コワーキングスペースという名の施設が東京を中心にどんどん増えてきています。先日greenz.jpでも取り上げた準備中のHUBのように世界的なネットワークにつながっているもの、スタートアップに特化したもの、企業とコラボしたものなど様々な特徴があります。
そんな中、また一つ特徴的な”コワーキングスペース的なもの”が誕生しました。その名も「みどり荘」。何よりもその外見が特徴的です!そして訪れて話を聞いてみると、中身もかなり面白いものでした。確かにコワーキングスペースなんですが、どこかゆるやかさも感じられ、しかしゆるやかな中にも何かが生まれようとするエネルギーも感じることができる、そんな場をご紹介しましょう。
場所は渋谷と中目黒と池尻大橋の間くらい。どこにもいけるけどどこからもちょっと遠い便利そうなちょっと不便そうな場所にあります。外観は緑で覆われた廃墟のよう。まだ改装用の資材が置かれている入り口から、昔のアパートのような階段をあがった2階と3階が「みどり荘」です。
2階にはラウンジとワーキングペースが、3階にもワーキンスペースがあります。テラスはまだ骨組みだけですが、景色は抜群。そんな2階のラウンジで、設立者の一人である小柴美保さん(以下小柴)と運営にたずさわる大矢知史さん(以下大矢にお話を聞きました。
自分たちの手で作る
まずはこのみどり荘ができるまでについて話を聞きました。
大矢 仲間とポートランドに行く事がよくあって、そこにリノベーションした格好いいスペースが色々ありました。それで日本でも同じようなことができる外観が引き込まれる物件はないかと探していたら、知人にここを紹介されたんです。
それで行ってみてひと目で「これだ!」ってなったんですが、10年前に大家さんが高級マンションにリノベーションしようとしたのがストップしたままになっていて、中は廃墟同然の状態でした。その片付けからはじめて、去年の10月から半年くらいかけてようやく形になったという感じです。
小柴 全部DIYで、ペンキ塗りなんかもワークショップでいろんな人に来てもらってやったり、みどり荘という名前は外の緑もそうですけど、トキワ荘みたいに新しい物とか面白い人が巣立つ場というイメージで、色々なものとか思想とかを作っていく場ということをイメージしていたので、この場所自体も自分たちで作ろうって思ったんです。
石村 作るのに参考にした場所とかはあるんですか?
小柴 海外でたくさんシェアオフィスを見て、本当に面白いところがたくさんありました。例えばサンフランシスコのロケットスターターというところは、銀行家とか投資家とかが入っているんですが、新しい会社ができて10人以上になると出ていかなきゃいけないっていうルールがあって、それで次々新しいプロジェクトが生まれていくっていう好循環が生まれていました。
大矢 サポートしてくれる投資家が身近にるってのは良いね。
小柴 あと、サミットというところは一見カフェなんだけど実は裏にはコワーキングスペースがあって、カフェに芽の有りそうな人がいるとコワーキングスペースに引っ張りこんで、資本をつけて一緒に仕事をするみたいなところでした。みどり荘でもそういう環境が上手く作れたらなと思っています。
石村 100%自然エネルギーという計画だったそうですが、その計画はどうなりました?
小柴 最初やろうとしたら600万するって言われたんですよ。しかも曇りだとダメになっちゃうっていう。それで色々議論したんですけど、初期投資で600万はちょっと…というのもあるし、作ったばかりで突然ネットが切れたらオフィスとしての信頼を失ってしまうからそれは避けた方がいいという意見が出てとりあえずやめました。でも諦めてはないですよ。greenz.jpとみどり荘と組みませんか?グリーンエネルギーで!
大矢 greenz.jpにはもっとクリーンエネルギーをガツガツ行って欲しいんですよ。greenz.jpと俺らで盛り上げていきましょうよ。
コピー機など電気を食う機器があるのでなかなかエネルギーの自給は難しいという小柴さん。でも本当は「ロビンソン・クルーソー化したい」そう。本当にgreenz.jpと組んでオフグリッドが実現したら素晴らしいですね!それは今後の課題として、さらにみどり荘について聞いていきます。
コワーキングスペースではなくトキワ荘を目指す!
ここからは、ワーキングスペースとしてのみどり荘のあり方について聞きます。
小柴 まずみどり荘を運営しているのは「mirai Institute」というところで、私とあと二人でやってるんですけど、「インディペンデント・シンクタンク」と名乗っています。
これは、もともと「最近本質を考えるところってないよね」という発想から始まって、もっと会社とか国の利益とかにとらわれないで物を考える場所を作ろうと思ってシンクタンクを立ち上げたんです。
石村 あー儲からなそう。
小柴 そう、みんなに言われます。
その一環として、働き方や働くことを未来を実証する場としてみどり荘を作ったんです。そのインディペンデント・シンクタンクの思想を具現化するベースとして、みんなが議論したりコミュニティ作ったりする場が大事なんじゃないかという考えもありました。私はmirai instituteを立ち上げる前はバリバリ金融で働いていました。プチバブルからリーマンショックまでを体感して、これからの世の中、金融を取り巻く環境からではエキサイティングに世界は変わらないと実感しました。その結果であり、過程の1つがみどり荘という場です。
だから、コワーキングスペースっていうのはやめようって思って。そういうんじゃなくてもっと強いコミュニティとか融合が生まれたらいいねって言っています。セキュリティだけはしっかりして、あとは特にルールも設けず、みんなが迷惑かけずに好きにやってればいいと思っています。
大矢 場所貸しを目的にしてる訳じゃなくて、どれだけ面白い人が集まって、どれだけ面白いプロジェクトがそこで生まれて、世に巣立っていくか、それを見守る環境みたいにみどり荘を位置づけたいなと考えてます。
だからコワーキングスペースの中で比較されるのはちょっと、っていうのはありますね。将来的には「プロジェクトをみどり荘にお願いしよう」って言われるような存在になりたいです。
小柴 どこのコワーキングスペースもそううたってるけど、なかなかうまく行ってるところはないし、私たちもこれからやっていかなきゃいけないんですが、いま入居してる建築家とデザイナーの人が一緒に仕事していて、これからそんな事例を増やせるようにしていきたいと思っています。働く場所であると同時にブレインキャンプのようなイベントをやることで、トキワ荘みたいに新しい人が旅立っていける場であり、さらにそれが循環していくような場になりたいと思っています。
この場所からはたしかに、コワーキングスペースというだけでは片付けられない何かを感じます。それはコワーキングスペースというのがオープンなようでありながらそこに所属する人で閉じられた空間でもあるのに対し、このみどり荘はかなりオープンで自由な空間である印象を受けるからではないでしょうか。
ここでさらに、じゃあみどり荘っていったい何?というところに迫っていきます。
石村 コワーキングスペースじゃなければ何なんですかここは?
小柴 みんなのワークスペース?
大矢 なんか家族みたいになってるもんね。
小柴 しゃべっちゃって仕事の邪魔しちゃってごめんねみたいな雰囲気あるよね。
大矢 僕ここ来るの楽しみですから。それをみんなと共有したいです。来て楽しんで、ほんと仕事しろよみたいな感じにいつも思ってます。
石村 じゃあ、ここを運営する上で大事にしてることって?
大矢 大切にしていることは人かなぁ。
小柴 外観の緑をたやさないこと?
大矢 いかにみんなが働きやすい空間を作れるか。
小柴 良質な混沌を作りたい。
大矢 それ!それだよそれ!
小柴 様々な仕事や国籍、趣味、考えを持つメンバーが集まって、みんなで楽しめるような「何か」を生み出せるような混沌を作りたいですし、実際にすでにインターナショナルな雰囲気になりつつあります。
石村 いいですね、良質な混沌!
「良質な混沌」という言葉、この言葉についてあとで考えた時に思ったのは、宇宙の始まり「ビッグバン」の前にはカオスがあったのではないかという説のことです。何かが新しく生まれる前には混沌がある。それは常に真実のような気がするのです。
何かアイデアを出そうという時にブレインストーミングをするように、混沌の中から何かが生まれる。ブレインキャンプというイベントもする行うというみどり荘は新しいものを生み出す母体としての混沌、しかも良質な混沌をあえて創りだすことで、新しい何かを生み出そうとしているのです。
石村 じゃあ、どんな人に来て欲しいですか?
小柴 どんな人というのを厳密に定義するのはすごく難しくて、ハードルを上げるつもりもないんですよ。でも自主的に色々やる人が面白いと思います。
大矢 受け身じゃなくて、自ら切り開こうとしてその刺激をここに求める人。面白い人がいいよね。
小柴 ちょっと嗅覚で来てくれるような人。
大矢 ここに実際に来て感覚で入りたいと直感で思ってくれた人ですかね。値段とか比較でこっちがいいとかじゃなくて、もっと直感で「ここがいい」みたいな、素直な気持ちに従って欲しいっていうのはありますね。
オフィスというと秩序がイメージされますが、それとは正反対の混沌を働く場に求める。これ自体がこのスペースの独自性なのではないでしょうか。実際はすごく清潔で整頓もされていて、物理的な混沌は感じられないですが、ワーキングスペースに行くといきなり犬(利用者の飼い犬。「二人暮らしなので家において来られない」そうです)がいて、時にはギャラリースペースで香港から来たテーラーがpop-upショップとしてオーダーメイドスーツのオーダーを受けていたりもします。
これはオフィスはこうあるべきだという価値観を一回捨て去り、そこに新たに様々な価値観を詰め込むことで生まれる混沌へと向かっているということではないでしょうか。
石村 最後にこれからの予定とか目標を聞かせてください。
小柴 ブレインキャンプを活性化させるのと、簡単にできるイベントからブレインキャンプまでのイベントを充実させることです。ヨガも始めましたし、自由大学のキャンパスにもなっています。今はアプリクリエイター道場というのをやっていて、これから金継ぎの講座もはじまります。そして何よりも、メンバーを充実させ、みどり荘がメンバーに対して場の提供だけでなく、提供できること、例えば、プロジェクトやシンクタンクとしてのサポート、そして楽しみ、をしっかり提供していきたいと考えています。
ワーキングスペースであると同時に、外から様々な刺激を受けられそうな場である「みどり荘」、気になった方はピンと来るかどうかを試しにぜひ一度立ち寄ってみてください。
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