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ひとりひとりの“継ぐ”を見つけてほしい。「第三世代が考えるヒロシマ「 」継ぐ展」で、改めて考える戦争と平和とは?

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こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

2015年は、戦後70年という節目の年でした。

メディアではさまざまな戦後特集が組まれ、たくさんのプロジェクトやイベントが立ち上がりました。誰もが平和へと思いを馳せ、時の流れを噛み締めた1年だったことでしょう。節目というのは、そうやってより強く、私たちを歴史や事実と向き合わせてくれます。

広島県出身の久保田涼子さんは、昨年、故郷・広島をテーマにした企画展「第三世代が考えるヒロシマ「 」継ぐ展」を、東京都中野区の「space&cafeポレポレ坐」にて開催しました。

そして、戦後71年となる今年も、8月3日〜8日まで、神奈川県横浜市の「みなとみらいギャラリー」にて、同企画展を開催します。

戦争を体験していない20代から30代の若者が、自発的に制作に関わっているという「第三世代が考えるヒロシマ「 」継ぐ展」。いったいどんな企画展なのでしょうか。

戦争を体験していない世代が広島を継いでいく方法を考える

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ヒロシマ「 」継ぐ展 実行委員会・代表の久保田涼子さん

「第三世代が考えるヒロシマ「 」継ぐ展」(以下、継ぐ展)は、戦争を体験していない世代がヒロシマの歴史や記憶、想いを継いでいく方法を考える企画展です。「もともと平和活動をされている方からしたら、もう知っているよと思われる内容が多い企画展だと思うんです」と久保田さん。

間口を広くするために、基礎中の基礎というべき事実を知り、何を得て、どう動けばいいのかを一緒に考え、その想いを共有することを継ぐ展では体現しました。まずは、常設展の内容を見てみましょう。
 

“学ぶ”

・ヒロシマ原爆資料パネル・石材展示
ヒロシマ平和祈念資料館から提供していただいた被爆の実相を学べるパネルの展示。2016年はこれに加えて、原爆ドームの破片や被爆瓦の展示も

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ヒロシマ原爆資料パネル展示(写真は昨年度のもの)

・広島関連書籍コーナー
「はだしのゲン」「図録 ヒロシマを世界に」など、平和学習のヒントが詰まった書籍・絵本が自由に閲覧できるコーナー
 
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広島関連書籍も大量に収集し読んでもらえるように。子どもたちが読みやすいよう、絵本もたくさん用意しました

“聞く”

・ヒロシマの記憶を継ぐ人インタビュー展示
被爆者、伝承者、ピースボランティアなど16名を取材したインタビューをミニパネルで展示。また、冊子、ウェブなどでロングバージョンを掲載する
 
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ヒロシマの記憶を継ぐ人インタビュー展示(写真は昨年度のもの)

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被爆者へのインタビュー風景

“知る”

・被爆建物から見るヒロシマ写真展
現在もヒロシマに残る被爆建物を、70年前の写真と同じアングルで撮影。当時と今が比較できる写真展。
 
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被爆建物から見るヒロシマ写真展(写真は昨年度のもの)

・「絵で読む 広島の原爆(福音館書店)」原画展
広島に長期滞在し、綿密な聞き込みから1945年8月6日の様子を描写した絵本作家・西村繁男さんの絵本「絵で読む 広島の原爆」の原画展
 
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「絵で読む 広島の原爆」原画展(写真は昨年度のもの)

“継ぐ”

・とうろうに込めるメッセージ
平和へのメッセージを込めたとうろうを仮想空間の川に流し、8月6日の広島へ届けるプロジェクト
 
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パソコンやタブレット、スマホでとうろうを制作し、仮想空間の川に流します。これは8月6日当日、広島平和記念公園内のとうろう流し会場・継ぐ展ブースにて、スクリーンに映し出されます。広島に行けなくても世界中から平和への思いを届けられる、デジタルに強い第三世代ならではのアイデア。WEB制作会社が中心となり開発から行ったのだそう!

常設展だけでも細部までよく配慮された盛りだくさんの内容ですが、これだけではありません。興味関心をもってもらうためのイベントプログラムやワークショップも充実しています。

今年は、語り部・岡田恵美子さんとの対話の時間や絵本作家・西村繁男さんのトークショー、市民参加型の朗読劇ワークショップ、1週間かけて制作するモニュメントや路上にチョークでアオギリの葉を描くアート系ワークショップ、折り鶴の消しゴムはんこづくり、子ども向けの自由研究ツールの配布やスタンプラリーなど、来場者が参加しながら体験を共有できる数々の仕組みが用意されています。

さらに「株式会社やまだ屋」からスタンプラリーの景品として広島銘菓が、「株式会社オタフク」からお好み焼きセットのプレゼントが用意されるなど、広島の企業が協賛につき、若者のピースアクションを支援しています。
 
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企画展内の各コーナーを巡るスタンプラリー。消しゴムはんこ作家の津久井智子さんの協力で実現しました。こうして、子どもたちに興味をもってもらうための工夫が随所に。(写真は昨年度のもの)

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自由研究用のツール。会場を巡り、20の質問に答えていくと、広島のことがしっかり学べるようになっている(写真は昨年度のもの)

きっかけは朗読劇「父と暮せば」に関わったこと

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久保田さんは東京でウェブ制作を手がけ、シンガーソングライターとしても活動しているマルチクリエイターです。

クリエイター集団ROOT」を結成し、これまでもさまざまなイベント企画を手がけてきましたが、それらはただ楽しい企画がほとんど。これほど重たいテーマを手がけたことはありませんでした。

そんな久保田さんが“戦争と平和”に向き合ったのは、2014年のこと。知人の女優さんが原爆投下後の広島を描いた井上ひさしさん原作の戯曲『父と暮せば』の朗読劇を行うことになり、広島弁指導を頼まれたことがきっかけでした。

広島では、原爆が投下された8月6日前後が登校日の学校もあり、子どもの頃から平和学習を行うのが当たり前なのだそうです。戦争でいったい何が起きたのか、当日どんな悲惨なことが起こったのかということは、子どもの頃からよく学んでいました。

でも『父と暮せば』は、主人公がこの先どう生きていこうかを模索している、自分が目を向けていなかった原爆が落ちたあとの広島の話だったんです。

なにより感銘を受けたのが、広島出身ではないふたりの女優さんが広島と向き合ってくれて、伝えようとしてくれているということでした。私は広島人だし平和学習も受けてきたのに、何かをやろうと思ったことがなかった。そこから自分にできることがないだろうかと考え始めました。

そこでまずは、この朗読劇の広島公演のサポートに入った久保田さん。そして徐々に、自分発信で何かやりたいという思いが強くなり、その翌年、戦後70年に合わせて企画を立ち上げようと思い至ります。

まずは、自分の意思で平和学習をする

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まずはじめにしたことは、企画のコンセプトを考えるために広島へ帰り、被爆建物や資料館を見て廻ることでした。

そのときに、初めて自分の意思で平和学習をしたんです。受け身で平和学習をするのと、自分が意思をもって平和学習をするのって、全然違うんですよ。なんで、どうしてっていう疑問が生まれてくるし、もっと話を聞いてみたくなるし、いろいろな意見を聞いてみたくなるんです。

そして改めて、被爆者の方々のお話も聞きました。

みなさん、辛かったという思いはもちろんもっている。すごく傷ついてもいる。でもそれ以上に、人に伝播するほどの生きる強さを持っている人たちがたくさんいました。

メディアで原爆のことを取り上げると、悲惨で大変だったという部分がフォーカスされがちです。でも一方で、こうやって力強く生きている人たちもいる。そういう人たちが未来に向けて何かを伝えようとして、70年経った今でも語り続けている、私はそこに興味をもちました。

そしてせっかく企画展を行うなら、あまり平和学習に馴染みのない地域で広島について知ることができるきっかけの場所づくりができたらいいだろうなと考えました。

大切なのは、考えようという自発性

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昨年度の会場全景。思わず長居してしまう空間デザインはさすが

動き始めると、話を聞いたクリエイター仲間が「この企画なら一緒にやりたい」と名乗りをあげてくれたり、ほかの企画を一緒にやってきた友人が協力を申し出てくれたりと、主旨に賛同する人たちの輪がどんどん広がり、チームができていきました。

継ぐ展に携わっているメンバーは、今まで平和というものに対して、アクションをしてこなかった人がほとんどだそうです。

“どうして協力してくれたの?”と参加者の人たちに聞きました。多かったのが、今までにないやり方で、自分たちも一緒につくっていくことができるからという答えと、やりたくてもこれまではきっかけがなかったからという答えでした。

正直この企画を立ち上げるまで、私も戦争のこととか平和のこととかちゃんと考えたことがなかったんです。だからもし、私と同じような人がいっぱいいるのだとしたら、知らないことは知らないと言える場所があってもいいし、その場で一緒に学んで考えていけばいいのでは、と。

みんなどこかに問題意識があるし、心の底では平和がいいと思っている。ただ、こういうテーマはある一定の知識があって、ちゃんと問題意識をもっている人じゃないと手を出してはいけないという空気感がある、と久保田さん。

ひそかに思いがある人たちがアウトプットするきっかけがあまりにもなかったんだと思います。そのきっかけとして“これだったらいけるかも”って思えたのが、きっと、継ぐ展だったのではないでしょうか。

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書籍コーナーは親子連れや子どもたちにも大人気。何時間も座って本を読み続ける人もたくさんいました(写真は昨年度のもの)

それは来場者も同じだったようです。継ぐ展のターゲットは、心には思いがあるけれど学べる場所に行く機会がなく、知るきっかけもなかったという若い人たちや親子連れです。実際に「親子で平和について考えられる場所がなかったので、子どもを連れてくることができて良かった」と言われたりもしたそうです。

大切なのは、考えようという自発性ですよね。自発性をもたないと、みんなどこかで無関心になってしまう。でも、ちょっとでもそのアンテナが立っていたら、大きな決断を迫られたときに、自分の意見としていろいろ考えたうえで意思表示ができると思うんです。

知り、学び、対話し、考え、継いでいく。それも、自発的に。

タイトルに括弧閉じの空白を入れたのも、それぞれなりの“継ぐ”とは何かを考えて埋めてもらいたい、と思ったからでした。
 
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準備風景。今年は学生のスタッフが増えました

「お母さん、生きててくれて本当にありがとう」

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被爆体験伝承者のお話に耳を傾ける来場者たち。子どもたちも真剣にお話を聞いていました(写真は昨年度のもの)

昨年の企画展では、何時間も会場に滞在する来場者が続出しました。展示を見て、被爆者の方と対話し、スタッフとも対話し、参考書となるたくさんの本を読んでいるうちに、時間はあっというまに過ぎていきます。

会期中、2日連続でこられた親子がいました。お子さんが「はだしのゲン」の続きが読みたいと言ったからだそうです。その親子は、前日にとうろうづくりワークショップにも参加していました。

このワークショップでは、被爆者や伝承者の方にお話を伺いながら平和へのメッセージを込めたとうろうをつくりました。すると8月6日当日に、広島の現地スタッフが代行してとうろう流しをしてくれます。

ところが、そのときに聞いた話がかなり衝撃的で、夜、家に帰宅してから男の子が不安定になってしまったのだそうです。そこで、改めてその日あったことを、親子で話し合いました。

いろいろ喋っていたら、男の子が「お母さん、生きていてくれて本当にありがとう」と言ったそうです。「ふたりで泣きながら抱き合ったんですよ」ってお母さんが話してくれました。

それまで、ただ当たり前にいたお母さんという存在に感謝を感じた男の子。命の尊さや今ある世界の平穏を、身体で感じ取ったということなのでしょうか。

被爆者の方から直接お話を聞いて伝わったものがきっとあった。そういう子どもが大人になったときには、やっぱり自分の子どもたちにも同じような価値観を共有すると思うから、それがすごく大事だなと思います。

この話は、企画展の最後の日ぐらいに聞いたんですけど、そこではっきり見えたんです。言葉にするのがすごく難しかったんですけど、私はこういうのがやりたかったんだって。

ひとりの想いがたくさんの平和を願う想いとつながって、さまざまな形で広がり、継がれています。

本当にあなたたちの人生にとって意味のあるものをやりなさい

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大量の資料を手に、お話を聞かせてくれた久保田さん。数年前から学び始めたとは思えないほど、しっかりと広島の歴史と向き合っていました

ところで、戦後70年を記念して実施された企画はたくさんあるけれど、今年も継続しているものはあまり多くないように思います。なにごとも継続は大変ですが、こと平和という壮大なテーマに継続して取り組むとなると、かなりの覚悟が必要な気がします。

打ち上げ花火で終わらせない。久保田さんがそう決めたのは、ある方に怒られたことがきっかけでした。

あなたの中に残る何かをやらないなら、こういうテーマは絶対にしてはいけない。戦後70年だからと軽い気もちでするんじゃないって、すごく怒られたんです。

その方がなによりも言っていたのが、一過性で、花火みたいに弾ける企画をやろうと思っているならやめなさいということだったそうです。

そこは確かにそのとおりで、私は1回きりで、戦後70年だからやろうと、どこかで思っていたんです。

その方からのメッセージは「本当にあなたたちの人生にとって意味があることをしなさい」ということだと私は思いました。

そこで久保田さんは継ぐ展を継続してやることに決めたのです。すると今年はより内容も充実し、規模も拡大し、関わるスタッフや関係者も増えました。

続けることで生まれる変化や深み、あるいは広がりというものがあります。その先に何があるのかまだわかりませんが“何もない”ということはないだろうと、私は思います。

「継ぐ展に行ってみる」というピースアクション!

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第三世代が考えるヒロシマ「 」継ぐ展のウェブサイト(http://tsuguten.com/)。企画展の詳細のほか、ヒロシマの記憶を継ぐ人のインタビュー記事も全文掲載。サイトからとうろう流しに参加することもできます!

継ぐ展は、もともと多くの人の心にくすぶっている平和を思う気もちに小さくとも温かく、穏やかな火を灯しました。

今までいろいろな企画をやってきて「楽しかったです」という感想はありましたが「ありがとうございます」と感謝の言葉を頂いたことはありませんでした。でも、継ぐ展ではその言葉をたくさん頂いたんです。

感謝をされるために企画をしたわけではないのですが、そんなふうに思って頂ける企画をみんなでつくっていく過程にはやりがいを感じています。関わる人たちが自発的にテーマに対して向き合い、自分の中の“継ぐ”を見つけ出していってもらいたいと思います。

ヒロシマを知ることで、あるいはヒロシマを知る人々と対話することで、いったいそこに何が見えてくるのでしょうか。見える景色は人それぞれ違うのかもしれませんが、始まりの思いはきっと同じ、平和を願う心です。

ヒロシマの歴史を継ぎ、この先も平和な世界が続いていくために、まずは「継ぐ展に行ってみる」というピースアクションを、みなさんもしてみませんか?

第三世代が考えるヒロシマ「 」継ぐ展 At みなとみらい

【開催日】
2016年8月3日(水)〜8日(月)
11時〜19時 ※最終日は17時まで

【入場料】
入場無料
※一部ワークショップやイベント除く

【企画会場】
みなとみらいギャラリー(神奈川県横浜市西区みなとみらい2-3-5)

【イベント会場】
BUKATSUDO ※8/6(土)、7(日)のみ
 〒220-8190 神奈川県横浜市西区みなとみらい 2-2-1 ランドマークプラザ B1F

みなとみらいグランドセントラルタワー MMテラス
(グランモール公園側入り口前広場)※8/6(土)、7(日)のみ
 〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい4-6-2

・とうろう流し会場 ※8/6(土)のみ
 広島灯ろう流し会場 広島平和記念公園内 原爆の子の像付近 継ぐ展ブース

【主催】
ヒロシマ「 」継ぐ展 実行委員会 http://tsuguten.com/