ISSUE ☆日本と世界のソーシャルデザイン

1 month ago - 2016.11.01

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報道を完成させるのは、読者であるあなたの”貢献”。オランダの新興メディア「De Correspondent」に聞く、ジャーナリズムの未来(前編)

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こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

毎日、毎刻、次々と流れてくるニュース、ニュース、ニュース…

凶悪な事件、政治家の不祥事、芸能人の不倫、世界各地の紛争。 ひとつひとつは大事件のように報道されながら、それらを咀嚼する間もなく、1時間後にはもう新しい話題。

目に入ってくるセンセーショナルな見出しに興味を引かれてついついクリックしてしまうけれど、自分が本当に知りたいことってなんだっけ?

毎日の通勤電車の中で何気なくスマートフォンを覗いていると、時おりそんな疑問にさいなまれます。

今回ご紹介するオランダの新興メディア「De Correspondent(デ・コレスポンデント)」は、そんなニュース報道の波に揉まれる私たちに対して、1つの処方箋を提示してくれる存在です。

世界はいったいどのように動いているの? 私たちにはいったい何ができるの? そんな疑問に応え、記者と読者が共に議論を深めていく プラットフォーム。オランダ発、「新しいジャーナリズム」の姿をお届けします。

「ジャーナリズムを再定義する」
わずか8日で1億3000万円の支援を集めた新たな報道メディア


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「De Correspondent」(デ・コレスポンデント、以下「コレスポンデント」)は、Rob Wijnberg(ロブ・ワインベルグ、以下ロブさん)とHarald Dunnink(ヘラルド・ドュニンク、以下ヘラルドさん)が2013年9月に創設した、オランダの新興メディアです。

有料購読者向けのメディアとして企業広告を一切廃して運営され、年間購読料は60ユーロ、2016年9月末時点で4万7千人の有料会員、月間平均130万人が訪問するまでに成長しています。
 
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Photo by Ryuichiro Suzuki

ロブ・ワインベルグ(Rob Wijnberg)さん
1982年生まれ。『デ・コレスポンデント』の設立者であり編集長。オランダ全国紙である専門的経済紙『NRC Handelsblad』の朝刊「nrc.next」の編集長時代に、若い高学歴層を狙った戦略により購読者を80,000人獲得し、ヨーロッパで最も成功した新しい新聞の記録をつくった。
ヘラルド・ドュニンク(Harald Dunnink)さん
1981年生まれ。『デ・コレスポンデント』の共同設立者。ハイエンドでインタラクティブなプロジェクトを手がけることで知られるデジタル・クリエイティブ・エージェンシー『Momkai』の設立者でありクリエイティブ・ディレクター。

一日の記事公開本数は従来メディアより少ない約5本、そのうち1本は目玉記事として特に濃密な記事となっています。”コレスポンデント”=“特派員”という名の通り、厳選された記者たちが、それぞれの興味関心や専門分野に基いて、一つのテーマを深く掘り下げていくスタイルです。

センセーショナルで表層的な情報を短期間に大量に配信する従来の報道メディアに対するアンチテーゼとして、「ジャーナリズムを再定義する」と宣言したコレスポンデントは、「人々が世界の動きをより深く理解するためのプラットフォーム」を目指して、以下の3つの点を大切にした記事を配信しています。

・Foundational(根本的な):
非日常的な変化ではなく、日々起きている出来事の中から、根本的な課題を取り上げること

・In-depth(掘り下げた):
短い時間、早いサイクルでの報道ではなく、問題をいかに深掘っていくことを重視すること

・Constructive(建設的な):
何が起きたかを伝えるだけでなく、問題の解決策まで見いだせるような建設的な報道と議論を行うこと

たとえば、気候の話題ひとつとっても、毎日の天気予報ではなく、地球温暖化のように短期的には変化が見えにくいけれど、確実に日常の中で進行しているイシューに注目します。そもそも地球温暖化とはどういう現象で、なぜ起こっていると考えられるのかを掘り下げて調査していき、それらを解決するためにはどうすれば良いか、読者に問いを投げかけて議論を深めていくのです。
 
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Photo by Ryuichiro Suzuki 2016年6月に来日した際の講演の様子。スライドで例として紹介されているのは「パブリックWi-Fiに接続したとき、私たちは何を手放しているか」という記事。表層的な出来事やハウツーではなく、その現象の背後にある社会の構造を読み解きます。

これらは、物事の表層的で破壊的な一面ばかりを取り上げがちな従来の報道メディアの対極を往く報道スタイルです。

しかし、このような報道スタイルは、企業の利益に影響されやすい従来の広告ビジネス中心のメディアでは実現が不可能でした。そこでコレスポンデントは、有料会員の購読料のみによって記事の制作費がまかなわれる体制を取ります。

かつてオランダの大手新聞「NRCネクスト」の編集長として名を馳せていたロブさんが掲げた、新しい報道メディアの構想は、オランダの多くの人々の熱狂的な支持を受け、立ち上げ資金を集めるためのクラウドファンディングでは、わずか8日間で18933人以上から100万ユーロ(約1億3,000万円)もの寄付が集まりました。

ジャーナリズムに関するクラウドファンディングとしては世界一の規模のプロジェクトを達成したコレスポンデント。ここからは、紙面デザインや、記者と読者の交流の仕組みなど、その特徴と魅力を掘り下げていきましょう。

ユーザーの読者体験を妨げない

日常の出来事の中から問題を深掘りし、世界がどう動いているかを大きな文脈の中で読者が理解する。そんな目的を達成するべく、コレスポンデントでは、記事の中身だけでなくそれを届けるためのデザインにも徹底してこだわっているのが特徴です。

個別の記事ページには、読者が記事の内容に集中できるようなさまざまな仕掛けが施されています。

たとえば、多様な年代・視覚特性・デバイスに対応できるよう、文字の大きさ・背景色・フォントを読者自身が変更できる機能を搭載。
 
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読者が自分で読みやすい紙面バランスに調整できる機能。上下は同じ記事ですが、文字の大きさ・背景色・フォントがかなり違いますね。

また、読者が記事を最後まで集中して読めるように、関連ページ同士をつなげるハイパーリンクは本文領域から排除、記事の右端の空きスペースに概要・注釈付きで配置されています。
 
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ハイパーリンクは記事の右端に集約。読者がリンク先を読むかどうかを判断しやすくするため、短い概要説明が添えられています。

さらには、「インフォカード」と呼ばれる、ページ遷移が起こらない折りたたみ式の補足説明ブロックを開発。登場人物のプロフィールや用語解説など、すでにその分野に詳しい人なら不要だけれど、詳しくない人にとっては前提理解のために必要となるような基礎知識を確認できます。
 
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記事を理解する上での背景知識を簡単に確認できる「インフォカード」

こうした細部のデザインからも、コレスポンデントが読者体験を徹底的に重視していることが感じられます。

共同設立者でありデザイナーのヘラルドさんは、「ジャーナリズムのあり方を変えるためには、全てを一からつくり上げなければならない」と話します。

ヘラルドさん これまでのメディアでは、あくまで記事そのものが主役で、デザインは後から添えられるおまけの装飾程度のものでした。ですが、ニュースの定義や中身、ジャーナリズムのあり方を根底から変えようと思ったら、私たちが情報を届ける、受け取るためのツールのあり方から変え直さなければなりません。

発起人かつ編集長であるロブさんとヘラルドさんは、メディアの運営体制や報道スタイルと、その背後にあるデザインを立ち上げ当初から一体のものとして考え、議論し、コレスポンデントをつくり上げていきました。

読者のコメントは記事への”コントリビューション(貢献)”

コレスポンデントの新しい点は、紙面デザインだけではありません。冒頭で紹介した、建設的な(Constructive)メディアを体現するべく、記者と読者の関係を、議論を深め合う双方向な関係として定義し直したのです。

コレスポンデントの記者=特派員は、自身が書いた記事の終わりを必ず問いかけで締め、読者の知識や見解を求めるルールになっています。特派員の呼びかけに対して読者は記事への書き込みを行いますが、それらの書き込みは”コメント”ではなく”コントリビューション(貢献)”と呼ばれています。読者の貢献が議論を深め、記事をより面白くすると考えられているのです。

従来の多くのメディアでは、あくまで記者が書いた記事が「主」であり、読者のコメントは「従」に過ぎない扱いでしたが、コレスポンデントでは、読者との双方向のコミュニケーションを非常に重要視しています。

実際、特派員の仕事の大半は、記事そのものを書くことよりも、コメントへの返信をはじめとする読者とのコミュニケーションに費やされているそうです。
 
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記事のコメント記入欄には「あなたの知識や経験をシェアしたり、質問を投げかけてください」との呼びかけが。この記事では6つの”問い”に対し、23の”貢献”が集まっています。

コメント欄を、議論を深め課題の解決策を探る場として位置づけているため、読者は自分の実名と、専門性や肩書きを明らかにして「貢献」をするというルールになっています。実際にコメント欄を見ると、医師や弁護士、学生や研究者など、様々な職種・分野の読者が集まっているようです。

ロブさん 3,000人の医者がいたら、その人たちの医療知識はたった一人の医療問題の記者の知識よりはるかに深く、広いのです。建設的なオンラインコミュニケーションは、リアルの場で起きることに劣らない質の議論を生みます。

また、ここでなされた議論はGoogleの検索エンジンにも補足されない完全にクローズドな情報であり、読者も安心して自分の意見を表明することができるのだそうです。
 
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コメントする際には、名前の横に自分の肩書をつけることができます。ここでは、上のコメントは「弁護士」、下は「ゲスト特派員 ジェンダー部門担当」によるものです。

読者をメディアづくりの貢献者として位置づけることは、コミュニティの一員としての帰属意識を高めることにもつながり、ひいては新たな購読者を獲得する呼び水にもなります。

コレスポンデントの記事へのアクセスは有料会員に限定されていますが、購読者自身は、自分が読んだ個別の記事をソーシャルメディアやメールで自由に知人へとシェアすることができます。

購読者から記事のリンクを受け取った人たちはその記事を無料で読むことができますが、その記事の上部には、誰からのシェアのおかげで記事を読めるのか、表示されるようになっています。

購読者からのギフトでコレスポンデントの記事を読んだことがきっかけで、メディアそのものに興味を持った人は、自分も新たな貢献者として、このコミュニティに参画するのです。この仕組みを通して、毎日30~40人程度が新規に有料会員となっているとのこと。
 
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非会員向けにシェアされた記事のトップには「有料会員Nao Suzukiさんからのギフトです」と、誰からのシェアであるかが表示されるようになっています。

ジャーナリストは情報提供者ではなくカンバセーションリーダーへ

コレスポンデントでは、ジャーナリストは単なる情報発信者ではなく「カンバセーションリーダー」であると考え、特派員一人ひとりが自身の関心や専門性をもとに世の中に問いを投げかけ、読者と議論を深めていく役割を担っています。

特派員や読者がコンテンツを管理・蓄積するシステムも、こうした役割を意識し、読者との双方向のコミュニケーションが生まれやすいデザインとなっています。

特派員のページでは、その人のミッションや興味分野、これまで書いた記事や面白いと思った記事、経歴や連絡先を詳細に確認することができ、気になる特派員を読者がフォローすることができます。
 
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コレスポンデントのロゴと、特派員たちの似顔絵は、すべてヘラルドさんの手書きだそう。手づくり感や親しみやすさを感じやすいデザインも、特派員と読者の距離を近づける工夫の一つです。

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特派員の個別ページでは、プロフィールや興味分野、連絡先や過去の記事がアーカイブされています。

また、特派員は記事を書くだけでなく、自分の専門分野に関する講演に登壇することもあるようです。実際、特派員の個別ページには「スピーカーとして招聘する」ボタンも用意されており、読者が個別にアプローチできるようになっています。コレスポンデントが特派員の存在を何より大切にし、彼らを次のステージに押し上げるための機会をつくろうとしていることが伺えます。
 
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各分野に強い特派員を招聘することができるページ

読者が特派員を招聘するだけでなく、コレスポンデントも約2ヶ月に1回のペースでイベントを実施しています。そこでは、立ち上げ時のクラウドファンディングからの支援者や、特派員の記事に長らく貢献している読者が多く集まり、オンライン・オフラインの垣根を越えた交流が生まれているそうです。

特派員は自身の関心の強いテーマを熱意を持って掘り下げ、特派員個々人のパーソナリティや言論に惹かれた読者が集まることで、議論が深まり、ネットワークが広がっていく。こうした双方向のコミュニケーションの積み重ねによって、特派員と読者、それぞれにパーソナライズされた言論プラットフォームでき上がっていくのですね。

ジャーナリズムは、一人ひとりが世界をより良く理解するために必要なサービス

既存のメディアと一線を画す独自のコンセプトで運営されるコレスポンデント。このようなメディアが生まれたのは、創設者のロブさんのバックグラウンドに秘密がありました。

もともと大学ではジャーナリズムではなく哲学を専攻していた、ロブさん。哲学科を学ぶ最終学年にあった2006年の頃、オランダの大手メディアである「NRCハンデルスブラッド」で編集者として働き出したのが、ジャーナリズムとの出会いでした。

NRCで働きながら、自身の専攻である哲学の観点からジャーナリズムの世界を眺めたとき、ロブさんの中に、ある問題意識が生まれてきました。

ロブさん 現代において、哲学とジャーナリズムの溝はますます大きくなっていました。哲学者は、はるか太古から変わることのないものを探求し、ジャーナリストは日々変わりゆくものを追っていることがその大きな違いです。

しかし私は、哲学はジャーナリズムから、ジャーナリズムは哲学から、お互いに学ぶところがあるのではないかと考えたのです。

何世紀も前の哲学者と書物で対話をするのではなく、現代の事象に哲学的観点から切り込んだらどうなるか。表層のニュースばかりを追うのではなく、その背後にある構造を深く分析することはできないのか。哲学とジャーナリズム、その2つを融合すればもっと面白いメディアがつくれるはずだ、と思いました。

世界の本質を深く理解するためには、日々移り変わる事件の表層ばかりを追い求める今のニュース報道ではダメだ。そう考えていたロブさんにチャンスが巡ってきます。2010年に、若年層向けの姉妹紙「NRCネクスト」の編集長に抜擢されたのです。

ロブさんは、チームの編集者たちに呼びかけ、積極的なメディアの改革に乗り出しました。どれを読んでも似たようなニュースばかりの他の新聞とは異なり、ジャーナリストや編集者のパーソナリティを前面に押し出したオピニオンメディアをつくろうとしたのです。

こうした「NRCネクスト」での挑戦は、若年層読者を中心に大きな支持を受けました。しかし2年後の2012年、ロブさんは突然の解任通告を受けることになります。

従来型の保守的なビジネスモデルの中で、新聞のあり方を大きく変えるようなイノベーションは経営陣から受け入れられなかったのです。

旧来の大手メディアを変えるには、途方も無く大きな時間とコストがかかる…そう実感したロブさんは、路線衝突の末にNRCを脱退、自らのビジョンを形にするために、一からメディアをつくろうと決心します。

そんな折に知人の紹介で出会ったのがヘラルドさん。それまでグローバルブランドのブランディングも手がけてきたヘラルドさんは、ロブさんとすぐさま意気投合。全く新しいメディアをつくり上げるためにはデザインの力が不可欠と信じ、二人三脚でメディアの構想を描き始めました。
 
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Photo by Ryuichiro Suzuki

哲学とジャーナリズム、そしてデザイン。別々の道を歩みながらも偶然の出会いを果たしたロブさんとヘラルドさん。二人がコレスポンデントを語るときの言葉には、人類とは何か、世界とは何か、メディアやジャーナリズムの役割とは何か、といった根源的な問いに対する深い哲学的洞察が込められていました。

ロブさん 他の動物と違った形で、人類がこれまで進化してきたのは、知識をシェアしてきたからです。そしてジャーナリズムは本来消費の対象ではなく、社会の新しい見方を生み出し、人類がその知識をシェアするために必要なサービスなのです。

コレスポンデントがこれだけ支持されたのも、人々が本来的にそうした機能を求めていたのに、現在のジャーナリズムがそれに応えられていなかったからでしょう。

ヘラルドさん 私たちがつくろうとしているのは、単なる報道・出版機関ではなく、人と人のつながり、知識のネットワークそのものなのです。

確固たる哲学と、それを形にするためのデザインとビジネスモデル、何より社会の実態を探求し、知識をシェアしようとする、熱意ある特派員と読者のネットワークが、コレスポンデントをこれまでのメディアとは全く異なる存在として成立させているのでしょう。

コレスポンデントのネットワークが今後どんな広がりを見せるのか、これからも目が離せませんね。

以上、オランダの新興メディア「De Correspondent」が考える、新しいジャーナリズムとその実践について紹介してきました。

一人ひとりが、世界をよりよく理解するためのプラットフォームとして生まれたコレスポンデント。一人ひとりがほしい未来をつくるためのアクションを起こすプラットフォームとしてのグリーンズ。それぞれの方向性に違いはあれど、共通する要素も多いかもしれませんね。

そこで、後編となる次回の記事では、ロブさん・ヘラルドさんとgreenz.jpの編集長・鈴木菜央が対談を敢行! メディアのこれまでとこれから、コレスポンデントとグリーンズのビジョンについて、余すことなく語り尽くしたその様子をお届けします。どうぞお楽しみに!

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鈴木悠平

鈴木悠平

greenz シニアライター ひと・もの・ことの閒-あわい-にある物語を探求しています。 お仕事は、企画・執筆・編集業が中心。 東日本大震災後の宮城県石巻市におけるコミュニティ事業、大学院での地域保健政策及び高齢者ケアの国際比較研究を経験した後、株式会社LITALICO入社。発達障害に関するポータルサイト「LITALICO発達ナビ」の企画・編集を担当。 ウェブマガジン「アパートメント」「soar」の運営・編集にも携わる。

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