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移住先は”何もないところ”がちょうどいい!和紙ピアスから山カレンダーまで、鳥取に潜む良さを発信する「うかぶLLC」

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「合同会社うかぶLLC」の蛇谷りえさん(写真右)と三宅航太郎さん(写真中央)、スタッフの杉谷友紀子さん(写真左)。(c)Patrick Tsai

唐突ですが、ちょっと想像してみてください。いつか貯金ができて、「ここではないどこか」で暮らす日がくるとします。あなたならどんなエリアを選びますか?

自分、あるいはパートナーの生まれ故郷ですか?大都市まで2時間程度で通勤できる郊外ですか?はたまた、自然と奮闘を強いられる田舎の集落ですか?見知らぬ土地でまっさらの毎日を始めるとしても、これまでの自分と地続きの暮らしを選ぶ人が多いと思います。

今回取材した「合同会社うかぶLLC」の蛇谷りえさんと三宅航太郎さんは、縁もゆかりもない小さな街に、漂着するように移住し、ゲストハウス兼カフェの運営をベースに、アートやデザインにまつわるプロジェクトの企画・運営を手掛けています。

ご本人たち曰く「ひねくれている選択」とのことですが、様子を拝見していたら、肩肘はらず、フラットに、そして何より楽しそうなのが印象的でした。そのヒントは、どうやら「誰もが主役になれる仕組みをデザインしていること」にあるようです。

まず手始めに、彼らの最近のプロジェクトをいくつか覗いてみましょう。
 
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写真右、合同会社「うかぶLLC」の三宅航太郎さん。背景にあるのは「うかぶLLC」が運営するゲストハウス「たみ」。宿泊施設+シェアハウス+カフェ(週末のみ営業)の3つの機能を併せ持つ空間です。(c)Kotaro Miyake

地域資源は自ら発掘!

1つめは、鳥取に潜む工芸品、ヒト、モノ、コトを紹介するプロジェクト「OUR TOTTORI TRAVEL」(以下「OTT」)。鳥取と言えば、砂丘や梨が頭に浮かびがちですが、実は“民藝“も有名なのです。

鳥取出身の医師、吉田璋也(よしだしょうや)は、柳宗悦の唱える「民藝」に感化され、この地においても民藝運動を起こしました。廃業しかけていた牛ノ戸焼の再興、民藝家具や因州和紙の保護・育成。彼の尽力の甲斐あって、ここでは伝統の手仕事が今でも確かに息づいています。

そこで「OTT」は陶芸、張り子や土人形などの郷土玩具、因州和紙の制作現場を取材し、自分達が感じたことを文章に綴り、フリーペーパーを発行することに。さらに、作品の展示・販売や、ものづくりを体験できるワークショップなどにも展開してきました。

三宅さん 「鳥取の魅力は、砂丘と梨とゲゲゲ(の鬼太郎)だけじゃないよ」ということを伝えたくて始めたんですが。何せ僕らは鳥取県出身ではないので、まずは自分たちも鳥取が持つコンテンツを知る必要もありました。

ゲストハウスを営む中で、旅人に「因州和紙って何?」と聞かれても、情報だけを知っていて、知ったような気になっていることって多いなと思って。もっと深く話を聞くためにフリーペーパーという口実をつくり、現場に足を運び、自分達がまず感じてみることにしたんです。

旅で訪れた人にも、僕らが取材したところに限らず、いろんなところを自ら探し出してほしいな、という気持ちがあります。

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「はじめての◯◯」を名に負うフリーペーパーは、現在3号+号外まで発行済み。「100回くらい取材して本にしたいんですけど」と三宅さん。(c)Kotaro Miyake

“売れないもの”からお土産をつくろう!

続いて、2つめのプロジェクトは、じぶんでつくる和紙ピアスキット「Kamikazari」です。先の「OTT」の取材先で、三宅さんたちは「伝統工芸品の品質を保つため、一定の基準をクリアしない製品は販売対象にならない」というリアルな現実を知りました。

三宅さん 「OTT」プロジェクトの延長で、おみやげものをつくろう、という話になりました。でも「新しいものはつくりたくない」とも思っていた。

そんな中、リサーチを重ねるうちに捨てられるものや、商品にならないものがいっぱいあるとわかってきたんです。それからは”捨てられるものリサーチ”をしたら、”因州和紙”が浮かび上がってきました。

因州和紙はおよそ1000年以上の歴史を誇り、現在は書道や工芸で愛用されています。中でも100%天然素材、人の手でつくられる和紙は高い技術が求められます。

主な原料は楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)。その配合バランスが多少かたよったり、紙をすく過程で一部が少し薄くなったり、穴があいただけで、「素人目にはわからないくらいでも、検品ではねられる」のだそう。

そこで捨てられるはずだった和紙を使って、好みにアレンジして自分だけのピアスをつくることができるキットをつくることに。
 
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製品として販売できない60センチ×90センチ四方の手漉き和紙を買い、印刷用プレス機で型を抜き、ピアスキットを開発しました。キットは「楮」「三椏」「雁皮」の三種類あり、それぞれ色や質感が異なります。現在は「うかぶLLC」のホームページか「COCOROSTORE」で販売中。鳥取と台北の「いいもの、いい食、いい暮らし」を体感する「鳥取台北」にも出展しています。(c)Kotaro Miyake

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丸く切り抜いた和紙を10枚を重ねたり、写真のようにくしゅくしゅっと、ひだをつけても良い。作り手が形を自由にデザインできるように工夫しました。(c)Kotaro Miyake

山こそ最も身近な地域資源

「地域資源を知りたいから、まずは自分達が発掘する」。先ほど紹介した「OTT」のコンセプトを引き受けて、3つめのプロジェクトが進行中です。東京在住の写真家パトリック・ツァイさんを招聘し、ともに山に登り、山の中で撮影を行い、撮りおろした作品でカレンダーを作成し、販売するというものです(販売は2014年10月頃を予定)。

撮影は昨年6月からスタート。だいたいひと月かふた月に1回のペースでパトリックさんが東京からやって来て、数日間鳥取に滞在し、天気がゆるす限り登山をし、撮影をするというゆっくりとしたペースです。

これまで、膝まで雪に埋もれる冬山から、断崖のくぼみに建立された“投入堂”でおなじみ三徳山、などなど12以上の山にトライしてきました。なぜあえて山をモチーフにしたのでしょうか?

蛇谷さん 山は地域資源の最たるものだと思うんです。日本のどこでも山はある。「こっち(鳥取)の山はこうだけど、そっち(東京)の山はどうなってるの?」「東京の山も意外と良いよ」みたいに、意識を自分たちの地域資源に向けていけたらいいな、と。

では、なぜカレンダーにしようと思ったのでしょうか?

蛇谷さん 自分たちの生活の中に美しい写真があったら良いなと思ったんです。ポスターやアート作品を飾ることもできるけど、大きな写真は高価でたくさんは集められない。もう少し日常生活に溶け込むようなかたちで、素敵な写真が部屋の中でいつでも見ることができるのは気持ち良いな、と思って。

さらに言うと、遠くの街に住む人が鳥取のことを、思い出すきっかけになったら良いなと。そうしたら、ここの空気感が誰かの家に届いていて、つながっている感じがする。

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日本在住6年目の写真家パトリック・ツァイさん。ファインダー越しに山と対話するかのように撮影を進めていきます。(c)Kotaro Miyake

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ほぼ全員登山初心者であるものの、ひたすら何時間も山を歩き→撮影し→また次のロケ場所を探す、を繰り返します。その様子は“登山”や“撮影”というよりも、もはや修行の境地。(c)Kotaro Miyake

「何もない」から「自由につくれる」

蛇谷さんは大阪出身の大阪育ち。グラフィックデザインやアートプロジェクトの企画などを仕事にしてきました。一方三宅さんは岡山県の出身。同じくグラフィックデザイナーや、アーティストとして活躍していました。

2人は2009年に招かれた、あるアートのプロジェクトで知り合い、一緒に作品を制作することになりました。そのとき奇遇にも、お互いが「ゲストハウスに興味を持っている」ことを知ります。

ついには「一緒にゲストハウスしようか」という思いが高まった2人。2010年に開かれた第1回目の「瀬戸内国際芸術祭」(以下「瀬戸芸」)の開催にあわせて、岡山県で1日から滞在できるアートスペース「かじこ」を友人らと開くことになりました。

「かじこ」は船舶用語で「舵取りをする人」という意味。「みんなで舵をとりながら、船を進めていく」というイメージで、訪れた人はゲストハウスのように宿泊することも、ただお茶を飲むこともできました。

さらに、滞在者がイベントを開けば、1泊2600円の宿泊料が1000円引きになるという魅力的な条件を設定。こうして“主客をリセットするようなユニークな仕組み”をつくったのです。
 
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家をさかさまにすると船にもなる「かじこ」のロゴ。三宅さんがデザインし、Tシャツなどのグッズに展開して販売しました。(c)Kotaro Miyake

「かじこ」を3ヶ月間だけ開き、それが終わった後、蛇谷さんは大阪に、三宅さんは岡山へと戻り、別々の生活をしていました。その後、放浪するデザインの仕事に物足りなさを感じ、「自分たちが活動できる拠点として、ゲストハウス“たみ”を作って本腰を入れよう」と、2人は2011年に鳥取に移住しました。

でも、どうして鳥取を選んだのでしょうか?

蛇谷さん この何もない感じが良いなと思ったんです。何もないから、探せるという楽しさの方が大きかったですね。誰かに与えられたものの中で楽しむんじゃなくて、自分で楽しみを見出したり、真っ白いキャンバスのような環境で何をするかは、自分たち次第だから。そのわくわく感があった。

「うかぶLLC」の意味について、蛇谷さんは、こう話してくれました。

蛇谷さん 「うかぶLLC」は、社会の荒波に対して、常に微調整しながら、波を乗り越えていく船みたいなもの。私たちは船長のようにかじをとっているだけです。

もうひとつ、私は社会に対して物事を提案するときに、宙に浮いた状態からものごとを提案したいなと思っているんです。

鳥取で活動してるけど、鳥取の人に対してだけ発信してるわけじゃない。今の、ネットでつながる遠くの世界と目の前の時間が同居してる環境を、エリアで区切ることに違和感があるんです。

今の取り組みは全国でも図式化されて、広まっていくということでしょうか?

三宅さん たぶん、それは逆です。たまたま自分たちが出会った地域がここで、ここと向き合って、この場でしか成立しない環境の中で、ここでしかできないものに取り組んでいます。

「地元の人から『3年しか鳥取に住んでいないけど、ものごとの見方が深い』と言われたんです」。山道で肩を並べて歩きながら、とても嬉しそうに蛇谷さんが言いました。

自ら企画したわりには「山のぼりが嫌い」と悲鳴を上げつつ、それでも登ることを諦めない蛇谷さん。彼らは波間に漂っているようで、実は誰よりも真剣に鳥取に分け入っているのでした。

「ここでしか成立しない」プロジェクトが各地でひしめきあえば、日本の魅力がありありと立ち現われてくるはず。一筋縄ではいかないときも「どこまで自分が楽しめるか」がポイントのようです。

「うかぶLLC」をお手本にして、さて次はあなたの番です。