12/19開催!「WEBメディアと編集、その先にある仕事。」

greenz people ロゴ

10日間、オーガニック食品だけで生活! 身をもって体験したヒルカワさんが感じた暮らしの変化とは?

オーガニック食品に関心を持っている人は多いはず。すでに毎日の食事に取り入れている人もいるかもしれません。けれども、全ての食品をオーガニックにするのは、今の日本では、オーガニック食品の扱いは非常に限られていてとても難しそうです。実際に現在、オーガニックの野菜やお米などの生産に使われている耕作面積は、全体のたった0.4パーセントにすぎないのだそう。(農林水産省のレポートによる

けれども、オーガニック食品だけで生活できたら、いろいろな変化をもたらしてくれそうです。もちろん体にもいいはずだし、大量に農薬が使用されている農業の現状を変えることにつながるかもしれません。

では、実際に10日間すべての食品をオーガニックにしたら、どんな変化が生じるのでしょうか。
一般の人にはなかなかできないこの生活が、国際環境NGOグリーンピース・ジャパンの調査によって試みられました。

この調査の狙いは、オーガニックのよさを可視化し、消費者のオーガニックに対する考えに変化を起こすことで、オーガニックをより一般的なものにすること。

調査には、子どものいるふたつの家族が参加しました。普段、給食を食べている子どもたちを考慮して、昨年の夏休みに、10日間、オーガニック食材のみで暮らす生活を実践。そこで今回greenz.jpでは、どんな生活だったのか、そしてどんな変化があったのか、調査に参加したご家族のうち、女の子二人のお母さんのヒルカワさんに特別にお話を聞きました。

お仕事をしながら、二人のお子さんを育てるお母さんのヒルカワさん。(c)Greenpeace

とにかくオーガニック食品はおいしい

ヒルカワさんは、小学校4年生と幼稚園に通う女の子のお母さん。パートナーの方も含めた4人家族で、都内にお住まいです。もともとオーガニックに興味があったヒルカワさんは、この調査に参加するのをとても楽しみにしていました。

ヒルカワさん 姉がオーガニック食品を取り入れていて、子どものためにもいいと聞いていたんです。でも買いに行く場所も近くにあまりないし、値段も高そうで、難しかったんですね。

ヒルカワさんと同じような理由で、オーガニック食品から遠ざかっている人は多そうです。また、オーガニック食品を取り入れている人も、野菜や果物が中心ではないでしょうか。

しかし今回の調査では、野菜や果物だけでなく、全ての食材をオーガニックにします。そこで、ヒルカワさんら調査参加者が事前に希望の食材リストを提出し、グリーンピースのスタッフがそれをもとにオーガニックの食材を調達しました。届けられたさまざまな食材を目にし、その目新しさに蛭川さんはワクワクしたそうです。

お肉は日本産と外国産とあり、全て冷凍

ヒルカワさん たとえばチーズは外国産で、パッケージが全然違っていたりするんですよね。それに、お肉にオーガニックがあるのも知らなかったので、興味深かったです。

お肉は、牛豚鶏とそろい、挽き肉まで。ちなみにオーガニックのお肉とは、簡単に言うと有機栽培の飼料で育てた畜産物を指します。

このようにさまざまな食材が用意される中、ヒルカワさんが気がかりだったのは、夏休みの間だけ保育園に通っていた下のお子さんのお弁当でした。これまで、1品は冷凍食品を使用していたのです。とはいえ、オーガニックの冷凍食品など、聞いたこともありません。

ヒルカワさん 子どもが好きなハムやウインナーもないと聞いていたので、どうしようと思っていたんです。でも、ひとつだけオーガニックの冷凍食品があったんですよ! クリームコロッケだったんですけど、おいしかったですね。

さらに冷凍食品だけでなく、レトルトのパスタソースもあったそうです。ギトギトした油っぽさもなく、トマトの甘みもあって、お子さんにもおいしいと好評の一品でした。

さまざまなオーガニック食材。左側中央がレトルトの「有機ミートソース」。

今回の取材で、ヒルカワさんから繰り返し出た言葉が「おいしかった」です。何となく体によさそうなイメージがあるオーガニックですが、味がおいしいことが何よりも強く印象に残ったというのです。ヒルカワさんはもちろん、ふたりのお子さんも味の違いにすぐに気づいたといいます。

ヒルカワさん 子どもが特にお気に入りだったのは、枝豆ですね。豆の味がすごく濃かったんです。トマトも濃密な味がしました。トマトは子どもがすごく食べたがりました。

やはり野菜の味の違いは顕著だったようです。同様に、味や風味が豊かだったのが、調味料でした。

ヒルカワさん お味噌や醤油もおいしかったですね。香りがよかったり、大豆そのものの香りがしたり。これまでの調味料では材料の香りを感じることはなかったんですよね。食卓で使用するときにも、いつもと違うねって話してました。

食への意識の変化

そして実際に味の変化を感じることで、食卓でも、食についての話題が自然と増えたといいます。

さらに食に興味がわくことで、お手伝いをあまりしなかったという上のお子さんも、一緒に台所に立つようになるうれしい変化もありました。

ヒルカワさん オーガニックの餃子の皮がなかったので、子どもと一緒に、強力粉から初めて手づくりしたんです。時間はかかるんですけど、かけた分だけおいしかったですね。

初めて餃子の皮を手づくりしました。(c)Greenpeace

食育が最近話題にのぼりますが、オーガニック食品に変えたことで、自然に家庭内で食育をする環境になったようです。

ヒルカワさん お姉ちゃんは手づくりにめざめたようで、最近もロールケーキをつくったりもしました。今回の調査を機に、つくることや食べることは楽しいんだと覚えたみたいですね。

さらに、お菓子の種類が限られていたこともあって、おかずやご飯をしっかり食べるようになり、より健康的な食生活を送れたというよい側面もあったそうです。

ある日の夕食。ご飯にスープ、鶏ささみ肉の梅シソ焼き、ポテトサラダ。お子さんに好評だった枝豆も。

ヒルカワさんの暮らしにより、オーガニック食品だけで暮らすと、その生活にさまざまな変化があることがわかりました。今回のヒルカワさんの生活のように、すべての食材をオーガニックにするのは難しいかもしれません。しかし、1〜2品オーガニック食品を取り入れるだけでも、家庭内に小さな変化を起こすことができるのではないでしょうか。

私自身、あわただしい日常生活にまぎれて、食もついついおざなりになってしまいがちなので、オーガニック食品に変えることは、食に対して、より少し丁寧に向き合える契機になるかもという気がしました。

体の中ではさらに大きな変化が起きていた

オーガニック食品だけの暮らしが、いろいろポジティブな影響をもたらすことがわかりました。では、肝心の健康面についてはどうだったのか、調査の結果が気になるところです。グリーンピースの食と農業担当の石原謙治さんに、今回の調査について説明してもらいました。

グリーンピースで働くようになって食への意識が変わったという石原さん。

調査では、参加したふたつの家族の尿(調査初日、6日目、16日目)をドイツの研究所に送り、6系統の農薬の中に含まれる31の成分を調べました。日本は、EUなどの欧米諸国にくらべ、農薬の規制の緩い国と言われています。その日本で、普段食べている食材によって、体がどれだけ農薬にさらされているかを調べるために、尿から検出される農薬の数値を調べたのです。

この研究によって、食べ物から体内に取り入れられた農薬が、どの程度尿から検出されるか、オーガニック食材の影響を明らかにできました。結果を見てみましょう。

オーガニックを食べる前と食べた後で、顕著に違いが見られることがわかる。

石原さん 農薬の種類によって差はありますが、たとえばグリホサートという発がん性などのリスクが指摘されている農薬(除草剤)は、オーガニック食材のみで生活した後では、機械で計れる限界以下まで量が減ったんですね。つまり普通の食生活では、それだけグリホサートが体内に残っている可能性があるということなんです。

中には数値が減らなかったものもあるので、それについては今後、専門機関がさらにこの分野の調査を進めることを期待しますが、多くの成分の排出量が減るという結果が得られました。

ただ、尿から農薬の成分が排出されるのならば、農薬のついている食材を食べても大丈夫な気がする人もいるかもしれません。

石原さん 排出されているとは言っても、体内に農薬がどれだけ残っているかは未知数なんですね。そして、複数のさまざまな農薬が体内でどういった作用を起こすかは、科学的にまだあまりわかっていません。

オーガニック食材を食べることで、体内に入る農薬を減らせることは明らかになりました。つまり、できるだけオーガニック食品にすることで、農薬のリスクをより少なくすることができるということなのです。

石原さん 今回調査を依頼したドイツの研究所からも、「体が農薬にさらされるという点について言えば、オーガニックは有益だ」というコメントをいただきました。

10日間という短い期間で何がわかるのだろうという素朴な疑問がありましたが、この日数は、既存の研究データを参考にしつつ、倫理審査委員会からの承認を経た日数だったそうです。

実際そして、たった10日間だけでも、顕著な結果が見られました。オーガニック食材を取り入れることで、農薬のリスクは減らせるのです。農薬のリスクを特に受けやすい子どものいる家庭では、ぜひ知っておきたいですね。

私たちができること

ただし、オーガニック食品はまだまだ手軽に簡単に手に入るとはいえません。販売されているのは、大型のスーパーマーケットの一角や自然食品店など、かなり数が限られます。

そこでグリーンピースでは、「Go オーガニック」という署名をおこない、12,034筆を大手スーパーマーケット、イオンに届けました。署名を受け取ったイオンは、「全国でオーガニックを増やすこと」を話しました。

業界大手のイオンに署名を届けてきました。イオンが変わることで、他のスーパーマーケットへの波及効果も期待できます。(c)Greenpeace

なかなかオーガニック食品が手に入らない。そんな消費者の要望を集めて届けることで、スーパーマーケットが耳を傾けてくれる可能性が高まります。署名に先駆けて、グリーンピースでは大手スーパーマーケットのオーガニック食品の取り扱いに対する姿勢を調査し、ランキングを作成しています。

こういった取り組みが後押しとなり、消費者がより賢く商品を選ぶことで、スーパーマーケットで簡単にオーガニック食品が手に入り、多くの農家がオーガニック農法に転換し、そして環境にも生き物にもやさしい農業が広がっていくことでしょう。

近くにオーガニックを取り扱っているお店がないという方は、ぜひ、店員さんに直接話しかけたり、お客さまの声ボックスに投函するなどして、オーガニックを求めているという希望をスーパーマーケットに届けてみてはどうでしょうか。そうすることが、オーガニックを手軽に手に入れられる豊かな生活へと確実に進む一歩になるのです。

(c)Greenpeace