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おっちゃんたちの命と尊厳を守る女子大生!生活保護・ホームレス問題と放置自転車問題を一気に解決する「HUBchari」

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

14歳でホームレス問題に関わり始め、2012年キャンパスベンチャーグランプリ経済産業大臣賞を初めとする多数の賞を受賞。ワールドビジネスサテライト等、多くのメディアにもその活動が取り上げられた21歳の現役女子大生、川口加奈さん

NPO「Homedoor」の代表を務める彼女は一見フツーの女の子ですが、その言葉と眼差しからは、内面に秘めた強い思いがひしひしと伝わってきます。

「ホームレスのおっちゃん達を助けたい…!」

その思いを胸に、川口さんが活動を始めたきっかけは何だったのでしょう? そして新たな事業「HUBChari」とは?

大阪市内だけで年間200人も亡くなっている…!

中高一貫校に通っていたのですが、通学の途中で、たくさんのホームレスの人たちを見かけたんです。2003年度、ホームレスの方は大阪市だけで6,603人。

釜ヶ崎のあいりん地区は市内でも特に多い区域なのですが、豊かなはずの今の日本でなぜこれだけ多くの人が家を失うのだろう、と。

こんな疑問をもった川口さんは、市民グループによる炊き出しに参加するようになります。生まれて始めて接するホームレスの「おっちゃん」達。彼らの住む地域に何度も足を運び、言葉を交わしていくことで見えてきたのが、あまりにも意外なおっちゃん達の「素顔」でした。

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Homedoor代表川口加奈さん。大阪市立大在学中の4年生です。

出会ったホームレスのおっちゃんたちはみんないい人で、とても優しくしてくれたんです。それでホームレスの方のことを何も知らずに偏見を持っていた自分が悔しくて、罪滅ぼしというかなんというか、できることはないかと考えるようになったという気持ちが一番大きかったです。

ホームレス状態はいわゆる「自己責任」でくくられてしまいがちです。でも、やむを得ない理由でホームレスになった人も大勢いるし、そんな環境でも人としての温かみを失わず、日々を生き抜いている人たちも大勢いる…。それが炊き出しに参加する事で川口さんに見えた、おっちゃん達の姿でした。

ですが、彼らは常に凍死、餓死、襲撃といった、「死」の恐怖と隣合わせで生きています。おにぎりを差し入れようと、寝ていると思ったおっちゃんに声をかけてみるとすでに亡くなっていた…なんてこともあったのだとか。大阪だけで年間200人ものホームレスの人が、その過酷な生活に耐え切れずに命を落としているという現実を、川口さんは活動を通して直視することになったのです。

特に川口さんが心を傷めたのが、同世代の少年による襲撃事件です。川口さんが知るホームレスのおっちゃんが襲撃で殺されてしまったり、寝ている時に突然ナイフで目を刺されてしまったりといった悲惨な事件が多発していたのです。その根底にあるのは「ホームレスの人=社会のゴミ」という偏見です。

おっちゃん達は決してゴミなんかじゃない。自分のお父さんやお爺ちゃんと変わらない、同じ人なんだ。

このことを同年代のみんなに伝えれば、襲撃事件が減るのではないか…。そう考えた川口さんは、自分なりの行動をスタートしました。校内新聞や講演会などを通じて、ホームレスの方々の姿を発信し始めたのです。

おっちゃんの代弁者たれ!

川口さんが進学先を大阪市立大学に決めたのは、ホームレス問題の研究が一番進んでいたから。そして2年生の春に現在も活動しているNPO法人「Homedoor」を設立しました。

とはいえ、川口さん自身はソーシャルベンチャーを起業するつもりなんてなかったのだそう。3組しか参加できないNEC社会起業塾に史上最年少で参加することになったのも、立ち上げメンバーの一人が「活動するなら、組織としてきっちりさせよう」と、独断で申し込んだのがきっかけでした。

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大阪市内の事務所にて。壁にはプラン表などがびっちり貼られていて、とても忙しそうな様子。

私自身は起業しようなんて気は全くなくって(苦笑)。卒業したらどこかに就職して社会経験積んで、30歳くらいになったらまた本格的に問題に関わろうと思ってたくらいなんです。だから起業塾で起業家としてのイロハ全てを教わったようなものですね。大阪から東京まで通うのは本当に大変でしたけど(笑)

特に大きかったのは、リサーチの大切さ。メンターには「ニーズの代弁者たれ」と言われたのですが、本当にホームレスのおっちゃんの代弁者になるには、徹底したリサーチが必要なんです。でもこれがとても厳しいんですよね。その負担が大きくなりすぎて、残念ながら活動から離れざるを得なくなってしまったメンバーもいました。

「Homedoor」が最初に手がけたのは「ココモーニング事業」。これは釜ヶ崎あいりん地区にあるカフェで、モーニングタイムにスタッフとしてメンバーが入り、ホームレスや生活保護受給者のおっちゃん達と仲良くなるというものです。この活動を通じておっちゃん達と仲良くなりつつ、起業塾で学んだリサーチを続けて行く中で、川口さんは、おっちゃん達のある「強み」を発見します。

自転車修理が得意なおっちゃん、多いんです。ホームレス生活中には自転車で缶集めをします。重い缶を長距離運ぶと自転車が壊れますから、自分で直しているうちに技術を身につけてしまうんです。これは活用できるんじゃないかと。

大阪では放置自転車もまた大きな社会問題となっています。だったら放置自転車を引き取っておしゃれに作りなおして売り、それをおっちゃんたちの支援金に充てたら良いんじゃないか、と、思いついたんです。

「HUBchari」スタート!

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ですが川口さんは、その計画を自らバッサリと却下してしまいます。これでは、一方的に与えるだけの従来型の支援と何ら変わらない。おっちゃんたちが生きがいをもって、自分が社会に必要とされていると感じながら働き、社会へと復帰する手助けにはならないと考えたのです。

こうして生まれたのが「HUBchari(ハブチャリ)」。放置自転車を使ったシェアサイクルのサービスです。

店舗やホテル等の軒先を使った「ポート」に自転車を置き、有料で貸し出します。借りたのとは別のポートで返却することもできるので、ちょっとした移動手段としてとても便利です。スタッフは生活保護の受給によって何とかホームレス状態を脱したものの、仕事を見つけられずにいるおっちゃんたち。つまりHUBchariはホームレス・生活保護問題と放置自転車問題の両方を同時に改善しようという試みなのです。

「Homedoor」が実証実験を行ったのは、2011年の夏でした。ポートの設置については、梅田ロフト、済美福祉センター、USTREAM CAFE OSAKA谷町空庭といった大阪市内のスポットが協力に名乗りを挙げてくれました。

無料で行われた「HUBchari」は大好評で、「こういうサービスを待っていた!」といった喜びの声も多く寄せられたのだとか。また、利用者の約4割が軒先を提供した店舗に入店するなど、心強いデータも得られました。こうした準備段階を経て、いよいよ「HUBchari」が本格的にスタートします。

当初はほとんど川口さんが一人で運営していましたが、今ではポート設置をお願いするための飛び込み営業までこなしてくれる、心強い仲間たちがたくさん出来ました。ですが「HUBchari」が目指すのは、雇用と放置自転車問題の改善だけではありません。「HUBchari」事業に込められたもう一つの意味について、川口さんは切々と語ります。

おっちゃんたちの「孤独」

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一時に比べてホームレスの方は随分減りましたが、これは制度が変わってホームレスの方でも生活保護の申請ができるようになったために過ぎません。こうした人たちの一番の精神的な負担は「孤独」です。

仕事探しが大変な上、家に閉じこもりがちになってしまって人と話す機会もない。すると、働かないでお金だけもらって申し訳ない、と、自分を責めてしまうんです。おっちゃん達が「自分なんて生きてる価値がない」とか「いっそ死んでしまいたい」なんて言葉を口にするのを何度も聞いてます。

一人ぼっちの孤独を味わうのが嫌だからと、あえて生活保護を受け取らずに路上に留まる人もいるのだそう。現在、「HUBchari」に関わっているおっちゃんは生活保護受給者の方です。いずれも行政のあっせんで来た人たちですが、「生きがいを感じる」「人との対話が楽しい」といった、働く喜びを強く感じているのです。

中には自主的に「HUBchari」の看板や置物を作ってくれたスタッフのおっちゃんもいます。廃材のみを使って作られたというその置物は見事な完成度で、「HUBchari」への愛がひしひしと感じられます。

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「これ、おっちゃんが拾った材料で作って持ってきてくれたんですよ」と、川口さんがみせてくれた置き物。事務所の一番目立つところに鎮座してました。

こうした「HUBchari」の取り組みは、現在も着々と進行中。このインタビューをした当日にも、梅田駅近くの大型ビルの敷地にポートを設置する許可がおりるという嬉しいニュースがありました。ですがこれらはまだまだ始まりに過ぎません。

川口さんは3年後には自転車300台100ポート、100人の雇用を生み出すことを目標に掲げているのです。これが実現するかしないかは、ポートの数をどれだけ増やせるかどうかにかかっています。

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事務所の壁に貼られた大阪市内の地図。設置できそうな場所に貼られた付箋は、進行状況別に色分けされています。

自転車3台置けるスペースさえあればどこでもポートを設置できます。お金もかかりませんし、集客にも繋がります。私たちは「ノキサキCSR」と呼んでいるのですが、道路に面したちょっとした空きスペースを貸してもらえるだけで、就業支援と放置自転車問題緩和という、2つの問題を改善させる社会貢献になるんです。

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左下の看板もスタッフのおっちゃんのお手製。拾ってきた廃材だけで作られていて、取っ手には本物の自転車のチェーンが使われているというオシャレっぷりです。

「ポート設置の力になりたいけど、提供できるスペースがない…」と思ってしまった方もご安心を。目下、Homedoorではビニール傘をリサイクルしてシェアする「HUBgasa(ハブガサ)」プロジェクトを準備中です。スタート予定時期は今年6月の梅雨シーズン。これなら「HUBchari」よりもさらに小さなスペースで間に合います。

読者の皆さんも、大阪に行った際には手軽な移動手段として「HUBchari」を利用してみては? 

みんなどんなマイプロをやっているの?SHOWCASEをみてみよう!