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廃校の危機に直面している母校を救いたい! 島根県津和野町に住む中学一年生の男の子が挑戦するクラウドファンディングとは?

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島根県、津和野町。この町に左鐙(さぶみ)という、小さな集落があります。山々に囲まれ、田んぼや川など豊かな自然が残っているこの地域に、およそ300人が暮らしています。

今、この集落の中心部にある左鐙小学校は廃校の危機に直面しています。そして、この小学校を救うために立ち上がったのは、中学一年生の男の子でした。

大切な小学校を守るために、自分のできることを。

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左鐙の風景

左鐙小学校は、県内で一番高い安蔵寺山のふもとにあり、目の前には田んぼと水質日本一の高津川が流れています。

また神社の敷地内にあるため、入口には大きな鳥居が。それをくぐると、木造平屋で赤茶色の屋根がかわいらしい校舎が現れます。校庭は天然芝生になっていて、地域の人たちが手入れをしています。

こうした環境も魅力的ですが、授業も特徴的です。左鐙小学校では少人数教育を行っており、先生は生徒一人ひとりに丁寧に教えています。生徒に発言させる機会や、生徒同士で話し合う時間も多くつくり、自分の頭で考えて意見を言う力を育てています。

また地域とのつながりや自然を活かした授業もあり、夏の「川の学習」では、川の生態系や、上流と下流の様子の違いについて、実際に川に飛び込んだり船を漕いだりして学びます。
 
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「川の学習」を体験する鈴木智也くん。

そんな左鐙小学校ですが、現在通っている子どもはたったの6人。もともと、数年前から生徒数は一桁台でしたが、今年9月、教育委員会は2015年4月までに全校生徒数が16名に満たない場合、小学校の統廃合案を議会に提出すると発表。

現時点での来年の生徒数は5人のため、さらに多くの子どもが入学しなければ廃校になってしまうのです。

そこで立ち上がったのは、昨年、左鐙小学校を卒業したばかりの鈴木智也くん(12歳)。現在、津和野町の中学校に通う智也くんは、母校を廃校のピンチから守るため地域の人たちとあるプロジェクトを立ち上げました。

それは、左鐙地区に移住者を増やすため、移住してきた人たちが住めるよう空き家を改装する取り組みです。

左鐙地区には、移住を検討している家族はいるものの、受け入れる家がなく、残っている空き家はトイレやお風呂などの改修が必要な物件ばかりで、集落にはその費用を出す余裕がありませんでした。

そんなときに提案されたのが、クラウドファンディングで改修費用を調達するというアイデア。

改修に必要な費用は最低でも800万円。そのうち自分たちで何とか集められる200万円を除いた600万円を、READYFORで集めることになりました。

住める家があれば、小学生のいる家族が引っ越してきてくれるかもしれないという可能性に賭けて、智也くんは地域の人たちと「できる限りのことをやろう」と挑戦しています。
 
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挑戦中のREADYFORページ。

お世話になった町への恩返し。

実は、智也くん自身も茨城県つくば市から移住してきた一人。

智也くん 僕は、この町に来てとても変わりました。前の学校ではとても内気で、休み時間はみんなの会話に入ってワイワイやっているというよりも、どっちかと言うと一人で本を読んだりしているタイプだったんです。

でもここに引っ越してきて、少人数でもたくさんおしゃべりできたり、授業中も毎日何十回も先生にあてられるので、みんなの前で堂々と話せるようになりました。

ご近所付き合いも盛んで、隣に住むおじいちゃんおばあちゃんとは一緒に夕飯を食べたり料理をお裾分けしてもらったり、近所のお兄さんが魚釣りに連れていってくれたり。いろんな世代の人たちと関われるようになって、誰とでも仲良く接することができて嬉しいです。

そんな風に自分を変えてくれた小学校が廃校になると知った智也くんは、当然ながら納得がいきません。

智也くん なんで学校をなくすのかというと、ただ「人数が少ないから」なんです。僕はそこが全然わからない。確かに少人数教育には悪い部分もあります。でも、それ以上によい部分があります。それを僕は左鐙で体験してきました。

でも、教育委員会の説明会に行って現役の小学生として意見を言わせてもらっても、全く聞いてくれませんでした。

こんな素晴らしい教育ができて、地域の人たちもみんな温かく見守ってくれていて、左鐙地域も活性化しているのに、なんで廃校にするのか。それが”人数”というものさしというのは、それこそ大切な部分を見誤っていると思うんです。

さらに、左鐙小学校を廃校することは、町全体にも悪い影響があると言います。津和野町は全体的に人口が減っているのに対し、左鐙だけで見るとU・Iターン者が増えています。

智也くんの家族も、左鐙地区だから引っ越してきたようです。「そういった魅力ある地域の中心的な存在である左鐙小学校をなくすことは、津和野町全体の元気や活力を削ぐことになると思う」と智也くん。

智也くん それでも教育委員会は「16名に近づけないと廃校」の一点張り。それなら生徒数を16人にするしかない。左鐙は全く人が引っ越してこないかというと、そうではありません。

左鐙地区で開かれているイベントや行事には、東京や大阪からも100人くらい来てくれるんです。でも「家がないから」と引っ越しを断念する人たちが多くて、「やっぱり無理かな」と半ば諦めていました。

そんな時、智也くんに力を貸してくれたのは、津和野町で地域おこしをしている株式会社Founding Baseの林賢司さんと、松原真倫さんです。
 
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左から林賢司さん、鈴木智也くん、松原真倫さん

林さんは自然や社会と触れられる左鐙の教育プログラムを「都会の小中学生にも体験してもらいたい」と、親交のあった同志社中学校に提案し、2014年8月に宿泊研修を実施。

その一ヶ月後に廃校宣言を受け、廃校を回避するための方法を地域の人たちと話し合っていました。そのなかで、林さんと松原さんはクラウドファンディングで資金を集めて空き家を改修するというアイデアを思いつきました。

そこで2人が白羽の矢を立てたのが、智也くんでした。智也くんは左鐙小学校の卒業生で、左鐙小学校に対して強い思いを持っていたからです。

林さんと松原さんは、智也くんに「クラウドファンディングを引っ張ってくれないか?」と話したところ、快諾。智也くんがクラウドファンディングの提案者となり、林さんと松原さんがサポートすることになりました。

林さん 「600万円もの大金を、無名の小さな集落が集められるのか」「費用を集められたとしても、改修した家に小学生の親子連れが入ってくれるのか」など、不確実なことばかりですが、それでもやるしかない。

クラウドファンディングを通じて、左鐙の取り組みを日本中にアピールし、小規模の学校を抱える地域が直面する厳しい現状に目を向けてもらえたらと思っています。そのなかで左鐙を応援してくれる人の輪を広げていきたいです。

クラウドファンディングには、12月3日現在、すでに100名以上の方が支援をしています。その中のひとり、『デフレの正体』や『里山資本主義』の著者として知られる藻谷浩介さんからは、応援コメントが届いています。

里山の暮らしのよりどころを守るために、里山に移住したいと願う都会の若い人たちをもっと多く受け入れるために、そしてそれよりも何よりも、「本気でがんばれば願いはかなう」という経験をこの子どもたちに勝ち取ってもらうために、私もささやかながら、クラウドファンディングに応じさせていただきました。

もうあとひと踏ん張りです。皆さん、どうかご協力ください。ちょっとだけ持っているお金を減らして、子どもたちに明るい未来を残そうではありませんか!

左鐙小学校が抱えている問題は、どこの地域でも起こりうることです。そしてこれから少子化が進むと、さらに学校は減少の一途をたどるのではないでしょうか。

近くに学校がないと、わざわざ遠くまで通わなければいけなくなったり、学校のある地域へ引っ越す家族が増えてさらに過疎化が進んだりしています。「子どもが少ないから小学校をやめましょう」では、根本的な問題を解決できません。

小さな町の、大きな挑戦。みなさんもぜひ、応援してみませんか?
 

11月30日に東京で開催された「TEDxKids@Chiyoda」に智也くんも登壇。智也くんのスピーチは38:20〜。