昨年は、greenzとの初コラボ企画、ぐるぐるアースブログや、greenz.jp編集長鈴木菜央が水先案内人として乗船したりと、greenzも応援しているピースボート。自ら出会い体験することこそ「一番の学び」であり、それが相互理解と平和につながるという思いから、1983年より船旅を続けている国際交流NGOだ。そのピースボートが、4月8日出港予定の第66回クルーズより、(たぶん)世界初! 海の上の保育園、名づけて「ピースボート子どもの家」をはじめるという。
ということで、「ピースボート子どもの家」の詳細を聞きに、久我山子どもの家を訪れた。
久我山子どもの家は、すべてが「ホンモノ」で子どもサイズ!
杉並区久我山の住宅街にひっそりと建つ一軒のマンション。その半地下に、久我山子どもの家はある。ここは、有害物質を一切使わないエコマンションで、床はコルク、壁は貝殻を素材に使い、水道管にも塩化ビニールは一切使っていない。構造も、接着剤ではなく木組みやビス留めで作られている。高尾の自然の中でモンテッソーリ教育に携わって20年のベテラン、上谷君枝さんが2007年10月に開いたものだ。
(c) 久我山子どもの家
まず室内に入ると、目に入ってくるのは、子どもサイズの「ホンモノ」の家具やおもちゃ。「大人の目線や大人のことば」で教え込むのではなく、子どもたちが「自分のカラダと感覚」を使って物事を理解できるようにと、子どもの手のひらサイズにあわせた「ホンモノ」の道具が部屋に用意されている。たとえば落としたら割れるホンモノの陶器をどうやったら危なくないように使えるのか、こども一人ひとりに寄り添って見ているのが、先生の仕事。つまり、先生はあくまでも黒子の存在。掃除をするのも、窓を拭くのも、汚れた服を洗濯板で洗うのも、みんな子どもたちの仕事だ。「せんせいは、わたしがひとりでできるのをてつだってね」 ということになる。
自分で考えながら、自分で遊びをつくる、という子どもたちの好奇心と行動力はどんどん開花して、卒園する頃にはみんなスーパークリエイティブになっているのだという。ちなみに、その教育を受けて育った有名人をあげると、「アンネの日記」の著者アンネ・フランク、google創設者サーゲイ・ブリンとラリー・ページ、Wikipedia創設者ジミー・ウェールズ、Amazon.com創設者ジェフ・ベゾス、次世代を担うカナダの環境リーダー、セヴァン・スズキ・・・(残念ながら日本人はいないみたい!)など、ジャンルはさまざまだが、独創的なアイディアと好奇心をもって、新しい分野で活躍している人が多い。ドイツのシュタイナー教育とならんで、世界中で支持、実践されている自由教育がモンテッソーリ教育だ。
ところで、モンテッソーリ教育ってなに?
大人の仕事は、子どもの大人の望むかたちに教育することではない。子育てではなく、子育ちを援助する、そんな風に考えたい - マリア・モンテッソーリ
モンテッソーリ教育とは20世紀始めにイタリア初の女性医学博士マリア・モンテッソーリが(1870年~1952年)子どもを観察することから発見した教育法で、「生命が育つための援助」と呼ばれている。1907年、ローマの貧困層の子ども達を対象とした保育施設「子どもの家(Casa dei bambini)」を設立し、心理学、教育学、脳生理学などに基づいて独特な教育法を完成させた。モンテッソーリでは、大人の仕事は、子どもに何かを「教えること」ではなく、子どものうまれもった天賦の好奇心と才能を信じて、それを「受け入れ、伸ばすこと」だ。一人の先生が多数の子どもにむかって教える一斉教育ではなく、大人が子どもを知り、発達段階に応じた適切で「自由な環境」を整えてあげる。そうすると、子どもは内なる欲求にしたがって活動を自発的に選び、自分のリズムで納得行くまで繰り返し活動し、自ら成長していくのだという。イタリアのスラムで始まった小さな試みとその理念は、瞬く間に欧米を中心に世界各国に広がり、誕生から100年を越えた今でも「平和につながる教育」として世界中の親と教育者そして子どもたちに支持されている。
平和をつくるのは、子どもから
久我山子どもの家を訪れた日は、会場にお子さん連れのお母さんが数十人。子どもたちが「自分サイズ」のおもちゃとマイペースに夢中で遊ぶなか、トークが開催された。この日のスピーカーは、深津高子さん。国際モンテッソーリ協会元理事であり、東京国分寺にあるカフェスローの代表、吉岡淳さんのパートナーでもある。高子さんはカンボジアからの難民支援に、タイ国境のキャンプで携わり「どうやったら平和な世界をつくることができるのか」を模索していた最中に難民キャンプでモンテッソーリ教育に出会い、「平和は子どもからはじまる」という言葉に出会い、幼児教育を一生のキャリアに選んだ。子どもの気持ちや情緒が作られる6歳までの時期がどれだけ大切なのかを感じて、16年間保育の現場に携わり、今は全国の幼稚園・保育園で講演会や環境作りのアドバイスを行っている。
ピースボートの小野寺愛さん(左)、国際モンテッソーリ協会元理事の深津高子さん(右)
平和な世界を創るうえで必要なこと。「子どもの原体験が平和な世界を創る」というモンテッソーリの考えと、「体験こそが一番の学びであり、人と人が直接つながることがお互いへの理解と平和につながる」というピースボートの想いは、一緒のようだ。次回は、トークの内容から、モンテッソーリと「ピースボート子どもの家」との関係について探ってみる。