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今最も勢いのある社会的企業家が大集合!ソーシャル・アントレプレナー・ギャザリングレポート(2日目)

KIVAのMatt氏

KIVAのMatt氏

前回に引き続き、注目の「第5回ソーシャル・アントレプレナー・ギャザリング“社会に変革と感動を!~ソーシャルビジネスが拓く可能性~”」の2日目をレポートしていく。

9月4日の2日目は「ソーシャル・アントレプレナーDAY」とし、現在活躍している社会的企業家達をゲストにした講演会・分科会を行った。一番の目玉は、マイクロファイナンシングオンラインシステム「KIVA」を世界で初めて実現したアントレプレナーMatt Flannery氏の特別講演だ。貴重な来日講演に、多くの人々が足を運んだ。

<Matt Flannery氏(KIVA設立者兼代表)の特別講演>

●テーマ
「“Person to Person”(個人の力を活かす)新たな社会的金融の仕組み~たくさんの「25ドル」を集めて途上国の貧困に挑むKIVAの取り組み~」

世界中からの個人融資者の参画を得ているKIVAの仕組みを紹介しつつ、今後の可能性について語ってくれた。

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左から、谷本寛治氏(SIJ代表理事/一橋大学大学院商学研究科教授)、Matt Flannery氏(KIVA設立者兼代表)

KIVAとは?
KIVAは、“Person to Person”(個人の力を活かす)マイクロファイナンシングのオンラインシステムを世界で初めて実現したNPOである。個人が1口25アメリカドル(約2,900円)からの小口金額を、貧困状態に置かれているアントレプレナーにオンライン操作で貸し付けすることで、貧困から脱却するためのビジネスを応援する仕組みとなっている。この貧困削減のための融資を通して、人々をつなげることがミッションである。

やや緊張した面持ちで壇上へ上がったMatt氏は、まず彼がKIVAを始めたきっかけや、これまでの道筋をゆっくりと語り始めた。( Matt氏の詳しいインタビューはこちらから)話の中で、「ソーシャル・アントレプレナーは、たった一人のサクセスストーリーではない。創立者個人ではなく、そのビジネスアイディアこそが命」と語った。KIVAは、分かりやすくスピーディーなビジネスを成立させたところが成功のポイントだったといえるだろう。

また、その後行われた参加者とのトークセッションで今まで一番困難だった事は?という質問が投げかけられると、「お金をだまし取る業者への対応だった」という回答が返ってきた。それにはこんな理由があったそうだ。

まだKIVAを創立して間もない20代半ば、彼はオンラインシステムを使って約60団体とパートナーシップを結んだという。しかしその1割が悪徳業者であり、お金をだまし取られてしまった。「その時は、心が本当に痛んだ。KIVAをやめようかとも思った」と言う彼。しかし、これが事態を思いがけない方向へと導いた。当時彼は「全てを参加者に公開する」という信念のもと、被害状況をそのままKIVAのページに公開し続けた。「参加者が離れていくのでは…」という彼の思いに反し、参加者は彼らが正直に公開した事を受け入れ、かえって参加者との「絆」を深める大きなキッカケになったと言うのだ。「ここでは、透明性を保つ事、問題性をシェアするという事の大切さを学んだ」と、彼は語る。KIVAは、この「人々を活動の中心に巻き込んでいく力」が最大のエネルギー源となり、世界中で成長したのではないだろうか。

「日本人は、社会的事業に対する興味や関心がとても高いと思う。もっと日本からソーシャルビジネスを発信していって欲しい」と笑顔で語ったMatt氏。その晴れやかな表情から、日本に対する大きな期待が感じられた。これからも彼とKIVAの活躍に注目していきたい。

<分科会>

今回greenz.jpは、NPO法人ETIC.が育成・支援してきた若き社旗起業家達が集う「分科会5」に参加。高い志を胸に活動する、彼らの熱い想いをレポートしていこう。
●テーマ
「いま日本全国で活躍する、気鋭のソーシャル・アントレプレナー達が語る!~「社会を変える仕事」挑戦の軌跡と未来への課題~」

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左から、秋元祥治氏(NPO法人G-net代表理事)、村田早耶香氏(NPO法人かものはしプロジェクト共同代表)、塚田寛一氏(株式会社ヨセミテ代表取締役)、牧大介氏(株式会社トビムシ取締役)

パネリストは、
・ 秋元祥治氏(地方でのインターンシップを支援するNPO法人G-net 代表理事)
・ 村田早耶香氏(発展途上国の児童売春問題に取り組むNPO法人かものはしプロジェクト共同代表)
・ 塚田寛一氏(インターネットで社会問題に働きかける、株式会社ヨセミテ代表取締役)
・ 牧大介氏(林業で持続可能な地域再生の実現を目指す、株式会社トビムシ取締役)

ファシリテーターは、未来の社会を創る起業家・経営者・リーダーの育成に携わるNPO法人ETIC.代表理事の宮城治男氏だ。

パネリストはみな、このNPO法人ETIC.の出身。同じ志を持ち、お互い切磋琢磨しながら成長してきたのだろう。彼らには共通するところがいくつもあった。熱い想いを持ち、想いを実現する行動力があること、そして自分たちの信念を信じられるという点だ。彼らの活動の源となる「社会を変えていきたい」というひたむきな姿勢は、心を打つものがあった。

後半の参加者からの質疑応答の時問には、ビジネスモデルと資金問題に質問が集中した。これに対し、村田氏は「同時に行っているIT事業と寄付とで資金をまかなっている」と述べた上で、「事業は成長しているが、まだ改善点はいくつかある。仕組みを強化して、一人でも多くの子供達を救いたい」と意気込んだ。受け入れ企業からの会費や大学へのプログラム費などから資金を得ているという秋元氏は、「ETIC.では事業作りを学んだ。自立のためのお金の作り方を学べた事が、事業を持続させていく大きな力になった」と述べた。持続可能なビジネスモデルを作り上げる事は決して容易な事ではないだろう。ただ、彼らの持つ「ソーシャル・アントレプレナーシップ」を持ってすれば、必ずこの課題を乗り越えていけると期待せずにはいられない。想いをカタチにする若き社会的企業家達、これからの活躍が楽しみだ。

その他の分科会はこちら

●分科会6

「ソーシャルビジネス事業者、行政、農業者、市民の有機的な連携による地域活性化~滋賀県野洲市における展開~」

ソーシャルビジネス事業者×行政×農業者×市民という多様なプレーヤーによる、地域におけるソーシャルビジネス促進のヒントが満載。

パネリスト:
・遠藤由隆氏(滋賀県野洲市役所 協働推進課 課長補佐)
・立入誠悟氏(有限会社たちいり新聞販売店店長)
・辻村美喜子氏(すまいる市野洲駅前店責任者)
・南次雄氏(南農園経営)
コーディネーター:大室悦賀氏(SIJ常務理事/京都産業大学経営学部准教授)

●分科会7

「企業は生物多様性にどう関わるのか~生物多様性貢献を本業業務に位置付ける~」

来年行われる生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)に向けて、どう生物多様性貢献とどうか変わっていくか、企業・社会的企業とともにケーススタディ等の話も聞くことができた。

パネリスト:
・宮本育昌氏(富士ゼロックス株式会社CSR部企画グループ)
・中島恵理氏(環境省総合環境政策局環境教育推進室&民間活動支援室室長補佐)
コーディネーター:中川芳江氏(SIJ理事/株式会社ネイチャースケープ専務取締役)

●分科会8

「集まれ!農業ビジネスに挑戦したい人!」

農業ビジネスに挑戦したい人に向けて、農業界における革新的な取り組みを紹介。実際に活躍している農業アントレプレナーたちのそれぞれの農業ビジネスモデルなどの話を伺うことができた。

パネリスト:
・木村修氏(農事組合法人伊賀の里モクモク手づくりファーム社長理事)
・宮治勇輔氏(NPO法人農家のこせがれネットワーク代表理事CEO/株式会社みやじ豚代表取締役社長)
・吉田和生氏(NGO大地を守る会理事)
コーディネーター:福本眞也氏(株式会社ベネッセコーポレーション 事業創成推進室 インキュベーションマネージャー)

●分科会9

「ソーシャルビジネス実践者向けスクール」

実際の事例を題材にしたケース・ディスカッションを通じて、事業の立ち上げや継続に必要な経営の総合的視点と気づきをもたらす実践型スクール。

テーマ:「ミッションベースのイノベーション戦略」
使用ケース:慶應ビジネススクール公式ケース「NPO法人フローレンス

講師:国保祥子氏(SIJフェロー/慶應ビジネススクール博士課程・特別研究助教)
コーディネーター:坂本文武氏(SIJ理事、ウィタンアソシエイツ株式会社 取締役 シニアコンサルタント)
コメンテーター:
小出浩平氏(SIJシニアフェロー/NPOサスティナブルコミュニティ研究所理事)
森本登志男氏(SIJアドバイザー/マイクロソフト株式会社 公共営業本部 自治体営業部 シニアマネージャー)

この2日間を通して、講演や分科会の最中に大きくうなずく参加者達の姿が印象的だった。信念を貫く社会的企業家達の情熱的な姿勢に、感銘を受けた人は少なくないはずだ。今回刺激を受けた社会的企業家の卵達がこれからどう活躍していくのか。来年のギャザリングが楽しみになるような、パワー溢れた2日間であった。

次回は、同時開催された「ソーシャル・ビジネス・アワード2009」の授賞式の模様をお伝えする。

「ソーシャル・アントレプレナー・ギャザリング」一日目のレポートはこちらから。
1日目:https://greenz.jp/2009/10/15/socialentrepreneurgathering_01/

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