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間伐材が陽気な楽器に変身!子どもたちに“木に触れる”機会を提供する「手づくりカホンプロジェクト」

こどもカホン

「自分の楽器を自分でつくれたらいいなぁ」と思ったことはありませんか?

用意するのは、6枚の木板。一つの面には丸い穴を空け、その反対側の面にはスナッピー(響き線)を取り付ける。そして、全ての面をネジでとめる。それだけ?そう、それだけで、世界にひとつ、自分だけの楽器の出来上がりです。

カホン

この四角い楽器は「カホン」と言って、ペルーの民族楽器。軽いので簡単に持ち運びでき、電源いらずでドラムセットのような音が出せるので、ストリートミュージシャンの間で愛されてきました。町中でカホンを持っている人同士が出会えば、いつでもどこでもセッションができるというわけです。

カホンセッション

手づくりカホンプロジェクト実行委員会」は、このエコで楽しい楽器・カホンをつくるワークショップを通して、日本の林業を応援し、子どもたちに木のぬくもりを伝えている団体です。工具を使って組み立て、側面に絵を描き、最後はみんなで演奏。5,000円〜6,000円という価格で自分の楽器を持つことができ、製作工程を通して“ものづくり”、“アート”、“音楽”を一度に楽しめると人気です。

2009年から現在までに開いたワークショップの回数はもう少しで100回!メンバーは木材と工具を持って、全国各地を飛び回っています。

国産材が活用されず、山が荒れているー林業の現状を変えたい

このプロジェクトを始めたのは、建材メーカーに勤める30代の男性3人。取引先の森林業者や材木屋と話しているうちに、日本の林業が直面している問題に関心を寄せるようになったと言います。

森を整備し、間伐した木材を山から降ろして製材するには、たくさんの時間と人手が必要とします。しかし、安価な中国産材が流通するようになったことで国産材の需要が低下し、日本の林業経営は成り立たなくなってきました。国土面積の七割を森林が占め、世界有数の森林大国である日本。それにもかかわらず、国産材が活用されず山が荒れているという現状があるのです。

3人とも「この現状をなんとかしたい」という問題意識、「助成金や補助金を使って単発で終わるものではなく、継続的に活用する仕組みをつくりたい」という想いを共通して持っていました。なぜカホンだったかというと、仲間のひとりが民族楽器マニアで、趣味でカホンをつくっていたから。

「それ面白いじゃん、やってみようよ」となって、協力してくれる材木屋さんを探して、ワークショップの企画を考えて。試しに東急ハンズのイベントに出展してみたら、行列ができちゃったんですよ。大人気で。「これはいける!」と勢いづきました。

カホンプロジェクトのメンバーのひとり、八崎篤さん。現在は会社を辞めてカホンプロジェクト+αで食べていこうとしています。

カホンプロジェクトのメンバーのひとり、八崎篤さん。現在は会社を辞めてカホンプロジェクト+αで食べていこうとしています。

自分たちも楽しみつつ、試行錯誤しているうちに自然と協力者が集まり、親子イベントの主催者や林業関係者から「うちでもやってくれませんか」と声がかかるようになったそう。秋田の能代、兵庫の丹波、福岡の糸島、岡山の西粟倉では、地元の木材をカホン用に製材し、地域の人と一緒にイベントをつくり上げています。ワークショップに林業家や材木屋の方が同席することもあり、参加者にとっては、自分が暮らす地域のことを知る良いきっかけになっている様子。

適正な価格で国産材を買って山にお金を還す…とは言っても、カホンをひとつふたつつくったところで、正直影響はわずかなものです。でも、参加してくれた人が森林に興味を持って、国産材を選ぶようになったり、週末に森林ボランティアをするようになったりしたら、それはすごく意味のあることなんじゃないかな、と。ワークショップをきっかけに、少しでも意識や行動が変わってくれたら嬉しいです。

目標は47都道府県それぞれの地域のカホンをつくることだそう。住民が地域の森林整備に参加し、自分が手入れした木で楽器をつくるーそんなムーブメントが起きたら素敵ですね。

ワークショップを通して、子どもの感性を育む

工作

ワークショップは老若男女さまざまな人が楽しめる内容ですが、一番多いのは親子での参加。カホンプロジェクトのメンバーも、子どもの教育を大事に考えています。

僕の家では木のテーブルを使っているんですが、来た人がずっと表面を撫でているんですよ。木の手触りって気持ちいいんですよね。昔は木製品が身近に溢れていましたが、最近は安価なプラスチック製品が増えて、木に触れる機会が減っているように思えます。一見木のように見えて、実は木目調のプリントだったり。小さい頃からそういった製品に囲まれて育ったら、それが木だと思ってしまうかもしれません。本物の木の柔らかさや匂いを知ってほしいと思っています。

子どもたちに、本物の素材に触れる機会を提供する。それもワークショップを行う動機のひとつ。木の節を指して「これは枝のあとなんだよ」と教えると、子どもは不思議そうに木目を撫でるそうです。

¥oekaki

また、自分の手を動かし道具の使い方を学ぶこと、箱に絵を描いて思いきり自分を表現できることなど、カホンづくりには“ものづくり”と“アート”を同時に楽しめるという面もあります。演奏方法は叩くだけなので、誰でも音楽を楽しめることもポイント。

養護学校でワークショップをした時、ひとりの子どもがいきなりカホンを叩きはじめたんです。ダイナミックな演奏で、その場にいたプロの音楽家が「この子は才能がある!」って。先生たちも驚いていて、「叱ってばかりいたけど、こんな長所を持っていたなんて。探して伸ばすことをしないといけませんね」と話していたのが印象的でした。

さまざまな要素を持つカホンワークショップは、子どもが自分の好きなこと・得意なことを発見する、また周囲の大人たちが子どもの個性を知る、良い機会になるのではないでしょうか。

カホンプロジェクト

活用されていなかった木々を楽器に変えて、大人たちに森の現状を伝え、子どもたちの感性を育む。手づくりカホンプロジェクトの取り組みは、「間伐材にはまだまだたくさんの可能性があるんだ!」と私たちに教えてくれます。

もしあなたが「地元の森をなんとかしたい」と思っていたら、カホンプロジェクトと組んでみてはいかがでしょうか。新しい展開が生まれるかもしれませんよ。

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