いま、世の中ではモノのあり方が二極化していると言えます。大量生産される規格品と、手間ひまをかけてつくられる高価な一点モノ。ところが、今回開催された『ててて見本市』には、ちょうどその中間とも言える、手工業で中量生産されるこだわりの生活雑貨がずらりと並びました。
手工業とは、簡単な機械や道具を使って行われる生産手段のこと。昔ながらの素材や技を活かしながらも、伝統の継承や手仕事であることにはこだわらず、工業技術を取り入れて、今、この時代に使いたくなるカタチのよい、質の高いものをつくっているのです。
2012年2月8~10日の3日間、港区タブロイドにて行われたのが『ててて見本市』。「ててて」とは「作り手」「使い手」「伝え手」のことで、それぞれの気持をキチンと伝いあえる場として、この見本市が開催されました。初回である今回は、富山、福岡、木曽、松阪ほか日本各地から20の作り手およびショップが集い、食器や雑貨、手提げ袋など、シンプルながらあたたかみのある暮らしの品が揃いました。
工業の技術×工芸の技
発起人である株式会社イクスの永田宙郷さんと、デザイナーの大治将典さんは、各地の工芸品の生産現場に長期間にわたって関わり、現代でも使いやすい生活のモノをつくり続けている方々。お二人が手がけたブランド以外も含めて、産地はばらばらながら、共通の柔らかな雰囲気があり、展示会場全体が気持ちのよい空間となっていました。
「ててて」を開催した趣旨を、大治さんはこう語ります。
私のつくるものはいつも、従来の展示会では座りが悪いというか、どこか違和感があったのです。完全な「手しごと」でもなく、(作家の)作品でもない。工場で大量生産される工業品(プロダクト)と、職人がつくる工芸品のちょうど間くらいと言えるでしょうか。職人さんたちが手工業の範囲で作っているので、僕はそれを中量生産と言っています。そこに自分なりのデザインを加えてひとつの世界観をつくれたらと思っています。
今回ここに集まっているモノはどれも、工業と工芸の両方の技術を取り入れていたり、作品と商品の両面性をもつ、一つの枠に収まらないモノばかり。これらを集めて、新しいジャンルの展示会をやりたいと考えたのです。ちょうど永田さんも同じことを考えていて、一緒にやりましょうということになりました。
たしかに、会場で目にしたのは、どれもこだわりをもってつくられた存在感がありながら、シンプルで日常使いできそうな生活の品ばかり。
素材の良さを活かし、生活雑貨のニュアンスも忘れない
大治さんはデザイナーの立場から、各産地でのモノづくりに関わります。今回出展された岡山県倉敷の倉敷帆布、富山県高岡のFUTAGAMI、佐賀県有田のJICON、北海道旭川の高橋工芸はすべて大治さんが手がけたもの。
今回新しく世に出たJICONは、創業350年の窯元「陶悦窯」が大治さんと立ち上げた磁器ブランドです。有田特有の技術や美意識を元にしながらも、磁土や釉薬を一から作り直し、敢えてつるつるした質感をマットで自然な白い質感になるよう工夫しています。それが何とも、骨董品のような雰囲気と現代風の生活雑貨のニュアンスの両方を兼ね備えていて、日常に使うにも敷居が高くないモノに仕上がっています。
FUTAGAMIも、明治30年創業の真鍮の鋳物メーカー「二上」が大治さんと共に立ち上げた生活用品のブランド。従来、仏具に使われていた真鍮は、光り輝くまで磨き抜かれていましたが、敢えて鋳肌を活かした無塗装・無垢の真鍮で、輝きを抑えた質感を表現しています。
私が常に大切にしているのは、素材の良さを活かすために適した方法を探るということです。だからそれぞれ、やり方やこだわっているポイントは違いますが、全体を通してひとつの空気感のようなものを出せたらと考えているんです。新しくデザインする場合もあるし、元の形をそのまま活かす場合もあります。
たまたま私(筆者)が2年前に旭川で購入していた高橋工芸の木のコップは、大治さんと共に高橋工芸のデザインをしている小野里奈さんのもの。軽くてラインがキレイで手触りがなめらかでいつまでも触っていたくなる。そんな日常を豊かにしてくれる嬉しい品です。(今回も出展されてました!)
自分は、モノづくりの「町医者」
一方、永田さんはプロデュースに近い形で産地に関わります。出展者の一つである「木曽生活研究所」は、永田さんが地元の人たちと共に立ち上げた地域ブランド。もともと木曽では漆器など木工品が盛んに作られてきましたが、使われる素材の多くは地のものではありませんでした。
そこで、ヒノキをはじめ地元の素材をリサーチし、従来の木材加工技術を組み合わせて、新しい商品を開発。ほかにもヒノキの香りを使った入浴剤や、養蜂が盛んである信州産のハチミツを活かした商品をつくっています。永田さんの仕事ぶりを伺っていると、斬新なアイディアを発案するというより、その土地にあるものを発掘して、うまくつないでいく作業に近い印象を受けます。
僕たちがやっていることは、町医者に近いと思うのです。初診してみて、産地の状況に合わせた提案(診断)をします。新たなものを作りましょうという場合もあれば、今ある商品のままで流通だけ変えてみたらいいんじゃないかとか、まずはカタログだけをつくりなおしたら、といった具合にアドバイスをさせていただきます。僕の技量では手が及ばない範囲は、専門医とも言えるバイヤーやデザイナーなど専門職をコーディネートして、一緒に課題に向きあいます。今回も“100parcent”というデザインチームとともに木曽の課題に取り組んでいます。もちろん、その土地にその役割を果たせる人が居れば一番いいですが、誰も居ない時に、自分たちができることがあるんじゃないかと。いつも一つの場所に2~3年かけて地元の人たちとコミュニケーションを取りながら進めます。時にはスタッフを1~2人常駐させることもありますね。
轆轤(ろくろ)の技術とネジ切りの技術のコラボレーションで生まれた“Moku Neji”
お二人が直接的に関わっていないブランドにも、素敵なモノが揃っていました。「工芸×工業」のよい事例が、こちらのMokuNeji。工業の世界で受け継がれてきた木工轆轤の技術に、工業製品の精緻なネジ切りの技術が加わって、子どもに優しいガラガラのおもちゃ「TOY GRIP」ができました。なんとコレ、空になったペットボトルとの組み合わせで使えるのです。ほかにも、木のコップとステンレスの組み合わせによる水筒「Bottle」など。
江戸時代に一世を風靡した松阪木綿を再び
さらに、かつての日本で盛況を誇った松阪木綿に改めて光を当てようと、デザイナーの丸川さんが立ち上げたのが丸川商店です。今の三越や松坂屋の原点でが松阪商人による呉服店だったことからもわかるように、松阪木綿は当時の江戸で一世を風靡する衣料だったのだとか。丸川さんは、極力新しいデザインを加えることなく、そんな江戸時代に使われていたままの模様や色、形を再現して商品にしました。今や海外にも進出。その素朴ながら美しい藍色の袋やがま口は、現代でも充分実用品として仕えるものばかりです。
バイヤーも3000人近く訪れたという今回の展示会。ここに置かれた品が都内のお店で見られることも増えるかもしれません。オンラインで購入できるものも多いので、次に生活雑貨を選ぶ時には、候補のひとつに入れてみてはいかがでしょう?
【出展者】※五十音順
・ Ams, Tram, Gram (石川)
・ etoetoteato(富山)
・en(福岡)
・ 我戸幹男商店 (石川)
・ 木曽生活研究所(長野)
・ 倉敷帆布(岡山)
・ JICON(佐賀)
・ SyuRo(東京)
・ 髙橋工芸(北海道)
・ てぬコレ(東京)
・ to・mo・ni & 丹野雅景(北海道)
・ ヒロコレッジ(東京)
・ FUTAGAMI(富山)
・ PROOF OF GUILD(愛知)
・ 丸川商店(東京)
・ mother tool(群馬)
・ MokuNeji(東京/石川)
・ YAMASAKI DESIGN WORKS(東京)
・ yumiko iihoshi porcelain Co.,Ltd(東京)
・ 輪島キリモト・桐本木工所(石川)
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