「持続可能(=サステナブル)な都市を創るプランナーを育てる。」
そんなテーマを掲げているのが、イタリア・フェラーラにある、フェラーラ大学の国際修士プログラム「Master Eco-Polis」です。
今日は、このコースに通い、イタリア、ブラジル、チリと世界各地でサステナブルな都市政策について学んでいる内田友紀さんのレポートをお届けします。
経済×社会×環境デザイン
イタリア・フェラーラの街並み
私が現在所属しているこのコースは、現在、UNESCOの議長を務めるPaolo Ceccarelliによって10年前に創られ、各地に都市のオーガナイザーを輩出しています。「Eco-Polis」という名前には、経済・社会・環境デザインを複合した都市政策という意味が込められています。
この大学院では、都市という複雑な課題を、社会・経済・環境デザインの視点から複合的に分析することでサステナブルな状態を目指し、地域計画と実行プロジェクトをオーガナイズできる人材を育てることを目指しています。
私は日本で建築を勉強し、その後メディアプロデューサーとして不動産・建築業界に関わり、週末は地域で活動しながら、建築や都市などの周辺領域をぐるぐる動いてきました。ですが活動を続ける中で、各地域が抱える問題の複雑さ・広範囲さに、途方に暮れることも度々ありました。
世界各地の課題と解法に出会うことで、これまで自分が出会った複雑な課題たちを解くヒントが見つけられるのでは、そして今後の大きな力になるのではと思い、イタリア・フェラーラに来ました。
学びの場はイタリアから世界各地へ
フェラーラでのフィールドワークの様子。市民にインタビュー。
Eco-Polis は、”都市”という大きな問題を扱い、実践を重視するコース。そのため、集まってくる人も多種多様多国籍で、社会人経験を積んだメンバーも多くいます。建築・都市計画出身者を軸に、環境工学、バイオテクノロジー、国際政策、経済学出身者などなど。昨年は哲学出身者も何名か参加していたそうです。
この大学院の特徴は、なんといってもユニークなプログラム。この大学院では、大きく3種類に分かれる時間の過ごし方をします。まず約3ヶ月間、都市にまつわるあらゆるプロフェッショナルの講義を受けます。その次に実践プロジェクト期間に入ります。今年はイタリア・ブラジル・チリの各地域に滞在し、現地の行政・住民・NGO達と力をあわせて地域課題を分析し、未来に向けた地域計画やプロジェクトをつくっていきました。
そして、最後にインターン経験を積みます。このタイミングで、学生達が一気に世界中に散らばります。私は現在ブラジルの州政府にて、国連のsustainable allianceを州に適用するプロジェクトに参加しています(後述)。加えて、今年は3月にベトナムでのワークショップに参加するチャンスもあります。
もう少しイメージしていただくために、今年の実践プロジェクトのひとつ、ブラジルでの様子を紹介したいと思います。
地元NGOとまちづくり
アントニーナの景色
今年9〜10月、私たちはブラジル南部パラナ州、アントニーナという港街でプロジェクトに取り組んできました。アントニーナは早くにポルトガルからの入植者が訪れ、金銀やマテ茶を運ぶ港街として栄えましたが、20世紀には主要港が移り、列車も廃止されて観光ルートからも外れてしまい、今はひっそりとしている場所です。ですが、この街には、歴史的中心市街地や、豊かな自然があります。
また、近年大きな石油ポートの建設計画がたち、多くの一時労働者が押し寄せ、街に大きなお金が落ちてくる見込みでした。さらに昨年、山沿いで大きな地滑りがあり、避難した人々の住宅問題も解決されていません。このような背景をもとに、この街の価値をいかに高めていくかという課題に取り組みました。
このプロジェクトは、市と、地元のNGOとタッグを組んで実行されました。まず1週間に渡り、街をあげてのセミナー&ワークショップを通じて市を取りまく環境を理解します。2週目からは私たちとNGOがメインになり、歴史・自然的価値、生活環境、若者の流出など社会課題、経済成長バランスや地域のキープレイヤーの関係図など課題を洗い出していきます。
洗い出した課題をもとに、歴史的価値が高い場所の保存プランと観光ルート作成、生活環境を改善するセルフビルドのガイド、地域のコーポラティブ組織の提案、地域ブランディングのプロセス、などを含めたプロジェクトを作成しました。この過程で、住民、企業、専門家達と多くコラボレートします。
最後は再び市民・市長、州の大学などへプレゼンを行いました。私たちが作った計画はその後、地元NGOや市・州政府によるプロジェクトにて継続的に検討されています。
日本人としての強み
チリの先住民族へのインタビュー
もうひとつの滞在地・チリでは、より独自のメソッドに沿った課題分析に取り組みました。異なる環境で、異なる方法論により地域課題解決に取り組めることも、このプログラムの一つの魅力です。
これを、思考の背景が大きく異なる多国籍メンバーと実施するので、歴史・文化・言葉の壁に何度もぶつかります。リアルな地域の人間模様にも思い切り巻き込まれます。日本人としての強みも、何度も意識させられました。例えば、都度状況を整理してゴールやタイムラインを描くこと、また各意見の良い部分を融合させて一つの提案を組み上げることや、チームメンバーのモチベーションや性格に合わせて場をオーガナイズすることなどは、競争意識の強い文化で育ってきたメンバーからは、驚かれることもしばしばありました。
一つの地域に幾つもの国の知識や文化が流れ込み、徹底的に地元のことを考えてプロジェクトを作る。これは現地にとってもかなりエネルギッシュな取り組みです。「狭く短期的な考え方しか持てていなかったことに気づいたよ、来てくれてありがとう」という言葉をいただいた時には、安心と嬉しさが湧き上がりました。ここまでみっちり地域に入り込む異文化体験は、なかなか無いのではないかと思います。
より魅力的な都市づくりのために
ブラジル、サルバドールで毎夜開かれるサンバフリーライブ。プロジェクトの間に旅をするのも醍醐味。
私は今、ブラジルのクリチバという都市にて、州政府でインターンをしています。国連のsustainable allianceを州に適用するために、ルール作成、関係者への交渉、海外事例の研究、ローカルとの接続など縦横無尽に動くプロジェクトです。これまでとは全く異なる体験をしつつ、急成長する国の勢いと、それゆえの脆さを感じて過ごしています。
少しでも日本人の私が関わる意味を持つ働きをしていけたらと思いますし、これは日本にとっても大きな学びになるのではないかと思っています。(ブラジル・都市・サステナビリティ・州政府などのキーワードに関心がある方はぜひご連絡ください)
自分が帰国した後、どのような仕事に取り組んでいくかはまだまだ大きな宿題ですが、各地行政とからんだ都市戦略や、東京を含めたローカルで、公共空間を楽しめる仕掛けなどに取り組めたらと考えています。また、EUの共同体の強さと集合知に感銘をうけ、アジアでの共同体の構想に関心を持ち始めています。
これらを、多種多様・多国籍なメンバーで挑戦してゆけたらと、妄想は膨らみます。大学院生活を糧に、より魅力的な都市づくりのために取り組んでゆきたいと思います。ピンと来たかた、お声がけいただけるとうれしいです。
世界のローカルにどっぷり浸かりながら、都市(複雑な課題)に対するデザイン力や、無理矢理広げられた視野を得たい方、異文化へ体当たりしてなんとかするタフさ(=多国籍チームワークを築き、よりよい社会へむけたプロジェクトを作る力)を得たい方、世界中を旅しながら学ぶこのコースにぜひアクセスしてみてください。
(Text:内田友紀)
イタリアの大学院でサステナブルシティプランニング専攻中の、元ウェブディレクター。現在はブラジルでインターンシップ中。都市&建築、デザイン思考、コミュニティデザイン、旅に強い関心を持つ。福井ブランド大使。
Blog:http://yukiuchida.net/
Twitter:@yukinc0