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自分でつくること、それは豊かさの根本。住まい手参加型の設計・施工で、丁寧な暮らしを“ともにつくる”「つみき設計施工社」 [マイプロSHOWCASE]

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毎日の暮らしの中で、あなたは何を「つくって」いますか? ご飯やお菓子、日曜大工の家具、裁縫や編み物…。もちろん買ってしまえば早いのですが、自分の手で「つくる」ことを選んで生活をしている方は、そこに何らかの価値や喜びを感じているように感じます。

では、「家」は?

今日ご紹介するつみき設計施工社は、暮らしの器である「家」を自分の手でつくることを提案しています。確かな腕前の職人と設計者、そして住まい手の3者で、同じ視点に立って行う家づくり。それは、ヒトとモノの気持ちいい関係が長く続く、丁寧な暮らしの始まりでもあるのです。

設計も施工も、“ともにつくる”。参加型の家づくりとは?

“ともにつくる” がコンセプトの「つみき設計施工社」。では実際にどんな家づくりを行うのか、まずはその過程からご紹介しましょう。

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1:話をする
まずは、住まい手と設計者が会って話をすることから始めます。普段の暮らしや趣味、活動について聞いたり、好きな場所や理想の住まいについて話してもらったり。「パリのこみちのような」といった、漠然とした説明でもOK。具体的な話は一切せず、暮らしのイメージやコンセプトなど、住まい手の思いを大いに語ってもらいます。

2:「つくりかた」を提案する
それを受けた設計者は、提案書づくりに入ります。通常、「提案書」と言うと基本設計の図面をイメージしますが、プロセスまで提案するのが、「つみき」流。建物の雰囲気までも伝える図面と共に、設計と施工の中で住まい手が参加する部分や工程をを明記した「つくりかた提案書」を、同時に提案します。

3:じっくり判断するための時間をとる
提案書に基づき、住まい手に、それ以降の設計業務に進むか否かを、じっくり判断してもらう時間をとります。これからの暮らしの器となる、大事な家づくりにおいて、これは欠かせない時間です。

4:“ともに”設計する
家の中の思い入れのある部分をスケッチで描いてもらったり、雑誌の切り抜きや小物を持ってきてもらってワークショップを行うなど、住まい手も参加しながら具体的な設計プロセスに入ります。打ち合わせを繰り返し、基本設計、実施設計と進みます。

5:“ともに”施工する
工事請負契約を結び、いよいよ着工へ。住まい手もペンキを塗ったり壁を張ったり、ときには接合や床の下地張りまで。その方の技量に合った参加方法で、一緒につくります。

ここでのポイントは、“苦労”さえも共にすること。リフォームであれば、工事の最初の清掃作業など、本当は「やりたくない」と感じるところまでも一緒に行うことによって、3者が皆、同じ視点に立つことを大事にしています。

6:完成
こうして月日を共にし、ようやく“暮らしの器”が完成。新しい生活の始まりです。「つみき」からは、ともにつくった現場の様子を写真に収めて製本した絵本がプレゼントされます。


”ともにつくる”ことの魅力は?
河野直さん(建築家)&相良昌義さん(宮大工)インタビュー

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最初から最後まで、その全てのプロセスを、職人、設計者、住まい手の3者で共有し、一丸となって行う家づくり。この手法には、コストダウンのみに留まらない、家づくり本来の魅力がぎっしりと詰まっているようです。

今回は、建築家で「つみき設計施工社」代表の河野直さん、宮大工で「相良工務所」代表の相良昌義さんのおふたりにお話を聞き、その魅力を探ってみました。つみき設計施工社と相良工務所はそれぞれ設計と施工を事業領域とする独立した2つの法人で、“ともにつくる”モデルを一緒につくりあげてきた、大切なパートナーの関係です。

相良昌義さん(左:『相良工務所』代表、宮大工)と、河野直さん(右:『つみき設計施工社』代表、建築家)
相良昌義さん(左:『相良工務所』代表、宮大工)と、河野直さん(右:『つみき設計施工社』代表、建築家)

自分で家をつくること。それは豊かな暮らしの根本

河野 暮らしを自分でつくっていくことって、豊かな暮らしの根本なんじゃないかな、と思うんです。

家づくりに参加することの価値について、河野さんはこう語ります。

河野 自分でつくった家には、ストーリーが埋め込まれて、人と家の間に関係が生まれる。僕は、ものの価値というのは、それ自体にあるのではなく、「ものと人との関係」にあると思っています。自分でつくった記憶や、一緒につくってくれた人への感謝のような、物の背景にあるストーリーに抱く感情にこそ、本当の豊かさがあるんじゃないかと思うのです。

実際、これまで一緒に家をつくったお客さんは、「自分がここをつくった」という箇所が暮らしの中に埋め込まれているので愛着を感じ、とても大事にしています。それに、住み始めた後も自分の手で直したり、付け加えたりするようになる。暮らし始めてからも、その豊かな関係は変化し続けています。

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家づくりに参加するのは、そこに住まう家族だけではありません。つみき設計施工社では、店や施設の施工に、地域の人々が参加することも提案しています。

河野 例えば、障害のある子どもたちのための施設の内外装をお手伝いさせていただいたのですが、そのときは外装を地域のみなさん約100人と一緒に、丸1日かけて完成させました。

材料は街の様々なところから廃材を提供してもらい、みんなでペンキを塗って。施設の理事長さんからは、「地域の人に、“支えながらつくった”という意識を持ってもらえたのが良かった」という言葉をもらいました。“ともにつくる”というのは、「つくりながらコミュニティをつくっていく」ことにもつながるんだな、と、実感しました。

家族とともに、地域とともに。人が生涯大事にしたいと思えるものをつくるプロセスを提供するつみき設計施工社の家づくりは、それに関わった人々や街に、やわらかな変化をもたらしています。

地域の人とともに外装を仕上げた「こころとことばの教室」

地域の人とともに外装を仕上げた施設「こころとことばの教室」

職人、設計者、住まい手の3者が同じ視点に立てる現場

でも現実的に考えると、家づくりへの参加は、料理などと違って技術的ハードルが高いように感じます。素人が参加することは、職人さんにとって、足手まといにはならないのでしょうか。

相良 正直、それはありますよ(笑)。でも、みんなでやることには、今までにない楽しさを感じています。これまでは、お客さんは現場の様子を知ることはなかったし、僕たち施工側も図面を見ているだけで、誰のためにつくっているのか分からなかった。

でも、現場に一緒にいると、喜んでもらえるし、苦労も分かっていただけるので、こちらも「一生懸命やろう」という気持ちになる。モチベーションは全然違いますよね。

『相良工務所』代表・相良昌義さん

『相良工務所』代表・相良昌義さん

河野 職人、設計者、住まい手が同じ視点に立ち、「ありがとう」も互いに伝えられる関係。それは、家が完成した後までも長く続くお付き合いにつながっていきます。

でもこれは、本当は当たり前のこと。「これまで起こらなかったことが、ちゃんと起こっている現場」を、僕たちはつくっているだけです。

もちろん、最初から上手くいった訳ではなく、創業当初は現場にいろいろな人が行き交い、フラストレーションが溜まった時期もあったのだとか。でも、その経験を踏まえ、その後は「職人による施工期間」と「ともにつくる期間」の2行程に分けて施工を実施。「危険を伴う作業の日は職人だけでやる」というようなルールをつくってからは、お互いにやりやすくなったと言います。

家をつくるには、職人も、設計者も、住まい手も、みんなが必要。そして3者とも、「生涯大事にできるいい家をつくりたい」という思いは同じです。試行錯誤の末につくりあげた“ともにつくる”スタイルは、本来同じ方向を目指して歩んでいたのに、いつの間にかバラバラになってしまった3者の関係性を、もう一度、つなぎ直すためのものだったのです。

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小さな工務店の厳しい現実と向き合って

ありそうでなかった、”ともにつくる“ という建築スタイル。河野さんがこの事業を始めるきっかけとなったのは、学生時代にアルバイトで入った工事現場で目にした光景でした。当時、河野さんは京都の大学の建築学部に通う大学生。そこで棟梁をしていたのが、当時、宮大工の修行をしていた相良さんだったのです。

河野 京町家の改修現場だったんですが、そこは本当に手仕事の世界で。住む人も現場で、トンカチを持って一緒につくっていました。僕にとっては生まれて初めて入った現場だったので、それを当たり前のように見ていたのですが、就職活動でいくつか設計事務所を訪ねてみると、近くにいるはずの大工さんや住まい手が、とても遠いところにいってしまったように感じて…。

職人や住まい手の顔が見えない現場。その背景にあるのは、住宅が大量生産商品になってしまったことによる、建築業界の重層下請構造です。

いわゆる「住宅メーカー」や「パワービルダー」をはじめとする大手建設資本から、子請け、孫請けと続く構造になっていて、その最下層に位置づけられてしまっていたのが、相良さんのような「一人親方」と呼ばれる職人の小さな工務店。お客さんの顔が見えない分断された状況はもちろんのこと、職人本来の技術を発揮できず、工務店の経営も非常に厳しい状況となっていました。

河野 住まいづくりは、暮らしをつくること。高い技術で心を込めて暮らしをつくり、人を幸せにできる立場の人が、飯を食えない社会なんておかしいですよね。本当は、職人も設計者も住まい手も、みんな思いは1つのはずなのに…。

それならば、3者が同じ視点に立って住まいづくりをする機会を提供しようと考えました。そこから生まれたのが、“ともにつくる”工務店というモデルです。このモデルで、街の中で人々に密着して暮らしを一緒につくっていけるような、小さな工務店の未来をつくっていきたいと考えたのです。

『つみき設計施工社』代表・河野直さん

『つみき設計施工社』代表・河野直さん

大学院卒業後、上京した河野さんは、千葉県にある相良さんのご実家を訪ねます。そこで5年ぶりの再開を果たした2人が思いを語り合い、最初にA4の資料に書いた言葉は、「共に創る楽しさ」。これが原点となり、2010年9月、設計者2人(河野さんと、藤田桃子さん)、職人2人(相良さんと、お父さんの相良昌弘さん)の計4人で、“ともにつくる工務店”を創業しました。

人々の暮らしの未来を“ともにつくる”ために

創業から約1年半経った今、つみき設計施工社は新たな挑戦へのスタート地点に立っています。実はこの取材の前日(2012年4月17日)、2つの法人化の手続きが完了し、河野さんは「つみき設計施工社LLC.」の、相良さんは「相良工務所LLC.」の、それぞれ社長となりました。

2つの別会社としたのは、設計と施工、それぞれに事業領域がある中で、頼りすぎず対等の関係であり続けるため。河野さんと相良さん、どちらも両方の会社の共同創業者として設立に関わり、「小さな工務店」の未来のために新たな一歩を踏み出しました。

「つみき」の4人。左から、河野直さん、藤田桃子さん、相良昌義さん、相良昌弘さん。

「つみき」の4人。左から、河野直さん、藤田桃子さん、相良昌義さん、相良昌弘さん。

河野 2つの事業体となることによって、思いをひとつにして丁寧な手仕事を恊働できる、職人と設計者の両方を育てることも大きな目標です。僕らが事業体として大きくなる中で、職人の弟子と設計者の弟子が一緒に新しい工務店としてスケールアウトをしていくような、そんな未来を描いています。

相良 決して会社を大きくしようと考えるのではなく、あくまで今の気持ちを忘れずにいたいな、と思っています。

木は、応用が効いて創意工夫が生まれる、無限の可能性を秘めた素材です。伸縮したり、手触りも変わったりするので、住む人も楽しめる。そんな木造建築の技術を少しでも多くの人に継承していけたら、と思います。

機械に頼らず、いつまでもカンナとかノミといった手道具を握って手仕事をしていたいですね。職人の原点ですから。

そんな彼らの未来を担うかもしれない子どもたちが、取材の途中、「つみき あおぞら工房」に現れました。相良工務所の入口付近、車1台分の広さに作業台が置かれたこの場所は、みんなに開かれた“まちの図工室”。ここでは街の人や子どもたちのための小さなワークショップが度々開かれていて、何でもつくってしまうお父さんは、みんなの人気者になっているのだとか。

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河野 この場所もそうですが、ものづくりを体験する機会を提供することで、「暮らしの中で使う物は自分でつくれるんだ」ということをもっと多くの人に知ってほしいです。「衣・食・住」の中で、「食」や「衣」は作る人も多いですが、「住」だけは違いますよね。僕たちは「住」も、自分でできる人を増やしたい。

自分で料理して初めてお母さんへの感謝の気持ちが生まれるように、つくる側に立って初めてわかるものってありますよね。自分で「住」に対して手を動かすことができる人が増えて初めて、職人さんの技術の高さが認められ、彼らが本当の意味で「生きる」ことができる社会になると思うのです。

『つみき設計施工社』代表・河野直さん

『つみき設計施工社』代表・河野直さん

小学生の頃、自分の家の新築現場に毎日通い、大工さんからもらった端材を使って、見よう見まねで遊んでいたという河野さん。彼は今日も、思いを共有する誰かとともに現場に立っています。

「楽しくて仕方がない」と語る河野さんや相良さんを見ていると、「トム・ソーヤーのペンキ塗り」の現象を思い出します。「つみき」の遺伝子が、たくさんの人を巻き込みながら受け継がれ、大工さんたちの、そして人々の暮らしの未来をつくっていく。そんな時が来るのが楽しみですね。

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