こんにちは、SOCAP特派員の @ryu1023です。前回に続き、今日はSOCAPでも注目の起業家の1人、メキシコのNGO「Innovating Tradition」のファウンダー・Kythzia Barrera Suarezさんをご紹介します。
Innovating Traditionについて
「Innovating Tradition」は持続可能なデザインを、多様な規律から生み出すメキシコのNGOです。メキシコの村”ワカカ”の伝統陶芸を捉え直し、陶芸の技術、職人の知識、ワカカの歴史を、職人、デザイナー、アーティストと共有するプラットフォームを作っています。
Innovating Traditioのプラットフォームで作られた作品は、団体のウェブショッピングサイト「Collective1050°」で購入することができます。日本にはないメキシコらしい文様や、可愛らしいブタの陶器などありますが、どれもワカカ村の伝統的な手法で作られた作品です。
Innovating Traditionは、作品の価値を高め、職人の生活を支えることで、文化を土台とした経済発展を目指しています。この団体の活動の軸は4つあります。
・伝統工芸の新しい市場を開拓すること
・デザインと伝統工芸の交流を生み出すこと
・作る過程と作られたモノの関係を見直すこと
・ハイテクと適正技術を融合すること
様々な活動がありますが、それぞれにどのような意味があるのでしょうか?
そこで、Kythziaさんにインタビューして聞いてみました。
文化はイノベートされている
Ryu 活動の名前が斬新ですね。この名前にはどのような意味を込めているのですか?
Kythzia 文化は誕生した時点ではイノベーションだったと私は思います。歴史が今の積み重ねによって作られるように、文化も日々新しくなる過程によってできています。つまり、文化はイノベートされているのです。
文化は自然の動物のようなものです。動物が環境に適合して進化するように、文化も人間、技術、環境の変化に適応して進化していきます。文化をイノベートすることは、つまり文化を生み出す人間の進化でもあると思います。技術と文化は相対した概念として捉えられがちです。しかし、私はこの2つは互いに折り合わせながら、共に進化していくものだと思うのです。
私たちにとって、本当に大事なことは経済発展よりも人間の進化、すなわち文化の発展にあると思います。西洋では経済の発展のもとに、文化が成り立っています。しかし、日本のように文化の発展を土台に、経済発展した国もあります。私たちにとってもっとも大事なことから、取り組むべきなのです。文化と経済の発展において、メキシコは日本から学ぶことが沢山あります。
様々な国からデザインと文化を学ぶ
Ryu Kythziaさんはこれまで様々な大学で学ばれていますね。
Kythzia 私はメキシコの大学でインダストリアルデザインを学ぶことからはじめました。当時の”デザイン”は、とても男性的でした。学科の生徒のほとんどは男性で、建築やエンジニアリングを学んでいました。つまり、工業化経済のためのデザインだったのです。これには違和感がありました、そこには工芸や伝統的なものと、デザインの関係がなかったからです。そこで、私はある仮説を立てました。伝統工芸はデザインと融合することで、進化できるのではないか、と。
オランダの大学院では、その仮説を検証するためにデザインと工芸が結びついた国に足を運びました。イタリア、フィンランド、ブラジル、アフリカの幾つかの国など、日常生活にある家具や食器、照明がデザインに富んだ土地で、どのようにそれらのものが作られているのか、どのように進化してきたのかを探りました。
そして、得られた知見を確認するために最後に訪れたのが京都でした。JICAのプログラムを利用して、伝統工芸とデザインの関係の調査を京都工芸繊維大学で行いました。京都はイノベーティブな職人たちに溢れています。例えば、ある帯職人の方は7割は今まで通り、帯の製造をしていますが、3割は自動車メーカ-に座席の生地を提供しているのです。他にも、京都の京和傘の日吉屋では、デザインと傘を組み合わせて、照明の製作を行なっており、これもイノベーティブな取り組みです。
これらの研究ができたのは、山本建太郎先生のお陰です。多くの職人の方々にお会いでき研究はとても実りあるものになりました。とても感謝しています。
伝統工芸とデザインを融合するために
Ryu Kythziaさんが学んだ伝統工芸とデザインを融合するための方法とはどうのようなものなのでしょうか?
Kythzia わたしが学んできたことを、Innovating Traditionで実施しています。そのフローにはデザイン思考からなる4つの段階があります。
1つ目に、多様な専門の知見を活かしたデザイン・製造です。職人とデザイナー、心理学者、ビジネスマン、料理人など、様々な専門家を集めて、職人に新しい知見を提供します。初めは職人の教育のために始めたのですが、実は参加者全員が共に学びを得ていることに気づきました。この過程はワークショップとして行い、その活動記録をウェブサイトにまとめてあります。
2つ目は「製造過程の技術革新」。最新の技術によって、製造過程を持続可能なものにすることが可能です。陶芸を作り出すときには、多くの燃料が必要になります。そこで、街で出る廃棄物から燃料を作り出す取組を始め、燃料費を6割削減することに成功しました。技術を取り入れることで、よりサステナブルに生産することができます。
3つ目は「伝統工芸の叡智の見える化」。私はワカカ村で活動を行なっています。この地域には65箇所のコミュニティがあり、それぞれの地域で陶器の製造過程が異なります。そこで、すべての陶器の起源を調べあげ、それぞれの製造過程を調査し、1つの本にまとめあげて一般に公開しました。何千年と積み上げられてきた叡智は、みんなのためにあるのです。それを共有し学ぶことがとても重要だと思っています。
4つ目は「市場の開拓」です。製造したプロダクトを見ただけでは、他の商品と差別化できず、愛を持って使ってもらうことはできません。プロダクトが作られたストーリーを共有し、「この製品を買うことで、文化を革新し伝統の継承者を応援することができる」と伝える必要があります。
メキシコでは、伝統工芸製品が安く買い叩かれています。その理由は、中国などで大量生産されたものとの差別化ができていないからです。職人の生活を守り文化を発展させるためにも、これらのプロダクトをぜひ買って欲しいと私は思っています。
Ryu これからの活動が楽しみです。
Kythzia そうですね。活動を始めてからの7年間は深く根をはるための期間でした。これからは、竹のようにまっすぐ活動を成長させたいと思っています。
日本の伝統工芸も危機に瀕しています。伝統工芸の価値が高くなりすぎたために、日常生活に取り入れることが難しくなり、買い手がいないため後継者も不足しているのが現状です。メキシコとは正反対の問題を抱える日本。
Kythziaさんのように文化をイノベートしていく視点が、日本でもとても重要になっていくと思いました。今後のKythziaさんの活動に注目です。ぜひ応援していきたいと思います。
(reported by greenz.jp特派員 @ryu1023)
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