都市と田舎が互いを思いやる、あたたかい社会をつくりたい。「アスノオト」信岡良亮さんに聞く、「地域共創カレッジ」を都市で開講した理由

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信岡良亮さん。「地域共創カレッジ」の会場(ちよだプラットフォームスクウェア)で。

こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

突然ですが、あなたの故郷(くに)はどちらですか?

自分自身の出身地はもちろんわかるけれど、改めて親の親、そのまた親とたどっていくと、行ったこともない地名が出てくるという方もいるかもしれません。そして、今は都会に暮らしていても、根っこは、祖父母や曾祖父母の代が暮らした田舎にあるという人も多いでしょう。

都市と田舎はもともと親戚である。そんな考えのもと、この春に東京で誕生した「地域共創カレッジ」は、両者の心をつなぎ直す人材を育成しています。

どのような思いから、カレッジ創設に至ったのでしょうか。「地域共創カレッジ」を運営する「アスノオト」代表の信岡良亮さんに、話を聞きました。

都市と田舎が互いを思いやる社会へ

昨今、日本各地で過疎化や高齢化が深刻さを増しています。田舎に移住して地域おこしに励む方法もありますが、東京で開講した「地域共創カレッジ」が目指すのは、「都市側」で活躍する人材の育成です。

僕らが「都市」と言っているのは、働くために、みんなが出てくるような所です。経済を中心に物事が回っている世界ですね。

一方の「田舎」は、暮らしや生活や人間関係、つまりコミュニティを中心に回っている世界。このように僕らは、文化圏として区別しています。

働いて対価を得る所と、物々交換が日常であるような所。「地域共創カレッジ」が定義する「都市」と「田舎」は、人口密度などで測って、単純に地図上で塗り分けられるものではありません。ポイントは文化の違いです。

今、都会と地域が関わろうとする行為は、たいてい「行く・買う・住む」の3つなんですよ。ここに、企業の誘致も少し入りますが、主に、観光の話・特産品の話・移住の話になります。でも、この3つをやっても結局、都会の消費者の奪い合いにしかならないんです。

そこで、信岡さんが立ち上げたのが「地域共創カレッジ」でした。地域とのつながり方を増やすための「都市側コーディネーター」を目指す人に、学びの場を提供しています。

都市にいながら活躍する「都市側コーディネーター」が増えれば、子育てや介護や仕事で都市の自宅を離れづらい人も、気軽に田舎とつながれそうです。

「地域共創カレッジ」が描く交流の形は、「互いを認め、心をつなぐ」もの。必ずしも経済的なメリットは生み出しません。数値化もできないけれど、そもそも愛とはそんなもの。経済優先では見えてこない人生の本当の価値に重きを置いた取り組みです。

もともと、都市と田舎は親戚なんです。都市で稼ぐ人たちの多くは地方出身者だし、次男や三男だけが都会に出てきていた時代もある。

それが、2代、3代と経ち、全く知らない人になった。だから、もう一度、お互いに普段から気にかける親戚のような、あたたかい関係を取り戻したいんです。

とっさに「故郷」が思い付かない人も、血縁があろうとなかろうと、縁ができた土地を故郷と思えれば同じこと。10までの力を持っている人は、1地域に10の力をかけて関係をつくってもいいし、1ずつの力で10個の地域と関わってもいいのだそう。

3.11を経験して、カネもクルマも、都会にあるものは、ほぼ食べられないと実感しました。被災してしまえば、例えば500万円あっても、それで復興できるものは少ないし、そもそもコミュニティが壊れてしまったら生活できませんからね。

結局、最も支えになるのは、「困ったら、ここにおいでよ」「これ余っているから、あげるよ」と声を掛け合える、思いやりある人間関係ではないでしょうか。

心の価値を目減りさせないように

都市側コーディネーターを育成するカレッジを主宰する信岡さん自身、すでに島根県海士町の都市側コーディネーターとして活動中です。

僕の中では、生産者と消費者という関係をどう変えるかという課題があって。都市側コーディネーターを増やすことで、都会と田舎の心理的なつながりが育まれる確率を上げていきたいんです。

心理的なつながりって、具体的には、どういうことでしょうか?

例えば、物々交換というのは、実は、あまり“物”の価値は交換していない。交換しているのは人の心です。「イカ獲れたから」って言われたら、要らなくても、もらう。

良いものをくれる人を狙って、物をあげにいくわけではないですよね。近くにいてほしい人のところに、物を渡しに行く。バレンタインだって、ほしいのはチョコじゃない。思いがほしいんです。

でも、この心の価値って、摩耗分がすごく大きいんですよ(笑) 物の価値は保存されても心の価値は保存できないから。

そこを何とか、生産者が作物に込めた思い、小さな島の観光局の人が持っている思い、そういう心の価値を目減りさせずに、ちゃんと都会に伝えたいんです。

「心の価値の目減り」! 名言です。確かに、フェアトレード商品や有機野菜など、そこに込められた思いを知らなければ、店頭で見た人は「高い」と思うだけかもしれません。ストーリーを知って初めて、「高くても妥当」と思えるのではないでしょうか。

ストーリーを共有して、都市に住む人々に価値を感じてもらうために、信岡さんは都内のカフェを借りて、海士町ファンが集う期間限定の「AMAカフェ」を開いています。

他にも「2ヶ月限定 島の大使館」を開催して、店番は有志が交代で担当。地域の物産を扱い、町の人を講師に招いて勉強会をしたり。町と都会をネット動画でつないで交流することもあります。
 
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海士町産の野菜や米を使ったメニュー。海士町プロモーションのために期間限定オープンしたカフェ「島の大使館」で提供されました。

「地域共創カレッジ」創設に先駆けて信岡さんが経験した2カ月間のカフェ運営(海士町プロモーション用「島の大使館」)では、月23万円の島に落ちるお金を生み出し、立派に雇用をつくれる可能性も示しました。

「地域共創カレッジ」が育成したいのは、こういう試みを積極的に考案し実行に移すような、多様な人材というわけです。

地域側と都市側の講師陣が学びをサポート

「地域共創カレッジ」は、「都市で働いている未来の担い手」を毎年20人ずつ募集します。第1期生の募集は、先日、終了しました。

集まった20人の受講生が、2016年5月から約半年にわたり、5つの地域を4人ずつで担当。地域のプロジェクトを実際に動かしながら学ぶ「プロジェクト・ベースト・ラーニング(PBL)」に取り組みます。

今期の5地域は、岡山県西粟倉村と徳島県神山町と徳島県上勝町と島根県海士町と宮城県女川町。いずれも「地域活性化」の成功事例として知られた町です。もう軌道に乗っているように見えますが、まだまだたくさんの挑戦が必要と、当事者たちは感じています。

地域を動かしているのは人です。メディアに取り上げられるほど盛り上がりを見せた地域でも、20年も経てば、40代から頑張っていた人が60代になります。新しい人が頑張らないと、次の動きは出てこないんです。

そこで、「地域共創カレッジ」は、5地域からソーシャルアントレプレナーたちを招致。現在の課題を踏まえて、受講者と語り合いながら、取り組むべき新プロジェクトを設定します。
 
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岡山県西粟倉村の講師(森の学校ホールディングス代表取締役・牧 大介さん)

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徳島県神山町の講師(NPO法人グリーンバレー理事・祁答院 弘智さん)

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徳島県上勝町の講師(一般社団法人ソシオデザイン 代表理事・大西 正泰さん)

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島根県海士町の講師(巡の環代表取締役・阿部 裕志さん)

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宮城県女川町の講師(NPO法人アスヘノキボウ 代表理事・小松 洋介さん)

さらに、「地域共創カレッジ」は、3名の東京側の講師とも提携。枝廣淳子さん(東京都市大学環境学部教授・幸せ経済社会研究所所長・環境ジャーナリスト・翻訳家)と、井上英之さん(慶應義塾大学特別招聘准教授)と、西村佳哲さん(働き方研究家)が、受講生の学びと実践を支えます。

講師のお一人ずつとは、それぞれ別々につながりました。考えられる中で最高の布陣が用意できたと思っています。

受講生は、「都市側がチームになる」→「都市側と地域側がチームになる」→「都市側と地域側が深くつながる」という3ステップのカリキュラムを、ステップごとに3Hの手法で学んでいきます。

枝廣さんは1つ目のH(Head=未来を考える)、井上さんは2つ目のH(Heart=自分に根差す)、西村さんは3つ目のH(Hand=巻き込み、協業する)を担当。参加者を耳学問で終わらない深い学びへと導きます。

3Hは、英国トットネスにある「シューマッハカレッジ」で校長を務めるサティシュ・クマール氏が提唱した考え方です。頭で未来をちゃんと想像し、心で今と未来をつなげ、体で実際に動かしていく。このモデルを大切にしています。

「地域共創カレッジ」のプログラムは、週1回、計20回ほどの講義やワークショップと、期間中1回の現地訪問から成ります。座学で全体像をつかんだ上で、まず小さく一歩を踏み出せるところまでをサポートしてくれる構成です。

育む世界をちゃんと評価する

かつては都市で働く会社員だったという、信岡さん。過労で体を壊したことがきっかけで退職し、その後に友だちのツテをたどって海士町(島根県隠岐郡)に移住し、6年半暮らしました。

その海士町にとどまって活動するのではなく、敢えて都会に戻り、2015年に「地域共創カレッジ」を創設した理由は何だったのでしょう?

3.11を経て、「地方の課題は、地方だけでは解決しない。都会との関係性を改善しなければ」と思ったんです。

よく「魅力不足」というワードで、地方が経済的に自立していないことを問題視しますが、よくよく考えれば、都会で稼いでいる多くの人を生んだのは地方です。

作物にたとえれば、種から芽が出て双葉まで育てるところまでは地域で行って、強く育ったものが実になる頃には都市に輸送して実を取る作業だけは都市でする。収穫物だけがコスト的にプラスで、育む部分はマイナスと捉えられる。

育むほうに対する評価が低すぎる結果、何が起こるか。育む人がいなくなるんですよ。誰も育まなくなるから、人口が減っていくんです。

「経済」以外のところの評価ができていない、これこそが問題なのに、またそれを経済でなんとかしようとしているから、おかしなことになる。

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「地域共創カレッジ」が目指す未来について語る信岡さん

都会育ちの信岡さんは、もともと田舎について全く知りませんでした。住んでみて初めて、子どもを産んだり、自然を育てたり、生きているものを生み育てることに関しては、地方のほうが得意で、それを文明的に運営することが得意なのが都会なのだと実感。東京は田舎がなかったら持続できないと気づきました。

環境と社会と経済を並列に考えがちですが、実際は、環境という大きな枠の中に社会があり、さらにその小さい枠の中に経済がある。でも今は、経済の外枠である「社会」をつくっているものを無視して、経済をつくっている方ばかり評価しています。

物々交換の社会をつくれば、いわゆる貨幣的な「経済」がなくても、生活できるんです。でも環境がなかったら、そもそも経済は成立しない。

何が基本で、何が応用なのかというところが、今すごく逆転していると思っています。

信岡さんには、海士町で暮らしたからこそ得られたビジョンがあります。主従が逆転している都会のありようを変えたいと願うからこそ、都会に戻り、「地域共創カレッジ」を開講しました。

僕の中では今でも、海士町から離れた感覚がないんですよ。むしろ、別々だった都市と田舎の世界が、ただつながって、同じことをしているだけなんです。

海士町に暮らしていた頃は、東京は間違っている世界だと感じることもあった。それが最近は融合してきて、この「地域と都会」という家族の関係をどうしようかと考えている感じです。

つくりたいのは、あたたかい社会

「地域共創カレッジ」の1期生の年齢層は20~40代と幅広く、志も多様です。

いつかは田舎に行きたくて働き方に興味があって参加した人、都市にいながら田舎に何か貢献がしたくて参加した人、実際に都市で事業をしていて都市側のフィールドと地域側のフィールドを混ぜて動かす計画があって参加した人などです。
 
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「地域共創カレッジ」のキックオフイベント。100人近くが参加しました

田舎にパッと行っても、人づてでないと、本当におもしろいところには行けないものです。そういう時に都市側コーディネーターがいれば、「本当にこの人に会うと面白いから、紹介するね」といった地域密着の情報がもらえますよね。

身近に「つなげ役(都市側コーディネーター)」がいたら、都市生活者にとって、田舎への心理的な距離は、ぐんと縮まるでしょう。

都会と田舎は、そもそもつながっています。何をしていても、田舎なしに成立している都会はないんです。それを見るか見ないか。心を込めるかどうか、ですね。

カレッジ卒業生が、どんな活動をするかは自由です。僕としては、心を込めてお仕事ができる人が増えたら、それでいい(笑)

タンポポの綿毛のように、好きな所に着地して、どんどん芽吹いて、好きなように花を咲かせてくだされば。そうすれば、また次につながるから。

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キックオフイベントのひとこま。都会と地域をつなぐ役割に関心を寄せる人たちのまなざしは真剣です

信岡さんは、海士町の美容室を例に挙げて、「値段じゃない。あの人のところに行くという感覚。自分が払った4000円で、その家の子が育っていくのが目に見えて分かるから高い・安いで選ばない」と語りました。

昔ならきっと、どこにでもあった、あたたかい社会が、地方にこそ豊かに残っています。その価値を再評価し、多くの人に伝達する人材を育む「地域共創カレッジ」。そこからは、社会にぬくもりをプレゼントしてくれる人物が、次々と巣立っていきそうな予感がします。

1期生が学ぶ様子は、順次、ウェブメディア「灯台もと暮らし」にアップされます。2期生の募集開始は2017年2月頃の予定。今後の展開に興味がある方は、ウェブサイトを頻繁にチェックしてみてくださいね。