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“生活者起点”のヒントが見えてきた!ツナグデザイン根津さん、NOSIGNER太刀川さんも参加した、「“これからのものづくり”を考えるためのワークショップ」 [イベントレポート]

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「“これからのものづくり”について話しましょう」という対話イベントがあるとしたら、あなたならどんなテーマ、お題を投げかけますか?
実はこの企画、編集長YOSHも検討委員を務めさせていただいている、経済産業省の「生活者起点による新しいものづくりモデルの検討会」のテーマです。

まずは問題意識の共有から始めよう!ということで、検討委員のFabLab Japan田中さんWHILL杉江さんissue+design 筧さんくらしの良品研究所コーディネーター 土谷さんをはじめ、読者の方からも「問い」を集めて来ました。

3月22日(木)には、この取組の集大成として、上記の検討委員が集合する「生活者起点による新しいものづくりシンポジウム」開催されます!あと10名ほど参加可能とのことなので、お申込はお早めに!

そして先日、実際に「問い」を投稿いただいた読者をお招きし、「“これからのものづくり”を考えるためのワークショップ」が行われました!今回はその模様をレポートでお伝えします。


デザインファシリテーターのご紹介!

ツールは「みんなの頭の中」、ルールは「ドラえもん気分で」、ゴールは「実現させたい、これからのものづくりの具体的アイデアを考えよう」という挨拶から始まったこの日のワークショップ。

みんなのアイデアを引き出す役割として、4人のデザインファシリテーターとともに対話を進めていきます。まずは、4人の紹介から。

ツナグ デザイン 根津孝太さん

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トヨタ自動車(株)を経て、05年(有) znug design を設立。トヨタでの代表作はコンセプト開発リーダーを務めた愛・地球博の i-unit。現在は自動車をはじめとする工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけながらミラノサローネや100%デザインなどで作品を発表。

キャラクターが際立つダイハツ「カクカクシカジカ」やグッドデザイン賞を受賞したサーモスのステンレスマグをはじめ、数々のプロダクトデザインを手がけている根津さん。「それらはお金がもらえる仕事。一方で、だれにも頼まれていないのに勝手にやっている仕事もありまして…」と、水に座るスツールや太陽で時間がわかる日傘、電気バイクなどを紹介してくれました。

ひとりひとりがアイデアを世界へ発信して行く時代。アイデアのマグマはそれぞれの中にあって、でも、まだどっちに吹き出していいのかわからない状態なのかと思います。ぼくもそのひとり。今日はみなさんからそのヒントをもらえればと思っています。

FabLab 渡辺ゆうかさん

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FabLab Kamakuraの立ち上げコアメンバーとして関わり、慶応義塾大学SFC研究所訪問研究員としてFabLabとまちづくりを実践しながら研究している。21世型のコミュニティーやクリエイターの新しい社会的役割を開拓するため、事業の本格的な始動に向けて邁進中。

FabLabはgreenz.jpでなんどか紹介していますが、3次元プリンタなどの工作機械が使えるオープンな市民工房と、その世界的なネットワーク。そこで渡辺さんは「デザイナーの新しい働き方」の実験台として、日本の伝統建築文化とデジタルで何が出来るかを調べたり、FabLab工房のある鎌倉の街とものづくりを連携するプログラム開発などを行っています。

鎌倉の街には、素材屋さん、溶接のお店などいろいろな場があります。それなら街自体のリソースを再編集して、ものづくりと街づくりを連携してはどうかと考えています。人が街を歩くことによって、ひとつのものがつくれる。例えば鞄がつくりたいなら、あそこで素材をみつけて、その先の縫製の店へいく…というように。他にも、落ち葉に名前を書いて名刺にしたり、貝をスキャンして立体プリントしてみたり。日々研究です。今日はフラットな関係で、いろんなアイデアを出し合っていきたいです。

NOSIGNER/OLIVE PROJECTの太刀川英輔さん

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見えない物をつくる職業という意味をもつデザイン事務所NOSIGNERを立ち上げる。社会に機能するデザインを模索し、空間、プロダクト、グラフィックなど複数の領域で活動。OLIVE PROJECT代表。

例えば、「歯ブラシでなく、歯を磨けるもの」「椅子でなくても座れるもの」というように、そこにある状況や定義を疑ってみて、新しい価値をつけるのがデザインの仕事だと話す太刀川さん。東日本大震災後すぐに、「これはこんな風に使えるよ」という知識を集められないかと「OLIVE PROJECT」を立ち上げました。

缶はコンビニや自動販売機で液体を売るために一番最適な形です。私たちは消費社会に慣れてしまっているから、それ以上の想像力をもつことはすごく難しい。でも、缶はコンロになったり、ランタンになったり、炊飯器にすることもできるんです。いまある定義を疑ってみて、別の価値に結びつけて新しい価値を生み出す。これは僕らが生まれながらに与えられている、生きて行くために必要な、本質的な能力だと思います。自分で決めて、自分でつくるってすごくワクワクすること。今日は、この世界を疑って、新しい価値を一緒につくってしまおうぜ!と思ってます。

WHILLの杉江理さん

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日産デザインセンターを経て、2009年より世界をフィールドに何かをつくるSmile Parkの活動を開始。2010年、車いすユーザから始まるパーソナルモビリティをテーマにWHILL立ち上げ、2011年東京モーターショーにて初号機となるWHILL Conceptを発表。

今テーマのインタビューでも登場いただいている杉江さん。昨年の東京モーターショーでWHILLを発表して以来、世界各国のメディアに取り上げられ、現在は24カ国以上からジョイントプロジェクトのお誘いがあるそうです。

そんな杉江さんが今夢中になっているのは、「3%」。これは、ひとつのプロダクトのアイデアが生まれ、無事に販売されるようになる状態を100%とした場合、プロトタイプ(試作)段階を表した数字。

この3%を100%にすることが、現在は個人ではできない状態です。これを、僕らはできるようしたい。そのロールモデルがあると、これからの製造業のエンジニアやデザイナーが燃えてくるのではと思っています。いわば、“製造業2.0”です。今日はいろいろなアプローチ法で、ものづくりを考えていきたいなと思います。


ワークショップスタート!

参加者には「◯◯クリエーター」という肩書きで参加してもらいました

参加者には「◯◯クリエーター」という肩書きで参加してもらいました

あなたは何クリエイター?

それではワークショップのスタートです。参加者を交えて最初に行ったのは自己紹介。名前、いつもの仕事内容に加えて、「○○クリエイター」の「○○」をそれぞれに考えてもらい、お話いただきました。

例えば、ふるさと(土地)を大切に思い、活性化したいという「ランドクリエイター」、みんなに笑顔を届けたい「サンタクロースクリエイター」、ものづくりが大好きで様々な工具を揃えている「ひとりFabLabクリエイター」、その他「日本がよくなることクリエイター」「ピンククリエイター」「遊び心クリエイター」など、個性豊かなクリエイターが勢揃い。日頃から意識していることや、目指しているものが表現されて興味深い自己紹介となりました。



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私たちが実現させたい「これからのものづくり」

その後8つのテーブルに分かれ、ワールドカフェ形式で下記について対話をしました。お題は今のものづくりの「イイところ」「ダメなところ」、今のものづくりに足りないこと、私たちが実現させたい「これからのものづくり」です。

対話を進めていく中で、どこでも何でも便利に買うことができる「イイこと」は、一方でモノの価値を軽くし、余剰の市場を生み出す「ダメ」な面でもあり、今のものづくりの善し悪しは表裏一体だということが多く語られていました。

また、伝統的技術や高度な製造技術があるけれど、消費社会によって埋もれてしまい、ユーザーとしてもモノへの関心が低くなっているという声もあります。このように8つのテーブルで交わされたさまざまな対話のキーワードから下記の4つのテーマに絞り込まれました。

1. 今の時代の中にある価値を見極めて、再発掘し活かしたい。
2. 自分がなにが欲しいか、こだわっているか、普段から考える場、きっかけづくりをしたい
3. ユーザー(使い手)とメーカー(作り手)の垣根をはずし、共感できるものづくりをしたい
4. 余白のある、不完全なプロダクトをつくりたい


いよいよ最終プレゼン!

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午後からは、デザインファシリテーターによるチームに分かれて、4つのテーマの具体的なアイデアを考えていきます。会場の外へ飛び出してリサーチするチームや、ひとりひとりに役割を決めシミュレーションしながら課題を掘り出すチーム、個人のエピソードからアイデアを練り上げていくチームなど、それぞれのメソッドで内容をつめていきます。

そして各チームのプレゼンテーションです。

根津さんチーム:
「自分がなにが欲しいか、こだわっているか、普段から考える場、きっかけづくりをしたい」

根津さんチームはお互いの「差」を感じることから、考えるきっかけが生まれるのでは?と、学校の先生と、子どもの親を入れ替える(親が先生になる)、田舎の人が都会へ、都会の人が田舎で生活をしてみる、など<お互いの立場、場所を入れ替えてみる>という提案がありました。

また”環境”という言葉を自分ごとにするために、街角に「生きるとは?」「なぜ外を眺めているの?」といった質問を貼って環境の違和感に気づきを与える「街角クエスチョン」といった<リアルに実感できる教育>の重要性にもふれていました。

渡辺さんチーム:
「今の時代の中にある価値を見極めて、再発掘し活かしたい」

続いて、渡辺さんチーム。このチームではモノを「自分ごと」として考えたりして関係性が生まれると、モノの価値が値段だけでないものに変わっていくのでは?という視点から、遊び心のあるアイデアはないかと、話し合いを進めました。そこで生まれたアイデアが「素性マーク」

例えばカロリーや成分表示のように、モノが素材から完成品になるまでに関わった国(地方)、どのくらいの人が製造に関わったかの人件費を「顔マーク」で表示したり、コストの内訳(プラダのバッグなら、デザイン料が一番多いなど/ポテトチップスの空気輸送費など)、匠の技マークなどなど。その「モノ」に関わったさまざまな素性を表示することで、今までと見え方が変わったり、見えなかった価値が再評価されるのではないかとの提案でした。

杉江さんチーム:
「ユーザー(使い手)とメーカー(作り手)の垣根をはずし、共感できるものづくりをしたい」

そして杉江さんチーム。まず、今回のゴールを「使い手と作り手が、どういう状態になるのがいい状態なのか」に設定し、共通の接点があるにもかかわらず、交わらない二者のどのような距離感、関わり方がいいのかを「ディープ:作り手と使い手が同じになる」「ライト:お互いがどのような人かを知る」「無視:お互いにわかり合えない」という3つの具体的な関係性を検証していきました。

例えば「カメラ」と「ダイエット」という共通項があるAさんとBさんの場合。BさんはAさんのためにダイエットによいレシピを提案し、AさんはBさんのレシピがもっとおいしそうに撮れるためのカメラ開発を考える、という関係性が理想的と仮定。

結果、「ディープ」では作り手が使い手、使い手が作り手になると、お互いの視点がなくなってしまう。また、依存し過ぎてしまうのではという話になりました。「無視」では、お互いによいものを使いたい、作りたいというモチベーションにつながりにくい。最終的に、お互いの情報を適度に知り、観察しリスペクトできる「ライト」な距離関係がいいのでは?という提案となりました。使い手と作り手を「お互いに気になる存在がいちばん理想的」と恋愛関係に例えた表現もあり、わかりやすかったです。

太刀川さんチーム:
「余白のある、不完全なプロダクトをつくりたい」

太刀川さんチームは、具体的なモノとしてアウトプットすることをゴールとしました。

最初に行ったのが、各自ポストイットを持ち、会場を飛び出して「参画性が加わると面白そうだよね」というものを集めてくること。そこで注目したのが「自動販売機」です。

最終プレゼンは外の自販機の前での即興演技。そこで示されたのは「ユーザーが自分で好きにカスタマイズでき、オリジナルのラベルもつくれる自動販売機」です。レシピはSNSを通じてシェアでき、マイボトルを投入することも可能。自分のレシピを特定の人物にプレゼントすることもできる、という参画性のある自動販売機の提案でした。

サービスであり、モノであり、パブリックな自動販売機は、「作り手と使い手をつなぐ」可能性のある場所なんだ、という感想があがりました。

最後に参加者の声

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すっかり日も落ちた所でパチリ!

プレゼンが終わり、参加者全員で「今日の気づき」「明日からチャレンジしたいこと」を共有しました。最後にいくつかご紹介します。

“余白のあるプロダクトづくり”チームに入りました。プロダクトをつくっているデザイナーの思考プロセスをリアルに体験できて、刺激的でした。多種多様な人たちが同じ目的をもっていて、いろいろな対話ができたことは、あらためて自分の活動を考えるきっかけにもなりました。これからももっとこのような機会があれば、参加していきたいです。

手づくりをしている人と関わることが多いので、別の視点や自分とは違う考えを持っている企業やデザイナーの方の話を聞いてみたいと思っていました。参加して、どんな立場にいる人でも、対峙すればちゃんとコミニュケーションできるということが実感できました。これからもものづくりを通して、いろんな人たちとつながり、向き合っていきたいと思います。

人件費を“どれだけ多くの人が関わっているか”というデザインにするだけでポジティブになれるのは目からウロコ。多種多様な人々をつなぐ場をもっとつくっていきたい。

“ものづくり”というテーマで集まったのだけど、みんなの発表を聞いていると、人と人をつなぎたかったのだと思い、面白かったです。人の真ん中にあるものをこれからも引き出していきたいです。

と、長くなりましたが、いかがでしたでしょうか?

経産省としても”生活者起点イノベーション”をテーマとした検討会は初とのことで、この日は最初から最後まで生活者、企業、デザイナー、経産省…といろんな立場の人がフラットに、白熱した対話がなされました。

対話することで、「差」を見つけたり、新しい気づきを発見することができると、改めて実感。この日、最も多かったキーワードは「ともにつなぐ」ということ。その共有も大切な気づきでした。

(テキスト:魚見幸代

グリーンズも企画協力!これからのものづくりを考えるシンポジウムに行ってみよう!