日曜の朝に集合した東京シャボン玉倶楽部(シャボンズ)のメンバーたちが、思い思いにシャボン玉を吹く。Photo by Nao Manabe
個人的な思いから始まるマイプロジェクト。だからゴールをどこに置くか、なにを「成功」ととらえるか、人ごとに異なるでしょう。でも、できるなら長続きさせたい!と多くの人が願うもの。秘訣はどこにあるのでしょうか。
4年前に結成された「東京シャボン玉倶楽部」は、2011年6月にgreenz.jpでご紹介したほか、多くのメディアにも登場。全国にその輪が広がっています。「タバコの代わりにシャボン玉のあるライフスタイルを提案する」という、いたってシンプルな活動です。
Photo by Nao Manabe
左から、長部広太さん、近藤(旧姓:岩端)美緒さん、平野(旧姓:阿部)美奈さん、杉本有紀さん。北九州へ転勤になった坂田雄平さんを加えた5人が、2010年12月に結成した任意団体。愛称はシャボンズ。http://shabons-with.me/blog/
面白くてみんなの役に立つアイデア
医学的なタバコの害は、喫煙と受動喫煙を問わず、周知の通り。ただ、喫煙の場がきっかけで生まれるコミュニケーションがあるのも事実です。
オフィスで肩書きを外した交流を図れるだけでなく、阪神淡路大震災や東日本大震災の直後、喫煙所の存在が被災者の大きな支えになっている場面を、僕は現地で目撃しました。
そんな、心への一服。タバコを「吸う」のでなく、誰でも参加できるシャボン玉を「吹く」シーンに置き変えられたら?
2010年当時、「丸の内朝大学」に通っていた5人は「面白くてみんなの役に立つものを考える」という授業課題をきっかけに、このアイデアを思いつきました。東京シャボン玉倶楽部(シャボンズ)の誕生です!
シャボンズという団体名もユニークですが、吹き棒を「シャボスティック」と呼ぶなど、ネーミングセンスも光ります。シャボン玉液を浸す台は「シャボステーション(通称シャボステ)」と名づけられ、市販の灰皿を利用してつくりました。
シャボステはメーカーの協力で製品化。大々的に販売はしていないものの、年に数台の注文がある受注生産品。Photo by Nao Manabe
このシャボステを、賛同してくれる店舗に実験的に設置したり、イベントやオフィスの一角で使用する団体や企業を募集したり。特に目立った普及活動を行わずとも、みんながあったらいいなと思うストレートなアイデアは、メディアやSNS経由で伝わっていきました。
京都、岡山など、さまざまな地方から問い合せが寄せられ、活動は全国規模に。東京にいるシャボンズよりも、各地域のご当地シャボン玉倶楽部がアクティブに活動する例が多いと言います。
2015年2月現在、その数は30近くとも。実際どれくらいの団体が各地にあるのか、シャボンズも正確には把握できていないそうです。
リーダー不在のチーム
活動のコンセプトは、メンバー間の話し合いで自然と浮かび上がりました。だから、言い出しっぺの発案者がいるプロジェクトとは異なるようです。メンバーの長部さんは、シャボンズの特徴のひとつに「代表者がいない」ことを挙げます。
長部広太さん。普段の職業はシステムエンジニア。Photo by Nao Manabe
長部さん まちにタバコが吸わない人が集まれる場所ができたらいいな、と思った以外、僕らは何もカッチリ決めずに始まりました。
リーダーも決めていないし、みんなが自由にやっています。「自分たちでつくりあげていく」というようなことを積極的にやっていないんです。
全国から次々に寄せられる問い合せに対しても、そのスタンスは同じです。
長部さん いろんな地方から「シャボンズさんと同じようにやりたい」と問い合わせが来ますね。僕らとしては自由にやってほしいので「どうぞやってください。何を買えばいいかなど、やり方でわからないことがあれば教えますので」と答えています。
シャボンズのイチオシが、有限会社友田商会の「パワフルシャボン玉液」。活動開始後に出会ったメーカーと、今でもやり取りが続いています。Photo by Nao Manabe
シャボステを「カフェなどの店に置きたい」「会社に設置したい」という問い合わせも、シャボンズのもとへ舞い込みます。こういう風にやったらいいのではとアイデアを伝えるそうですが、商品化の希望も多いのでは?
長部さん そういった話はよく来ますね。クラウドファンディングでお金を集めたらどうか、とか。
本格的に関わって「メンドくさいと楽しくないな」と本音では思ってしまいます。メンバーたちは、ほかのこともいろいろやりたいし、ゆるく継続していけたらいいなと考えているんです。
成功しすぎたプロジェクトの悩み
立ち上げから4年間。活動をやめることも、メンバーが抜けることもなく続いたシャボンズ。その秘訣に、もう少し迫ります。
このプロジェクトを始めてから仕事がうまく回り出したと振り返るのは、PR会社で働く杉本さん。それまで、彼女のプライベートと仕事はキッチリわかれていたと言います。
杉本有紀さん。普段はPR会社に勤務しながら、友人のマイプロも手伝う。Photo by Nao Manabe
杉本さん 会社で企画を考えるときに、つまらないアイデアしか出てこなくて苦しむことがありました。でも、シャボンズを始めたあたりからプライベートと仕事が混ざりあう状態になって、アイデアに苦しむことが少なくなったんですね。
杉本さんは、シャボンズを紹介した書籍『ソーシャルデザインー社会をつくるグッドアイデア集(グリーンズ編)』を読んだ人とつながり、「green drinks原宿」を2年ほど続けていました。
杉本さん プライベートでつながる人のほうが、時代の感覚、肌感がすごく伝わって来るし、自分の視野も広がりますから。そこで得たものを仕事でかたちに変えることが増えましたね。
メンバー5人の名前が書かれた名刺。シャボスティックは「タバコ型」のものも開発中とのこと。Photo by Nao Manabe
プライベートでも仕事でも、シャボンズの名刺を持ち歩いて、いいつながりができそうなときに差し出している杉本さん。
得意のPRを活かし、シャボンズの窓口として取材対応も引き受けてきましたが、楽しみながら気軽にやっていた活動も、彼らが有名になるにつれて一変します。
新聞、ラジオ、テレビ……次々と取材が舞い込み、週末の休みがほとんど埋まってしまうことも。仕事もプライベートも充実したはずの杉本さんは、東日本大震災後から夏にかけて取材がピークに達し、「これは何だかおかしいぞ」と気づきました。
杉本さん 特にテレビの取材は「盛り上がっているところを演出したい」という具合に拘束時間が長いです。それが休みの日だけでなく平日夜にまで及ぶことも。
私たちは必死になって活動を広めようとまで思っていないから、その後は断った取材が何件かありました。
シャボステーションを囲み、朝のひと吹きを楽しむ。Photo by Nao Manabe
組織として大きくなりたい、お金を稼ぎたいなら、露出が増えるのはいいことです。
でも、「ほかのこともやりながら、ゆるく継続していきたい」と願うシャボンズのメンバーにとって、自分たちの時間を奪われてまで活動するのは本意ではありませんでした。メンバーのみなさんはこの経験から「がんばろうと無理したら続かない」との結論にいたります。
新しいマイプロにも取り組むメンバー
それからはマイペースに活動してきたシャボンズ。ほかのメンバーが丸の内朝大学から離れた後も、積極的に関わっているのが平野さんです。
平野美奈さん(中央)。シャボンズ開始からの4年間で、結婚と転職を経験。Photo by Nao Manabe
平野さん 形を変えても解決したいことがあって、それを面白くやるにはどうしたらいいか。
私はタバコがどちらかというと嫌いなほうですが、あの喫煙所のコミュニティーはいいな、あのタバコを吸うポーズはカッコいいな、という気持ちから「シャボン玉であれをやりたい!」と発想を転換できたのが、シャボンズで学んだことです。
1年前までは丸の内でOLをしていた平野さん。現在は官民連携の地域再生プロジェクトを手がける組織の研究員として、非常勤で働いています。
平野さん マイプロジェクトを面白くやるというのは、続けるのにいちばんいいヒントなんですよね。声高に叫ぶとか、お金を使って大きな組織をつくろうと考えがちだったのに、シャボンズで目を開かされた気がします。
シャボンズのほかにも、平野さんは丸の内朝大学を拠点に、いくつかのマイプロジェクトを始めました。
まち歩きや写真撮影などの多彩な活動を、健康のために面白おかしく取り組む「丸の内健康づくりラボ(通称マルケン)」。着物を着た女子たちで、都心をめぐり歩いてみる「TOKYOなでしこ塾」。そして、平日の朝7時半に開演、出勤前の8時半には終わる「シアターアットドーン(夜明けの劇場)」です。
出勤前のまちに突如現れる、朝の劇場。企画から公演まで、平野さんが手がけている。
2年間続けてきたこの活動がきっかけとなり、先日は朝大学の講師も務めたという平野さん。全8回の講座では、ミュージカル界の重鎮や識者もゲストで呼んだそうです。
一方、杉本さんもPRの相談をいろいろなプロジェクトから頼まれると言います。その中のひとつが、釜川にある空き家をセルフリノベしてアトリエをつくる、宇都宮大学の建築の学生によるマイプロジェクト「Kamagawa Pocket」。ここからは、「宇都宮シャボン玉倶楽部」も誕生したのだとか。
釜川のアトリエを中心にした「宇都宮シャボン玉倶楽部」も誕生!
「なにかを立ち上げるのではなくて、身近な人と小さく始めたい」と語るのは長部さん。同じアパートに住む仲間と、地域おこしに関わるプロジェクトを構想しています。そして、「その中にシャボン玉とかを入れていけたらいいな」とも。
それぞれの歩みは違えど、東京シャボン玉倶楽部の活動から新たな関係性が生まれ、別のかたちとなって育っていく。これも、マイプロの成長のひとつの姿なのかもしれません。
大人な部分、ふわふわした部分
「自分はいちばんマイプロから遠い人かもしれない」と自己分析するのは、近藤美緒さん。元歯科医師の近藤さんは「自分の世界が狭すぎる」と感じて丸の内朝大学へ通い、そこでシャボンズのメンバーに。その後に結婚、出産をしました。
近藤美緒さん。シャボンズ開始からの4年間に、結婚、一時退職、出産を経験する。Photo by Nao Manabe
現在は子育て中で、今後は仕事復帰の機会をうかがう近藤さん。「自分はシャボンズの一員だけれど、一番のフォロワーだと思っている」とも。
こういう人がひとりいるチームは強い気がします。ほかのメンバーのことをどのように見ているか、聞いてみました。
近藤さん マイプロができるメンバーは一種の才能があると思うし、それぞれのブログを読んでいると発想力がスゴい。そのスゴさは、ヘンさと紙一重なんですが。
それから、みんな優しいです。自分勝手に怒る人はいないので、大人だなと思います。でも、自然な感情はあふれるくらいストレートに出していて「子どもか!」と思うくらい。
4年も活動期間があると、うれしいことや楽しいことばかりでなく、辛いことや悲しいことを共有するときもあるはず。それでも、お互いに優しさのあるチームであり続けているのは、素晴らしいことです。
近藤さん 男性メンバーは考える側の人が多いかな。坂田(雄平)さんは、ふわふわしたところを「こうじゃない?」とまとめてくれる役割。
4年前、最初のコンセプトが固まる前に、ふわふわした思いがあった気がして懐かしいです。現実的な部分とふわふわな部分、両方の人がいるから、ふわふわと続いていける。大人とふわふわ、両方混ざっているからいいのかなと思います。
その坂田さんは2年前、北九州へ転勤しました。現地で開いたシェアハウスにシャボステを設置し、みんなでシャボン玉を時おり吹いているのだそうです。
離れていても、仲間たちの新しいマイプロジェクトをFacebookでずっと共有できるのも、活動の支えになっているんだなと感じました。
北九州で坂田さんが運営するアーティストが滞在するシェアハウス「4−2」。これも新しいマイプロジェクト。
肩の力を抜いて、続けていこう
「このチームはスゴい、いつまでも一緒にプロジェクトを続けたい」と願っていても、時がうつれば、それぞれのメンバーの環境や興味も変わります。楽しい顔をしつづけるのが辛い瞬間も訪れるでしょう。
目的を達成したとき、当初の情熱を失ったとき、あるいはメンバーが成長を遂げたとき、そのプロジェクトは終わりを迎えます。
それでも同じ目的を持った仲間たちが、いつまでも離れず、新しく更新していける関係性を築くには。その答えがシャボン玉にあるのかもしれません。
Photo by Nao Manabe
杉本さん シャボン玉メーカーの担当者さん、いつもメールの最後に「まだシャボン玉好きですか? 飽きてませんか?」って聞いてくるよね。
近藤さん 私たちががんばってやろうとしていたら、きっと途中で飽きて辞めてたと思うし。
長部さん そう。がんばって地域でやろうとする人がいたら「がんばらないようにしようよ」というのが僕らのメッセージかな。だって、がんばって吹くもんじゃないじゃない、コレ。
平野さん 割れますからねぇ、がんばって吹いたら。
長部さん お、いいこと言う。がんばったら、チームも割れちゃうんですよ。
終わりを迎える瞬間を最初から想像して、臆病になってしまう。
活動の意義を多くの人たちに伝えたくて、がんばりすぎてしまう。
そんな場面に心あたりがある人は、ふわりと漂うシャボン玉の軽やかさをイメージして、リラックスしてみませんか。