このTシャツには、人工呼吸の手順が描かれています。パッと見た感じではわからないのですが、“まず声をかけ、人工呼吸を2回と胸骨圧迫30回を繰り返し行う”という、東京消防庁のホームページにも載っている応急手当の基本手順が、きちんと記されているのです。何かのキャンペーンTシャツでしょうか?
このTシャツを手がけたのは、日常の中に防災に役立つヒントを溶け込ませてしまおうという「NOTFALL」プロジェクト。
普段のライフスタイルや好みで選ぶようなアイテムが、いざというときの助けや助かるヒントにならないのだろうか?
と、日常からの視点で防災に関するオリジナルプロダクトの開発やデザインリサーチなどを行う彼ら。このTシャツは、プロジェクトにとって初のオリジナル商品です。Tシャツは他にも、「もやい結び」「1日に必要な水の量」「防災グッズリスト」など、知っているようで知らない、いざと言う時に役立つ情報がデザインされたものが揃っています。
現在はBEAMS Tなどの店舗で販売中。春と秋にも新作Tシャツを発表し、今後はTシャツ以外の商品も手がけていく予定なのだとか。
「人工呼吸や心臓マッサージといった緊急時の対策はイマイチ自信がないし、防災グッズはなかなか買おうというモチベーションがない」と言う方も多いのではないでしょうか。そんな防災に対する意識の低さをデザインのチカラを借りて解決しようというのが、「NOTFALL」の考え方。
説教がましくなく、まずは「欲しい」と言ってもらえるような格好いいものをつくりたいと思ってます。
と話すのは、立ち上げメンバーの永田宙郷さん。実は永田さんご自身も、防災グッズを購入したはいいものの、押し入れにしまってしまった経験の持ち主。「普段の住空間に置くには違和感を覚えた」と言います。これをきっかけに「無理しないサバイバルってなんだろう?」と考え始め、仲間とこのプロジェクトを始めたそうです。今後についても聞いてみました。
いざという時に、誰かがNOTFALLのアイテムを通じて知ったsurviveのヒントを元に、助かることがあったらいいなと思います。でも、そういう時は来て欲しくないのが本音です。多くの人が普段から、家族とか友人とか、自分自身も含め大切な人に、いざというときに何ができるかを考えて、そのノウハウを平時から学びやすい社会になって欲しいです。
例えば先ほどのTシャツは、「これを着ていれば備えはOK」と言うものではありません。いざと言う時にTシャツを着ていることなんて、滅多に無いでしょう。でも、このTシャツを目にした人に、日常の中で防災を意識するきっかけを与えることは、できるかもしれません。デザインされている内容を解読しようと、防災の話題が生まれるきっかけになるかもしれません。
AED(心臓救命装置)の操作に自信がない人は71.5%(2009年:株式会社アイシェア調べ)、NTT災害伝言ダイヤル(171)の認知度は43.96%(2008年:世論調査.net調べ)というデータが示しているように、メモだけで済む情報でさえ、私たちは日頃から防災に対してあまりにも無関心です。
プロジェクト名は、ドイツ語で「緊急事態」という意味。同時に、「落ちては駄目だよ」というメッセージも込められています。デザインのチカラで、防災意識を潜在的に変えていくことができるでしょうか? 社会的価値を生み出し、人々の意識を変えるデザインへの挑戦。応援したいですね。
プロジェクトの詳細は公式ホームページでチェック!