つくるのは「接点」。 「接点デザイナー」ヒランケンさんの、モヤモヤを突破する「いい仕事」のつくり方

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自分がベストを尽くしても、それが思う結果に結びつかないことって、たくさんあると思います。

たとえば、お仕事において。「こうありたい!」「こうしたい!」思いはあっても、結局、時間がない、お金がない、勇気がない、理解してもらえない、などの障害がたくさん。

そして結局は、旧態依然としたやり方を変えられずに、毎日をこなしていく。でも「本当にこれでいいのかな?」「自分のやってることに意味があるのかな?」というモヤモヤを、抱えたことがある人はたくさんいるはず。

そんなモヤモヤを、「肩書きを変える」というやり方で突破しようとしている人がいます。「接点デザイナー」ヒランケンさんこと平山健宣さん

大阪・梅田の有名百貨店での広告制作から、イベント運営、アクセサリーデザインと、形態・媒体を問わず、幅広いクリエイティブワークを手がけています。デザイン会社での勤務を経て、フリーランスデザイナーとして独立したのが8年前。数年ののち法人化し、setten design株式会社となって現在に至ります。
 
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ヒランケンさんの事務所がある「イロリムラ」のギャラリーにてインタビュー。

いろんなことできるのに、いろんなことできるってわかってもらえない

もともと、名刺には肩書きは入れておらず、それは「デザイナー」と自称することに、恥ずかしさとプレッシャーを感じていたから。

でも、デザインワークに収まらないさまざまなお仕事を請け負ううちに、あるときから「なんか困ったらヒランケンに1回相談してみよう」って思ってもらえる人になりたい、と思うようになったのだそう。

肩書きを変えることの必要性に関しては、もう結構前から感じてた。デザイナーって書いちゃうと「チラシ作ってくれる人でしょ」って思われるのが、その時から嫌で。「いや僕、なんでもやりますよ、間つなぎまっせ」っていうのは、思ってた。それで、肩書き変えなあかん!って強く思ったのは、3年くらい前。

その頃からのモヤモヤは、自分の仕事の受け方に対して疑問を感じていたこと。

いわゆるデザイナーっていう職業は、広告代理店とか、ほかの制作会社からお仕事をいただくことが多いねんけど、その仕事のもらい方って、全部がそうではないけど「あなたの代わりはいますよ」みたいなことが多い。ていうことは、その他大勢のデザイナーと、setten designの平山っていうデザイナーは、同じ「デザイナー」なわけ。

その同じ土俵に上がって、同じ椅子を取りに行ってる時点で、先々、誰かはあぶれるわけやんか。って考えた時に、同じ土俵に上がらない、椅子取りゲームに参加せずに、自分だけが置いた椅子にそっと座りに行く、みたいなことをしないといけないと思ったら、やっぱり対外的に見せる自分の肩書きを、なにかしら変えないといけないと思った。

「その他大勢」に埋もれないように、というテーマは、デザイナーに限らず、どんなお仕事人にも共通する、シビアな課題ですよね。

広告デザインのみならず、プロダクトデザイン、大学講師、イベント運営、アーティストマネジメントなどなど、様々なことを手がけるヒランケンさんですが、「いろんなことできるのに、いろんなことできるってわかってもらえてないのさみしいな」と感じていたそう。

いま、いろんなお仕事の線引きが、だんだん曖昧になってきています。多くの人が、何足ものわらじを履いているけど、そこでそれをうまく伝えられないでいるのかも。
 
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オリジナルアクセサリーブランド「Serif」。実際の本をイヤリングやブローチにしているとっても斬新な「TRANSBOOK SERIES」ライン。

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ヒランケンさんがプロデュースする出張コーヒー屋さん「CORO CORO COFFEE」。店主は写真家の興梠友花さん。写真家+バリスタという組み合わせ、こちらも斬新!

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ヒランケンさんとその仲間たち「OSAKA盛り上げ隊」による夏の野外ライブイベント「乾杯プロジェクト」。写真は2014年に開催された時のもの。2000人超で乾杯する風景は圧巻です!彼らへのインタビュー記事はこちら

自分に興味を持ってもらえない、他との差別化が図れない理由のひとつに「肩書きの持つ共通認識が邪魔をすること」があるとヒランケンさんは言います。

自分のことを初めて知った人に、「デザイナーです」って言うのと、全然わけわからん「接点デザイナーです」って言うのとやったら、心へのファーストタッチが違うんちゃうかなっていう気がするのね。「デザイナーです」って言ったら、「あー。デザイナーか。」で、話をきいてくれない人もいたりする。

でも「接点デザイナーってなんですか?」って質問してもらえれば、こっちに話す権利がもらえる。だからその肩書きの持つ共通認識がないところに行ってしまえば、質問してくれるんちゃうかなって。

基本的には「いろいろ提案できまっせ」なんやけど、相手に対して「あなたの求めてるものってうちの得意なものなんですよ」っていうことを提示できる肩書きかなって。

相手が例えば飲食店の人で、新しいお客さんとタッチポイントを増やしたいと思ってる人やったら、「僕は2000人規模のイベントの主催をしていて…」っていう話から入って、「そういうのをデザインでフォローアップしていくんです」みたいな話の順番になるけど、相手が制作会社の人やったら、「ミュージシャンのCDジャケットとか、ツアーのグッズとかすべてに関わっていて、文字を使ったデザインがすごく得意なんですよ」っていうところから入っていくっていう、自分を説明する順番を入れ替える余裕があるっていうか、順番を入れ替える権利が、その肩書きにはあると思う。

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ヒランケンさんが得意とする「タイポグラフィ」。ジャムバンドindigo jam unitのクールなアートワークは、ヒランケンさんが手がけています。

独立当時は、デザインにとって必要な「人と人との接点をつなぐ」こと、そして自分が好きな活版印刷の「セッテン」というアイテムのダブルミーニングでつけた「setten design」ですが、今になって思えば「独立してから自分が選んできたことって、無意識に自分がつけた名前に寄せてたんちゃうかなっていう気もする」とヒランケンさんは言います。

結果的に「わぁいい名前つけたね俺!」みたいな感じで(笑)。

肩書き変えようって思ったときに、「俺はなんで会社名をsetten designにしたんやろ」ってところから考え始めたし、独立当時はなんも考えてなかったけど心のよりどころとして、この社名でいいのかって自問自答しながらきたら、自然とこうなってたような気がする。

好きな人と、やりたい仕事だけできるようになるために

そんな「接点デザイナー」としてのお仕事って、どんな感じなのか聞いてみると「仕事内容が今までと大きく変わるわけではない」とヒランケンさんは言います。

でも、そのヒランケンさんのお仕事での強みは、「往診」。クライアントさんの本当のニーズを引き出すことを、とても丁寧にやっていきます。

たとえば「カメヤマローソクがほしいで」って言われたとする。そこでなにも考えずにカメヤマローソクを差し出すのもひとつやけど「家を明るくしたいの?あなたが家を明るくしたいのはどこですか?トイレですか?リビングですか?それとも手元ですか?じゃあ、手元やったらこのペンライトがいいんじゃないですか?」っていうのを、カスタマイズしていく。

目の前にいる人にちゃんと結果がでる形で往診して、カスタマイズしたものを、接点に当て込んでいくっていうのを、丁寧に1個ずつやっていくっていうのが、接点を紡いでいく接点デザイナーの仕事かなとは思う。世にでてる言葉で言うたら、「ブランディング」なんかもね。

でも、ヒランケンさんは自分の仕事を「ブランディング」とは言いません。自分の思いが通じるように、自分の言葉で説明をするための「接点デザイナー」なのです。

言い方を変えることによって、クライアントに思いが通じる、通じる=目の前の僕のことを信じてくれる。

信じてもらったら、寝る間も惜しんで頑張る、頑張ったから結果が出る、結果が出たからまた信じる、みたいな、この人間同士のやりとりが、できるだけいい形で始まりたいなっていう思いがある。

目の前の人に対して、真摯に向き合うヒランケンさんの姿勢は、お仕事においての「感謝して感謝されて、そこで力を尽くし、お金をいただく」という本来のあるべき姿を思い起こさせてくれます。

好きな人と、やりたい仕事だけやりたい。そのためになら、寝る間も惜しんでやりたいけど、なんか、あなたの代わりいますよっていう感じで(の仕事を)、寝る間も惜しんでやるのはできるだけ減らしていきたい。

お客さんとも、サポートしてくれる人とも、直接やり取りをする、直接自分の思いを伝える、っていうなかで、できることだけやればいいかな、と思ってる。

人が話してることや、人が何かを選択するのを見た時に、稚拙でもいいねんけど、その人が自分と向き合って、そこで「誰かがやってたから」っていう理由じゃない選択をしたな、っていうのに気づいたら、わぁ、この人と一緒に仕事したいなって思う。

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大阪・梅田の阪急百貨店のディスプレイデザインを手がけたことも。写真は、一週間の営業時間のなかで、材料を運び込むところからスタートし、何もない空間を彩っていくという、ライブのプロジェクト。制作途中も、すべて作品なのです。

仕事で得たい感覚は「頼られてる感」

人生には数年ごとにいろんな転機が訪れます。もちろんヒランケンさんにも。

肩書きを変えることを強く意識した3年前、そしてついに本当に肩書きを変えた今年、それぞれ、お仕事の上でかなりつらいことがあったそう。

肩書きを変えた今年は、「このタイミングで離れていく人もいると思う」と言いますが、ヒランケンさんは、本当に自分がしたいお仕事を自分のやり方でやっていくために、自分なりのやり方で一歩踏み出したんですね。

挑戦せずして死んでいくなら、前のめりに死んでいったほうがいいかな、っていう。だから、行き着くところは、自分が何者なのか、なにができるのか、だれのこと幸せにできるのか、っていうことを、突き詰めていってる人がどれだけいて、勇気をもって実行に移してる人が、どれだけいるのかな、っていうのを、すごくつぶさに見てる感じがあるかもしれない、今は。

一歩踏み出したヒランケンさんの言葉は、自分に対するストイックさはもちろん、同時にお仕事のみならず、いろいろな側面で、目の前の人にもとてもストイックな目線を向けているなって感じることがあります。

でもそれは、とても繊細なプロ意識と、純粋さの裏返し。ヒランケンさんて、すぐムキになる、とっても純粋な、愛のある人なんです。

「平山さんが仕事で得たい気持ちとか感覚ってなんですか」って聞かれたことがあって、その時になんやろって思ったら「必要とされてる感」それが、仕事だけじゃなくて、家族にも。頼られてる感じがただ単に好きなんやなって、めっちゃ思った。

「ヒランケン、あれでけへんかな、これでけへんかな」って、いろんな人に頼られたい。それが全部のベースにある。だから…頼られ屋か。頼られ屋やな!(笑)

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いつも、目の前の人にも、仕事にも、真摯に向きあっているヒランケンさん。その姿を見ていると、こちらの背筋もピンとする気がします。

自分に向き合って、自分と対話して、自分にしかできないやり方を、自分の頭で考えて、一歩踏み出す。

ヒランケンさんが教えてくれたのは、自分と自分の仕事を好きでいるために、とっても大事なことだけど、多くの人が目を向けずにいることかもしれません。

でももし「このままじゃヤダ!」と思ったら。明日からのあなたの肩書きを考えてみるところから、なにかがスタートするかもしれません。

(Text:池田佳世子)