「秘湯」と聞くとどんなイメージを思い浮かべるでしょう?日本には「湯治」という言葉があるほど、古くから人は心身を癒すために温泉の恩恵を受けてきました。「古事記」にも入湯記録があり、温泉の歴史は石器時代にさかのぼるのだとか。地球から湧き出る温かい水は自然の恵みそのもの。けれど、山奥にある秘湯ほどその維持は困難です。温泉宿が集まって、限りある資源を維持していこうとする会があります。
日本秘湯を守る会とは?
温泉宿を訪れた際に「日本秘湯を守る会」という縦書きの提灯を目にしたことはないでしょうか? これは、山奥の小さな宿が秘湯を守るために集ってできた団体です。1975年(昭和50年)に33軒で発足してからこれまで、温泉を取り巻く環境を守る活動を行ってきました。宿を紹介するガイドブックの発行や、自然環境の保全、共同での宣伝活動、研修の実施など、経営者同士で問題を話し合う場として役割を果たしてきました。
かつて日本が、追い付け追い越せと突き進んできた高度経済成長期。皆が古臭いものから新しいものへと移行していった時代、旅行も例外ではありませんでした。大阪万博をきっかけに派手な旅行ブームが起こり、民宿や旅館はこぞって鉄筋コンクリート化して、ホテルと名を変えていきます。業界が急変する中、旅行会社の一経営者でありながら、疑問を感じていた人がいました。朝日旅行の前身である朝日旅行会の創業者、岩木一二三氏です。
今の旅は旅の本質を見失っている。いつの日か、山の小さな温泉宿に心の故郷、人間性の回復を求めて本当の旅人が戻ってくる。旅らしい旅が求められる時代が来る。
そう信じて、山奥の小さな温泉宿に呼びかけ「日本秘湯を守る会」を設立しました。岩木さん自身、35年にわたって朝日旅行新聞の一面記事の執筆取材を行い、全国の秘湯を紹介し続けたと言います。
今や全国で参加している宿は193軒になり、全国4~5ブロックに分かれて、各支部毎に活動を行っています。
どんな活動を行っているのか?
会の具体的な活動について、ある入会宿のオーナーにお伺いしました。
若女将のための研修会や、山歩き研修など、温泉の仕事を続けていくための研修や講習が頻繁に行われます。入会宿の中には、何年も先まで予約でいっぱいの人気宿もあるので、皆で視察に出かけてどういった取り組みをしているかなどを参考にさせてもらい、取り入れられそうなことは自分の宿にも反映させる。そんな風に皆で知恵を分かちあってやっていこうという活動もあれば、具体的な相互誘客のためのキャンペーンも行われています。
秘湯歩きを楽しみにしている方々に、もっと気軽に色々な湯を巡ってほしいと考えられたスタンプでの取り組みは、「秘湯を守る会」の宿へ宿泊してスタンプが10個集まると、泊まった宿の一つに1泊無料で招待されるというもの*。
その他、期間限定のキャンペーンなど、さまざまな取組みが行われています。現在は、2010年11月22日から2011年4月27日までの間、平日秘湯の宿に1泊2食付で9,500円(税込10,125円)で泊まれるキャンペーンを行っています。
*満室などの理由や、利用できない期間もあります。
秘湯を守ることは、日本の原風景を守ること
最近では「建物が立派すぎる」「道路からすぐの便利な場所で秘湯ではない」といったクレームを寄せられることもあるのだとか。秘湯の捉え方はそれぞれなので難しい問題ですが、会がもっとも大切にしたいのは、「湯宿を守ろうと日々精魂こめる無名の戦士」。
彼らがいなくなってしまったら、やがて宿も秘湯も消えてなくなる、と言います。
いっそのこと山を降りてどこかで観光旅館でもと考えたこともしばしばでした。…〝残してくれ〟〝古くさい建て直せ〟そんなお客さまの声を自問自答しながら生きて参りました。…古いものや自然環境を残そうと、今日まで言うに言えない苦労も致しました。おかげさまで、昨今はそれだから来たんだよとおっしゃるお客さまが多くなり、古さを守るという生きがいすら覚えるようになりました。
秘湯を守る会のサイトに記されている言葉です。
人の手垢のついていない自然の中でゆっくりとお湯に浸かりたいと願う気持ちは、誰しももっているもの。奥まった場所であるほど維持するのが大変なことや、保ってきた人々の苦労に思いを馳せることが、せめても私たちにできることかもしれません。
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