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いつの間にか地域のコミュニティスペースになっていた! 「ハコノカフェ」鹿子木夕子さんが、人が集まるカフェを続けている理由とは?

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特集「マイプロSHOWCASE 東京・西多摩編」は「西多摩の未来を考える!」をテーマに、西多摩を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介し、西多摩での新たなイノベーションのヒントを探る羽村市・青梅市との共同企画です。

「サードプレイス」という言葉をご存知でしょうか。第一の場所の「家(ファーストプレイス)」や第二の場所の「職場(セカンドプレイス)」。そのどちらでもない、一個人としてくつろぐことができる第三の場所を「サードプレイス」と呼び、個人の生活を支える重要な空間として注目されています。

東京都羽村市に住む人にとって、サードプレイスの一つとなっているのが、地域の憩いの場である「ハコノカフェ」です。オーナーの鹿子木(かのこぎ)夕子さんがカフェをオープンしたきっかけ、そしてどんなことを考えてお店を続けているのか、お話を伺ってきました。

JR青梅線・羽村駅東口から徒歩10分。大通り沿いの一角に花のマークと黒い文字で「ハコノカフェ」と書かれた、白い看板があります。看板の下をくぐって階段を昇ったらそこが入り口です。
 
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扉を開けると、木の素材感を生かした茶色と黒の色使いとアンティーク風の家具で統一された店内・・・外の喧騒をふっと忘れさせてくれるような空間です。
 
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温めていた喫茶店の夢

オーナーの鹿子木夕子さんがカフェをオープンさせたのは2011年12月。もともと大の喫茶店好きだった鹿子木さんにとって、お店を開くことは長年温め続けてきた夢でした。

特に老舗の喫茶店が好きで、そういう空間にずっといたかったぐらいなんです。だから20代前半から、いつかお店を開きたいなと思って、インテリアの雰囲気やメニューのことをよく考えていました。

でもずっと東京で一人暮らしをしていて、開業資金と言えるほどのお金が貯まるわけでもなくて。そうこうしているうちに主人と結婚して子どもも生まれたので、もうお店ができるのは老後かな、ぐらいに思っていました。

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鹿子木夕子さん

「子どもがいるからもうできないんだ、やっちゃいけないんだと決め込んでいた」という鹿子木さん。そんな鹿子木さんの背中を押してくれたのは、ご主人でした。

「やりたいんだったらやれば」と言ってくれたんです。主人は主人で夢をかなえていたので、自分だけがやっているのが申し訳なくなったんですかね(笑)

でもそれを聞いたら、「なんだ、やっていいんだ」って思えて。そこからは早かったです。ずっとイメージしてきたので、準備はできていたのかもしれません。

物件を探したところ、スケルトンでシンクがぽつんとあるだけのこの場所を見つけます。床と壁はイメージを伝えて内装業者にお願いし、ペンキ塗りなどは自分で行いました。

秘けつは無理をしないこと

2人のお子さんのママでもある鹿子木さん。当時、上のお子さんは幼稚園、下のお子さんはまだ2歳だったそう。そのため今でも、カフェを開くのはお子さんを預けている平日、火・水・木・金の昼間のみです。

最初は土曜日も開けてたんですけど、主人は土日が休みだから、家族のリズムが合わなくなってしまって大変でした。なのでそこは割り切って、今では土曜も休みにしています。

子育てをしながらカフェを経営する、なんて聞くとなんだか大変そう、と思いますが、鹿子木さんからは無理して頑張っている様子が少しも感じられません。

しんどくなったら終わり、楽しくなくなったら終わりだと思っています。お店を継続する一番の秘けつは楽しむことですね。

お店で出すメニューに関しても鹿子木さんは無理をしていません。カレーはお友だちでもある「Feel vegan food」のこだわりのベジカレーを仕入れ、ケーキも同じくお友だちのケーキ屋さん「Afterhours」から取り寄せているそう。さらには、羽村市内のパン屋さんやお菓子屋さんからも、カフェで提供するメニューを仕入れています。
 
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「皆様にとって、ほっと一息できる空間となれば幸いです。ハコノカフェ」

以前はカレーも頑張って自分でつくっていたんですけど、それもやめちゃいました(笑)

とにかく美味しいものを提供したいという思いがあるので、お友だちのところでつくっている美味しいものは取り寄せさせてもらって、私はコーヒーに集中しています。

コストはかかるけど自分が惚れ込んだ味であれば自信を持って出せますしね。みんなの力を借りてやっている店だな、という実感があります。

お店でつくらずに取り寄せをしているのは、それが自分にとって無理がなかったから。でもそうして選んだ答えは、昔からの友人や、地元のお店などとつながることを大切にする結果になっています。

つながりつながるコミュニティ

鹿子木さん一家が羽村市へ越してきたのは、10年ほど前。ご主人の当時の職場が青梅線沿いだったことから、沿線で「子育てがしやすい」と聞いた羽村市で家を買うことにしました。住宅地で買い物がしやすく、自然に触れることができ、子どもも多い羽村市は実際に住みよいまちだといいます。

しかし羽村市はもともと縁もゆかりもなかった土地。カフェをオープンしたのは、越してきてから4〜5年経ってからでしたが、最初はお客さんが来なくて大変でした。

開店当初は何人かの知り合いが顔を出してくれたんですが、1ヶ月ぐらい過ぎたら「今日も誰も来なかった」って日がしばらく続きました。でもいつからかですね、口コミで自然と人が来てくれるようになりました。

今では、ただおいしいごはんとコーヒーが楽しめるカフェというだけでなく、地域の人たちが集い、つながる場にもなっています。
 
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鹿子木さんが好きな漫画や本、レコード。そして取り寄せて販売している雑貨や洋服。「ハコノカフェ」の名前の由来は2人の娘さんの名前からきていますが、同時に、鹿子木さんの好きなものや夢が詰まった「箱」でもあります

実は鹿子木さん、最初はこんなにお客さんと話をすることになるとは思っていなかったそうです。

もともと喫茶店でひとり静かに本を読んでいるのが好きだったというのもあって、それこそ「喫茶店のマスター」みたいに、美味しいコーヒーを黙って出して、お客さんを遠くから見ているつもりでした。

でもいつの間にか、いらした方とよくおしゃべりするようになっていたんです。お客さんによると、どうやらこの空間がそうさせているみたいですよ。すごくしゃべりやすいみたいで、ここに来た方同士もつながって、今ではコミュニティスペースのような場所になっていますね。

ハコノカフェでは、コーヒー講座、ギター弾き語り教室、ヨガストレッチに占い、心理学の勉強会まで! なんだか気になるイベントが日々開催されています。これらのイベントは、鹿子木さんが企画したというよりは、ほとんどがお客さんから声をかけられて自然に始まったものだそう。
 
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ハンドドリップコーヒー講座の先生はもちろん鹿子木さん

お店を使いたいと言ってくれる人には、どうぞと貸し出しています。同じ羽村市の人だったら活動を応援したいという気持ちもありますね。

それに、これが不思議と、私の興味があることをやりたいっていう人が集まってくるんです。私も参加できてありがたいし、お店を知ってもらえるし、イベントを開催したい人も場所を使えて、参加する人も楽しくて。みんなにとっていいようになるのがいいなって思いますね。

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ハコノカフェで定期的に開催している占い。とっても元気になれる占いでリピーターさんも多いとか。気になります!

ひとりだけどひとりじゃない

カフェのオープンから4年半以上を経て、当初予定していた「ひとりで静かに過ごす喫茶店」から「まちのコミュニティスペース」へ、カフェのコンセプトも大きく変わっています。それは鹿子木さん自身にもこんな変化をもたらしました。

カフェをオープンする前、私は自分がこのままでいいのかなと思っていました。結婚して子どもを産んだけれど、「私はこれができる」と自信を持って言えるものがないと感じていて。だからカフェを始めたのは、人から認められたいという思いもありました。

でも今は、自分のことよりもお客さんに意識が向くようになっています。自分のわがままで始めたのに、だんだん自分というものがなくなって、気持ちが人へと向くようになっていました。

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そうやって集まる人との関わりの中で変化していったカフェは、今では鹿子木さんひとりのものではなくなってきているように感じているそう。

いっとき、お店はもうやりきった、違うことやろうかなと思ったこともあるんです。私、やりたいことがいろいろある性分でして(笑) でも、お客さんを見ていると続けないといけないなって。ずっとひとりでやっているんですけど、もうひとりのものではなくなっていますね。

カフェを継続することは大変だけれど、それ以上のものをもらっているように感じるという鹿子木さん。

今は少しでも長く続けられたら、と思っています。一息つきに来てくれて、そこには誰かがいて。そういう場所であり続けられたら。

ずっとお店に来てくれていた人が妊婦になって、産んだらまた1ヶ月ぐらいで赤ちゃん連れてきてくれるんです。その赤ちゃんがまた大きくなって、自分で来てくれるようになったら嬉しいですよね。

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カフェの一角には子どもたちが遊べるキッズスペースを用意。小さなお子さんのいるママたちも気軽にお店に来ることができています

ハコノカフェを訪れて心地良かったのは、そこにいる鹿子木さんがあくまで自然体なこと。「もしも夜まで営業したら、メニューを増やしたら、お客さんは増えるのかもしれないけれど、それはしません」。鹿子木さんはきっぱり言い切ります。

家族との時間、美味しいものを提供すること、ハコノカフェに関わるみんなが気持ちよくいられること。大切にしたいことを大切にして、あとのことは手放す。そうした鹿子木さんの無理をしない姿勢こそが、地域の人が参加できる余白であり、人が集まる場所を長続きさせる秘けつでもあるのだと感じました。

(撮影: 星野耕史)