沼倉正毅さん、中島大輔さん、桑原慶さん、柴田大吾さんとともに、多摩川のほとりで自分のやりたい仕事を考える2日間「にしたま創業キャンプ@青梅」

2016年12月。都心から約1時間半ほど電車に揺られ、やってきたのはJR青梅線の御嶽駅。ホームに降り立つと、ひんやりと冷たく澄んだ空気が頬をくすぐりました。見上げると、御岳渓谷の美しい景観がちらりと頭を覗かせています。

青梅市・羽村市は、西多摩地域の未来をともにつくる担い手を増やしていこうと、2015年からグリーンズとともに地域イノベーターの育成・支援事業を行なっています。「にしたま創業キャンプ」は、前述のような豊かな自然を擁する両市が共同で主催する起業講座です。

「自分らしく働きたい」そんな思いを実現する手段として、いま、起業を考える人が増えています。自分で仕事をつくれたらいいな、と思ったことがある人は意外に多いのではないでしょうか。

でもいざ一歩を踏み出すとなるとやっぱり難しい。そんなとき、こうして気軽に参加できる講座は、その一歩を後押ししてくれるかもしれません。

参加者同士で熱く語り合い、ときに多摩川の清流をゆったり眺めながら、さまざまなアイデアを出し合った2日間の連続講座。いったいどんな内容だったのか、密着取材してきました。

自分の手で事業計画をつくる体験を手にいれる

「自分がワクワクできるアイデアをベースに、さらにその実現によって地域の近未来を魅力的に描ける事業を考える」――これが「にしたま創業キャンプ」が大切にするコンセプト。

会場となった青梅市御岳交流センターには、これから地域で「自分らしい仕事」をカタチにしたいと熱量を持つ人が集いました。

左から小野裕之(グリーンズ)、沼倉正毅さん(トレックリング)、中島大輔さん(林業家)、桑原慶さん(Run boys! Run girls!)、柴田大吾さん(ラフティングプランナー)。

講師は、「トレックリング」の沼倉正毅さん、林業家の中島大輔さん、「Run boys! Run girls!」の桑原慶さん、ラフティングプランナーの柴田大吾さんの4名。どの方も「自然資源を生かした仕事」で起業した先輩たちです。

本講座でファシリテーターを務める、グリーンズの事業プロデューサー・小野裕之は、講座前のオリエンテーションで「事業プランを気軽につくれるようになるマインドとスキルを手に入れること」が講座のゴールだと語りました。

小野 たった2日で事業計画書をつくりきるのはなかなかハードな作業ですが、ぜひスピード感に慣れてください。最高の企画も大事だけど、それ以上にまずはつくりきることに慣れてください。この「つくりきる」経験の積み重ねこそが、実は良質な事業アイデアを発見できるコツです。

各講師のレクチャーでは、「事業として成り立つまで」「事業を始めるにあたって大切にしてきたこと」「具体的な事業計画」の3つを軸に、講師の方々にこれまでの事業を振り返ってもらい、その後、質疑応答へ。

本レポートでは、レクチャーの内容から「どんな事業?」「なぜはじめたの?」「事業をはじめるにあたって大切にしてきたことって?」を中心にお伝えします!

ピンチをチャンスに! 地域も自分も元気になる仕事

沼倉正毅さん(ぬまくら・まさき)
機械設計・製造が主の有限会社テクノムを経営しながら、「トレックリング」を開業し、同店のCorprate Managerもつとめる。趣味は、自転車とウインドサーフィンという根っからのアウトドア派。奥多摩・青梅地域で働き、暮らし、新しい人の流れをつくっている。

青梅で乗り捨て可能なレンタルサイクルのサービスを運営する「トレックリング」の沼倉正毅さんが事業アイデアを思いついたのは、2009年のリーマンショクで会社の業績が落ち込んだ時期。新規事業として企画されたのが「トレックリング」でした。

沼倉さん  当時は仕事が激減して、本業のほかに土日を使ってできる仕事はないかな、と模索していたんですよね。ある日趣味のサイクリング中に「奥多摩から青梅までの長い下り坂を自転車で下ったら気持ちいいんじゃないか」とひらめきました。

そのアイデアを朝礼で提案したら、先代の社長が「よし、やってみよう!」と。とはいえ、それまでずっと設計・製造ばかりで、企画の仕事はやったことがありません。何もかもが手探りの中ではじまりました。

会社の立て直しのために未経験の分野で事業をはじめた沼倉さん。サービスをゼロから形にしていくにあたり、どんな思いがご自身を支えたのでしょうか?

沼倉さん 「自分が暮らす奥多摩・青梅を元気にする仕事をしたい」という思いが支えてくれたと思います。実は最初のころ、地元で賛成してくれる人があまりいなかったんです。「自転車は危ないよね」って。だけどこの思いを伝えつづけた先に、応援してくれたり、協力してくれる仲間にたくさん出会えました。

事業は、おおよそ計画通りにカタチになってきたそう。沼倉さんは「トレックリング」の立ち上げを通じて、自分の中に軸を持って精いっぱい取り組めば、道が拓けることを学んだそうです。今、とても充実しているとのこと。この先3年後までの計画も新たに立て、更なるチャレンジを開始しています。

自分のルーツが、仕事をつくるきっかけとなる

中島大輔さん(なかじま・だいすけ)
青梅市成木地区生まれ。9年間の建築会社勤務を経て、現在は家業である林業を継ぎ、伐採から出荷までを自身で手がける自伐林家として親子で活動中。その他にも青梅林業研究グループのメンバーとして、青梅の森林で林業体験をしようという活動にも取り組んでいる。

自伐林家の中島大輔さんは、東日本大震災の後、9年間続けた現場監督の仕事を辞めて、青梅市成木にある実家の林業を継ぎました。放置林や間伐遅れの森林に入り「間伐(かんばつ)・択伐(たくばつ)」(後述)という手法で木を伐り出し、市場に出荷しています。

中島さん 東日本大震災のとき、ちょうど住宅点検で床下に入っていました。すごく揺れたのに建てた家は壊れなくて。自分の仕事に誇りを持ったと同時に、「そういえば、どうしてこの仕事を選んだんだっけ?」とふと思い返しました。

実は建築を志したのは、家業である林業・製材業でつくった材木を使いたかったからだったんです。父親の代で製材業は畳んだので、今は現場監督をやっているけど、このままでいいのかな? 自分でもう一度立て直せないかな? そんな気持ちがあるのに気づきました。

そこで実家に戻っていざ林業をはじめてみたものの、すぐに限界を感じたという中島さん。それでも諦めずにチャレンジし続けている理由は、いったい何なのでしょうか?

中島さん 家系を辿ってみたら、うちは江戸中期あたりからずっと林業をやっている家系だったんです。この事実を知ったとき、あ、これは自分もやんなきゃダメだな、と思いました。きちんと次世代へバトンを渡そうって。そのために、地域に根ざしながら長く続けられる森林経営を目指そうと決めました。

林業を持続可能な仕事にするためにと、中島さんが選んだ伐採手法の「間伐・択伐」は、森林の成長を数十年単位で見守りながら、収穫期の樹木を選んで抜き切りするという手間暇のかかるもの。今は木を伐るところまでで精一杯ですが、ゆくゆくは仲間を増やして製材業を復活するところまでやりたいと考えています。

参加者目線のユニークなコミュニティづくりがカギ

桑原慶さん(くわばら・けい)
1975年、静岡県生まれ。ゲームソフトのプランナーを経て2002年に起業、フットサル施設+カフェ業態の「KEL」をはじめとするフットサルビジネスに8年ほど携わる。2010年頃より、自身の興味が「レクリエーション」から「アクティビティ」に移行し始め、ランニング・トレイルランニングを開始。すぐに海外のトレイルランニングレースに出場するまで没頭し、2013年4月にトレイルランニングギアを中心とするランニングショップ「Run boys! Run girls!」をオープンした。店名にはタイムや成果を伴うスポーツとしてのランニングだけでなく、散歩の延長線上にあるような誰でもできるランニングの魅力を伝えたい、そんな想いが込められている。

桑原慶さんが運営する「Run boys! Run girls!」はトレイル&ランニングギアの専門店。東京・馬喰町のショップを拠点に、初心者からコアユーザーまで幅広い層が楽しめるユニークなランイベントを多数開催し、コミュニティを広げています。

桑原さん 3.11後に、ちゃんとした価値を提供して対価としてお金をもらう仕事をしたいと思ったんですよ。

その頃はトレイルランニングをはじめて1年くらいだったのですが、最初は駒沢公園1周がきつかった人がランニングを続けるうちに山道を100キロ走れるようになったり、食生活を意識して健康になったり、周りを見るとそういうケースがたくさんあることに気づいたんです。

それって誰にとっても目に見える進歩だし、価値がありますよね。だから、ランニングによって価値を提供できる仕事がつくれると思いました。

また、僕が会ってきたランナーたちはみんなタフ。目の前のトラブルを笑い飛ばして乗り越える力を持っている人が多くて。そんな人がもっと増えたら、なんか世の中よくなるんじゃないの? と思って、そこに自分のやりがいを感じたのがこの仕事をはじめた動機です。

1泊する道具をもってキャンプ場まで走り、そこでひと晩を明かす「金曜の夜の野宿ラン」、初心者向けトレイルランニング・イベント「PEANUTS RUN」など、桑原さんの手がけるユニークなイベントは、どのように生まれているのでしょうか?

桑原さん ニーズと独自性の掛け算を大切にしています。ランニングというコンテンツに集まる人といっても、さまざまなレベルの参加者がいるんですよね。レベルごとに求めている「面白さ」「心地よさ」は違います。

たとえば、未経験者には「途中で歩いてもいいよ」と頑張らずに楽しめるイベントを。上級者にはストイックなコースを用意する。集まる人が「参加したい」と思えるツボを押さえながら、思いついたアイデアをノリでやっています。

従来的なアウトドア小売店のスタイルは、商品サイクルが早く常に在庫の問題がつきまとうのだとか。そのため、商品の魅力だけでなくお店のコンセプトに共感して人が来てくれるように、幅広いコミュニティづくりをしていると桑原さん。今後は観光客向けのランイベントをしてみたいとのこと。

はじめの一歩は、「そのとき感じた情熱」を大切に

柴田大吾(しばた・だいご)
みたけレースラフティングクラブ代表/ラフティングプランナー。大学時代にラフティングと出会い、以後この道へ。2004年、プロ契約。2008年、ラフティング世界選手権総合3位。2009年、ラフティング世界選手権総合準優勝。2009年6月に引退後、ラフティングプランナーとしての活動を開始。パドリングスポーツの競技会「御岳カップ」などの大会運営を全国で展開するなど、ラフティングの競技レベルを高めるため精力的な活動を続けている。座右の銘は「その時の感じで」

ラフトと呼ばれるゴムボートで、川の急流を下るラフティングというスポーツがあります。その世界大会でプロの選手として活躍していた柴田大吾さんは、引退後に御岳で「ラフティングを楽しむ人を増やす」仕事をはじめました。

柴田さん 2009年に参加した世界大会のなかで、「このスポーツを日本に普及・発展させたい」との思いが強くなり、引退したあと、勢いで「ラフティングプランナー」という職を自分でつくりました。

自分がレースラフティングを通して学んだ、「人と一緒になにかをするって嬉しい」という体験をもっと多くの人に伝えたい。その気持ちひとつで、実は事業プランも持たずに独立してしまったんです(苦笑)

いつでも「そのとき直感的に感じたこと」を大切に生きてきた柴田さん。新しいことをはじめるには情熱も必要ですが、不安はなかったのでしょうか?

柴田さん やるしかないと決めていたので、不安は感じなかったです。勢いで進んだ結果がどうなるかなんて、自分でもわからないですよね。それゆえにできたこと、だからこそ行き詰まったことの両方を引き受けてやってきました。そうやって、なんとか前に進んできたのが正直なところです。

そうは言いつつも、現在は大会運営の他に、地域に根ざした「みたけレースラフティングクラブ」の運営や、観光客むけの素泊まり宿「駅前山小屋A-yard」の経営など、柴田さんの活動範囲は着実に広がってきています。

いざ、実践編!ちからを合わせてつくる事業計画

さて、メインイベントである「事業計画づくり」もレポートしたいと思います。2日間合わせて4時間の制限時間の中で、事業アイデアのブレインストーミングから計画書の完成までを目指します。

ファシリテーターの小野さんから、事業計画書で押さえておきたい項目やプレゼン時間の提示があった後、まずはグループ分けを行ないました。参加者が紙にひとことで自分のやりたいことを書き、興味・関心の合いそうな仲間を探します。

4つのグループに分かれた後は、各テーブルでどんな事業をつくるかを話し合います。各グループには、アドバイザーとして講師がつきました。グループごとに飛び出るアイデアも、話し合いの進み具合もさまざまのようです。

プランを持って臨んだ参加者がいて、その企画のブラッシュアップに早い段階から注力していたグループがある一方で、なかなか事業アイデアが決まらないというグループもありました。

はじめて会った人同士が、協力してひとつのプロジェクトを進めていくには、コミュニケーションの取り方が重要です。自分とどう向き合うか、お互いをどう活かし合うか。意思決定はどのようにするのか。どの程度の精度で折り合いをつけるのか。

みなさん、和やかな中にも手探りの緊張感をもって、話を進めていきます。

お昼の休憩には、greenz.jpでもご紹介した森の演出家・土屋一昭さんが運営する「つちのこカフェ」からホットサンドと暖かいスープが届きました。昼食を取りながら引き続きアイデアを練る人、御岳の自然を感じたいと、ふらっと外の空気を吸いに出かける人。思い思いに過ごしていました。

話し合いも佳境を迎えると、みなさんの表情にも真剣味が増していきます。残り少ない時間のなか、思い切ってアイデアを白紙に戻す決断をするグループも見られました。

時間はあっという間に過ぎ、どのグループも慌ただしく発表準備に取り掛かります。いったいどんな発表が聞けるのでしょうか?

ぱんぱかぱーん! 2日間の成果発表!

事業発表は、1日目に中間プレゼン、2日目に最終のプレゼンと2回行なわれました。発表ごとに講師からのフィードバックがあり、するどい指摘やあたたかなアドバイスに、参加者は真剣に耳を傾けていました。

各グループが最終プレゼンで発表した事業計画から、コンセプト・ターゲット・事業内容をダイジェストでご紹介します!

柴田さんグループ
グループにきのこが大好きな参加者がいたことから、きのこを軸にした事業を考えたチーム。ファミリー層とアウトドア志向者をターゲットに、青梅・奥多摩の里山や原生林で、天然きのこ狩りのレジャーや、きのこに詳しくなれるセミナーの企画を考案。また、きのこのお取り寄せ販売のアイデアもありました。

中島さんグループ
こちらのチームのコンセプトは「For Rest Work」。奥多摩の自然のなかで遊びながら自由に働ける場所がほしい! という参加者のリアルな思いから生まれた宿泊型のリゾート・シェアオフィス事業です。リモートワーク(オフィスに通勤せず、その人にとって都合の良い場所で仕事をすること)を推奨する法人を対象に、社員が家族や友人、取引先と一緒に利用できるサービスとなっています。

沼倉さんグループ
「先生の秘密基地」をコンセプトに、仕事の悩みを相談する場がない学校教員向けに事業を考えたチーム。日頃生徒たちが楽しんでいる遊びや野外キャンプを通じて、先生同士が本音を語り合える場を提供するサービスです。現役教員の参加者が持つ、教育現場の課題から生まれたアイデアでした。

小野さんグループ
最後の発表は、同じような興味を持っているね! と盛り上がって集まったものの、メンバー全員が「自分は何が好きで、何に情熱があるか」に向き合いきれず、事業化したいと思うアイデアを見つけられなかったグループでした。悔しさも残ったようですが、この学びを次につなげたいとの決意表明がありました。

(レポートここまで)

1日目の終わりには懇親会も開かれ、ほろ酔い加減の起業トークに花が咲きました!これも楽しみのひとつですよね

事業計画というと、つい完璧な仕上がりで「ぜったい失敗しなさそうなもの」をつくらなくちゃ、と肩肘を張ってしまいそうです。しかし、どんな計画だってたった1回ですごいものができることはないですよね。

大切なのは、つくる過程で見つかる課題だったり、あらたな視点であったり。立てた事業計画の精度は、実際にやってみたときに、現実とのギャップを感じて少しずつ分かっていくもの。

自分で仕事をつくってみたいけど、何からはじめたらいいかわからない人、事業アイデアをブラッシュアップしたい人にとっては、ちいさな一歩としていい体験ができたのではないかと感じています。

講座全体を通じてあらためて私が感じたのは、「自分らしい仕事」の入り口は、自分の嗜好性に強く興味を持つことなのだな、ということです。

講師のレクチャーや、参加者の話し合いで交わされたやりとりから「これが好き」「これを伝えたい」、そんな言葉が聞こえるたびに、自分が「つい情熱をかけたくなる何か」を掘り起こすことの重要さを実感しました。

その何かが、誰かのうれしさを増幅させるようなアイデアと結びついたとき、地域で自分らしい仕事が生まれていくのだと思います。

1月28日(土)29日(日)には「にしたま創業キャンプ@羽村」も開催予定。事業計画をつくってみるというワークショップの内容は同じですが、今回は商いや街中でのまちづくりがテーマ。ゲスト講師も変わります。

地域で自分らしい仕事をつくってみたいと考えている方がいたら、ぜひ気軽に参加してみてくださいね。

(撮影: 星野耕史)

特集「マイプロSHOWCASE 東京・西多摩編」は「西多摩の未来を考える!」をテーマに、西多摩を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介し、西多摩での新たなイノベーションのヒントを探る羽村市・青梅市との共同企画です。