『生きる、を耕す本』が完成!greenz peopleになるとプレゼント→

greenz people ロゴ

「デザインは対話にとてもよく似ている」Nosigner 太刀川英輔さんの考える”デザイン”とは?「ダイアログBar京都」[イベントレポート]

第4回ダイアログBar京都 ゲストの太刀川英輔さん(Nosigner事務所)

第4回ダイアログBar京都 ゲストの太刀川英輔さん(Nosigner事務所)

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

5月1日、ミラツクの西村勇也さんとHome’s viの嘉村賢州さんが主催する「ダイアログBar 京都」が開かれました。

ダイアログBar 京都は、いつも京都の外から紹介したい人をゲストに迎えているそう。今回のゲストは、Nosigner事務所の創業者・太刀川英輔さん。「見えないものをつくる職業」という意味を持つ「Nosigner」という言葉を看板に掲げ、プロダクト、グラフィック、空間、建築と幅広い分野のデザインを手がけて国内外で活躍するデザイナーさんです。

はじめに、太刀川さんのお話を聞く「ゲストトーク」の時間、その後に参加者同士による「ダイアログ」の時間という2部構成で信仰した当日の様子を、太刀川さんのお話を中心にしながらレポートにまとめました。

「どんな思いでここに来たの?」からはじまる

ダイアログBar京都 会場のようす

会場に集まったのはは学生や会社員、大学の先生まで幅広い年齢の人たち。今回は参加者の6~7割が「ダイアログBar」を初めて体験したようです。

まずは、参加者がなるべく知らない人同士で3~4人のグループを作り「どんな思いでここに来たのか?」を話し合う“チェックイン”からスタート。すぐにあちこちで活発な会話がはじまり「西村さんと太刀川さんがどんな話をするのかに興味があった」「デザインの勉強をしているから」「ダイアログBarに興味があって」など、さまざまな声が聴こえてきます。

知らない人同士が集まる場は、最初のうちちょっとした緊張感が漂ったり、ぎこちない空気になりがちです。でも、それぞれが自らの“思い”を言葉にし、また他の人の“思い”を聴くことで、会場の空気がやわらいで参加者のみなさんの表情もリラックス。ゲストトークが始まるときには、ほんわかと良い感じに場の空気が温まっていました。

太刀川英輔さんの仕事「デザインは対話に似ている」

ゲストトークでは、NOSIGNERのウェブサイトで過去の仕事を紹介しながら、太刀川さんの仕事とデザインに対する考え方を話してくれました。

一般的には、デザイナーには「モノのカタチをデザインする仕事」というイメージがあります。ところが、太刀川さんは「かたちをつくることがデザイナーの仕事なのかどうか?」と会場に問いかけることからはじめたのです。いったいどんな話になるのか、会場の期待が高まります。

たとえば、月にしか見えない照明「The Moon」が生まれたときのことを、太刀川さんはこんなふうに語ります。

NOSIGNER 「The Moon」

NOSIGNER 「The Moon」

「The Moon」は、JAXAの月周回衛星「かぐや」が観測した月の3Dデータを元に作りました。月は地球上のすべての生命にとって夜を照らす明かり、つまりランプの究極のかたちは月だったのではないかと思う。その月をそのままランプに作ったらすごくカッコよかったんです。

「かぐや」の3Dデータ、ライトを製造する技術、ライトという我々が使えるカタチに落ちていること。その間をブリッジすると“勝手に”こういう形になった。誰でも知っていて、必然的にそうなる理由のあるものを見つけると、勝手にそのままモノになる瞬間がある。僕は、つながりを見つけているだけだなあと思います。

また、宮城県石巻市牡鹿半島の被災した漁村に暮らすお母さんたちの手仕事ブランド「OCICA」を作ったときのストーリーもとてもスリリングです。

NOSIGNER 「ocica」

NOSIGNER 「ocica」

牡鹿半島なので鹿の角がたくさんあるんです。「これで何か作れないか?」と相談を受けました。現地に行くと、「鹿の角は水難のお守り」「お母さんたちはお父さんの漁網を修復していた」ということがわかって。漁網の修復糸と鹿の角を素材にして、「悪い夢を食べて夢をかなえる」ドリームキャッチャーのアクセサリーを作ったんです。

ヒアリングやリサーチを重ねて「ここでの必然性は何? それがかたちになったものは?」と考えるのが僕の仕事です。“勝手にそうなっちゃう”必然性をいかに多く見つけて、その意味の強度をどれだけ高められるのか」ということがデザインだと思う。だから、デザインは“対話”にとても似ていると思います。

“良いデザイン”は強い関係を生むことができる

第4回ダイアログBar京都 会場からの質問に答える太刀川さん

第4回ダイアログBar京都 会場からの質問に答える太刀川さん

ゲストトークの後半は、ふたりのファシリテーターが質問を投げかけました。まず、西村さんが「デザインと対話は似ていると考えるようなデザイナーは多くないと思う。そういうやり方をはじめたときのストーリーを聞かせてほしい」と問いかけます。

すると、太刀川さんは自らのバックグラウンドに触れることから語りはじめました。

僕は建築出身なんです。建築教育は敷地の要件や設備、コスト、施主の思い入れなどの“与条件”を整理すること、与条件に対して“解けて”いるかということから始まります。

一方で、美術教育は「お前の個性を見せてくれ」と自分が与条件になるというか。建築出身のデザイナーは各分野にいるけれど、「解く」「状況に即す」という考え方が板につきやすいかもしれないです。

もちろん、建築出身の誰もが太刀川さんのようなデザイナーになるというわけではないと思います。「状況に即す」ということから、太刀川さんは「いいデザインは状況に忠実でないと機能しない。良いデザインは強いデザインを生めるデザインだと思う」と考えを深めたのです。

自分と関係ないと思ったり、他の人が興味を持たなかったり。その人自身の納得に至らない、理解できないものって強くないでしょう? その人やその状況を深く理解していることがその表現の担保になるはずだから。ヒアリングやリサーチを重ねることによって“理解すること”が大切になるんですね。

”閾値”を上げればセンスは必ず磨かれる

UstreamおよびTwitterでの中継をてきぱきと行う「resigner」のおふたり

もう一人のファシリテーター、嘉村さんからは「できなかったことができるようになったという成長のストーリーを聞きたい」とリクエストがありました。太刀川さんは、大学3年生のときの「壁を超える」経験を振り返って話してくれました。

当時のライバルは、すごくできる同級生の友人。でも、あるとき、僕らが作っているスタイロ模型よりも、建築家が作っているリアルな建築のほうがずっと難しいし、ずっとかっこいいと気がついて。憧れている建築家をライバルに設定しようと思ったんです。それが一番、センスを伸ばしたと思います。

「一学生が超一流の建築家をライバルにする」なんて、荒唐無稽だと思うでしょうか? 太刀川さんはライバルのすごさを50くらいの項目に分解して、ひとつずつ「勝てる項目」を作っていったそうです。

最初は1週間かかっても、一度できるようになれば10分でできるようになる。閾値(しきいち)を高く設定して、そこに粘り続ければ必ずセンスは磨かれます。これは、デザインに限らずどんな仕事でも同じなんじゃないかな。

たとえば、パワーポイントを使ってプレゼンテーションを作るときに、「スティーブ・ジョブズやアル・ゴアのプレゼンテーションを参考にしてみる」ことが「センスの閾値を上げていく」ことになります。私たちもまた、自分の仕事への“閾値”を上げることで、センスを磨くことができるのではないでしょうか。

世界に任せておけば「美しくなっちゃう」

「必然性を見つける」「“勝手に”そうなっちゃうモノを見つける」「良い関係を生むのが良いデザイン」――太刀川さんは、デザインを人とモノの関係性のなかで機能するはたらきについてシンプルに、強い言葉で語ります。

一方、デザインは「美しい必要はある」「美しいと関係したくなる」とも発言。太刀川さんの思う「美しさ」とはどういうものなのでしょう? 西村さんが「どういうものを美しいと感じるの?」と問うと「美しさも定義できているかもしれない」と、太刀川さんは明快に答えはじめます。

花は、花粉を運んでくれる虫に飛んできてもらうために美しくなっちゃったわけですよね。関係したくなっちゃうかたちがあること、そして美は関係性に対する機能を持っているという前提は、そういうことからも証明できると思っていて。

また、僕にとって“統合されている”状態が“美しい”です。良いデザイン、美しいデザインは要素が少なく、必然性に任せられている。世界はもうすでに美しいから、そこにすべてを任せると美しくなっちゃう。デザインコンセプトもそうだと思う。「The Moon」は要素が少なく、理解の強度があります。

Illustratorでベジェ曲線を描きながら説明する太刀川さん

Illustratorでベジェ曲線を描きながら説明する太刀川さん

このとき、太刀川さんはイラストレーターを立ち上げて、ベジェ曲線で楕円を描画して説明。たくさんの点を使うのか、それとも最もシンプルに2点だけを使うのか? 「いかに点を少なくするかと美を目指すのは同じこと」という太刀川さんの言葉は、参加者の深い共感を得ているように思われました。

8つのトピックで40分のダイアログ

約1時間の予定だったゲストトークですが、質疑応答が盛り上がりすぎて大幅に時間オーバー。10分間の休憩の後、約40分間の“ダイアログ”の時間が用意されました。

ダイアログのトピックは、テーブルの数に合わせて8人から募集。ゲストトークを聴いて「みんなと話したい」ことがある人は前に出て、床に置かれた紙にカラフルなマジックでトピックを書きホワイトボードに貼りだしていきます。

床に座り込んでトピックの言葉を考える参加者のみなさん

同じゲストトークに触発されたとは思えない、トピックのテーマの拡散っぷりがとてもとても面白かったです。今回出たトピックはこんな感じでした。

「自己マネジメント(時間管理)」
「自然(じねん)流 自然から学べること」
「天才のつくり方」
「暮らし」
「子どもにデザイン思考は可能か」
「デザインと芸術について」
「地域が良くなるダイアログ」
「人生で大切にしたいこと」

ほかの参加者は、出たトピックから興味のあるものを選択。「ただ知っていることや言いたいことを発言するのではなく、トピックを出した人が理解を深めたり、新しいアイデアを手に入れるためのサポーターとして」ダイアログに参加します。

各テーブルには模造紙とペンが用意されていて、話しながらキーワードを書いていったり、言葉のつながりにラインを引いたりと、グループごとのアイデアがグラフィカルに表現されていきます。わりとみんな適当にグリグリ書いているのですが、最後には何か意味深な“作品”のようになっていました。

ダイアログで話したことを報告しあう

ダイアログで話したことを報告しあう

ダイアログが終わると、トピックを出した人たちがダイアログの様子をシェア。「こんな指摘を受けてハッとした」「具体的に解決策になりそうなアイデアをもらった」「新しい視点をもらって考えが広がった」などの報告がありました。

初めてのダイアログBarを経験してみて

ゲストの太刀川さんもグループに参加

実は、私自身もダイアログ Barへの参加は初めてだったのですが、いくつかとても興味深く思ったことがありました。まず、いわゆるセミナー講演会などと比較すると、ゲストと参加者の距離がとても近いこと。太刀川さんが話上手だったということもあるけれど、ゲストトークに対する参加者の集中度の高さはゲストと参加者の関係性にもあるように思いました。

参加者に話を聴くと、「太刀川さんの話で場が温まっていく感じがすごく良かった」「デザインの話をデザイナー以外の人たちも真剣に聴いているので驚いた」などと、ゲストの話だけを聴くというよりは場全体として聴いている感覚を持っている人が多かったのも、場を作るひとつの要因になっていたのではないでしょうか。

ダイアログでは、初めて会った人同士でもグッと深い話がはじまります。相手の名前やプロフィールを知らなくても、ひとつのテーマを共有して対話をすることができるのです。ダイアログBarにはカフェでもバーでも、○○交流会にもないコミュニケーションの経験があり、それを求めて集う人も多いようです。

ダイアログBarは、これからミラツクと地域性のあるNPOとコラボレーションするかたちで全国各地で開く予定だそうです。もしかしたら、あなたの地域にもダイアログBarがやってくるかもしれません。

次回のダイアログBar 京都は5月29日、ゲストはissue+designプロジェクトの筧裕介さんです。いつもはUstreamの中継やTwitterのログでチェックしている人も、「百聞は一見にしかず」ですから、思い切ってリアルに参加してみてはいかがでしょうか?