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世界の課題を解決する日本へ! 「クールジャパン提言」コンセプトディレクターを務めた太刀川英輔さんに聞く「クールジャパンの向かう先」

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NOSIGNER代表・太刀川英輔さん

みなさんは「クールジャパン」と聞くと、どんなことを思い浮かべますか? マンガやアニメ、アイドルといったポップカルチャーだと言う人もいれば、神社仏閣、武道や茶道といった伝統文化を挙げる人もいるかもしれません。

2002年にひとりのジャーナリストが論文で使った「クールジャパン」というキーワードは、その後、さまざまに重層的な意味を持ち始め、2005年にはNHK番組の名前になり、2010年には経済産業省が「クール・ジャパン室」を設置。

今やクールジャパン戦略担当大臣(初代:稲田朋美議員、現:山口俊一議員)が任命されるなど、あっというまに重要な国策として認知されるようになりました。

「クールジャパン」って何だろう?

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「クールジャパン提言」表紙より

とはいえ、「やっぱり、何だかよくわからない」という方も多いはず。実は僕自身そうだったのですが、最近とても身近に感じられるようになったのは、今年の夏に発表された「クールジャパン提言」のおかげです。

そもそもこの提言が出されたのは、「現状のクールジャパンという概念はとても分かりづらいものになっている(同提言より)」という問題意識からでした。うーん、やっぱり。

とはいえ今の日本の文化や創造力は、Adobe社による調査で世界一クリエイティブな国として日本が選定されるなど、世界から高い評価と共感を受けています。うん、それはもったいない。

そんな流れでまとめられたこの提言なのですが、注目すべきはその結論です。「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」。それこそがクールジャパンのミッションだと言うのです。

日本は高度経済成長期を経て、資本主義社会において成功を得た一方で、その副作用としての新たな社会課題が頻発している。超高齢化社会やコミュニティの喪失、環境・エネルギー問題など、世界中の国がこれから経験すると言われている課題が現在の日本に降りかかっている。

今後、人口爆発が予想され、エネルギーや食料、地球環境にますます大きな負荷がかかる恐れがある。そのような中で、世界に先駆けて日本が経験している課題はやがて世界各国にも訪れるだろう。この状況を、逆に日本の未来の勝機に転換できないだろうか。

アウトプットはきっと、アニメでも伝統文化でも何でもいい。大切なのは、世界の中での日本の振る舞い方にある。このような力強い提言を形にしたのが、「クールジャパンムーブメント推進会議」でコンセプトディレクターを務めたデザイン事務所「NOSIGNER」代表の太刀川英輔さんです。

その会議には、ヴァイオリニストの葉加瀬太郎さんや俳優の浅野忠信さん、スポーツ界から杉山愛さん、他にもグリーンズでも以前紹介したファブラボ鎌倉の田中浩也さん、和えるの矢島里佳さんなど、多彩な面々が参加。

とはいっても、公的な会議としてはあまり例のないダイアログを通じて、目指すべき方向性が話されていきました。

と、前置きが長くなりましたが、今回は太刀川英輔さんに、クールジャパンはどこへ向かうのか、世界の中で期待される日本の役割とは何なのか、じっくりお話を伺いました。お相手は編集長のYOSHが務めます。
 
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インタビューは太刀川英輔さんが代表を務めるNOSIGNER事務所にて

クールジャパンのBEFORE/AFTER

YOSH 太刀川さんは今回、クールジャパン提言のコンセプトディレクターとしてクレジットされていますが、そもそもどんな流れで、関わることになったんですか?

太刀川さん きっかけは、今年の春に元大臣の稲田朋美さんにお会いしたことですね。そのときにクールジャパンを外から見て、いろいろ思っていたことを伝えてみたら、声をかけてもらったという感じです。

YOSH それはどんな話だったんですか?

太刀川さん 今って、アジア各国だけでなく全世界で文化政策が盛んで、僕も韓国やシンガポール、オランダなど、さまざまな場所から招待を受けているんですが、各国で展開している文化政策とクールジャパンには、かなり温度差があるように感じたんです。

YOSH 温度差というと?

太刀川さん ひとつは海外では「デザインやアートには、社会的機能がある」という考えが前提にあるんですが、日本ではそれらは「社会と関係ない」と思っている人がとても多い。すごく限定的で、極論すれば”特別な人がやるもの”になってしまっているんです。

もうひとつは、Adobeの調査みたいに、世界で最もクリエイティブな国は日本だと思われているのに、日本人が自分たちを必要以上に低く評価していること。

実際、僕もデザイナーとして、「日本人であること」という下駄を履かせてもらったことで、ラッキーな体験をたくさんしてきました。だから、こういうギャップはとてももったいないし、そこを変えていかなくてはいけないんじゃないかって。

YOSH なるほど。
 
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2012年4月に発表されたアドビシステムズ社「“クリエイティビティ”に関する世界的な意識調査」より。「世界で一番クリエイティブな国と思われている日本。しかし、日本人だけはそう思っていない」という結果に。

太刀川さん 今までのクールジャパンの基本は、「コンテンツを輸出して外貨を稼ぐ」ということでした。でも「何がクールなのか」という話になったとき、ものすごく混沌とするわけです。

アニメやゲームやアイドルがクールだという人もいれば、神社や仏閣がクールという人もいる。だからアニメばかりを応援すると、伝統好きの人にしてみたら「はっ?」ってなる。

別にどっちが偉いとかじゃないんだけど、「クールジャパン」というと何を言っても炎上する状況になってしまった。

YOSH はい。

太刀川さん でも、混沌とした美意識と端正な美意識、あるいはクレイジーな部分とサステナブルな部分、両方合わせ持っているのが日本人なんです。そうやっていろんな価値観を許容しながらダイバーシティ(多様性)を育んできたんですよね。

そんな思いもあって稲田さんには率直に、「ちょっと整理した方がいいのでは?」と。そして「クールジャパンは、何のためにやっているのか、その機能を見出した方がいいですよ」とお伝えしたんです。

「外貨の獲得」というのは、理念ではないですから。

YOSH そうですね。

太刀川さん それなら、ポルノでもいいかもじゃんって話になる。でも哲学がないから、そこには。クールジャパンはやっぱり思想の話なんです。

と、そんな話をしていたら、稲田さんに火がついたんですよね。すごい柔軟でノリもよくて、希望を感じました。それで僕らも燃え上がることができたわけ。「やるぞー!」って。

YOSH 2020年の東京オリンピックも、ひとつの契機だったんですよね?
 
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「クールジャパン提言のおかげで、ちょっと身近になった」というYOSHさん

太刀川さん ですね。クールジャパンを東京オリンピックの骨子にするべく、「クールジャパン政策」を推進しようと。でもクールジャパンって、ひとつの官庁でできる仕事ではないんです。

「輸出で儲けよう!」という経済産業省の仕事でもあれば、良好な国際関係を築くという意味では外務省の仕事でもあり、観光ということで国土交通省の仕事でもある。実はそういう縦割りを無くしていこうという動きでもあります。

YOSH それで推進会議が動き出したと。

太刀川さん 実は推進会議そのものは元々あって、秋元康さんとかコシノジュンコさんとか、重鎮たちの集まる会議だったんですが、今年の会議は少し変えようということになって。

「もっと多様な視点を入れて、具体的な提言につながる会議にしよう」と舞台をご用意いただき、議長のような役割を担うことになりました。

大事なのは、この会議に参加している全員が無償で引き受けたということです。「みんな言いたいことを言うけれど、その代わりにプロボノでやります」と。ここにはお金も利害関係もないし、ヒエラルキーもない。

YOSH 清々しいですね。

太刀川さん 何を話すかも大事だけど、どう話すのか、プロセスのデザインも大事なんですよね。

僕が議長としてまず提案したのは、クリエイティビティが発揮される会議をつくるために、少人数のテーブルで議論を深めたり、1時間毎にグループをシャッフルしたり、そういうことでした。
 
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推進会議の進め方

YOSH 僕も公的な会議に委員として参加させていただくことがありますが、そういうフラットな枠組みってあんまりないですよね。

太刀川さん だから、その提案を受け入れてもらったことが嬉しかったですね。とにかく「多様性のあるメンバーを集めて、フラットに議論することが何より大事です」って言い続けて。

クールジャパンという冠だったら、各界のすごい人は来てくれるはず。だから彼らを招いて、「大茶会みたいなことをやりましょう」と。

YOSH 津田大介さんやローソン取締役会長の新浪剛史さん、室伏広治さんから安藤美姫さんまで、多彩な方々が参加していますが、どんな基準で選んだんですか?

太刀川さん あらゆる領域の人と話したいと思っていましたが、ひとつ共通するものがあるとすれば、「日本と海外の間が見えている」ということです。

あとは、日本人だけでクールジャパンを語ることに違和感があったので、「PingMag」編集長のトム・ヴィンセントさんや「支倉プログラム」のピアッツア・レナータさんなどもお招きしました。

それも結果的にとてもよかったですね。

「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」とは?

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YOSH 最終的にクールジャパンのミッションとして、「世界の課題をクリエイティヴに解決する日本」が掲げられた訳ですが、ここに至るまではどんな感じでしたか?

太刀川さん 今回、各分野のスペシャリストに集まってもらったわけですが、話しあう中で少しずつ共通項が見えてきたんです。文化活動には価値があり、そしてその価値は、世界の社会的課題に対してもポジティブな効果をもたらすと。

古来から資源の循環だったり、多様性を認めることだったり、あるいは最小単位で最適化を図ったりと、日本人ならではの生活的美意識のなかに、多くの社会問題を抱える21世紀を生きるヒントがいっぱいあるわけです。

例えば、googleがマインドフルネスとして、仕事の一部に瞑想を取り入れているのが象徴的ですよね。日本人がやっていたら「宗教臭い」とか言われてしまうけど、彼らは効率につながるからやっている。

日本の考えは役に立つということを、僕たち日本人が再認識する必要があると思うんです。

YOSH お寺を訪ねるにしても、スペクタクルとして消費するのではなく。

太刀川さん そうそう。そういう話が会議の中で自発的に出てきたんですよね。この一本柱と照らし合わせながら、今後のクールジャパンを進めていってほしいなと願っています。

YOSH 具体的に提言を見ていくと、「(1)国内の成長を促す」「(2)国内と海外を繋ぐ」「(3)世界に役立つ日本へ」という3ステップになっていますね。

太刀川さん 「国内の成長を促す」というパートで強調しているのは、縦割りや前例に縛られず、挑戦への機運を高めることです。クールな事業が出てこないというのは、そのためのクリエイティブな能力が足りないのではなく、それが問われないことに問題があるはずなんです。

実際、日本ではクリエイターは育っているのに、クリエイターにいい問いを出せる人が成熟していない。だから社会課題の解決をクリエイターに託すことができない。
  
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「”クールジャパン提言”について、じっくり取材してもらって嬉しい」と太刀川さん

YOSH 確かに。

太刀川さん つまりクールジャパンでやるべきなのは、どのようにクリエイターを育てるか、というよりも、クリエイターにいい問いを出す行政組織をつくることの方なんじゃないかと。

それは「国内と海外を繋ぐ」にある、「行政のクリエイティビティを強化するため調達を見直す」ということにもつながります。

YOSH これはどういう意味なんですか?

太刀川さん 今の調達は、一番安い人が仕事を獲得することになっている。でも、一番安いヴァイオリニストが、一番ヴァイオリンの演奏がうまいなんて、ありえないでしょう。

現在の行政はとどのつまり、そういうことを平気でやっているわけです。そんな方法でカッコいい行政ができるわけがない。

YOSH いろいろ踏み込んでいるんですね。

太刀川さん この会議では聖域がないんです。言いたいことは言っちゃおうと。日本人ではない参加者からは、「”クール”という言葉が90年代なんだよ」と言われたりもしました(笑)

YOSH もしかして「ナウい日本」みたいな(笑)

太刀川さん これもほんの一例だけど、日本にはいい情報があっても、言葉の壁が猛烈に高いことで、伝わっていない。これは本当にもったいないと思います。

やっぱり世界は情報で回っているので、日本の考え方が世界にどのように伝わっているかで、プレゼンスが決まっちゃうんですよね。

YOSH ひとつのニュースが、その国のイメージを形成することもありますもんね。

太刀川さん 21世紀的なサステナブルな社会をつくるために、「世界に役立つ日本になろう!」と、いろんな活動家が日本から世界に羽ばたいていけば、いつか必ず経済としても成り立つのは間違いないと思うんです。

特に日本は東日本大震災を経験したし、原発の問題も収束していない。そういった場所から防災産業やエネルギー産業が出てきて、世界をリードするような革命を起こせたら、ストーリーとして美しいですよね。

そういう課題に対する解決策を輸出できる国のほうが、僕は未来が明るいと思うし、そういう硬いテーマを、アートやアニメといった日本が誇るコンテンツで発信していけば、文化は社会的に機能できると思います。

内観、中庸、大欲

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二人とも空海好きということで、仏教話でも盛り上がる

太刀川さん 3つのステップを、YOSHと僕の好きな空海っぽい仏教用語でもう一度整理してみると(笑)

まず内観。「自分の成長を促すためには、自分の状況をみよう」と。そして、中庸。相手と自分のあいだにある調和のとれた関係を見出すこと。そして、大我大欲。相手のためになり自分のためにもなるという大きい欲を育てること。こんな感じですね。

もうこれからの時代のクールは、「俺はクールだ」って言い張るのではなく、「あなたのために何ができるか」ということだと思うんです。そんなプロセスで、この提言書はできています。

YOSH いいですね。その後の反響はいかがでしたか?

太刀川さん いろいろ炎上もありましたが、クリエイターや起業家、行政のなかで活動的な人は、総じて喜んでくれました。彼らをエンパワーしていいコンテンツをつくり、世界に広めていくことが目標だったので、クールジャパンが大事にしたいターゲットには届いたのではないかなと。

また、この提言後に発表された2020年の東京オリンピックのメインコンセプトも、「スポーツには世界と未来を変える力がある。1964年、日本は変わった。2020年、世界を変えよう」という内容になりました。これにもきっと影響はあったと思います。

YOSH 今までの話を聞くと、深く響いていきますね。
 
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東京オリンピックのビジョン骨子

太刀川さん いずれにせよ、僕としては「クールジャパンはこれをやらなければならない」という答えよりも、「クールジャパンはこうあるべきなんじゃない? どうしたらいいかなあ」という”問い”を、みなさんに出した気持ちでいます。だから是非読んでもらいたいですね。

そして、この提言をもとに、各省庁が予算要求をしていく動きも出るはずなので、そこから生まれてくるだろう新しい行政のアクションのシグナルを受け取ってほしいとも思います。

誰にとっても「日本のクリエイティブ」に関わるきっかけがあるべきだし、そのための提言です。そうやって、じわじわ効果が出ていくと信じています。

YOSH 確かに、太刀川さんがこういう関わり方をしたというだけで、国の政策との距離感がぐいっと近づいた気がします。

太刀川さん こういうオープンな決め方に国としても自覚的になってきているし、ひとつ前例をつくれたのはよかったかなと。とはいえ一発のパンチで変わるものではないんで、あと20発ぐらいはパンチを入れていきたいなと思います。

(対談ここまで)

 
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クールジャパン提言をめぐる太刀川さんのお話、いかがでしたでしょうか?

世界のなかで、これからの日本のあり方を考えたとき、あるいは日本のクリエイティビティの本質を改めて捉え直したとき、僕たち日本人ひとりひとりが世界の課題を解決できる可能性を秘めている。

「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」という画期的な提言を初めて耳にしたときのゾクゾクが、みなさまに少しでも伝わると嬉しいです。

いまグリーンズでは、日本のソーシャルデザインのアイデアを世界に輸出しようと、編集スタッフのスズキコウタを中心に英語版グリーンズ「greenz global」も展開しています。

2015年以降、さらにその動きを加速していくために、今後もローカルとグローバルを行き来していこうと改めて決意できた大切なインタビューとなりました。というわけで太刀川さん、ありがとうございました!

(撮影: 宮本裕人