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家を持つことを考えたら、トレーラーハウスに行き着いた。greenz.jp編集長・鈴木菜央さんに聞く「小さくて大きな暮らし方」

千葉県いすみ市。かわいらしいJR長者町駅に降り立ち、田んぼや森を横目に車で5分ほど進むと、視界に真っ赤なトレーラーハウスが飛び込んできます。

ここはgreenz.jp編集長、鈴木菜央さんの新しい自宅。今回、このお家の中で菜央さんにトレーラーハウスに引っ越すことを決めた経緯や、実際のお引っ越しの様子についてお伺いしました!


お話を伺った鈴木菜央さん。レゴの表札の前で。

家を持つことを考えたらトレーラーハウスに行き着いた


引っ越した当日の家の中からの写真。大きな窓から光と緑の景色がたっぷり入ってきます。

菜央さんがいすみ市に移住したのは2009年のこと。最初は会社の仲間たちと、「中滝アートビレッジ」というコミュニティで家を借り、交代で遊びに来ていました。

そうしてだんだんと地域の人たちと知り合ううち、「ここで暮らしたい」という想いが強くなり、借りていた世田谷の小さな一軒家を引き払っていすみ市のログハウスに移住。目の前に夷隅川が流れる大きな家で暮らしていました。

しかし、そこから35㎡のトレーラーハウスへ引っ越します。それはどうしてだったのでしょうか?

僕はずっと自分や子どもたちにとっての田舎が欲しいと思っていました。「これからもいすみで生きていこう」と決めたときに、賃貸を脱出したいと思ったんです。僕は循環型の暮らしを実践したいのですが、太陽熱を導入したり、雨水を活用してみたくても賃貸だと壁に穴があけられないから難しい。借家に住んでいるうちは外から来ているお客さんなのだと思うときがあったんです。家賃を払い続けたくないなというのもありました。

いすみに根を張って暮らしていくために家を買おうとした菜央さんですが、家探しは難航したと言います。長期のローンは組みたくないという理由から新築は最初から諦めて中古を探していましたが、家が気に入っても場所がいまいちだったり、その逆もあったりして、なかなかこれというものに出会えなかったそうです。

古民家を改装することも考えたものの、農地がついてくる土地の農地部分は農家登録がなければ買えないことが判明。借りるのは可能ですが、購入するには2年の農業実績があって地元に農家として認められていることが必要という条件がありました。値段も1000万円〜2000万円と、これに加えて修繕費もかかることを考えると結構なお値段でした。

なにかいい方法はないかと思って探していたときにYouTubeなどでタイニーハウスムーブメントのことを知りました。リーマンショックとサブプライムローンを経て、アメリカでものすごく小さい家に住む人たちが出てきた。たくさん消費したり、大きな家に住んだりしなくても幸せなんじゃないか、という角度から新しい暮らしを考える哲学的な側面もあって面白いと思ったんです。それでタイニーハウスのことをFacebookなどで呟いていたら、友達からうちのトレーラーハウスを見に来ない?と、連絡が入ったんです。

そのご友人が持っていたのが、冒頭の赤いトレーラーハウス。ここから菜央さんの持ち家計画が急速に進みます。

考えてみたら150平米の家に住む中でモノも増えたし、余計なお金もかかっていました。モノって連鎖するんですよね。食器棚は食器を呼び寄せるし、食器を買ったら乾燥棚も必要になる。棚が足りなくなると棚を買い足して。消費って楽しいんですよね。でもそうやって所有することになったものひとつひとつに愛情を注げていないなと。それに重たいなと。メンテナンスも大変だし。だから、究極に言うと、ホテルで暮らすみたいにベッドがあって机があってコンセントがふたつだけあって、ペンはすごくいいものを使っているという暮らしをしてみたいなと思いました。

お金という有限な資源と、有限な時間、循環型の暮らし、田舎が欲しいという想い、それら全部を合わせて考えたときに小さな家に住むことは理想の選択肢のように思えたと言う菜央さんは、トレーラーハウスの購入を決めました。

重機総動員?トレーラーハウスへの引っ越し

車なのでいざとなれば移動もできてしまうトレーラーハウスですが、購入にあたってのローンや実際の引っ越しの段取り、その後の住民票の申請などはどうだったのでしょうか?

住むためのトレーラーハウスですが、車なのでローンはオートローンで組みました。オートローンには購入する土地代を含むことができないので、そこは少し大変でしたけど。他にかかったコストといえば水道・上下水。あとはトレーラーハウスの移動にかかる費用です。

ちなみに菜央さんの場合、75坪の土地と水道・上下水が合わせて300万円、トレーラーハウスが485万円(6年落ちの中古車)、そしてトレーラーハウスの移動にかかった費用が80万円。移動にかかるコストの大きさに最初は驚いたと言いますが、実際の家の引っ越しの様子を経て納得したそう。引っ越しの当日は菜央さんも、その一部始終を見届ける為に出発地である九十九里浜の友人宅に向かったそうです。その一日を写真とともに振り返ってもらいました。

引っ越しが始まったのは朝3時。九十九里浜の友人宅にトラックやフォークリフトが到着します。

まずはフォークリフトがトレーラーハウスを広めの車道まで牽引。

そこからは牽引用のトラックにバトンタッチ。特殊なつなぎで固定します。トレーラーハウスも立派な車なので、ナンバープレートが必要。通常の車道を通ることを許されているのは、幅2.5mまでの車ですが、トレーラーハウスは幅が4mもあるので国土交通省に許可を申請する必要があるのだとか。この申請に2ヶ月かかり、4月に購入した家が動かせたのは8月上旬になったと言います。もちろん動かすのにも特殊な免許が必要です。

準備が整ったらいざ出発。朝のまだ車の少ない時間帯にひた走ります!中央線をはみ出して走る家を、新聞配達の人や早朝出勤の人、犬の散歩をしている人まで、ほぼ全員が振り返ったそう。

新しい土地の近くまで来たところで一旦休憩。地元の人たちの出勤の妨げにならない為に9時過ぎまで待機することになりました。

その間に土地の方ではショベルカーが始動!土をならし、トレーラーハウスの受け入れ準備をします。

最後の小道を小回りが効くフォークリフトに導かれてトレーラーハウスが到着すると、次はクレーン車の出番!トレーラーハウスが高々とつり上がりました。

水平になるように最後は職人さんたちの手で調整しながら固定してもらい、設置完了です。

朝の3時から始まったトレーラーハウスの引っ越しが終わったのは午後3時でした。荷物はすこしずつ別の日に移動。トレーラーハウスは家ではなく車なので、法的な手続きに関しても未知数のところが多いのですが、水道を引くにあたって区役所に行ったところ無事に申請が通り、住民票は水道登録があったため、こちらも問題なく移せたと言います。家ではないので固定資産税がどうなるかはまだはっきりしないものの、「払うつもり」と菜央さんは言います。

決まっていない、グレーで分からないから萎縮していてはもったいないと思うんです。払うべきものは払ってどんどん挑戦していきたい。

小さくて大きな暮らしを目指す

実はお家をお訪ねしたのは引っ越しが一段落したばかりの頃。引っ越してくる前に荷物を半分にした菜央さん家族ですが、家の広さが150㎡から35㎡になった為、まだ物が溢れているといいます。

はじめは倉庫を別に借りて、毎日少しずつ必要な物を出し入れしながら暮らそうかとも思ったのですが、適当な倉庫が見つからず、今はトレーラーハウスのロフト部分に置いてあるものも多いです。これから少しずつ手放そうと思っています。たとえば本は近くの友人がやっているコミュニティー図書館に寄贈しようと思って。そうすれば自分たちも読みたいときに読めるじゃないですか。

家が小さくなった分、持ち物などいすみのコミュニティーとシェアできる部分が増えそうです。

奥の本棚はいずれ取り払って家族で映画を見たりすることができる壁にしたいのだとか。同じ敷地内にDIYで小屋を建てる予定で、そちらを書斎とゲストが来た時に滞在できるスペースにする予定だそうです。

家は最小限のものを選びましたが、これから仲間たちと敷地内に立てる小屋は少し大きくする予定です。ウッドデッキも広々したものを作ってそこでイベントやワークショップをやりたいなと思っています。

壁に穴を開けられるようになったので、太陽熱も雨水活用も試すことができます。いすみの「まきネット」に参加して巻きストーブも導入する予定なのだとか。自分の部屋が欲しい!という娘さんに自分でつくってみなよ!と語りかける菜央さん。土地と家を持ったことで、これからもっと自由に自分の暮らし方を探求することができそうです。

目指しているのは小さくて大きな暮らしなんです。小さいのはローン、電気代や、ガス、暖房。生活にかかるコストが減れば、ワークシェアリングなどが成り立つ余地が出てくる。そしてこどもを養えるの?というような漠然とした不安が小さくなる。その分、心の余裕、ご近所さんや友人たちとの時間、旅に出られる可能性などが大きくなると思うんです。

9月上旬に菜央さんは愛娘二人を連れてシアトル・ポートランドにこれからの暮らしかたを探すための旅に出ました。家族と一緒に考える暮らしを、次から次へと反映することができる家。これからのトレーラーハウスと彼らの暮らしから目が離せません!

みなさんも、“小さくて大きな暮らし”を始めてみませんか?

(Text: 寺井暁子)

どこに住み、どんな暮らしをつくるのか。本当に必要なものは何か。「暮らしのものさし」は、株式会社SuMiKaと共同で、自分らしい住まいや好きな暮らし方を見つけるためのヒントを提供するインタビュー企画です。