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WHILLやREADY FOR?、FabLabと考える”生活者起点の新しいものづくり”とは?[イベントレポート]

Some rights reserved by chrissy.farnan

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”これからのものづくり”について考えるとしたら、あなたならどんなお題を投げかけますか?

これは、編集長のYOSHも検討委員を務めた、経済産業省の「生活者起点による新しいものづくりモデルの検討会」のテーマでした。といっても、どうも話がデカすぎる気がする…そこでグリーンズでは、まず問題意識の共有から始めてみることに。

まず読者の方に、それぞれの生活の中で気づいたり、問題に思っていることをどう考えたいかの“問いかけ”の投稿をお願いします。そして実際に、実現させたいこれからのものづくりの具体的なアイデアを考えるワークショップにも参加していただきました。

そして先日、検討委員のWHILLの杉江理さん、FabLabの田中浩也さん、READYFOR?の米良はるかさん、greenz編集長YOSHのほか、経産省で研究を進めている面々が集まり、これらの試みの報告と、見えてきた課題に今後どのように取り組んで行くかについてディスカッションするシンポジウムが行われました。今回はそのシンポジウムのレポートをお届けします!

自分たちの手で自分たちの未来をつくる

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未来はもっと素敵だと思いますか?
自分の手で未来をもっと素敵にできると思いますか?

編集長YOSHはこのシンポジウムの講演で最初に、会場のみなさんにこう投げかけました。この2つの問いはグリーンズ発の編著本『ソーシャルデザイン』の冒頭にもあるものです。結果は、どちらもほぼ9割以上の人が「YES」!

YOSHは「僕たちのミッションは、自分たちの手で自分たちの未来をつくる人たちを応援すること。だから、この2つの問いに堂々と手が挙がるような日本、世界になったらいいなと思って活動をしています。」と話しました。

またシンポジウムの中では生活者起点のものづくりを実際に行っているケースとして、WHILLの杉江さん、FabLabの田中さんの活動内容を報告。こちらは先のインタビューをご覧頂くとして、今回は「READYFOR?」の米良さんの活動内容を紹介します。

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この3月29日に晴れて慶応義塾大学メディアデザイン研究科を卒業されたばかりの米良さんは、昨年3月末に日本初のクラウドファンディングサービス「READYFOR?」を立ち上げ、NPOやクリエイターなど、ネット上で資金調達を可能にする仕組みを提供しています。

またWorld Economic Forum(ダボス会議)が選ぶ世界を変える若手の代表「グローバルシェイパーズ2011」に選出され、日本人史上最年少でスイスで行われたダボス会議に参加されました。

そんな米良さんが「READYFOR?」を始めたきっかけは、この先世界がどうなるかと考えたときに“未来を明るく、ハッピーに変えていかないといけない”と思ったことからだそう。

ちなみに現在もっとも資金が集まっているのは、以前紹介した「陸前高田市の空っぽの図書館を本でいっぱいにしようプロジェクト」。目標額の200万円は3日間で達成し、今も続々と支援者が集まっています。

「私のできることは小さいことでしかないけれど、たくさんのソーシャルイシューに対して、みんながそれぞれのできるところで協力して解決していけるような世の中にしたいと考えている」と米良さんは思いを話されました。

ものづくりで、お互いを幸せにしていく人のつながりをつくる

さて今回、経産省の掲げる検討テーマでグリーンズが行ったのは「どうすれば新しいものづくりができるか」を読者のみなさんと考えること。そこで「どんな問いを投げかけるか」を募集して48名から問いが集まりました。さらにFacebookのディスカッション機能を使って、みなさんにディスカッションを行い、問いの精度を深めていきました。

例えば、「ものづくりができる環境が整うことで、私たちの暮らしはどう変わるだろう?」という問いかけに対して

「そのモノを通じて、ひととつながりができるから満足する」
「贈り物が増える。モノをつくり、贈ることで思いを伝える文化が育まれ、人の心が豊かになる」

という声に多く関心が寄せられました。

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次は大量生産、大量消費の問題について。
「量を減らせば高くなり売れない。量を増やせば売れるけど、余剰大、このジレンマどうすれば抜け出せる?」の問いには

「多品種、適量生産の時代に入り、メンテナンスやリメイクなどの新しいサービスも増えるのでは」
「いろいろなスケールの生産が存在すべきで、消費者が選んだり考えたりし、作り手も使い手も互いに学び合っていく時代になる」

という声が多くありました。

さらに、問いを投げかけてもらった読者に参加していただいたワークショップでは、テーマを4つに絞り込み、具体的なアイデア出しを行いました。(詳しくはこちら)。

そこでのアイデアを再びFacebookに戻し、さらに意見を募るというプロセスを実施。ある読者は「なににこだわるか考えるきっかけづくり」というテーマの試みとして、実際に自分が意識している社会問題のロゴマークをつくり、Tシャツにプリントしてマラソンに参加されたそう。「そのことで、大きく変わったことはなかったけれど、自分の意識が変わった」とのコメントをいただきました。

オンライン(Facebook)とオフライン(ワークショップ)を行ったり来たりする中で、問いが解決を生み、解決が手を動かし、手を動かすことで新しい問いが生まれるという連鎖がつくられたことは、興味深い点でした。これらのプロセスを通じてわかってきたことは、これからのものづくりに求められるのは、共感ということを軸にして、使い手、作り手それぞれを幸せにしていく人のつながりづくり、ということでした。

ものづくりを始めた生活者を支援するには?

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シンポジウムの後半は、検討委員や経産省の人たちが一同に集まり行われたパネルディスカッション。

一つ目の議題は「ものづくりを始めた生活者や新事業を創造しようとする人材を支援するにはどうすればいいか?」。ここで、フロンティア人材研究委員の西口尚宏さんから会場の参加者に質問を投げかけました。

「こんなことをやってみたいという自分のアイデアを持っていますか?」には8割強の人が手を挙げました。続いて「そのアイデアを持続するビジネスモデルとして実現する考えを持っている人は?」には、一気に1割ほどに減りました。この2つのポイントは、WHILLの杉江さんがお話されている“3%と残りの97%”と同じ視点の問いかけです。

杉江さんはプロダクトが販売される状態を100%とすれば、プロトタイプができる段階を3%、そこから先の段階を97%といい、これまで個人では実現できなかった残りの製造や流通などの97%を実現するモデルをつくりたいと話しています。

そこで西口さんから杉江さんへ、具体的な策は見えているのかという質問。「大学と組む、もしくは中小企業と連携するなど、いろんなパターンの可能性があるのだろうと思いますが、正直、まだ模索している段階です」と杉江さん。プロダクトを早く世の中に送り出したい思いはあるので、もしその97%を支援してもらえる方法を見いだせるプラットフォームがあれば、すぐにでも利用したいとお話されました。

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そのプラットフォームについては、現在、経済産業省で立ち上げている「新しい事業を構想・創造する人材を創出するしくみを考える研究会(フロンティア人材研究会)」で企業における現状や、世界の潮流を踏まえた具体的な研究を進めているそうです。

フロンティア人材研究会の梶川さんのお話では、北欧、アメリカ、アジアでは、生活者起点のイノベーションを最終的に事業化するまでのプロセスをデザインする人材育成を大学や企業、国家のプロジェクトとして進めているという報告がありました。

そこで日本でも、企業、大学、国がともに、イノベーションを盛り上げ、その人材を育成し、資金も調達できるような連携がうまくできるようなプラットフォームをつくることを課題として議論を行っているそうです。

“3%”という視点でいうと、街に図書館ができるのと同じようにFabLabが普及していくことや「READYFOR?」で資金調達のサービスが始まるなど、環境が充実していくことで生活者の“3%”のアイデア開発を支援する仕組みはできあがりつつあります。アメリカのモデルでは、ベンチャーがある程度育って来たら、大企業が買い取るという仕組みがあります。日本でもそのようなモデルになっていくのでしょうか?

FabLabの田中さんは「事業化をめざすのであれば、3%の段階から企業の人を組んで行うほうがいいと思います。知財の伝授は思っている以上に難しいので、できれば思いを共有できる企業の人と出発するのがいいと思う」と言います。

フロンティア人材研究会の西口さんからは次にようなお話がありました。

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そもそもイノベーションはひとりではできないので、足りないものを組み合わせていく必要があります。その場合、人材には4タイプあって、タイプ1はアイデアをもっている人、2は、杉江さんのようにアイデアを形にできる人、3はそれを支援する人、そして大企業にあるのがタイプ4のイノベーションを邪魔する人。

4の人には悪意はなく、リスクや社内調整を重んじることで、結果イノベーションを殺ししてしまうことになるだけです。イノベーションは現状維持の軌道とは違う、新しい軌道を始めるところで始まる。だから企業と組むのがいいか悪いかではなく、組むとき、うっかりこのタイプの人と組んでしまうとプロジェクトにブレーキがかかる。

なので、1、2、3の人たちがオンラインでも、ゆるやかにつながっている場が必要だと思います。それが先ほど梶川さんと議論している、アイデアを持って活動している人たち全体をつなげグランドデザインを描くプラットフォームです。

もうひとつは、日本の場合、起業して失敗するともうその人はダメという見方をしてしまうところがあります。それは、ただうまくいかない事業をひとつ見つけただけの話。シリコンバレーの良い所は、影にはとてつもない数の失敗があるけれど、もう1回立ち上がって行うことが普通に行われていること。この挑戦者が何度も立ち上がっていける風潮が必要だと思います。

ニューエコノミーができあがりつつある?

二つ目の議題は「既存の産業の復興という視点ではなく、企業や産業の枠組みでない、いろいろな世界の人たちが混ざり合ってニューエコノミーができあがっていく予兆はあるか」。

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ここでは、ダボス会議にも出席した米良さんに意見を求めると、

ダボス会議には44カ国から70人の同世代の人が集まっていました。例えば、フィリピンからは史上最年少の市長を務めている女性。彼女は裕福な家庭で育ったものの、周りには貧困に喘いでいる地域がある。そこで目をつぶってはいられないから自分で動き出そうと思ったそうです。未来を考えたとき、今のままではいい状態が想像できないのも事実で、ひとりひとりが動かなければいけないという意識の高さを感じました。

そこで、世界経済フォーラムのようなコミュニティが後押ししてくれるのは心強いことです。私が世界のどこへ行っても、日本だけでなく、世界中とつながっていられる。シェイパーズに所属していると言えば、一緒にやろうよと言ってもらえる。例えば、パレスチナの問題をここで解決していてもいい。世界中がフラットになって、世界規模でイシューを解決していくような場やコミュニティはすごく重要な存在だと思います。日本からももっといい環境を生み出していくべきだと思いますね。

とのこと。

ここで検討会の一員でもある東大と一橋の教授が算出した、日本における「ユーザーイノベーション」の経済規模の推計を発表。一般人が1年間になにかを創造するのに使った金額は2兆2235億円。これは自動車産業が年間に使う研究開発費の総額に相当するものでした。

「趣味だけでなく、世の中の役に立ちたい、問題を解決したい」という思いをもってものづくりに取り組む人の経済規模は、かなりの額になるという参考資料として紹介されました。

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これについて編集長YOSHは

僕のような存在が、公的な検討会に加わっていること自体が奇跡的だと思っています(笑)マスメディアに代わって、COI(コミュニティ・オブ・インタレスト)型メディアに大切な役割が出てくる。そんな時代の大きな変わり目にあって、この経済規模も当たり前になっていくのでしょう。

先ほどの97%の話については、すべて100%になる必要もないのでは?とも。3%を20%にすることも大事だと思うんです。

大切なのは、みんなが秘めている心のスイッチを押すこと。以前は僕自身も受け身で生きていて、社会の役に立つなんてわからないと思っていましたが、greenz.jpを始めてから自分にも貢献できることがある、価値があるんだと気付くことが出来ました。だから多くの、自分にはなにも力がないと思っている人たちのスイッチを押せば、3%が10%に、20%にと変化が起こってくると思います。

と語り、FabLabの田中さんは別の視点から未来への展望を語りました。

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ニーズの多様化とは、ひとりひとりがイシューを持っているということでもあります。これまでは、ある意味ぜんぶ大企業にまかせていたことを、これからは生活者が自分で自分のイシューを受け止め直すことだと思います。

たとえば、ユニクロの服をユザワヤで買って来た飾りをつけて、リミックスするみたいな。つまり、生活者と企業の関係を作り直しているんだと思います。そうして、国民全体で新しい環境を作っていくことになるんだろうと期待しています。

今パネルディスカッションでは、“3%を100%にする”という表現がひとつのキーワードとなり、“これからの新しいものづくり”の実像と課題に一歩迫ることができました。

最後に経産省の山室さんから挨拶がありました。

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3%のままでは、日本国民は食べていけません。開発も製造も流通も含めて、どのようにリミックスして、新しいイノベーションをビジネスとして成り立たせるようにするか、これが経産省のミッションでもあります。これからも真剣に気概をもってこの課題に取り組んで行きます。

と熱のこもったあいさつでシンポジウムは締められました。

最後に、参加いただいた読者の方にお話を聞きました。

WHILLやREADY FOR?、FabLabのような活動を、より自分ごととして知ることができたのがよかったです。私の家族や友人も、もっと社会的な活動に参加したいと話すけど、具体的な方法がみつかっていない。また、個人での問題意識はあっても、会社では言えないという人も多いです。このような場では、その垣根がなくなりつつあるんだと感じられるような会でした。

編集長YOSHはこの検討会に参加して、改めてメディアはコミュニティだと気づくことができたと話します。「このコミュニティを温めるのが僕の仕事だと思っています」。これからもgreenz.jpではみなさんと一緒に未来を素敵にするムーブメントを起こしていきたいと思います。次回の「greenz TOY」をお楽しみに!

(Text: 魚見幸代、Photo: 舛元 清香)


基調講演


パネルディスカッション

「これからのものづくり」について調べてみよう。