福島第一原子力発電所の自己の影響で被曝への関心が高まっていますが、66年前に広島で被爆した人々の体験と想いを収集したアーカイブ「ヒロシマ・アーカイブ」が公開されました。このアーカイブは昨年greenzでも取り上げた長崎の被爆を記録した「ナガサキ・アーカイブ」のヒロシマ版にあたります。
「ナガサキ・アーカイブ」は第14回文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品に選出され、今年2月に開催された受賞作品展でも展示されました。それを更にパワーアップさせて完成したヒロシマ版は一体どのようなものなのでしょう…
今回も「ナガサキ・アーカイブ」と同様、被爆者の証言や写真、地図などをgoogle earthを使って被爆した場所にマッピングし、インタラクティブに体験できるアーカイブになっています。たとえば、現在のストリートビュー上に1945年当時の写真を重ね合わせてその変化を体験することで、今はすっかり平和な街に戻っている場所で多くの被爆が起きたのだということをリアルに感じることができるのです。
そして、今回のアーカイブ作成にあたっては、これまでに収集されて来た資料に加えて、地元の高校生や全国のボランティアと連携して新たな証言の収集活動も行い、「記憶のコミュニティ」を生成。さらに、Twitterに書きこまれた「原爆」や「核兵器」に関するツイートも収集、それもマッピングすることで核兵器に関する議論をアーカイブ化することもしています。
ナガサキ・アーカイブの時も思いましたが、今や実際に原爆を経験した人は非常に少なくなっています。でも、日本で生まれ育った人なら、子供の頃から原爆に関する文章や小説を読んだり、映像を見たりすることで「原爆の記憶」が頭に植えつけられています。それは核兵器の悲惨さを記憶に留めるという意味で非常に「いいこと」だと思います。
しかし、人の記憶は風化して行きます。被爆の経験はデータとしては残るし、そのデータが今の被曝についての分析に生かされていることも確かですが、それはあくまでデータであり、データは記憶のようには語りかけてはきません。被爆という悲劇を繰り返さないためには「原爆の記憶」を頭に留めておくことが何よりも重要です。そのためには繰り返しその記憶を喚起してくれる記録に触れることが必要で、このアーカイブはそれを実現してくれるのです。
広島、長崎では、毎年8月6日と9日に慰霊祭が行われ、必ずTVでも新聞でも取り上げられます。日本にいる限り、最低でも一年に一度は「原爆の記憶」を掘り起こすことができます。その時、このアーカイブにアクセスすれば、もう少しその記憶を掘り進み、さらに新たな記憶を加えて行くことで、未来に向けて記憶を刷新していくことができるはずです。
いま人々を不安にさせている原発から出る放射性物質による“被曝”と原爆による“被爆”はもちろん異なります。しかし放射線による身体への影響について考える時、原爆に意識が及んでしまうのもまた事実なのではないでしょうか。8月6日は66回目の広島原爆記念日、“被曝”という問題がクローズアップされている今だからこそ、もう一度“被爆”について考えてみませんか?