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おいしい水の安全性

〜ニュージーランドの飲料水事情
青い空の下、緑の丘、湖の畔、羊や牛がのんびりと草を食む、そんな絵はがき風景、でもそれが……

「どんな飲み物より、うちの水が一番。ミネラルウォーターなんて、いらない」

ニュージーランドに来て、一番うれしかったことは、水道の蛇口をひねるだけで、美味しい水が飲めることでした。

そして、水道水でさえ、こんなに美味しいのなら、人里離れた谷や沢の水はどんなに美味しかろう、と日本と重ね合わせ、登山を思い出しました。谷川のせせらぎに顔を浸けて飲んだ、あの美味し水。山懐の村の先祖代々大事に使われている湧き水。

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子羊の移動

ニュージーランドの農家や郊外の家は、屋根に雨水を集め、飲料水に使うのが普通です。ところが近年、それが安全ではないと警告されているのです。動物の排泄物で汚染され、ジアルジアなどの寄生虫の生息域がだんだん拡大しているからです。

それで、雨水や川や湖の水は、そのまま飲めず、煮沸しなければいけなくなったというわけです。ジアルジアという原虫は、ポッサムなどの小動物に寄生していて、その排泄物を通して嚢子が雨水や川に流れ込んで、それを人が口にすることで感染します。クリプトスポリジウムも、経口摂取によって、哺乳類、羊や牛などに感染し、激しい下痢と腹痛、吐き気などの症状が出て、その糞便に排出されます。それが、都心部の水道水は安全ですが、田舎の水は危険というわけで、実際、山歩き中に山小屋の雨水や谷川の水などから感染する人が多いのです。

この国の飲料水媒介の発病率は、他の先進国に比べて非常に高いといわれています。ここは農業国として百年以上の歴史があり、その農業地の76パーセントが羊や牛の放牧地です。その飼育密度が高く、水源の60パーセントが表流水であり、水源地域がこれらの家畜で汚染されているからです。人口4百万、羊4千万、牛1千万、ポッサムが7千万。

ニュージーランド保健省は2000年に標準飲料水を定め、飲料水の安全に努めています。水質管理担当の人の話しでは、地方の小規模水道は、都市部の大規模水道より、衛生面で劣るそうです。個人で浄化、貯水装置を確保しても、小動物がそれらの装置に近づいて、完全な浄化は難しく安全性に欠けるといいます。

崖淵まで木が取り除かれ、羊が放牧されている

ニュージーランドは禿げ山ばかり、山の天辺から海岸線、崖際まで丸裸。雨が降れば、たちまち崖崩れや洪水に見舞われます。水を保ち濾過する木の葉はなく、土を抱える木の根もありません。あるのは動物の糞尿ばかり。

そうして、美味しく安全な水が飲めなくなってしまったのです。今、市販のミネラルウォーターの人気が急上昇です。人で溢れている日本で、少なくなったとはいえ、いまだに谷川の水が飲めたり、山里に共同の清水場があったりするのは、日本が大量の家畜を飼い食する習慣を持たなかった賜物と、ありがたがるのは私の無知から来る独り合点でしょうか。