米ニューヨーク・ブルックリンのある路地に、ナゾの”ラクガキ”が突如出現。ハンガリー生まれの新進アーティストEdina Tokodiの「Mosstika」プロジェクトの仕業だ。さて、この”ラクガキ”の正体はいかに?
このラクガキは、なんと苔でできている。以下の2枚の画像からもわかるとおり、「Mosstika」の作品は、生きた苔を使い、動植物の活き活きとした様をモチーフとして、エコフレンドリーな世界をあらわしているのが特徴だ。とはいえ、実はこのプロジェクトはゲリラ的な活動で、これらの作品も合法ではない。本来であれば簡単に引っ剥がされるおそれもあるはずなのに、不思議とそのまま残っているのだとか。それだけ、自然や緑に飢えた都会の人々の心に届き、親しまれている証なのかもしれない。
moss stencil Dumbo: Creative Commons. Some Rights Reserved. Photo by tedina
moss Polar Bear: Creative Commons. Some Rights Reserved. Photo by tedina
このプロジェクトを主宰するEdina Tokodiはハンガリーの中部Kecskemetの出身だ。「Hungarian Academy of Fine Arts」でグラフィックアートとデザインを学び、2005年に渡米して以降は、ニューヨークを拠点に活動している。James TurrellやAndy Goldsworthyなどの環境アーティストから影響を受けた彼女だが、実は、「Mosstika」プロジェクトの直接のヒントは日本から得たという。Edinaは、日本の禅寺を訪れた際、苔庭の美しさに感銘を受け、苔を使ったストリートアートを思いついたのだ。
「Mosstika」はゲリラ的なストリートアートを展開するほか、企業などとのコラボレーションも行っている。2008年3月には米ペンシルバニアのバス公共機関「SEPTA(Southeastern Pennsylvania Transportation Authority)」による公共交通機関の利用推進キャンペーン「Go Green」で「Mosstika」がロゴデザインや装飾を担当。以下の2枚の画像のとおり、苔でバスをモチーフにしたロゴを創り、インフォメーションセンターやチケット売り場を苔でデコレーションした。SEPTAによると、バス利用者からの評判は上々だったという。
Green Icon for SEPTA: Creative Commons. Some Rights Reserved. Photo by tedina
moss decoration for Passenger Services: Creative Commons. Some Rights Reserved. Photo by tedina
人々が環境や自然に関心を持たなくなってしまうことが心配です。こういう無関心こそが、近い将来、環境に取り返しのつかない害を引き起こしてしまうのではないか、と。
Edinaがこう語っているとおり、特に、都会で暮らす人々は、日常生活の中で、自然や動植物とのつながりを直接感じる機会が少ない。彼女は日常で不足しがちな環境への意識を呼び覚ますしかけとして、グリーンなアート作品を作り、多くの人々の目に触れさせることが、アーティストの責務のひとつだと考え、「Mosstika」に取り組んでいる。
一部の環境活動家からは「Mosstika」のような作品が本当に環境に優しいといえるのか疑問だとの指摘もある。確かに「Mosstika」の作品では、苔を固定させるために、テープやのり、ホチキスを使うこともある。また、生きた苔を使用しているため、作品は数日しかもたないという欠点もある。とはいえ、環境の大切さを思い出すきっかけを与えることは、環境と共存する世界に向けて、小さいが着実な一歩になりうる。「Mosstika」による気づきのアートは、普段刺激されないがゆえに眠ってしまっている環境への慈しみの気持ちや環境を守ろうという意識を呼び覚ますためのユニークな活動といえるだろう。
オンライン美術館「Environmental Art Museum」で環境アートに触れよう。
別名「苔寺」と呼ばれる京都の「西芳寺」に行ってみよう。