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第3回「銀座吉水」いい家つくろう勉強会

自然のポテンシャルを利用した、化石燃料に頼らない快適な住まいづくり
「いい家つくろう勉強会」第3回は環境と建築、特に住環境のコントロールにおけるパッシブとアクティブをテーマに8月26日開催された。講師は「銀座吉水」女将、中川誼美さんと一級建築士事務所ビオフォルム環境デザイン室、山田貴宏さん。
参加者に熱く語りかける女将の中川さん

「吉水」に見る、都会で過ごす豊かな時間

接着剤を使わない珪藻土の壁、再生力の強い竹を薬害のない接着剤で加工した床、無農薬の綿で作られた寝具類と、化学物質過敏症の人でも安心して過ごせるような空間が生み出されている「銀座吉水」。女将さんのお話は食や住環境だけでなく、生活全域に及んだ。

「吉水で使っているのは、どういう方がどういうものを作っているのか分かった上で取引しているお肉、お野菜、お魚です。届いた物を見て料理を考えていますので、毎日メニューはございません。普通の家庭と同じように、ある材料で料理を考えていますので、私どものスタッフは大変です。世の中のレストランでは作り置きの物が多くなっているようです。そうなると食べ物を提供しているのか、商品を提供しているのか分かりません」

吉水のキッチンスタッフ

「私は世の中からコンビニやファミリーレストランがなくなることを目指しております。コンビニの食事には添加物がたくさん入っています。便利であることはリスクを背負っていることを覚えておいて欲しいですね。食べるものがなければ食べなくていいと思います。吉水はこだわったのではなくちょっと前の日本に戻したいのです。ひじきが炊けていたり、きんぴらごぼうがあったり煮豆が食卓にあるという昔の家庭風景を取り戻したいんです。家族が食卓に揃って食事するということが凄く少なくなったし、地域の長老の話を聞く楽しみもなくなりました」

家づくりは、家を建てる前に、どういう暮らしをしたいかという信念を持つことが成功の秘訣。文化も環境も全部を含めて、豊かな暮らしを実現していくことを忘れないで進めていきたいと語る中川さん。

健康とよい環境は努力して手に入れるもの。前2回同様、自己責任として日々の努力を続けていって欲しいという一貫した姿勢が、この日の言葉からも伝わってきた。

厳選された素材で作られた吉水の昼食
昼食も和気あいあい。3つの部屋に分かれていただいた

昼食は3分づき米とお味噌汁、魚と野菜のおかず4品。新鮮な素材で作られたおいしいお料理を堪能した後は、客室、お風呂などお宿の中を見学。参加者は、木や壁の質感と体をリラックスさせる空気を肌で感じたようだった。

無農薬のコットンを使った寝具類
客室の壁には珪藻土を使用
午後の講師、山田貴宏さん

午後は、株式会社ベルエールの納口俊通さんから環境を配慮した事業が報告された後、一級建築士事務所ビオフォルム環境デザイン室、山田貴宏さんの講義と続いた。今回は「環境と建築」特に住環境のコントロールにおけるパッシブとアクティブをテーマに、日本や世界各地の住宅やエコビレッジの写真などを交えながら、自然に則した快適な住まいについて話が進められた。

「環境と建築」
 
過去の暮らしから学ぶ住まいの知恵

現在の東京には、アスファルトとコンクリートで囲まれた、強制的な換気が必要な建物が建ち並ぶ。停電時には窓も開かないしファンも回らない。電気が止まった室内は40度50度にもなるだろう。それに対して昔の民家はどうだろうか。

「農家を例に挙げると、屋根はわらぶき、又はかやぶき。軒(のき)の出が長く、雨や日差しが室内に入らない構造です。仕切ってあるものも全て建具(ふすま、障子)なので、開け放つと通風がよく、土壁でできていて蓄熱性も高いので、中に入るとひんやりします。天然素材でできているので健康にもいいですね。ただ冬は寒いです。だけども現代の視点と技術を加えていけば十分快適な木の家、自然素材の家はできるんですね。それを目指したいと思います。町屋にもうまく環境に合うスタイルがあったようです。昔の税金は道路に面した面積で決まっていたので、間口が狭く、奥が深いですね。入り口から通り庭があり、坪庭やお蔵があったりして、座敷、店などが広がっています。通り庭と坪庭、気温の低い土間を風が行ったり来たりするので、クーラーなしで室内環境を快適にできる仕組みだったようです」

パッシブコントロールとアクティブコントロール

今日のキーワードのひとつ、パッシブとアクティブ。パッシブというのは受動的なとか受け身であることでアクティブの反意語。化石エネルギーに依存した動力を利用して室内環境をコントロールしているアクティブシステムに対し、パッシブシステムは、過去の建築を見直し、建築の仕組みと形によって室内環境を良好に保つ方法を学んでいこうというもの。1975年のオイルショックがきっかけとなり、動力を使って何かするのではなく、自然の恵みをもっと受動的に受け取ろうという動きが生まれた。それを実現するには自然のポテンシャルをうまく読み込んでいくことが大事になる。

快適さの質

暑くなると空気を冷やせばいいと考えがち。しかし我々が快適と感じるのには様々な要素が組み合わさっている。空気温度、放射温度、気流、湿度、着衣量、代謝量の6つの観点から話が進められた。

「我々が感じる快適さは必ずしも気温だけではないですね。全ての物体はその温度に見合った熱線を放射しています。太陽が宇宙空間で燃えていて、その出しているエネルギーが放射となって地球に届き、私たちは熱を感じます。そして気流。風が多いと涼しく感じます。1秒間に1メートルくらい空気が動いていると、体感温度として1度くらい涼しく感じます。湿度が高いと暑いですね。気温を下げなくても湿度を下げると涼しく感じます。たくさん着ていると当然暑く感じますし、動いて代謝が増えると暑く感じますよね。現在の空調温度は空気温度をコントロールすることだけをしているんですが、6つを組み合せれば、必ずしも空気温度を調整しなくてもよくなります」

そして人が熱を感じるには3つのパターンがある。

「熱の伝わり方に3つあるんですね。対流、伝道、放射あるいは輻射といいます。人間が感じる温度は輻射温度(物質が放射する温度)と気温の平均値。ですから室内を構成する表面温度を変えることで我々は快適性を実現できます。そのいい例が床暖房です。床の温度が30度くらいあれば気温が18度くらいでも快適に過ごせます」

具体的にパッシブコントロールをしていくためのポイントは3つ。熱と日射、気流、湿気。これらをコントロールすることで体感温度を変えていくことができる。夏と冬それぞれの季節に合わせた快適な住環境をつくる工夫が紹介された。

夏の工夫

「夏場太陽から一番熱を受けるのは東と西なので建物は東西に長い配置が有効です。日射を入れないために、庇(ひさし)をしっかり取ったり、南にぶどう棚や木を植えると有効です。輻射の対策としては、建物の南側に温度が上がらないようなものを置く、植物を植えるなど。打ち水や植物の周りは温度が低いことを利用するのも効果があります。窓の位置を風の通る位置に設定し、すだれやよしずで日差しを遮り、風を通すと涼しくなります。珪藻土や土壁など、調湿効果のある自然素材を利用するのも効果的です。昔の土壁は厚さが5〜6センチあるので効果絶大。無垢の柱が室内に見えている真壁づくりも調湿効果を高くします。柱一本で1.5リットルくらいの水を吸ったり吐いたりしています。午前中くらいまでは夜の畜冷が残っているので、午前中くらいは自然を活かした構造で、クーラーなしで快適に過ごせる構造が可能です」

冬の工夫

「熱をできるだけ逃がさず積極的に入れてあげることが冬場のパッシブの基本。木で防風する。窓や屋根を断熱して熱が逃げるのを防ぐ。以前は屋根は茅葺などで断熱されていましたが、壁は断熱材がなかったので、現代の断熱技術を足すことが必要になります。冬に葉を落とす落葉樹を風除けに使うと日射をさえぎらず、中まで日差しが入ります。温室を設けたり、日のあたる所に畜熱材を置いたり、ストーブや床暖房の使用、熱を蓄えるコンクリート、れんが、水などの利用で、体にいい輻射による暖房を得ることができます」

快適な環境をつくる微気候とハイブリッドシステム

また家の周りの環境を整え、必要に応じて動力を加えることで、さらに快適な環境を作ることができる。植物などで建物の周りの環境をデザインしていくことで、室内環境を快適に維持していくことが可能になるのだ。

「建材に古くから使われてきた土壁、珪藻土、わら、木材、などは室内環境をコントロールするいい材料になりますが、建物だけでは自然の持っているポテンシャルを十分に活かすことができない時、ちょっとしたパワーを加えて自然の持っているポテンシャルを十分に取り入れてあげようというのがハイブリッドシステムです。太陽熱集熱機だとか温水器、あるいはファンを少し動かして屋根部に溜まった暖かい空気を下に取り込んであげるとか、風車をかませて水の循環や空気の循環に使うとか、そういった工夫ができるわけですね」

放射温度計で鉄板、タイル、木材の表面温度をチェックすると、木材、タイル、鉄板の表面温度はほぼ同じ。温度が違うように感じるのは伝導率が違うからだ。ひんやりと感じる鉄板は熱伝導率が高く、木は伝道率が低いので、夏より冬に温かな心地よさを感じやすい。

放射温度計で表面温度を測定

また輻射も大切な要素になる。表面温度の高い低いで体感温度は変わってくるからだ。吉水の周りを測ってみると、気温は27度。道路のアスファルトは約31度と、レンガ歩道約28度、隣のビルの前打ち水していた約26度、吉水外壁約29度。植え込みの竹の根元は約26度。植物は葉っぱで蒸散作用をしているので、気温が低くなる。緑の作る微気象を積極的に活用していきたいところだ。

そして家のあり方と地域のつながりについても解説が加えられた。

家の緑がまちの環境をつくる 

「町ぐるみで緑がつながる空間づくりができると町全体が自然のポテンシャルを有効に活かすことができます。足立区では地域の空き地を利用したコミュニティーガーデンをやっていますが、そうすることでまち全体の環境ポテンシャルがあがっていきます。荒地でフェンスに囲まれていると行政が管理するだけ。それを畑にすることによって住民達が自主的に運営する、そしてコミュニティーが再生する。緑の効果だけでなく、二重三重の効果が生まれています。こういった空間が都市の中にどんどんできてくれば、インフラに頼らなくても我々の生存をしっかり確保できるような空間作りができるんです」

「港区の都営青山アパートなんですけど、住民の皆さんがどんどんどんどん耕して、緑の空間を自分達でつくりました。都市の空間がより豊かになります。トイレの排水を浄化する装置も、性能のいいものは清流と同じくらいの水質を出すことができます。そうすると各家庭から出たものが下水に頼らず処理でき、水の流れる空間もできます。ミミズコンポストがあれば、お金をかけてごみ処理業者に処理してもらうのではなく、地域内で処理できます。こういったコミュニティーガーデンが注目されています。
緑の空間の演出や水や物質の循環の他、社会的な役割としては、インフラの代替機能、ごみの処理費の軽減、コミュニティーができる、教育の場として活用などが期待できます。こういう場があれば老人問題の解決の糸口になるかもしれません。そしてそこに人が住むようになれば、今度はエコビレッジとして、まちの空間というものが非常に豊かになってくる。一戸でできることから面的な広がりを持つことによって、緑だけではない、共同体という社会的な役割、あるいは環境や精神的にも健全な空間がつくれるのではないでしょうか」

プロジェクターを使って写真や図面を交えた解説も
参加者からもさまざまな質問が飛び出した

生活の中に取り入れていきたい

参加者の中には自分の家を安全な素材を集めて建築された方、仕事で無添加住宅の建築をお進めの方などもみられ、それぞれ交流を楽しんだよう。家の建て替えに活用したいという方は、「家だけなく、周辺の環境を考えるということについて、どうすればいいのか実例を見ることができて参考になった、日頃の生活を変えていきたい」、エコロジーや食事に関心があって参加したという方は、「人間の心と体のバランスをよくすること、調和の中で生きていることが大切で、一人一人が健康であれば全体がよくなると感じている」と話していた。また、「夏に夏らしく、冬に冬らしく生活するためにも、植物を利用した知恵などを知ることができて嬉しい。生活にうまく取り入れたい」という声もあった。

最終回の次回第4回目は、9月30日(日)開催予定です。

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