ISSUE まちづくり

2 years ago - 2014.11.18

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相手の“自慢”を見つけて磨いていく。気仙沼のカニ専門店「かに物語」の仕掛け人・編田博子さんに聞く「特別をちょっと身近にする方法」

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カニと言えば、ちょっとしたゼイタク品。ここぞという日にいただくイメージがありますよね。カニをたらふく食べることが目的のツアーが成り立つほど、人を夢中にさせる人気食材です。

PRコンサルタントの編田博子さんは、そんなカニとの新しい付き合い方を提案しています。2年前に気仙沼のカニ専門店「かに物語」のプロデュースを始める際に編田さんが掲げたテーマは、「特別をちょっと身近に」。記念日でなくてもカニを食べましょうよ、というのです。

近年、マグロやウナギなど日本人が好きな水産資源が激減し、資源保護の観点から特に魚介類については「ご馳走は時々でいい」という論調が主流です。その流れに逆行するような言葉。いったいこのカニはどんなカニで、どこで手に入るのでしょうか。
 
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編田博子(あみだ・ひろこ)
PRコンサルタント、放送作家、greenz.jpプロデューサー。北海道帯広市出身。中学校の時に参加した「弁論大会」をきっかけに、“伝える”ことの虜になった“伝える”マニア。NHK秋田放送局で情報番組のキャスター、ラジオのパーソナリティ等を勤めた後、より多くの“伝える”手段を学ぶためPR会社に転職。2010年にPRコンサルタントとして独立し、地方自治体やNGOのPRを数多く手掛ける。同年、文化放送で放送作家としてもデビューし、現在は、テレビの報道番組の企画・構成も行っている。2012年から、プロデューサーとしてグリーンズに参画。2013年、故郷北海道十勝の食材を、東京の商店街で共同購入するプロジェクト「トカチプ」を立ち上げ活動中。

被災者との出会いで見つけたこと

編田さんはフリーランスのPRコンサルタントで、実はgreenzのプロデューサーでもあります(過去記事)。NHK秋田放送局でキャスターをしていた経験を生かして放送作家の仕事も続けています。

社会人6年目で独立した当初は、主にNGOやNPOの広報やPR、人材の育成を手掛けていました。しかし半年後に東日本大震災が起きて、多くの人と同様、編田さんの人生も大きく転換します。

原発事故の影響で国内メディアがほとんど退避していた2011年の春、「残さなくては、伝えなくては」という思いに駆られて、フリーランスのライターや映像制作メンバーと共に福島へ。

そして、防護服を付けた自衛隊員に混じって地元の人たちが簡単なマスクだけで遺体捜索に協力している過酷な現場を記録し、インターネット番組や海外のニュースサイト、自身のFacebookページなどで配信しました。

その後も相馬野馬追(そうまのまおい)の記録映画づくりの手伝いや、石巻の魚屋さんの商い再開の支援など、東北復興に関する仕事を続けた編田さんは、多くの被災者と出会いました。

皆さん震災でいろいろなものを失った中で、当たり前だったことの大切さに気付いたと話されていました。特別なことって、実は昨日笑い合えていたあのことだったんだね、とか。特別なのは記念日だけではないと教えられました。

食卓にあるだけでワクワクするカニを、何でもない「今日」も食べちゃおう!という明るい提案の背景には、「毎日こそ特別で大切なもの」という被災地での気付きがあったのでした。

深海に生きるおいしいカニ

「かに物語」で提供しているカニは、Deep Sea Red Crab(マルズワイガニ、別名:オオエンコウガニ)のみ。持続可能な漁で守られてきた水産資源です。震災前は横浜中華街などに出荷されていた冷凍むき身を、今は一般向けに店頭やオンラインショップでも販売しています。

「かに物語」の親会社「株式会社カネダイ」は、1974年からアフリカのナミビアでマルズワイガニ漁を続けてきました。獲って1時間以内に船上で冷凍することで鮮度を失うことなく日本に持ち帰って、もっぱらプロ向けに卸してきました。
 
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「かにの実」という商品は、カニの爪下の運動量の多い部分の身だけを集めたもの。敢えて「実」と表記したところに編田さんのセンスが光ります。オンラインショップで取り寄せて説明書通りに解凍したところ、プリプリの新鮮なカニがよみがえりました。

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ナミビアの海上で漁をする「かに物語」の漁師さん。深海400~1000メートルに生息するDeep Sea Red Crabは、ゆでる前から鮮やかな赤色をしています。

ナミビアは漁期や獲る量を制限してDeep Sea Red Crabを大切に守っています。日本で漁を許可されているのは2社のみ。国内でもまれに網にかかるカニですが、ほとんど流通していません。

持続可能な漁法で40年もの間、海外からおいしいカニを日本に届け続けてきたカネダイ。しかし、東日本大震災の津波で店舗も事務所も流失しました。

幸い約70人のスタッフと船は無事だったことから、震災後は一般顧客への販売にもチャレンジすることにしました。味が良いのに市場には出回らない“幻の蟹”が、計らずも、震災を経て身近になったのです。

料理人の厳しい舌を満足させてきた品質だから、そのおいしさは折り紙付きです。とはいえプロ向けを中心に行ってきたカネダイは、慣れない一般販売に戸惑っていました。そこで編田さんの登場です。

物語をつむぐ縁の下の力持ち

出会いは偶然でした。都内のイベントブースで隣になったのが「かに物語」の統括責任者の方だったんです。

その時にいただいたカニ加工品について、「とてもおいしいです。でも提供の仕方によっては、きっともっと本来の良さが伝わるはずです」とアイデアを伝えたところ、週明けすぐに連絡をくださって。2カ月後の2012年10月からコンサルタントとして関わらせていただくことになりました。

震災を経て自社商品への愛着を深め、「こんなにいいものなんだから食べてくれる人の顔も見たい!」と慣れない個人向け販売を始めたカネダイ。編田さんは、その熱い思いを伝えようとしています。

まずは、東京のフードクリエイターたちに協力を仰ぎ、レシピ開発から支援。その後、雑誌やテレビなどマスコミ関係者を招いてのCrab party(まさにクラブパーティーです!)を開催。

発信力のある人たちにDeep Sea Red Crabの魅力を直接伝える場づくりを行うとともに、商品に対する意見を寄せてもらい、次の商品開発に生かす取り組みもスタート。そして、オンラインショップもリニューアルしました。

私の仕事は彼らの「自慢」を磨くお手伝いすること。オンラインショップも、新しくデザイナーさんを入れてつくったロゴも、“社員の皆さんが自慢できる”を基準に考えました。

カニといえば、酢味噌で食べたり鍋にしたり和食のイメージがありますが、ワインと合う洋食のレシピとか、より食べるシチュエーションを広げていきたくて、レシピ開発のアドバイスをしました。

定期的に気仙沼に通っては、写真の撮り方や文章の書き方なども指南。相手の良いところに磨きをかけて、物語をつむぎ、発信力を高めていく手法で、着実に新たな顧客層を開拓しています。
 
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編田さんのプロデュースでシェフたちが開発した和洋折衷メニュー。Deep Sea Red Crabの魅力が見事に開花しています。

編田さんは、気仙沼産業センター内「海の市」に2014年7月に誕生した実店舗の企画でも、その手腕を発揮。カニだけではなく、Deep Sea Red Crabと相性の良い選りすぐりの調味料や食器類もとりそろえました。いずれも東北6県を中心に探し集めた逸品です。

オリジナルレシピを含め、「カニをおいしくいただくために必要なもの」がすべてそろう同店では、トマトジュースやマスタード、ガラスの器や南部鉄器など、カニとの組み合わせが一見意外なものも提案しています。カニとの新しい出会いに満ちた空間です。

地域の方が贈り物として、地元の自慢できるものを選べるような店、市外や県外から遊びに来た人を案内したくなるような店を目指しました。そういう「自慢できる場所」を気仙沼につくりたかったんです。

でも正直、まだ交通が不便で時期によっては集客に課題が残る状況です。だから店舗以外にも、気仙沼を盛り上げるお手伝いをしていきたいんです。

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かに物語 海の市店

ストーリーをプロデュースする

商品開発だけではなく、まちづくりにも意欲を燃やす背景には、別の仕事として東京都大田区でシャッター商店街になりかけていた「ウィロード山王」を活性化した経験があります。

石巻で被災した魚屋さんを商店街に招き、山王と石巻、双方の商店主のモチベーションを高めることに成功。そのストーリーを放送作家として企画化してテレビ局に持ち込み、番組放映にまでこぎつけました。

さらに最近は、東京に来て初めて自覚した地元愛を原動力に、出身地である「北海道・十勝」の魅力を都内でPRする活動も始動。母校の帯広柏葉高校の仲間に声をかけ、皆のスキルを持ち寄って、十勝の食材を東京の商店街で共同購入する取り組み「トカチプ」を立ち上げました。
 
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十勝の風景(トカチプのウェブサイトより)

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編田さんの高校の同級生がデザインした、トカチプのパンフレット。

売りたいのに売れないという十勝の農家さんの悩み。買いたいけど、誰から、どうやって、何を買えるのかわからない、という東京の飲食店さんの悩み。双方につながりをつくって、この悩みを解決しようという試みです。

2014年11月23日(勤労感謝の日)には、第4回となるトカチプを代々木上原(東京都渋谷区)で開催予定だそうです。

明るい笑顔で軽快に想いを実現していく姿に、きっと多くの人が元気をもらっているはず。ぜひみなさんも、編田さんが仕掛けたストーリーのある空間を、味わいに行ってみませんか?

– INFORMATION –

 
代々木上原~八幡・富ヶ谷の飲食店34店舗を十勝の食材がジャック
「トカチプ・十勝産直マルシェ」

11/23(日)から始まるトカチプvol.3。代々木上原~八幡・富ヶ谷の飲食店32店舗を十勝の食材がジャックし、期間限定メニューを提供します!

初日の23日(日)は、十勝産直マルシェ。12:00から、代々木上原駅すぐのフニクラ横でスタート!

十勝から届く新鮮な野菜と乳製品等の加工品が今回もずらりと並びます。じゃがいもに長芋、ごぼう、かぼちゃ。。。十勝の大地の力を感じる美味しいお野菜をどうぞ!早い者勝ち!
https://www.facebook.com/events/873077019382916/

代々木上原~八幡・富ヶ谷の飲食店34店舗を十勝の食材がジャック!
11/23(日)トカチプ・十勝産直マルシェ

writer ライターリスト

瀬戸内千代

瀬戸内千代

greenz シニアライター 東京生まれ。両親の故郷で瀬戸内海に親しみ海洋動物生態学者を志すも理系文系の橋渡しに興味が移り出版業界へ。2007年からフリーランスの環境ライターとして書籍・雑誌、ウェブに執筆している。プロフィール画像は伊豆下田でスケッチしたムラサキクルマナマコ。

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