greenz.jpが開催しているネットワーキングパーティ「green drinks Tokyo」、4月のテーマは「これからも大事にしたいこと」。スマイルズ代表取締役社長遠山正道さん、HITSPAPER編集長の佐々木新さん、ソーシャルパトロンプラットフォームGrow!のCCOカズワタベさんをお迎えして、今だからこそ「変わらないもの」についてお話をうかがいました。当日の様子をレポートでお伝えします!
震災と「変わらないこと」
震災が起きる前から、greenz.jpで温めていたテーマが「これからのお買い物」です。価値観が変容していく中で、自分にとって大事なモノ、コト、ヒトを、大事にしながら暮らすということが一番の成功と言えるのではないか。そのときに、僕達は何を欲しいと思い、購入してゆくのか。
震災から一ヶ月という時期は、図らずも今の自分にとって必要なものとは何か、リアルに考え直した時期だと思います。だからこそ敢えて「これからも大事にしたいこと」についてみんなで話し合ってみたい、そんな思いから4月の green drinks Tokyoを開催することになりました。
今回のゲストは?
まずはゲストのプロフィールと、その取り組みをご紹介します。
遠山正道さん
Soup Stock TokyoやPASS THE BATONを手がける株式会社スマイルズの代表取締役である遠山正道さん。「美意識」や「意義」というキーワードで、共感できるビジネスを次々と仕掛けてきています。つい先日も「ガイアの夜明け」に取り上げられるなど、今最も注目されている経営者のひとりです。
佐々木新さん
クリエイティブポータルサイトHITSPAPER編集長の佐々木新さん。岩手県出身でもあります。ウェブサイトやプロダクト制作から、アーティストコーディネーションまで、アーティストと密接にさまざまなプロジェクトを手がけています。
カズワタベさん
先日greenzでも取り上げたマイクロパトロンプラットフォーム「Grow!」のCCOであるカズワタベさん。Grow!は個人が個人の活動を応援できるような場を提供するプラットフォームです。
以上の3名から、3.11以降どんなものが価値を生んでいくのか、1時間にわたりディスカッションを行いました。
「プロパー越え」を目指して
まずは遠山正道さんに、これからのビジネスはどんな価値を提供していくべきか、どんなビジョンを持つべきか、ご講演をいただきました。まずはPASS THE BATONのコンセプトの紹介から。
東と西、北と南の風土の違いは価値であり、しかし摩擦の種でもある。
国ごとの文化の違いは価値であり、しかし、戦争の種でもある。
企業ごとのプロダクトの違いは価値であり、しかし過剰な競争の種でもある。
その争いの結果、物は過剰に溢れたり、過剰に消失し、社会にも地球にも負担をかけてきた。
ならば、国や企業を越えて、個人の文化の違いに価値を見出してはどうだろうか。
それぞれ培った個人の文化をお互いに尊重しあい、交換しあう。
新しいものを創造するのもよいし、既にあるものを大事にするのもよい。
既にある誰かの技術、今の私の価値、将来の誰かにとっての大事。Pass the Personal Culture.
New Recycle.
Pass the Baton.
もの余りの時代になり、たくさんのいいものがただ捨てられているように見える。それはそれぞれ個人によって、価値を感じるポイントが微妙に違うからで、場さえあれば価値を与えることもできるのではないか。
例えば、DEAN&DELUCAのトートバッグのB品を加工したダブルネーム商品が大人気なのですが、これを遠山さんは「プロパー越え」と呼んでいます。「リサイクルショップだからこの程度でいいや」というのではなく、もとよりもよくなるにはどうすればいいのか、そのセンスをPASS THE BATONでは大切にしているんですね。
それは個人でも言えることで、一人一人ユニークなカルチャーで味付けできるからこそ、その違いが魅力となって流通や交換も成り立つはず。遠山さんはそんな新しいマーケットに挑戦しているのです。
続いて遠山さんはもう一枚スライドを紹介します。
これは遠山さんがPASS THA BATON1号店オープン直前の会議中に、なんとなくメモしたものだそう。「ひりひりする不安」という言葉がある一方で、「高い理想」という言葉が二度出てきます。この自分自身のメモを遠山さんは「自分の不安を打ち消すように高い理想を自分にインプットしている。行きたい先がぶれなければなんかいけるだろうと自分に暗示をかけているんじゃないか」と自己分析されています。
遠山さんはそんな「言葉の重要性」を強調していましたが、それはスマイルズの企業理念「5感」にも反映されています。
低投資高感度
□100人のレビューと一人芝居、どちらが好きですか。
□古着とテーラードどちらが好きですか。
誠実
□自分を必要以上に大きく見せようと思っていませんか。
□「このくらいでいいんじゃない」そんな気持ちで人に接していませんか。
□親孝行、できていますか。
作品性
□思わず小躍りしたくなるような想いがありますか。
□「最高なので、是非見て下さい」逃げ隠れせず、堂々と言える仕事をしていますか。
□ひらめきにときめていますか。
主体性
□マーケットの動向や、新聞に書いてあることだけにただ流されていませんか。
□自分のアンテナをたてていますか。
□誰にも頼まれていない仕事を、最近やりましたか。
賞賛
□心から褒めたい人がいますか。心から褒めてくれる人がいますか。
□自分のことが好きですか。
これらの言葉ひとつでハッとしたり、一気に仲間とビジョンを共有したりもできる。「言葉を大事に紡いでいくことで、一人一人のエネルギーが集中していく。それはこれからも変わらないでしょう。」と講演を締めくくりました。
価値を生み出すもの
続いて佐々木新さん。震災後にご自身が多くのアーティストと対話を重ねる中で、次の言葉にリアリティを感じるようになったようです。それが、バックミンスター・フラーのDoing more with less(より少ないことでより多くをなす)とミース・ファン・デル・ローエのLess is more(より少ないことは、より豊かなこと)。
「どんどんやることをそぎ落としていく作業がこれから始まるんじゃないか」と佐々木さんは続けましたが、クリエイティビティの方向性がより本質的なことに近づきつつあるのかもしれません。
続いて個人の「クリエイティビティ」を持続的に支える仕組みとして、ソーシャル・パトロン・サービス「Grow!」を展開しているカズワタベさんは、「感動を共有することが大事」と言います。
価値を消費者が決めることもポイントですが、その共感を「人」を通じて流通できるソーシャルメディアがこれから大きく価値観を変えていくのでしょう。
3.11で気づいたこと
ここで編集長の兼松から遠山さんに、地震後にスマイルズのウェブサイトに掲載された「ガソリンと車の話」について話していただけないかとリクエストがありました。遠山さんはこれに丁寧に答えてくださったので、少し長くなりますが、以下そのままお伝えします。
私はいつも会社を車にたとえます。車にとってのガソリンが会社にとっての利益。それは大事ですが、それだけをむさぼってもしょうがなくて、それよりもその車で「誰を乗せてどこに行って何をするか」が大事だとずっと言ってきました。
でも、3.11の後で節電などの影響で売り上げが一気に減り、このままではつぶれるというところまできたときに、ガソリンがあって初めて車を走らせることができている、つまり会社が利益をしっかり上げて社会の一員として役割を果たしているということが本当にありがたく思えた。そんな当たり前のことに感謝したい。そのようなことを書いたんです。
そうすると、毎日スープをつぐ仕事を担ってくれている現場の社員たちから「ガソリン稼ぎますね!」という嬉しいメッセージがたくさん届いた。本当にこういう人たちに会社は支えられているのだとリアルに感じたんですよ。そこは変わらないところ。
仕事ってとにかく大変なことのほうが多いですよね。それでも踏ん張るためには「意義」や「美意識」が大事です。
もともと「意義」だと「いいこと」を強調しすぎている感じがして、そこにクリエイションとか驚きといったニュアンスを加えて、「美意識」と呼んでいました。ただ3.11後には、なおさら「意義」が大事になってきたと思います。
基本的に新しいことへのチャレンジはたいていうまくいかないもの。それでも『やるべきで、やれることで、やりたいこと?』という質問にすべてYESと答えられるとしたら、やればいいと思います。うまくいかなくても赤字でも、時代が変わっていく中で後からお金はついてくるはずです。
社員やお客さん、世の中で広く意義を共有できるからこそ、新しいアクションをどんどん起こしやすくなってきている。そこが大きく変わりつつあるところですね。
変わる、あるいは原点に帰る
3.11は確実に私たちの生活に影響を与えました。これから本当に何かが変わっていこうとしている。
佐々木さんも「これまでアートがやっていたありえないような風景が、現実のものとして現れてしまった。そこでアートは見直されて、何のために社会にメッセージを与えるのかという原点に帰っていく。そういう意味でアートにとっても大きな事件だったと思います」と指摘します。
遠山さんもGrow!のコンセプトに共感しながら、PASS THE BATONがやろうとしていることをCtoCというキーワードで説明してくれました。
CtoCとは「Culture to Culture」。個人がモノを出品するときに、ただモノとして売るのではなく、その背景にあるカルチャーも交換しようということです。わかりやすい例で言えば、鍋を売るときにフードクリエーターとともにクリエイティブな鍋パーティーを開催してその映像を脇に添えたり、ギターを売るときに生演奏をつけたり、モノがもっとも魅力的に使われているイメージを想起させること。それが共感の連鎖を生み、価値感をくすぐるのでしょう。
Grow!はまさにその共感の連鎖を生み出すサービス。ワタベさんも「グリーンズで実際にGrow!の輪が広がっていくのをみて自分でも感動しました。広告ではないところでお金が動いていく。これがどんどん拡大していったら、本当に世の中が変わるかもしれないと思いました。」と一言加えてくれました。
最後に遠山さんから「こういう変化のときこそすごくチャンスなんです。」という勇気の出る言葉で締めくくりとなった震災後最初のgreen drinks Tokyo。震災やその後のさまざまなことで沈みがちなころでしたが、熱心に聞き入っていた参加者の皆さんがどんどん明るい表情になっていたのがとても印象的でした。