必要なモノは何でもそろう、便利な都会の生活。けれども地震・停電・大雪などに見舞われれば、たちまち生活に大きな支障が出ます。まして原油高騰の時代を迎え、ガソリン不足や光熱費の上昇に直面した時、今まで通り生きていけるでしょうか?
ライターで簡単に火がつく現代にあって、人力と摩擦熱で火を起こしつづける「火起師(ひおこし)」こと大西琢也さんに都市でサバイブするヒントを尋ねました。
最速5秒で火起こし!
1975年生まれの大西さんは、火を通して「人と自然、人と人をつなぐ」というビジョンを胸に、世界7ヶ国24地点、国内223地点でもっともプリミティブな発火術である「錐揉(きりもみ)式火起こし」を実践してきました。
これまでの最速発火時間はナント5秒! TVチャンピオンの「サバイバル野人王選手権」で優勝したほか、富士山頂やアフリカ・キリマンジャロ峰5000m付近などでも火起こしを成功させるという、まさに「アルティメット・ヒオコシスト」なのです。
また、過去13年にわたり国内外で「火起こしワークショップ」を開催し、のべ2万5千人子供たちと火起こし体験を共有。聖地や結婚・葬儀などの場で火起こしを奉納するほか、近年は福島・南会津でNPO法人森の遊学舎を運営し、自然体験を通じてつながりを創造する活動を続けています。
サバイブに必要なのは「心構え」と「自分で考えて生む経験」
それでは、さっそく大西さんに質問しましょう。
―便利な現代生活ですが、ライフラインがストップしたら生活はマヒします。「火」でアタフタしないために、何を準備すればよいですか?
「何もいらない」。ある意味、真実です。
何より心構えが大切ですね。私たちの暮らしがどれだけぜい弱な基盤の上に成立しているのか。何に守られているのか。どこまで自分ができるのか。まずは知り、そして体験することです。
道具があっても、使い方を知らなくては意味がない。道具がなくても知恵があれば、自分で作り出せる。日頃から自分で考えて生み出す経験が一番の準備です。
通常、即座に火が必要になることは少ないです。例えば地震。まずは火よりも水やシェルター(避難できる場所、家、テントなど)が欲しいですね。シート一枚でもかなり雨風は凌げます。数日間、食べずに生き残れることを考えれば、短期間のサバイバルに「火」は必須ではありません。つまりアタフタしなくても大丈夫なんです。
事件や原油高騰などが長期にわたって続き、生活の全てが原油に依存していれば、生死を分けるでしょう。現代の都市生活は「砂上の楼閣」。それを巧妙に隠して、様々なものが提供されています。「何でも誰かがやってくれる」という感覚が当たり前になっていませんか。そういう人は「火」に限らずアタフタするでしょうね。
ちなみに有事に備えて火を扱えるように、私が東京に住んでいたころは庭に焚き火スペースを作っていました。薪、鉈、鋸は常備。あとは七輪と炭。家の暖房は火鉢でしたから、これも使えます。お米も美味しく炊けるし、行水もできますよ。
―身近にあって、火を起こせるものはありますか?
刃物(ナイフ・包丁・はさみ)は加工のために必須ですが、無ければガラスでも代用可。石器に見立てて刃物を作ります。
身近な道具で火を起こすために4つの要素を紹介します。
1.摩擦・・・家具などの木材(縦30cm×横10cm×厚さ2cm)
2.電気・・・車のバッテリー、コード、スチールウールかフィラメント付きの電球。火花を起こす
3.太陽・・・懐中電灯のヘッド部分、金魚鉢と水、虫眼鏡(カメラのレンズ)など。集光してティッシュペーパーや麻ひもなどに点火します。黒マジックがあると便利
4.金属・・・鉄やすりと硬度7以上の石(水晶、メノウ、エメラルド、トパーズ、キャッツアイ、サファイア、ルビー)。怒られるでしょうが、お母さんのダイヤモンド指輪もOK(笑)。火花を起こす
―自然の火と、ライターなどの火との違いはありますか? 例えば料理の味が違うとか……。
味は違います。焚き火にしろガスにしろ、表面が一気に熱くなってしまえば、焦げたり、中まで火が通らなかったりします。むしろ料理には「熾き火」や「灰」を使うものです。
例えば、一番美味しい焼き芋は「熱灰」(ねつばい)に埋めて作ります。灰で覆うことで内外の温度差を小さくして、ゆっくりと熱が伝わります。じっくり温めれば焦げる心配も少ないですね。澱粉を分解する酵素の作用を促して、甘みの強いブドウ糖にする効果もあります。アルミホイルや新聞紙もいらない。とってもホクホクで美味しいですよ! ただし薪に建築廃材を使うと有毒物質が含まれててダメですが。
―ところで、かつては家々の土間に「火の神」が祀られていました。 現代の生活の中から、火への畏れは失われています
生活の中で火を使うこと、火の怖さとありがたさ、火と人の歴史に触れる経験ができるといいですね。そもそもなぜ「火の神」が祀られ、畏れがあったのか。その意味を体験から知る機会が大切です。
私は「森の遊学舎」の活動を通して、かつて火を囲んで共に食べ、話し、踊り、寝ていた時代を想い出します。一緒に暮らすことの象徴として「火」があり、命をつないできたご先祖様、その周りの自然があったからこそ、私たちがいる。苦楽を共にして、思う存分遊んだ感動。ご飯を一緒に食べて、ゆっくり夜は眠る。そんな当たり前のことを大切にしています。
焚き火をしたり、料理をしたり、キャンプファイヤーをしたり。薪炭はどこから来るのか。木は、森は、水は? 自分の周りのいのちに対して気づき、感謝の心が自然に湧いてくればうれしいですね。
―最後に、会津での活動から、「火」を通して今の社会にメッセージするとしたら?
今、私たちはどんな時代を生きているでしょうか。情報や体験の不足によって、子どもも大人も不安定になっていませんか?
ある子が「オレ、薪割り上手なんだよ!」と言いました。お!それはすごいなーと思って聞いてみたら、「AボタンとBボタンを素早く押すと薪が早く割れて高得点とれるの」という。
また別の子は火起こしをして、着火の瞬間に「手を離していいか?」と訊ねてきました。自分の手が熱くて燃えそうな、その時に・・・。
とても驚きましたが、それが今なんですよね。都会も田舎もそう大差はありません。
自分の「根っこ」がどこにあるのか。子ども達はどんな大地(社会)で育てばいいのか。一人ひとりができることからやってみるといいと思います。
サバイバルと聞くと、すぐにアウトドアショップに行ってガスコンロやテントを揃えるなどと考えがちですが、本質的にサバイブする力は自分の中にこそあるのだということを、大西さんは教えてくれます。自然とのかかわりを通して五感を研ぎ澄まし、生きるために自然の力をうまく利用する。資源を浪費し、大量に消費しつづける都市生活の中でそうした「野性の感覚」は鈍りがちですが、先人たちの知恵に学ぶことで回復できるし、またそこには自然とともに生きるヒントも見出せるでしょう。
5/13に開催のgreen drink Tokyoのテーマはズバリ「Urban Survivability ~都市をサヴァイヴする力!~」。あなたの中に眠る野性を、そろそろ起こしてみませんか?
今度のgreen drinks Tokyoは5/13(木)開催!
「HIKESHI」じゃないよ、「火起師」だよ!大西琢也さんのブログ
生きる「根っこ」を育む自然学校