「え、ニット?」と一瞬見まごうような、ふしぎな質感のカップ。
こちらは、「Trace face」という商品名の通り、異素材の特徴をセラミックの表面にまるでトレース(なぞる)したかのように再現する食器のシリーズです。
商品の元となる型は、愛知県瀬戸市の成型職人さんが手がけています。製造工程はすべて手作業。細かい模様を優れた彫刻の技術で型に彫り込む熟練された手しごとが、デザインに100%発揮されています。
こんな素敵な商品を手がけているのは「CEMENT PRODUCE DESIGN」。大阪と東京に拠点を持つデザイン会社で、これまで”地場産業を活かしたモノづくり”に力を入れてきました。
大量消費・大量生産の中で安易に製造される「右にならえ」なプロダクトではなく、地場産業の職人さんたちの知慧と経験がめいっぱいに発揮されるデザインを考え、日本の伝統のものづくりを復興させたい。
そんな思いを持つのが、代表取締役の金谷勉さん。
“世の中に2つとない”雑貨を生み出すことにかけては右に出るものはいない金谷さんに、インタビューに行って来ました!
「上から言われたとおり」のビジネスモデルに疑問を持った
金谷さんは、20代の頃は広告業界で企画営業を行なっていたそうですが、28歳の時に独立し、グラフィックデザインの仕事を受けつつ、兼ねてからやりたかったものづくりの仕事を手探りで始めました。
初めて日本国内の地場産業に注目したのは、中国のメーカーと仕事をした時。素材をレザーで依頼したのに、できあがったものは合皮で作られていたんです。この時、海外にいる顔の見えない人と仕事をすることへの不安を感じました。
その一方で地場の製造業の方々から、日本のモノづくりの存続が危ういと聞き、なぜ彼らが大変な状況に置かれているのかを金谷さんは考え始めたそうです。
今の地場産業の方々は、総合商社や巨大メーカーから注文されて、スーパーやホームセンターに並ぶ大量生産品を製造する完全な「受託企業」がほとんど。
でも、もしそのメーカーや商社が国外に目を向けて中国に発注するようになったら、スパっと仕事がなくなってしまいますよね?そうした時、今まで上から言われたものをただ作り続けてきた零細企業が、いきなり青山のおしゃれなインテリアショップに置けるデザインのものは生み出せない。
さらに、デザインだけを良くしても、適した価格設定や販路開拓を行わないと、モノは売れない。デザインと技術、どちらかだけではなく、市場を見据えて全部のバランスを取りながらモノを作ることが、今の彼らには必要そこに、独立してゼロから手探りで営業し、モノをつくり、販路を開拓してきた自分の力を活かせないかな?と思ったんです。
そうして取り組み始めたのが「NEXT FORM JAPAN」という地場産業活性プロジェクト。
これまでは、旭川の木工職人さんと作ったカードケースや、福井のリボンメーカーと開発した「SEE OH! Ribbon」など、地場産業のメーカーさんと組み、その企業だからこその、アイデアと品質の両方を兼ね備えた商品を多数プロデュースしてきました。
例えばこの「5108アクセサリーシリーズ」は、埼玉県川口市の金属メーカーと組み、CEMENT PRODUCE DESIGNがデザインを手がけています。
普段表しにくい感謝の気持ちや、大切な思いを素直に伝えるのにぴったりの「5108」(コトバ)アクセサリー。パーツやチェーンのすべてを日本国内生産にこだわっています。
海外の工場で、安価で大量にスピード生産されているアクセサリーが多い中、「5018」は今まで工業用製品などを手がけてきた地場のメーカーが作るからこそ、安全な素材と安定した品質ながらもアパレルブランドよりも手頃な価格帯で販売できるのだそう。
オンリーワンの技術を活かした、新しいビジネスモデルとは?
地場産業にとって伝統はもちろん美点。しかし、それが逆に足かせとなり、ビジネスを妨げている部分もあります。
例えば、焼き物の型を作る成型職人さんって、自分で商品を起案して販売するのは慣習でNGだったんです。メーカーの下請けで、発注されて型を作り、その型代をもらう、というのが今までのビジネスだった。それを変えて、職人たち自らが製品を作っていけないか?というところから冒頭で紹介した「trace face」は始まったんです。
こんなふうに、日本のモノづくりで難点だと思われている部分は、単に今までのやり方に固執している事で起きているだけだったりする。
伝統に囚われすぎて、硬直していた仕組みに少し口を出すだけで、日本の地場産業のカタチを変えられる。そのことに金谷さんは気づいたんですね。
「trace face」の型を作ってくれた人のような、”その人にしかできない”職人の技術を活かしたデザインプロダクトを作ることで、新しい利益の生み方を創りだす。こういう仕事を増やしてゆきたい。
自分の足で立てる地場産業に!
地場産業の方々には、「ホームランを打つのではなく、バントで一点取る戦略で行こう」と言っています。バントで点を取るには早く走ること=つまり“開発スピード”ですよ。
例えば大手メーカーが中国でひとつの商品を大量生産するとします。ビジネスが大きいので簡単には失敗できないため、開発に時間をかけますよね。彼らが一年に一回の新作に時間をかけている間に、ぼくらは一年に数回新作を出して、トライアンドエラーを何度も繰り返せる。
1,000個作るのであれば、100個ずつ10種類作れば、10勝負できますよね。その中からどれが本当にニーズのあるのか、初めて分かります。ぼくらが大量生産ではなく、“多品種・少量生産”でやるのはこういう理由なんです。
大手メーカーからの受注仕事が止まっても、自分たちで開発したものを売っていれば、収入は減るけどゼロにはならない。そういう闘い方をしましょう!と言っているんです。
なるほど。しかしなぜ、そんなにも地場産業の方々に共感できるんでしょうか?
最初に僕が企画営業として働いていた制作会社は、ひとつの大手代理店からの完全な受託企業。自分で自分の生死を決められないって、おそろしいなと思い、独立してゼロからビジネスを作って来ました。
デザインの業界も地場産業の業界も、大クライアントから仕事を請け負うという点では業界構造は違いません。そこから脱却して、少しでも自分の足で立てるようになったら、これからの日本のモノづくりは変わってゆくと思います。
デザインと地場産業の循環をプロデュースしたい
金谷さんは今後、WEBや紙のデザインと地場産業活性化の事業、その二輪を上手く走行させることで良い相乗効果を生みたいと考えています。
パナソニックにしろ、ソニーにしろ、今まで日本のメーカーが頑張って稼いできたおかげで、ポスターやカタログなどのデザインの仕事がぼくらに来る。今の自分たちのデザインの仕事って、「だれかが何かモノを作っている」からこそ成り立っているんじゃないか?と思ったんです。
じゃあ、日本のモノづくりが衰退したら、ぼくらのデザインの仕事って減っていきますよね。だったら、受け身でただ頼まれたものをデザインするだけでなく、自発的に国内のメーカーを応援し、地域の仕事を盛り上げてゆくことが、ひいては自分たちデザイン業界の仕事にもつながるんじゃないか。国内のデザインとものづくりが互いに引き立て合う、そんな循環を作ってゆきたい。
金谷さんは、自分の後続となるデザイナー志望者たちにも伝えたい事があると言います。
デザインを志す人には、どんな仕事が社会にとって有意義なのかをちゃんと考えて欲しい。大メーカーさんの中にも、外国人デザイナーに格安でデザインしてもらっているところがもう出てきている。低価格競争ではなく、アイデアで勝負しないと。安いデザイン料を売りにするのではなく、日本の産業の中での後継者としての自分の立ち位置はどうなんだろう?と考えるデザイナーに増えてほしい。
自分にしかできないこと、本当に自分の力が発揮される仕事をしてほしい、と。それは金谷さんが地場産業の方々に望まれることと同じなんですね。
僕自身、やりたくないことができないタイプなんですよ!そのぶんスタッフにも苦労も多いので、生まれ変わったら、上手いメーカーになって「あぁ、誰かの製品を真似してビジネスするのはラクやなー」って言いながら商売できるような性格になりたいくらいです(笑)まあ、コピーなんて絶対やりたくないし、しませんけどね(笑)
日本の産業を担っているというプライドと、自分だけのオリジナルな発想で新しいモノを生み続けるんだ!というこだわりを感じられる、「CEMENT PRODUCE DESIGN」の仕事。
現在は東急ハンズ銀座店の七階にて、企画販売「物物園(モノブツエン)」を展開しています。伝統の技が効いているCEMENT PRODUCTの商品たちを、ぜひ実際に手にとって見てみてください!
少し楽しい、少し嬉しい。少し幸せ。そんなモノ達が集まったモノの博物館を作ります。
CEMENT PRODUCTSの他、furnish PRODUCTSも一緒に展開致しますのでお近くにお越しの際は是非お立寄ください。
期 間:2012年3月1日~3月28日 11:00-21:00(最終日は17:00まで)
場 所:東急ハンズ銀座店 7F HANDS INSPIRATION
(東京都中央区銀座2-2-14 マロニエゲート7F)
「これからのものづくり」についてもっと考えてみよう