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「リトルトーキョー」の仕掛け人はこの人だった!東京を世界一魅力的な街にすることを目指す、森ビル・黒田哲二さんの仕事哲学 [企業内起業家]

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黒田哲二さん(リトルトーキョーにて)

「ぼく、トラのもん」で話題の「虎ノ門ヒルズ」脇に、趣ある老舗のお寿司屋さんをリノベーションしたカフェ兼イベントスペースがあります。それがグリーンズと日本仕事百貨が運営する「リトルトーキョー」です。

虎ノ門にはリトルトーキョーのほか、ランドスケーププロダクツのギャラリー「Curator’s Cube」など、実はたくさんのカルチャースポットが点在しています。その仕掛け人が、今回ご紹介する黒田哲二さんです。

最近「イントレプレナー」と呼ばれる、大企業の中にいながら、起業家のように自由な発想とフットワークで活動をする人たちが増えています。森ビル株式会社に勤める黒田さんも、正にそんな働き方を実践している一人です。

今回は黒田さんがどのように会社の中で自分のポジションをつくっていったのか、お話を伺いました。
 
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イントレプレナー的に働くに至るまで

大学時代に建築を専攻していた黒田さんは、卒業後は建築家を目指して隈研吾建築都市設計事務所に就職しました。

建築設計の仕事では、建物をつくる時は「つくる人」と「使う人」が関わります。最初はどちらも良いものをつくろうという気持ちでスタートします。

しかし、互いの“良いもの”のベクトルがズレていったり、つくる人が使う人に寄り添えず、要望をうまくまとめられなかったりして、建物が完成した時にどちらにも不満が残ったことがありました。

僕の力不足ということでもあったんですけど、完成した時に僕も不完全燃焼だし、建主さんも心残りがある感じになってしまって。建物はずっと残る訳だから、これってすごい不幸なことだなと。

それで、「つくる人」と「使う人」、両者をうまくつなぐ仕事みたいなものもあるんじゃないかと思ったんです。

それに、建築事務所の同僚には優秀な人が多く、「自分よりも他の人がやった方がいいんじゃないか」「細かい図面を描くのは自分には合っていないのでは」という思いもありました。そんな時に出会った会社が、コーポラティブハウスを手掛けていた都市デザインシステム株式会社(UDS株式会社)です。

都市デザインシステムは、まさに「つくる人」と「使う人」をつなげる、建築のコーディネート業をやっていました。

黒田さんはホテルのプロジェクトで、建築する人とサービスする人をつなぐプロジェクトマネージメントに携わります。当時の社長が「会社の名前を使って面白い人にはどんどん会いに行け」と言ってくれていたこともあり、ホテルのプロジェクトの関係で西村佳哲さんに出会います。

西村さんは、『自分の仕事をつくる』の著者としてお馴染みですが、デザインとモノづくりの会社リビングワールドでは、風が吹くと明かりが点き、風の強さで明かりの強弱が変わるランプ「風灯」などもつくっていました。

リゾートホテルのプロジェクトでも、「風灯」のように沖縄の自然を感じられる媒介となるような仕組みができればと、西村さんに相談をしていたのです。

沖縄のリゾートホテルの仕事に手応えを感じていましたが、残念ながらプロジェクトは頓挫してしまい、それを機に、黒田さんは今の森ビル株式会社に転職しました。

建築をあきらめたくなかった

黒田さんが現在の働き方に至るまでに、とても影響を受けた言葉があります。

建築をあきらめたくなかったから、建築家をあきらめた。

これは、以前グリーンズのインタビューでもお話してくださった「東京R不動産」の林厚見さんの言葉です。偶然にも林さんは、黒田さんの大学の先輩であり、建築学科を出たあとに、建築家とは違うかたちで建築に関わる道を選んだ人でした。

建築や街づくりの仕事には、建築家だけではなく、それを支えるサービスのような仕事もあります。そういう仕事をすれば、ずっと建築の世界に関わることができるということを、林さんは言葉だけでなく体現していました。

学生の頃にバックパッカーで世界中の色々な街を見て回った黒田さんは、「東京にもこんな魅力があったら。それに関わる仕事ができれば」と漠然と思っていました。

大学で建築を専攻していたので、何となく建築設計事務所に入り、建築家を目指してみたものの、自分の資質や適性に疑問が出てきた。だけど、建築に関わることはあきらめたくない。この言葉は、そんな葛藤の答えを見つけるヒントになりました。

目指すのは「レスポンシブル・デベロップメント(開発)」

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リトルトーキョー

森ビルに転職した黒田さんは、前職での働き方を取り入れながら、今の会社の強味である土地や場所を活かすことができそうな人にどんどん会いに行き、仕事に結びつけていきます。

虎ノ門ヒルズの開発という大きな仕事に携わりながら、その周辺にリトルトーキョーやCurator’s Cubeのような、小さくても文化的な要素のある人や会社を誘致したのは、虎ノ門を魅力的な街にする下地をつくりたかったからです。

虎ノ門ヒルズみたいな大きい建物がポンとできても、普通はオフィスの用途で、それをサポートする飲食店があって、ファッションとか買い物しに来る人はいません。そのままにしていたら、同じようなものが別の場所にも建つことになってしまう。そうすると街が面白くなくなっていく。

ソーシャルビジネスの中心にいるグリーンズとか、ランドスケーププロダクツみたいなものづくり系の中心にいる人たちとコンタクトを取ることで、今まで虎ノ門に来なかった人たちを連れてくることができます。

大きい建物ができるだけではなくて、周辺に違うタイプの人を呼びこむようなものがないと、街は変わっていかないと思うんです。

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Curator’s Cube

虎ノ門ヒルズができた今、黒田さんは虎ノ門ヒルズとその周辺のエリアマネジメントという仕事に取り組んでいます。

アウトドアブランド「パタゴニア」の創業者であるイヴォン・シュイナードが、環境危機を解決するための手段としてビジネスを利用するという意味で「レスポンシブル・カンパニー」という言葉を使っていますが、黒田さんはこの言葉にも影響を受け「レスポンシブル・デベロップメント(開発)」ができたらと考えているようです。

昔は街中に立っている地図看板を見て、駅を降りたらどこに何があるか、何個目の角を曲がって、と確認してましたよね。パソコンが普及したら地図をプリントアウトするようになって、今はもう全部スマホで済みます。

これって都市の体験の仕方がすごく変わってきてると思うんです。まだぼんやりなんですけど、こういう都市の体験とIT技術が街を変えていくんじゃないかなと思ってます。

黒田さんが今興味があるのは、大きなビルや総合施設を建てるだけでなく、そのエリアのサービスやプラットフォームをIT技術を使い新しく構築することで、街に来る人の体験がもっと変わっていくのではないかということです。

そうやってエリアの価値を高めることで、画一的な同じ街がいくつもできるのではなく、それぞれの街が魅力的になっていくのではないかと。

東京を世界一魅力的な街にする

最後は遠いような近いような未来の話になりましたが、黒田さんがイントレプレナー的に働いている理由がよく分かりました。

イントレプレナーという言葉を聞くと、組織に属しながら自由気ままにやっているような印象もあるかもしれませんが、黒田さんの働き方の根底には、「東京を世界一魅力的な街にする」という今の会社のビジョンを実現するという目的があります。

それに黒田さんは、イントレプレナー的に働くには、今自分の所属している会社の強味を活かしながら、仕事に結びつけていかなければ意味がないと考えています。

イントレプレナーという働き方に憧れを抱いている人や、どうすればこのような働き方ができるのかと模索している人は、まずは会社の強味や魅力を活かそうと考えてみることで、何か見えてくるものがあるかもしれません。