「ゆりかごから墓場まで(Cradle-to-Grave)」とはイギリスの社会福祉政策だが、今は「ゆりかごからゆりかごまで(Cradle-to-Cradle)」が主流の時代になりつつある。
これは福祉の世界の話ではなくて、プロダクト・デザインの話。デザインは、今や見た目や使い勝手だけに関わるのではなく、プロダクトを構成する部材の安全性や、ライフサイクル全体にも関わるようになってきた。「Cradle-to-Cradle」とは、ライフサイクルアセスメント(LCA)の考え方に則ったプロダクト・デザインのあり方、と言ってもいいかもしれない。
「Cradle-to-Cradle」という設計思想を提唱しているのは、ウィリアム・マクダナー氏(米国・建築家、工業デザイナー)とマイケル・ブラウンガート氏(独・化学者)の二人。単に思想を唱えるだけではなく、MBDC(McDonough Braungart Design Chemistry)という会社を設立し、「Cradle-to-Cradle」の規約を定め、認証サービスを提供している。
プロダクトにとっての墓場が廃棄所だとすると、役割を終えたものを墓場に運ぶことなく、再び製造現場(ゆりかご)に戻していくことを可能にするのが、「Cradle-to-Cradle」が目指しているところ。徹底したリサイクル・リユースの思想に加えて、そのプロセスの中で人体や環境に有害な物質を出さない、ということも重要な基準になっている。
「Cradle-to-Cradle」の設計思想から連想するのは循環都市・江戸の姿だ。衣服や紙は徹底的に再利用されたし、再利用できないほどボロボロになると焼かれて灰となったが、そうした灰も肥料や染料の補助剤として取り引きされた。糞尿は当時世界最大の百万都市・江戸を養う食料の肥料として重宝され、下肥問屋という商売が成り立っていた。
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当時は大量の物資を長距離輸送する手段が限られていて、都市近郊にあるもので生活と社会をどう成り立たせるかが重要だったために、これほどまでに再利用の発想が芽生えたのだろう。また、もう少し大きく見れば、鎖国の下、日本の内部にある限られた資源をどう循環させていくか、という意識も働いていたに違いない。
そして、忘れてはならないのは、地球も一つの閉鎖系、ということだ。「Cradle-to-Cradle」の設計思想や、江戸時代の人々の考え方が、今世界を取り巻く環境問題を解決する糸口になるに違いない。
循環都市・江戸について学ぶ(その1)
循環都市・江戸について学ぶ(その2)
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