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書ききれないほどの充実ぶり!視点を変えて新しい発見をする「デザイニング展 2012」(後編)[イベントレポート]

greenz/グリーンズ Designing 2012

5月7日〜13日まで福岡で開催された「デザイニング展 2012」のレポート後編です!(前編のレポートはこちら

5月11日には、イベントのメイン特設会場となる「大名サテライト」がオープンしました。リノベーション工事中のマンションの2フロアを使った、コンクリートが剥き出しの何もないスケルトンの会場で、何もないところがまたクリエイティブな想像力を刺激されるような場所です。

3つのルールから生まれる新しい発想とデザイン

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大名サテライトでは、ロンドンを拠点に活躍するアーティストでありデザイナーのヴァハカン・マトシアンさんと、プロダクト・家具デザイナーのファビアン・カペッロさんによる、福岡で見つけたものを使って、福岡という街を反映したものを作るワークショップが開催されました。

2人はデザイニング展の5日前から福岡に入り、街を歩いてワークショップ用の素材を探し“ツールボックス”を作りました。彼らがツールボックスと呼ぶものには、実際にワークショップで使う材料だけでなく、出会った人、街や空間の印象など、モノではないものも入ります。

気になるモノや素材を切り取ったスナップショットにはアイデアスケッチを書き込んで、ワークショップ会場の壁一面に貼ってありました。2人のモノづくりの頭の中のプロセスを覗き見ているようで、とても興味深かったです。

greenz/グリーンズ Designing 2012

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2人は、福岡の街のマンホールのフタの模様を気に入って、福岡を象徴するものだと言ってTシャツまで作っていました。「このマンホールはどこにあったのですか?」と聞いたら、「福岡の街のいたる所にあるよ!」と逆に知らないことに驚かれました。

ワークショップの内容は、譲り受けた廃棄木材を使って家具やランプを作るというものです。シンプルなワークショップですが、3つだけルールがあります。

1.材料を切らないこと
2.決まった長さのビスを使うこと
3.制限時間内に作ること

木材を組み合わせるだけなので作業としては簡単ですが、この3つのルールを踏まえて作るとなると、少々頭を使わなければなりません。しかし、その制約のお陰で新しい発想やデザインが生まれているように感じました。

できあがった作品を見ても、一つとして同じ形のものがなく、一見するとイスには思えないようなものもあり、なるほど新しいデザインはこうやって生まれるのかと思いました。

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廃材などを使うのは、もちろんリサイクルという観点でもいいことですが、2人はそこにフォーカスするのではなく、「その土地にあるものや、すでに存在するシステムを使うこと」がこのプロジェクトの大事なポイントだと言います。

同じワークショップを他の土地で開催して、同じルールを適用しても、できあがるものはその土地に深く結びつくことになるので、まったく違ったものになるはずです。それでこそ、その場所や土地で作る意味があるということなのです。

自走する幸福な社会を生きるために

左から藤村龍至さん、福森伸さん、井手健一郎さん、坂口恭平さん
左から藤村龍至さん、福森伸さん、井手健一郎さん、坂口恭平さん

5月11日には、デザイニング展の共同主催者でもある建築家の井手健一郎さんと、同じく建築家である藤村龍至さんと坂口恭平さん、鹿児島にある障害者支援センター「しょうぶ学園」の施設長の福森伸さんのトークイベント「自走する社会のつくり方|都市/建築/芸術/教育」がありました。

坂口恭平さんと言えば、ご存知の人もいるでしょうが、東日本大震災後に故郷である熊本に「ゼロセンター」という避難所を作り、自らも移住し、そこに新政府を立ち上げ、初代内閣総理大臣に就任した人です。そんな破天荒な建築家の坂口さんと、基本的な考え方は同じでありながら表現手法の違う同年代の建築家が藤村さんであり、井手さんです。

福森さんが施設長をされている鹿児島のしょうぶ園は、障害を持つ人たちが、地域社会でより良くのびのびと暮らしていける環境にするために、パン屋さんやカフェなども併設している「SHOBU STYLE」の中にあります。クラフトブランド「工房しょうぶ」や、アートプロジェクト「nui project」など、障害を持つ人の独創性や感性を生かしたすばらしい活動をしています。

しょうぶ学園 WEBサイトより

しょうぶ学園 WEBサイトより

“結論が予想できない組み合わせ”ということで始まったトークイベントらしく、着地点が見えないどころか、予想をはるかに上回る状況でした。建築家というのは、最終ゴールが見えていないとできない、計画性のある職業です。

一方、知的障害がある人というのは、福森さんでも計画性がどれくらいあるか分からない人たちです。トークの途中で坂口さんが福森さんの方に席を移し、最後には計画的な建築家2人に対して、計画性のないものについて語れる2人という展開に。

つまるところ、自走する社会とは幸福な社会であり、幸福な社会とは、自らの衝動に従って自然に生きることができる社会ではないかという話になりました。では、自然に従うが故に他から逸脱することや、そこから生まれる独自性を尊重しつつ、社会とうまくコミットするにはどうすればいいのでしょう。

坂口さんは、若い頃に今の社会では自分はキチガイの烙印を押されかねないと思い、自分の頭の中にあるものを言語化するためにレトリックを学んだと言います。自分のやりたいことをやるには、例えばギターが弾きたいのなら、ギターが弾けるようになるくらいの練習は必要だと。そこから奏でられるものが、誰にも理解できなくても、誰かを感動させることができれば、それは社会にコミットしていると言えます。

福森さんは、そこまで理論的に考えてレトリックを身につけたり、自分に合う楽器を選んだりすることすら難しい人たちに、それぞれの個性に合った楽器を手渡す役割をしているように思えました。実際にしょうぶ学園では、知的障害の人たちと施設スタッフが、民族楽器中心のパーカッションとヴォイスグループの「otto & orabu」を結成し、ライブ活動も行っています。

衝動に従って自然に生きる知的障害の人たちと、社会のルールに過剰に適応し息苦しくなっている社会人では、一体どちらが幸福なのだろうかと考えさせられました。

自分の街を新しく発見する方法

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最終日のトークイベントでは、『ぼくの鹿児島案内』の著者の岡本仁さんが、デザイニングスタッフの案内で福岡の街を歩きました。岡本さんが撮ってきた気になった場所やモノの写真を見ながら、街歩きの様子や福岡の街について語ってくれました。鹿児島だけでなく、方々の街を歩いてきたであろう岡本さんの目の付けどころはとてもユニークで、そしてやはりいい意味で余所者目線でした。

商店街の食堂に岡本太郎の絵があったり、日本家屋の一軒家に和菓子屋とバーとB&Bが同居する光景を指して、「これが福岡の日常なんですか?」と驚かれると、改めて聞かれるまではそんなものだと思っていた、としか言いようがありません。それが日常ということなのでしょう。

生活者が見ても余所者が見ても街は同じですから、常に同じ情報を発信しているはずなのに、生活者になってしまうと、いつしかその情報を適当にシャットアウトして、自分に必要なもの以外はベタ塗りの地図の上を歩いているのかもしれません。

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トークイベントの最後には、岡本さんがこの2日間で回って作った場所の福岡案内のzineが、参加者にお土産として配られました。元編集者ならではの粋な計らいと、数時間でzineを完成させたスタッフの尽力に参加者一同感動です。その福岡案内の中に岡本さんのこんな言葉がありました。

キミはいつも目的地まで最短で行くのだろうけれど、ちょっとこっちの道を使ってごらんよ。5分も歩くと素敵な建物があるんだ。そんな話は役に立たないかもしれないが、「自分の街」と思っている場所のほんの一部を知っているだけでしかないという事実に気づくのは、そんなに悪いことではないはずだ。

今回のデザイニング展では、福岡だけでなく東京や鹿児島やイギリスなど、余所の街から多彩なゲストが参加していました。そして偶然にも「デザインとは新しいものを作り出すことだけではない。むしろ今あるものを視点を変えて見ることで、新しい発見をすることだ」というようなことを、異口同音に語っていたのが印象的でした。

街づくりでもモノづくりでも、デザインはデザイナーにしかできないのではなく、新しい目線で新しい発見をすることもまた、ある意味デザインなのだとしたら(デザインという言葉を広義に使い過ぎるのは考えものだと分かりつつ)、明日からいつもの日常が違ったものになるかもしれません。そうすれば、きっともっと今の生活や自分の街が好きになる、今年のデザイニング展はそんなことを教えてくれました。

そんなことを考えながらいつもの道を歩いていたら、足下にどこか見覚えのある幾何学模様のマンホールがあるのが目に留りました。バハカンとファビアンが「どこにでもあるよ」と教えてくれたマンホールでした。子どもの頃から数えきれないほど通っていた道なのに、これまでちっとも気づいていなかったなんて。

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前・後編にわたってご紹介したデザイニング展ですが、これでも書ききれていないくらいで、それぞれのイベントや展示で1つの記事が書けそうなほど充実したものでした。このまま行くと、来年は一体どんなことになるのか、想像するだけでもワクワクします。

ただ残念なことに、デザイニング展は10回を区切りに終了することがすでに決まっており、残すところあと2回です。今年見逃して悔しい思いをした人は、来年はぜひお見逃しなく!

過去のデザイニング展も見てみよう