世界の人口のうち、およそ50%もの人たちが銀行システムを利用できません。その理由の多くは、生活レベルが「貧困」状態だからです。
キャッシュレジスターやATMなどを手がける情報システムのグローバル企業 NCRは、この問題に取り組んでいます。これまでもマイクロクレジットの決済システムなどを開発してきましたが、今回は「ATM」を手がけました。貧困層の住民の目線に立って生み出された最新プロダクトをご紹介いたします。
一見しただけでは何かまったく分からない、この円筒型の物体。これがインドの貧困層向けにデザインされた「ATM」なのです。
NCRがインド・ムンバイのスラム街を調査した結果、識字率は非常に低い水準であることが判明しました。そのため、マイクロクレジットなどの金融システムをつくっても、従来の文字操作の多いATMではスラム街の住民に利用してもらうことができません。そのような背景から生まれたのが、この「The Pillar ATM」です。
今回、開発されたATMには、非接触型ICカード読み取り機能、指紋認証機能が搭載されていのに加えて、シンプルなキャッシュボタンが配置されているだけです。もちろん「文字」は一切記載されていません。
利用者がお金を引き出す際には、まずは指紋認証センサーに親指をかざして、利用者照合を行います。その後、金額によって色分けされたボタンを押し、必要な分だけ取り出します。これらのすべての操作を「直感」で行うことができるので、読み書きのできない人でもシステムをセルフ利用することができます。
セキュリティのため、このATMは地面にボルトで固定されます。また、円筒型の形状はバールでの窃盗のリスクを最低限に抑えます。それだけではなく、不正行為が行われた際には、自動で機械ごと壊れてしまう仕掛けになっています。たとえこのATMを強奪できたとしても、中のお金を盗むことはできません。
これまで5つのプロトタイプが製作され、実験が繰り返されています。今後1年以内にムンバイの街角にこのATMが設置される見通しです。ATM設置とともに地域住民向けに利用講習も行う方針です。
「読み書きができない」というだけで発生してしまう機会損失を、デザインによって打破しようという今回の取り組みは、ATMならずとも他の分野でも応用ができそうです。識字率向上の活動と並行で進んでいくことが望まれますね。
[via springwise.com]
識字率向上を目指すデバイスもある!