募集の詳細については記事末をご覧ください。
自然豊かな地域での暮らしに憧れるけれど、その土地に自分のスキルがいかせる仕事があるか、不安がある…そんな方に知ってほしいのが、今回の求人。
神奈川県相模原市緑区中山間地域で、やりがいある仕事も田舎暮らしも、さらには持続可能な地域づくりも諦めない、ユニークな求人が始まりました。
「相模原市」と聞くと、政令指定都市でもあることから都市をイメージしそうになりますが、実は相模原市緑区は自然豊かな中山間地域があるエリア。都心からのアクセスの良さと、すぐれた教育環境や、豊かな自然環境、活発な地域活動などが話題となり、これまでもじわりじわりと移住者を増やしてきました。
greenz.jpでも、緑区にある藤野エリアでの地域通貨の取り組みや、DIYで電気をつくる「藤野電力」の取り組みなどをたびたび紹介してきたことから、「まちづくりが成功した地域だね」と思う方もいるかもしれません。しかし相模原市緑区の中山間地域は、他の中山間地域と同様、このままいくとコミュニティの維持が困難になってしまうような状況にあるのです。
そうした課題を解決するため、2021年7月に藤野エリアに誕生した「森のイノベーションラボFUJINO(通称森ラボ)」を拠点に、「地域事業者の支援などのビジネス領域」と、「医療や福祉、移動問題の支援などのライフスタイル領域」というふたつの領域で、地域の課題解決に取り組む地域おこし協力隊を募集しています。
今回は「一般社団法人藤野エリアマネジメント」代表であり、森のイノベーションラボFUJINOのコミュニティマネージャーである高橋靖典(たかはし・やすのり)さんと、「NPO法人自然体験学校みどり校」代表の土屋拓人(つちや・たくと)さん、相模原市緑区役所地域振興課の道祖英ー(どうそ・えいいち)さんに、募集の背景にある課題や想いをインタビュー。
見えてきたのは、「都市と田舎の融合型キャリア」という、この地域だからこそ実現できるキャリアの可能性でした。
都市と田舎がベストミックスしたまち
今回私たちが訪れたのは、相模原市緑区の中山間地域です。
JR中央本線で新宿から1時間ほど。東京都と神奈川県の県境を越えるとすぐに見えてくるのが藤野駅です。高台から眺める風景は緑豊かで、民家とともに多くの田畑の姿を望むことができます。街中には小さな商店が点在。時おり買い物に訪れる地元の人たちの表情からは、穏やかな雰囲気が感じられます。
相模原市は、2006年に旧津久井町と相模湖町が、さらに2007年には旧城山町・藤野町が合併して誕生した、人口72万人の政令指定都市。大きく分けると、自然豊かな西部地域と、都市生活が可能な東部地域という2つのエリアで形成されています。
そのなかでも藤野駅のある緑区は、西部地域にあたる、いわゆる「中山間地域」と呼ばれる場所。旧津久井町・相模湖町・藤野町で成り立つこの地域は、広大な相模湖、豊かな山林など自然豊かな場所で、キャンプやサイクリングを楽しむ人や、ライダーも多く訪れます。
緑区役所地域振興課の道祖英一さんは、「相模原市緑区は、日本でも珍しい都市部と山間部がベストミックスしたまち。合言葉は、”都会じゃないよ田舎じゃないよ”なんです」と教えてくれました。
これまでも相模原市緑区の中でも、特に藤野エリアは、多くの移住者を惹きつけてきた歴史があります。
第二次世界大戦の際に藤田嗣治や猪熊弦一郎などの芸術家が疎開していたことをきっかけに、町は1986年に「藤野ふるさと芸術村構想」を提唱。それをきっかけに多くのアーティストが移住してきました。
その後、1996年に「パーマカルチャーセンター・ジャパン」が藤野に拠点を置いたことでサステナビリティに関心が高い人々が、2005年には学校法人として「シュタイナー学園」も開校されたことで教育感度の高い人々が次々に移住。
さらに近年では、新型コロナウイルスの影響で在宅勤務がひろまったこともあり、都心部からの移住者も増え、中山間地域のなかで藤野エリアはここ数年、住民の転出より転入が多いのだというから驚きです。
人口減少、高齢化。多くの課題を抱える緑区
このように聞くと、「緑区は中山間地域の成功事例なのでは?」と思ってしまいそうになります。しかし「実際は多くの課題を抱えていて、危機感を持っているんです」と、道祖さんと高橋さんは口を揃えます。
日本全体に目を移せば、中山間地域は人口減少と高齢化による深刻な課題に直面しています。そしてここ、緑区も例外ではありません。2023年時点で緑区中山間地域(旧津久井町、旧相模湖町、旧藤野町)の人口は、65歳以上が40%と、悩ましい現状が透けて見えます。
人口減少や高齢化が続いていくと、地域商店の消滅や公共交通の撤退により生活の維持が困難になることや、コミュニティが維持できなくなること、事業の担い手不足や山林の荒廃など、さまざまな問題が引き起こされることが予想されます。
たしかに藤野エリアでは移住者が増えているのですが、それも「内実を見れば、楽観視できない」と道祖さんは考えているそうです。
道祖さん このエリアの住民の一定割合の方は、都心へ通勤しています。移住者は増えても、地域内で経済がまわる循環が生まれていないんです。
緑区が持つ、「都市と田舎のいかしあうつながり」の可能性
緑区における中山間地域の課題を解決するために目指されているのが、「地域循環共生圏」です。
地域循環共生圏とは、各地域が美しい自然景観などの地域資源を活用しながら、自立・分散型の社会を形成しつつ、地域同士が支え合うことを目指す考え方。
いわば、「都市と田舎のいかしあうつながり」ともいえるこの考え方を、環境省は「農山漁村も都市も活かす、我が国の地域の活力を最大限に発揮する構想であり、その創造によりSDGsやSociety5.0の実現にもつながるもの」としています。
(参考:「地域循環共生圏 環境省」)
「都市部と山間部がベストミックス」した相模原市緑区は、まさにこの地域循環共生圏を実現するのにうってつけの地域。都市部のノウハウや技術、山間部の自然や文化を組み合わせることで、中山間地域の特性をいかした新しいビジネスや、自然に囲まれた生活空間をいかした豊かなライフスタイルを実現できる可能性を秘めたエリアなのです。
自らも2011年に藤野地域に移住してきた移住者であり、現在は森ラボのコミュニティマネージャーを務める高橋さんは、このエリアで「地域循環共生圏」が実現することに、大きな可能性を見出しています。
高橋さん 19世紀にイギリスのエベネザー・ハワードが、都市と農村の融合を目指した都市計画である「田園都市構想」を提唱し、日本にも取り入れられたんですが、なかなかうまくいかなかったという歴史があります。
ただ、僕は10年以上このエリアに住むなかで、ここ緑区では都市と農村の融合が実現できる可能性があると強く感じているんです。ここなら、いい意味での資本主義的なビジネスの要素も取り入れつつ、田舎の自然や文化をいかして、これまでにないビジネスやライフスタイルを生み出すことができるんじゃないかと期待しています。
森ラボを拠点に、都市と農村の融合を実現する
そんな都市と田舎をつなぐハブとしての役割を担うスペースが「森ラボ」。一体どんな場所なのでしょうか。
JR中央本線藤野駅から徒歩3分ほどの場所にある、小さな3階建てのオフィスビル。ここが「森のイノベーションラボFUJINO」、通称「森ラボ」です。
2021年に相模原市の実証実験としてスタートした森ラボは、テレワークセンターとしての働く場の提供や、「写真の撮り方講座」や「web3.0勉強会」といった講座を開催。また、社会課題に取り組む共創の場として、利用者と地域住民が携わる様々な地域プロジェクトの拠点となっています。
中山間地域と聞くと、地域のしがらみから新しい取り組みを始めることが難しいようなイメージがありますが、ふるくから新しい価値観を取り入れることに寛容な文化がある地域だからか、さまざまな立場の方が交わることによるイノベーションが次々に起きているようです。
その一例を、高橋さんが教えてくれました。
高橋さん 例えば地域では商品化できない規格外野菜がどうしても出てしまうという課題がありました。そんななか、地元の高校生が「規格外野菜を活用して無駄をなくし、農家の収入を上げられないか?」と感じていたことがきっかけで、農産物商品開発プロジェクトが動き出しました。
そして、約6ヶ月間にわたって、農家のみなさんや料理人、商工会、福祉作業所の皆さんなどと連携した結果、「野菜を労わる高校生のふりかけ」を発売することができたんです。
森ラボでは、こうした中山間地域の課題解決や、持続可能な社会につながるような様々なプロジェクトが進行しているんですよ。
このようなイノベーションが生まれている森ラボを拠点にしながら、中山間地域の課題を解決していくことができれば、日本では他に例を見ないような地域循環共生圏や、ここにしかないビジネスやライフスタイルを実現することができるのではないかー。高橋さんや道祖さんは、そんな希望を見出しているのです。
この地域ならではのビジネスとライフスタイルを創り出す仕事
地域資源があり、イノベーションが起きる場所があり、ユニークなアイデアを持った人々がいても、実際に取り組む人がいなければ、地域の課題は解決することができません。
そこで鍵を握るのが、今回募集する地域おこし協力隊の存在です。
緑区中山間地域をフィールドとして、森ラボに拠点を置きながら、都市と田舎がちょうどよく組み合わさっているという緑区の特性をいかし、この地域ならではのビジネス、もしくはライフスタイルを生み出していくことがミッション。「生み出す」といっても自ら起業をするのではなく、地域事業者や住民の支援を主に行うことが想定されています。
そして自らも、それまでの経験や関心を地域の課題解決にいかしながら田舎のライフスタイルも楽しむという、このエリアだからこそ実現できる「都市と田舎の融合型キャリア」をつくりあげていくことができます。
具体的には、ビジネス領域で地域の事業者を支援する「ビジネススタイル担当」と、医療や介護、住まいといった領域で地域の人々を支援する「ライフスタイルの担当」を、それぞれ1名ずつ募集。明確に業務が定められているわけではないので、その方の経験やスキル、興味関心と地域資源を掛け合わせて、自分なりの仕事をつくっていくことができます。
特に、緑区中山間地域ではICTの導入が進んでいないため、「ビジネススタイル担当」「ライフスタイルの担当」いずれも、ICTによる課題解決が期待されています(といっても、都会の一般的なビジネスパーソンが使えるくらいのレベルで、スマホやPCなどのデジタルデバイスが使えれば大丈夫だそう)。
たとえば、次のような仕事が考えられるようです。
その他、可能な範囲で相模原市緑区中山間地域の情報発信や、森ラボのプロジェクト支援などにも関わることが期待されています。
ちなみに相模原市による地域おこし協力隊は、今回が初めて。だからこそ、「用意されたレールの上を歩むのではなく、ゼロから関係や仕組みを創出していくことができるところも魅力」だと高橋さん。
もちろん、1人で全てを担うわけではありません。良き伴走者である高橋さん、道祖さん、そして心強い先輩移住者たちとともに取り組んでいくことになります。
地域おこし協力隊の任期は3年。1年目は伴走者のみなさんとともに、地域の人々との関係性をつくりながら、地域の課題や資源について理解を深めていきます。2年目以降は、1年目に築いた関係性や発見した課題、資源をもとに、自分なりの支援を計画し、実施。トライアンドエラーを繰り返しながら、「都市と田舎の融合型キャリア」をつくりあげていくことになるでしょう。
「都市と田舎の融合型キャリア」の先輩が語る、応援してくれる人の存在
緑区への先輩移住者の一人が、「NPO法人自然体験学校みどり校」の代表であり、藤野地域通貨「よろづ屋」、自然エネルギー「藤野電力」、地域の有機農家と住民を繋げる「ビオ市」などのプロジェクトにも関わってきた土屋拓人さんです。
現在は数々の地域活動に関わり、プライベートでも自然と近い暮らしを満喫している土屋さんですが、実は移住前は東京都内でバリバリ働くビジネスパーソンだった時期があるそう。
1976年東京都港区生まれの土屋さんは、大学在学中に制作プロダクションを起業。出版社やテレビ局などと多数のプロモーションを手がけてきました。
そんな土屋さんですが、都心の生活にも疲れが出てきたため、田舎への移住を含めてすぐれた環境のある地域を探していたところ、藤野が移住先候補に。ただ、この場所への移住を決意した決め手は、それ以外にもあったそうです。
土屋さん 我が家は妻が車の免許を持っていなかったので、徒歩圏で買い物に行けるかが重要で。その点、藤野は駅の周辺に商店や診療所なども揃っている。それに地域の人と仲良くなってくると、なんと車も乗り合いができる関係になるんですよ! だから車がなくても、なんとかなる。実際に車も手放してる人も多いんですよね。
それに、藤野って都心からアクセスがいいんです。JR中央線に約60-70分乗れば新宿駅に着きますし、近くに大型ショッピングセンターもある。「ここなら生活に困らなそうだな」と感じたのも決め手でした。
徒歩圏内で生活必需品が揃うのは、都会の特権…と思いきや、緑区でもエリアによってはそうした便利な生活を手放すことなく、田舎暮らしのメリットも享受したライフスタイルを送ることができるようです。
土屋さんがこの土地に移住してから、約15年。最近では「NPO法人自然体験学校みどり校」の代表として、竹林から竹を伐採し、流しそうめんをするイベントや、山野草採り体験、天体観測や里山ハイキングなど、地域をキャンパスにし1年を通じて開催しています。
「子どもたちはもちろん、大人たちも童心に返り、一緒に全力で楽しむ姿が見られるところが魅力ですね」と語る土屋さんの表情からは、この地域での仕事や暮らしを心から楽しんでいることが伝わってきます。
土屋さんの生き方は、都市部で培ったスキルと田舎の資源をかけあわせた、まさに「都市と田舎の融合型キャリア」でしょう。そしてそうしたキャリアを築くためには、経験やスキルと地域の資源以外に大事なことがあるそう。それが、地域の人々との関係性です。
土屋さん 移住したあと、まずは地域の皆さんと関係づくりをしたいなと思い、地域の観光を盛り上げる活動に参加したんです。やることも多くて想像以上にハードでしたが、1年間活動したおかげで、人間関係がぐんと広がりました。
このエリアの人たちは、一生懸命頑張っている姿をちゃんと見ていてくれて、応援してくれるんですよね。「あいつは頑張っているようだぞ」と。そうやった応援してくれる人がいるからこそ、今NPOを円滑に運営できていると感じますね。
地域おこし協力隊としてこれから加わることになる方も、こうした地道な関係づくりは参考になりそうです。
逆に言えば、こうした関係性づくりに取り組むことができれば、緑区ほど伴走してくれる人々や連携できるユニークなプレイヤーがたくさん存在してる地域は、全国を見渡してもなかなか見つかりそうにありません。
「都市と田舎のいいとこどり」をしませんか?
相模原市緑区中山間地域は、「都市と田舎のいいとこどり」ができるまち。とはいえ、やっぱり都市での暮らしを手放すことに不安を感じる方もいるはずです。
でも、きっと大丈夫。もしも都市での暮らしが恋しくなったならば、週末にふらっと都心に出ればいいのです。なにしろ、往復2時間程度で都会と田舎を行き来できますから!
高橋さん 実際に「ちょっと息抜き!」といって都心に出かける人はたくさんいますよ。都市と田舎のいいとこどりをするのが、このエリアでの生活を心地よく続けるコツなのかもしれません。
田舎に憧れる気持ちがあるけれど、ちょっと勇気の出なかった方は、相模原市緑区中山間地域で自分ができることを探してみませんか?
都市でのやりがいある仕事や、刺激的な人間関係と、田舎での豊かな自然や、あたたかな人間関係。そのいいとこどりをしたい! という方を、緑区中山間地域は待ち望んでいます。
(編集:山中散歩)
(撮影:篠原豪太)
– INFORMATION –
「「ローカル課題×何気ないスキル」でひらける、唯一無二のキャリアの可能性。
ー中山間地域で“自分と地域をいかす仕事”と出会う方法とは?ー」を開催します。
今回の求人に興味がある方はもちろん、「都市と田舎の融合型キャリア」というテーマに関心がある方は、ぜひお気軽にご参加ください。
(イベント後には、任意参加の簡単な採用説明会も予定しています)