェ・ヤンソンが創造し、世界中で愛されているムーミンの物語からは、フィンランドの豊かな自然や精神、世界観が読み取れます。会場では小説『ムーミン』シリーズの挿絵として描かれた原画が展示されています。
伝統的なモチーフに加えて、現代の技術をうまくいかしたグッド・デザイン×サステナビリティを実現する取り組みについても紹介しています。 吉澤さんが教えてくれたのは、こちらの記事でも紹介したアアルト大学による太陽光発電エコ住宅「Luukku House」。
スペインで開催された太陽光発電エコ住宅のコンテストで見事にグランプリを受賞したスグレモノで、冬は日照時間が少なく太陽光発電には不向きな国と言われていますが、「Luukku House」では太陽光だけでエネルギーを100%まかなうことができるそうです。どこでも簡単に組み立てられる設計も評価のポイントとなりました。
アアルト大学建築学部木工コース《Luuku House完成予想レンダリング》2010年©Aalto University, Department of Architecture, Wood Programme
他にもフィンランドでサマーハウスとして利用される「森の家」など、内容はとにかく盛りだくさんの展覧会!最後にこの展覧会からもっとも伝えたいことについても聞きました。
展覧会準備期間中に東日本大震災が発生し、日々の暮らしに対する価値観が変化していた時期だったこともあり、フィンランドから学ぶことはたくさんあると思いました。
厳しい自然環境を生き抜くために、地域の人と助け合う精神や、みんなで心地よい暮らしをつくろうとする姿勢など、この展覧会を見た人にもそんな暮らしの作り方を感じてもらえると嬉しいです。
吉澤さんのお話を聞くうちに、ただおしゃれなだけではないフィンランドのデザインの奥深さをひしひしと実感しました。展覧会にはその魅力がぎゅっと込められているので、ぜひ足を運んでみては?
「フィンランドのくらしとデザイン」展、第一会場の青森県立美術館での展示作業〜オープニングまでの映像です。
会期・会場:
4月7日(土)~6月3日(日) 青森県立美術館
6月10日(日)~8月26日(日) 宇都宮美術館
9月1日(土)~10月8日(月・祝) 静岡市美術館
10月19日(金)~12月24日(月・祝) 長崎県美術館
1月10日(木)~3月10日(日) 兵庫県立美術館
(Text:木村絵里)
フィンランドの図書館では、こんな画期的な取り組みも!