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階級社会をなくしたい!プロボノマッチングでロンドンの若者の可能性を広げる「GoodPeople」[MYPRO LONDON]

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かつては日本にも士農工商という階級が存在しましたが、現在ではほぼ消滅しています。しかし、イギリスには今もなお階級社会が存在し、それは若い人々の「働きたい」という想いをも押しつぶしてしまうほどなのです。

イギリスにはワーキングクラスと言われる、いわゆる道路工事やビルのクリーニングの仕事などに従事する人たちが属する一番下の階級があります。両親ともにこのクラスに属してしまうと、高等教育を受けることができず、子どもも同じような仕事しかできないという仕組みになっているのです。そこでは「努力すれば成功する」という成功の定義の基本が通用しません。

例外として、プロサッカー選手などとびぬけた才能がある場合は労働者階級からミドルクラスへと転身することができます。ご存じ、デイヴィット・ベッカムがその例。彼はもともと労働階級の家庭に生まれ育ちましたが、サッカーの才能が開花し、今では世界でも名の知れた億万長者へと成長しました。

しかし、これは本当に稀な例。こんな状況に疑問を持ち、なんとか解決できないかと動き出したのが「GoodPeople」共同創業者のAnton Chernikov(以下アントン)です。

とはいえ、長い歴史を持つ階級制度と成功の定義を変えるためには、ロンドンの中心で「階級社会をなくそう!」と叫んだところで解決はできません。そこで彼が考えた方法は、ウェブを使って、より多くの若い人たちにプロボノで働けるチャンスをつくること。彼らに経験を積んでもらうことで、将来のキャリア設計をしたり、人生の意義を自分で見出すチャンスを掴みとってもらうことを目指しています。

階級制度への疑問からはじまった「GoodPeople」

アントンがウェブを選んだ理由はまさに単純明快でした。

ウェブには何の階級もない。年齢も、国籍も、何の障壁もなく、誰でも利用できます。そんな世界だからこそ、自由に楽しく、意味のあることを、恥ずかしがらずにできると思いました。

GoodPeopleのウェブサイトには、ユーザーが自由にボランティア企画を書き込むことができ、多くの若者に「Opportunities」として体験の場を提供しています。

例えば、一人暮らしをしている高齢者の方を対象に、家族や友達とコミュニケーションが取れるようインターネットの使い方などを教えるボランティア活動が紹介されています。結果的に約700人が参加し、およそ10,000人の高齢者に教えることができたそうです。

また、単なるボランティアだけでなく、イギリス国内のハイストリートにて14週間の期間限定ショップをオープンできるというプログラムもあります。16歳から25歳までの若者が対象で、「こんなお店をやってみたい」というアイデアを形にできる機会になっています。

ベースとなるのがさまざまな団体とのコラボレーションです。一つ目は2012年にロンドンブリッジに建てられた「シャード」というヨーロッパ一高いビルとのコラボレーション企画では、このビルの建設会社であるSELLARと、シャードが建てられたロンドンブリッジ地区のまちづくりを立案しています。

シャードをただのオフィスビルではなく、CSRがしっかりしている会社を世界中から誘致し、世界でもっとも社会的責任ある開発事業が行われる場所にしようという内容。現在、ロンドンの中でも新しい会社がこぞって事務所を開設する場所でもあるこの地区で、公共事業と民間企業がいっしょに進めていくこのプロジェクトはイギリス全体で期待されています。

コラボレーション事例の2つ目はイギリスの最大手通信会社「BT」のCSR戦略の一環として行われた企画「Hiring Hero」。Good PeopleとTXM Recruit Ltd.(イギリスのリクルートエージェンシー)がタッグを組み、元自衛隊員たちに向け、フィールドの違う職場の就労経験やボランティアワークなどの機会を作り、より多くの元自衛隊員たちのキャリアチェンジを支援するプラットフォームを作りました。

そして3つ目は、問題を抱える若者のキャリア支援を行うNPO団体「Foyer Federation」と、若者のリーダーシップ向上プログラムを展開する「ChangeMaker」とのプロジェクト「Talent Shop」。この「Talent Shop」を通じて、ジョブセンターのあり方を再定義し、若者たちの才能とキャリアが発揮できるシステムを探っているところです。

ソーシャルキャピタルが価値になる

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Anton Chernikov

GoodPeopleを通じて、若い人たちが階級など関係なくリアルな社会経験を積むことで、「新しい成功の定義を生み出してほしい」とアントンは考えています。「Charity」「Public Sector」「Private Sector」をつないで、人々が利益だけではなく、意味を持ち、そして社会的に意義があることをするのが一番大事だと言います。

今は、人と人を繋ぐような、社交的な性格でなければできないコンセプトで日々奮闘しているアントンですが、実は子どもの頃はとてもシャイで、家で黙々と絵を描いたり、読書をしたり、ひたすら自分の世界に閉じこもる生活を送っていたのだとか。しかし、絵を描くことはアントンにデザインのスキルを、読書は深い洞察力をもたらしてくれました。

大学ではそれらの才能を活かし、世界的にも有名な大学UCLバートレット校の建築学科を専攻しますが、しだいに漠然と「もっと世界を変えるような起業家的なことがしたい」と思うようになったそう。

そのときアントンに立ちはだかったのが、テクノロジーという壁。「Twitterの使い方すら知らなかった」というアントンは、自分を取り巻く様々な業種の人たちをボランティアベースで「助ける」という経験を積みながら、その中で学びを得ていくことにしました。ボランティア活動をしながら、同時にたくさんの映画を観たり、TEDのトークショーを鑑賞したり、また本をたくさん読むことを通じて、本当にやりたいことを練り上げていきました。そして、人生においてのキーワードを「価値の創造と共有」と定めることに。

ソーシャルキャピタル(社会関係資本)がこれからの価値になる。点がそれぞれ成長するというよりは、点と点がつながる線の部分がこれからの価値になるはずだ。

この仕組みを作り出すために、ソーシャルエンタープライズ業界において人脈や経験が大変豊富なRichard Tyrie(以下リチャード)とGoodPeopleを共同設立したアントン。そんな彼が語る人生においての大事な3つのポイントが印象的です。

1つ目は、Never Stop Learning。とにかく人生を通じて学び続けること。その得た知識を、必要に応じて使っていっていけるように、引き出しを増やすことです。2つ目はFind the course。自分の道をどう進んでいくのか、自分の人生を通じての大きな川を作ることをイメージしています。最後はFind the tribe。仲間を見つけること。

「Give Before Take」をフィロソフィーに、自分の持てる力で助け、とにかく与えることを心がけています。それによって多くの人と関わり、自分のトライブを構成していくんです。

成功=お金を稼ぐことという今まで当たり前だった考えは変わろうとしています。社会的責任を負いながら、さらに人生を楽しくするような仕事ができる人が増えたら、イギリスのみならず、今も階級制度問題を抱える国々が健やかで豊かになっていくかもしれません。

階級社会を乗り越えつつあるロンドンから、どんな新たなマイプロが生まれてくるのかとっても楽しみですね!

[MYPRO LONDON] Anton Chernikov – GoodPeople from Happiness Architect™ on Vimeo.

(Text:Chiori Katsuro)