ISSUE まちづくり

1 month ago - 2016.11.08

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仕事と子育て、どちらも諦めたくない? だったら、「地域で起業する」という第3の道もありますよ!「あぶくり」嶋田玲子さんに起業の経緯を伺いました

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こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

「どうしたら、仕事と子育てを両立できるの?」

都会で働いている女性なら、一度は考えたことのあるテーマではないでしょうか。

会社の福利厚生が充実していても、時短勤務だと重要な仕事は任されない。かと言って独身時代と同じ働き方をしていては、子どもと向き合う時間が取れなくなってしまう。「女性の活躍」が声高に叫ばれていても、まだまだ環境が整っているとは言いがたい状況だと思います。

本田技術研究所でカラーデザイナーとして働いていた嶋田玲子さんも、そんな悩みを抱えていたひとりです。嶋田さんが選んだのは、「会社を辞めて、住んでいるまちでカフェを開く」という第3の道でした。

そうして開いたサンドイッチとコーヒーの店「あぶくり」は、子育て中のお母さんたちが集う地域の拠点となっています。
 
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お母さんたちがゆったりと羽を伸ばせるお店

「あぶくり」があるのは、東京都豊島区の雑司が谷エリア。緑が多く昔ながらの商店街が残り、路面電車が走る雰囲気のいいまちです。嶋田さんは、「暮らすところと働くところはできるだけ近いほうがいい」という考えから、元々住んでいたこのまちでお店を開くことにしたといいます。
 
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雑居ビルの階段を上がって2階。ガラス扉に書かれた「あぶくり」の文字の向こうには、大きな窓とコンクリート打ちっぱなしの壁が印象的な、落ち着いた空間が広がっていました。

私自身も二児の母なので、子どものいるお母さんが気軽に来られる場所にしたいと思って、子ども用の椅子やおもちゃを用意しています。

ただ、「いかにも子ども向け」のお店にはしたくなくて。そうすると、お母さんが楽しくなくなってしまうでしょう。大人っぽくてお洒落だけど、実は子どもが来ても楽しい、そういう空間を目指しました。

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営業時間は朝9時から夕方18時まで(土日祝は19時まで)です。この辺りには朝営業のお店が少ないので、子どもを幼稚園に預けたお母さんたちがよく立ち寄ってくれるそう。授乳中のお母さんが片手でも食べられるようにと、メインメニューはサンドイッチにしました。

ときにはお母さんたちの愚痴を聞いたり、保活のアドバイスをすることも。お母さん同士の交流も自然と生まれているのだとか。「ここで日頃の疲れを癒し、リフレッシュして帰っていくお母さんたちの姿を見るのが何より嬉しい」と頬を緩めます。
 
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「お客さんに合わせてマグカップを選んでいるんですよ」と嶋田さん

自分が納得いく働き方ができる環境を、自分でつくる

嶋田さんが「あぶくり」を始めたのは2012年のこと。本田技研のカラーデザイナーと言えば花形の仕事で待遇も良かったはずですが、なぜ辞めて独立するという選択をしたのでしょうか?

男性が多い会社で、女性は30〜50人にひとり、という割合でした。そこで働く女性はとてもパワフルなんですよね。男性以上にバリバリ働き、仕事後は遅くまで飲んで、次の日も元気に出社して。

そうした姿を「かっこいいな」と思う反面、「自分はそうじゃないな」とも感じていたんです。結婚して、子育てにも時間をかけて向き合って、その上でやりがいのある仕事をしたいと思いました。

でも、いざ子どもができると、時短勤務なので重要な会議には出られないし、出張にも行けない。周囲のサポート業務ばかりになって、仕事がつまらなくなってしまったんです。それに甘んじるか、子どもとの時間を犠牲にして夜まで働くか。選択肢は2つしかありませんでした。

それなら、自分が理想とする働き方ができる環境を自分でつくるしかない。そう思って会社を飛び出したんです。

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嶋田さんが起業したとき、お子さんは2歳、4歳だったそう

カフェを選んだのは、食べることが好きで「いつかお店を開きたい」と憧れていたため。飲食業界は未経験だったので、最初は1年ほど休んで勉強しようと考えていたそう。しかし、建築会社を経営する旦那さんから「考えるより動け」と言われ、すぐに物件選びやメニュー開発に着手。退職して4か月後に「あぶくり」をオープンしました。

最初はサンドイッチ2種類とコーヒー、紅茶だけしかメニューもなくて。いま思うと「それでよくお店を開いたな」という感じです。業界のことを知らなかったからこそできたのかもしれません。

「仕事」「地域」「子育て」の地続き感

「あぶくり」が軌道に乗ってくると、嶋田さんは自分のお店のことだけでなく、雑司が谷という地域全体について考えるようになりました。

近隣に住む女性4人と一緒に「good morning society」という団体を結成し、2015年夏にクリエイターズマーケット「雑司ヶ谷つくつくさんぽ市」を開催。10〜20店舗が出店し、まちに新たな人の流れが生まれたといいます。
 
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まちに賑わいを生み出すつくつくさんぽ市

あぶくりが所属する商店会では、毎年子ども向けのハロウィンイベントを開いていました。経理を任されて通帳を開いてみると、助成金頼みで財政がひっ迫していたんです。「これはまずいな」と思い、自分たちで稼ぐ仕組みをつくることにしました。

雑司ヶ谷つくつくさんぽ市は、商店会の店舗の軒先をgood morning societyが無償で借り受け、クリエイターから出店料を貰い、利益の一部を商店会に還元する、という仕組みで回っています。継続するために、good morning societyの人件費を貰うことも考えています。

こうした活動は、「地域のために」という言葉のもと無償でやることになりがちです。一見いいことのようですが、完全にボランティアだと、本業が忙しくなるなどの変化があったとき、ほかの人に受け継ぐこともできず終了してしまうことがほとんど。

きちんと収益を出して人件費を貰えるようにしていこうとしているのは、「しっかりと長く続けていこう」という責任感の現れだと思いました。

子どもたちと鬼子母神の境内を歩いているときに、ふと「ここがこの子たちにとっての故郷になるんだな」と実感したんです。大人になって家を出ていった後も、帰ってくる懐かしい場所。そこが、寂れた悲しい場所になってしまったら嫌じゃないですか。だから、地域全体を盛り上げていきたいな、と思っています。

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現在は、2ヶ月に1回小規模に実施し、春と秋に大きく開催する形に落ち着きました

つくつくさんぽ市がある日は、あぶくりに来るお客さんも増えるそう。逆に、あぶくりが雑誌等で紹介されることで、雑司が谷やつくつくさんぽ市の知名度も上がっています。仕事と、地域と、子育ての間に相乗効果が生まれているのですね。

嶋田さんがぶつかり、乗り越えてきた壁とは?

こうしてお話を聞いているととても順調に思えますが、嶋田さん曰く失敗や苦労は数えきれないのだとか。「いつかお店を開きたい」と思っている方にとっては、きっとそのあたりのお話こそ聞きたいところですよね。嶋田さんの試行錯誤の軌跡を教えてもらいました。

◎その1:本当にサンドイッチで大丈夫?

お母さんが片手でも食べられるように「サンドイッチとコーヒーの店」として始まったあぶくり。でも、メニューにライスプレートを追加したところ、そればかり出てサンドイッチが一日に一度も注文されないという事態に。そうした反応を見て気持ちが揺らぎ、一時はライスプレートの種類を増やしたそう。

でも、それだと「サンドイッチとコーヒーの店」ではなくなってしまいますよね。

雑誌で紹介されたり、新しいサンドイッチのメニューを追加したりしている内に、徐々に「あぶくりといえばサンドイッチ」と浸透していって、売上も上がっていきました。「自分がこれだ」と思ったものを貫く勇気と、定着するまで待つ根気。そのふたつが必要なんだな、と学びました。

現在はサンドイッチ数種類とライスプレート一種類を出していますが、当初のコンセプトにこだわり、最終的にはサンドイッチ一本にするのが目標です。

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自家製スモークチキンとたまごのサンドイッチ、ホールサイズ1250円

◎その2:夜営業をしたほうが儲るんじゃない?

現在の営業時間は朝9時から夕方18時まで。しかし、「夜の時間に何もしないのはもったいない」と、遅くまで営業して定食を出していた時期もあったそう。しかし、お店のコンセプトがブレてしまった上に、スタッフへの負担が増え昼営業に悪影響が出てしまったのだとか。

朝早くに起きて働いて、夕方には帰る。そのほうが自分たちにとってもお客様にとっても健全なんじゃないか、と思って、夜営業を辞めました。いまでは、「自分たちのライフスタイルに合ったやり方をすることが、お店の特徴にもなる」と考えています。

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旬のフルーツサラダにトーストを組み合わせた「あぶくりのフルーツ朝ごはん」。新たな人気メニューになりました

◎その3:せっかく会社を辞めたのに、子どもとの時間が取れない!

「やりがいのある仕事と子育てを両立したい」とお店を始めた嶋田さんですが、立ち上げ前後はとても忙しく、土日も子どもを保育園に預かってもらっていたといいます。

「本当にこれでいいの?」という葛藤を抱えながら働いていました。でも、「会社を辞めました、すぐに理想通りの暮らしができるようになりました」なんてありえませんよね。少しずつ環境を整えていって、3年経ってようやく求めていた暮らしができるようになりました。ある程度時間はかかるもの、と覚悟したほうがいいと思います。

いまも「習い事をさせられない」などの制約はあるけど、その代わり、お店やイベントに連れていって多様な大人に会えるようにしています。それはほかのお母さんにはできないこと、私だからできることですね。

お母さんが働いているのが当たり前の環境で育っているため、子どもたちは「お仕事がんばってね」と手紙をくれたり、「大きくなったらお店を継ぎたい」と言ってくれたりするのだそう。自営業ならでは、の子育て環境ですね。
 

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「あぶくり」は、嶋田さんの長女が幼い頃見えていたという想像上の生きものなのだそう

壁を乗り越えたとき、自分のお店も成長している

最後に、かつての嶋田さんと同じような悩みを抱えている方に向けたアドバイスをお願いしました。

まずは、自分ひとりでやろうと思わないこと。子どもが熱を出したり、保育園から急に連絡があったり、ということは絶対にあります。

でも、お店を急に閉めることはできない。だから、最初からスタッフを雇うことを考えて事業計画を立てたし、メニューも「私しかつくることができない凝った料理」ではなく、レシピ通りにすれば、誰でもつくれるサンドイッチにしました。

初期投資を低めに抑えるのもおすすめしたいです。子育て中は営業時間もやれることも限られてくるので、売上もそれなりになります。初期投資をかけすぎると、「ちゃんと回収できるだろうか」とピリピリしますよね。予測できないことはたくさんあるので、不安材料はできるだけ取り除いておいたほうがいいと思います。

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お店を始めるときに旦那さんから言われた、「考えるより、動け」という言葉。実は、当時の嶋田さんはその言葉があまり腑に落ちていなかったそう。しかし、いまではその意味がよくわかる、と強いまなざしで話します。

「やらない理由」は、いくらでも出てくるんです。本当にキリがない。それに、考えるよりも、動いてわかったことのほうがたくさんありました。だから、動いてから考えるほうがいいと思います。

「お店を開いて、続けていく」って、思っていた以上にすごく大変でした。壁にぶつかってばっかりです。でも、振り返ってみると、その壁を乗り越えたときに、お店も自分も成長していたんですよね。だからいまは、ピンチに陥っても「成長できるチャンスだ」と思うようにしています。

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自分のライフスタイルに合わせて試行錯誤しながらお店を変えていけること、それがお店の個性になること。「仕事」と「地域」と「子育て」が分離せず、働くことで子どもが育つ地域を良くしていくという地続き感を感じられること。それが「自分の暮らすまちでお店を開く」メリットなのだな、と感じました。

やりがいのある仕事を優先するか、子どもとの時間を優先するか、で悩んでいるみなさん。どっちも大事でどっちもおろそかにしたくないなら、思い切って全く別の選択肢を選んでみるのも手だと思いますよ。

(撮影: 松永光希)

昼間なら嶋田さんに会えるかも?
あぶくり サンドイッチとコーヒー

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greenz.jpエディター/ライター 1984年2月29日生まれ。茨城出身、神奈川在住。 「地域」「自然」「生きかた・働きかた」をテーマに、書くことや企画することを生業としています。虹を見つけて指さすように、この世界の素敵なものを紹介したい。 HP:http://www.cotohogu.com/ blog:http://himaemi.blog.jp/ twitter:@emi229「東北マニュファクチュール・ストーリー」というサイトを、一般社団法人つむぎやと一緒に運営しています。 ・日本橋のシェアオフィスにて、気ままなごはん会「6階食堂パルプンテ」を開催。日によって美味しさにばらつきがある、適当な会です。

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