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オンライン卸売市場で産地とスーパーをつなぎ、日本の生鮮流通のあり方を問い直していく。「みらいマルシェ」井口大輔さんが、スーパーにこだわる理由

スーパーマーケット、使っていますか?

ECや定期宅配など、生鮮品の購入方法は多様化していますが、やはり「市民の台所」と言えば、スーパーマーケット(以下、スーパー)。子育て真っ最中の私も、基本の食材は定期宅配に頼りつつ、週に一度は子どもたちとスーパーに足を運びます。

生鮮品の購入場所に関するある調査(※)では、20代〜80代のすべての世代で9割以上の人が「スーパーマーケットまたは生協」と回答しています。やはりあらゆる世代にとって、日々の暮らしに欠かせない存在であることは間違いありません。

※「生活者における生鮮食品購入チャネルとDtoC利用実態」(2021年7月、日本マーケティング研究所)

今日ご紹介するのは、そんな身近なスーパーを元気にすることから、日本の食や生鮮流通に関するさまざまな課題を解決していこうという取り組み。オンライン卸売市場「みらいマルシェ」を立ち上げ、利用普及に向けて全国を奔走中の井口大輔(いぐち・だいすけ)さんにお話を聞いていきます。

「今日私が食べたものは、どこからどうやって来たのだろう?」

そんなことを思い浮かべながら、井口さんの言葉に耳を傾けてみましょう。

生鮮市場がそのまま、スマホのなかに

「みらいマルシェ」は、産地とスーパーがダイレクトに生鮮品を取引できるオンライン卸売市場です。

仕組みは実にシンプル。たとえば魚介類は、毎朝水揚げされた魚が産地市場(※)に並ぶと、仲買人はそれを競り落とし、すぐにみらいマルシェのアプリを使って出品していきます。それを全国のスーパーのバイヤーや店舗の仕入れ担当者が次々に買い付けていきます。

みらいマルシェ グリーンズ

産地市場で仲買人がスマホを使って出品する様子。画面の明るさや文字サイズ、使い勝手などは市場で仲買人たちの動きを観察し、アプリに反映させているのだとか(画像提供:みらいマルシェ)

売買はリアルタイムで進み、珍しい魚や地域特有の野菜なども含めて、出品から10分もしないうちに次々に注文が入るとのこと。東京の豊洲市場や大阪市中央市場に代表される全国の消費地市場(※)が、活気もそのままにスマートフォンのなかで再現されたようなプラットフォームです。

※漁獲物などが水揚げされる場所に近い「産地」にある卸売市場のことを「産地市場」と呼ぶ。それに対して、人口が多い都市部などの消費地に開設され、全国各地・世界から集められた食材を卸売りする市場を「消費地市場」と呼ぶ。


みらいマルシェの仕組みが90秒でわかる解説動画

みらいマルシェで買い付けられた生鮮品は、消費地市場からみらいマルシェが独自にコーディネートした最適ルートで、概ね翌朝にはスーパーに届けられます。

スーパーのバイヤーにとっては、鮮度の高さはもちろん、これまで近隣の消費地市場だけでは手に入りにくかった珍しい品種の生鮮品も、全国の市場から1ケース単位で仕入れられます。さらに店舗ごとに違う客層のニーズに合わせて仕入れることも可能になるほか、他スーパーチェーンとの差別化にもつながります。

一方で産地の仲買人にとっては、消費地市場への出荷と併用することで、食品ロスをカットできます。たとえば、競り落とした生鮮品をみらいマルシェに出品して30分ほどの短時間で締め切り、売れなかったものは既存の流通に乗せていくといった利用も可能です。

スーパーにとっても仲買人にとっても大きなメリットのある「みらいマルシェ」。日本初、産地とスーパーを直接つなぐプラットフォームとして、生鮮流通の現場の景色を少しずつ塗り変えようとしています。

みらいマルシェ グリーンズ

(画像提供:みらいマルシェ)

大量供給・大量消費の文脈を抜け出すために

井口さん イメージとしては、「メルカリ」のビジネス版です。
メルカリでは1週間程度の比較的短いスパンで売買のやりとりが行われていますが、みらいマルシェは10分ほどの間で売り切ってしまうような、リアルタイム性がとても高い競りが行われているんです。

そう語るのは、井口大輔さん。みらいマルシェの生みの親であり、みらいマルシェ株式会社の代表取締役である井口さんに、まずは開発ストーリーを聞きました。

みらいマルシェ グリーンズ

みらいマルシェ株式会社代表取締役・井口大輔さん

みらいマルシェの種が生まれたのは、2015年のこと。井口さんが、コンサルティング事業を手掛けるRELATIONS株式会社の社員だった頃に遡ります。新規事業を模索するなかで、あるスーパーの役員に話を聞く機会があり、生鮮品の仕入れをめぐる課題を知りました。

井口さん スーパーの仕入れのあり方は、大量供給・大量消費の文脈を抜け出せないでいました。

たとえばチラシに「サバ大安売り」と書いたからには、なんとか仕入れなくてはいけません。鮮度が落ちていたり痩せほそったサバでもかき集めて、そのためにコストが上がってしまって、高くて美味しくないから売れ残って、結局「30円引き」といったシールを貼って売って……。

誰も得しないし資源も破壊していく、持続可能ではない産業構造だったんです。

「これは社会課題であるとともに、消費者にとっても重要な課題だ」と切に感じた井口さんは、何度もスーパーに足を運ぶなかでオンライン市場の構想に至りました。

井口さん これまでは、需要があるかどうかわからないまま都市部を中心に商品を流してしまう構造があり、結果としてフードロスや品質劣化が発生しやすい状態にありました。そうではなく、需要と供給をきちんとテーブルに並べ、それらを素早くマッチングし、ある程度まとまった量で流通させる仕組みを構築する。

つまり、「物流があって情報の流れがある」のではなく、「情報の流れがあって物流ができる」状態に逆転させなくてはいけない。物流のある・ないにかかわらず、産地とスーパーが直接取引するというところに意味を見出して、それを実現するプラットフォームをつくろうと考えました。

みらいマルシェ グリーンズ

スーパーのバイヤーから見たみらいマルシェの画面イメージ(画像提供:みらいマルシェ)

「その当時につくったプロトタイプから現在まで、ほとんど形は変わっていない」と語る井口さん。開発にあたり、ヒアリングを続けてきたスーパーの役員に「日本全国の課題と捉え、一社だけのためのシステム構築ではなくどのスーパーでも使えるプラットフォームにしたい」と提案したところ、心から応援してくれたと言います。

プロトタイプの実験にも参加してもらいながらスーパーと一緒に開発を進めていき、2017年3月にはスマートフォン向けアプリ「みらいマルシェ」を、まずは鮮魚部門向けに提供開始。その後青果部門向けにもサービスを開始し、2018年11月には「みらいマルシェ株式会社」として独立しました。

既存の市場での取引と並行して利用できる生鮮品売買ツールの選択肢として順調に利用者数を伸ばし、サービス開始から8年半ほど経った2025年10月現在、累計100億円の取引を創出するまでに成長しました。

今では毎朝、全国約100の漁港から出品があり、そこに約500店舗のスーパーが参加するかたちで、活気あふれる取引が行われています。

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(画像提供:みらいマルシェ)

なぜ「スーパー」なのか?

今では日々多くの取引が行われているみらいマルシェですが、井口さんがRELATIONS株式会社の新規事業として開発を始めた頃、同僚からは「なぜスーパーなのか?」という問いが投げかけられたことがあったそう。

「スーパーとのビジネスは難しい」「スーパーではなく消費者と産地を直接つなぐ方が事業として面白いのではないか」などといった声に、井口さんは一貫して「NO」を伝え続けたと言います。それはなぜだったのでしょうか。井口さんは物流を血管に例えてこう語ります。

井口さん 事業化に向けてさまざまな調査を重ねていくなかで、地域の生活を支えているのはスーパーだということを強く感じていたんです。

こだわり抜いた野菜や魚を、こだわりを求める人だけに届けるサービスは既にありますよね。そうではなく、より多くの人の毎日の食を豊かにするインフラにしたいと思ったときに、生産者と消費者をつなぐ毛細血管のようなインフラではなくて、「太い血管=市場流通」をきれいに整えていくところからはじめないといけないと考えました。

毎日の食卓に並べられるものを自然体でよりよくしていくためには、やっぱりスーパーを変えることが重要だと思ったので、そこだけは譲らなかったですね。

井口さんには、今も忘れられない光景があると言います。

井口さん 元気なまちには元気なスーパーがありますよね。

たとえば以前訪れた長野のスーパーはとても活気にあふれていて、売り場を見ると一列ずらりといろいろな種類のキノコが並んでいたりして。そういう地域色のあるスーパーに行くたびにすごく楽しいと思いましたし、そのたびに、やっぱりスーパーだなって確信を深めていきました。

人々の台所であり、その地域の食を担っているのはスーパーで、その売り場に並ぶ魚や野菜を美味しくしていくだけで地域がすごく豊かになるなって。

みらいマルシェ グリーンズ

「元気なスーパー」という言葉を受け取って私が思い出したのは、この夏、アメリカ北西部を旅するなかで訪れた、とあるオーガニックスーパー。オリジナル商品やローカルのものが豊富で、オーガニック商品も比較的手頃な価格で手に入り、買い物も自炊も楽しく、滞在中に何度も足を運びました。

でも自分の人生を振り返ると、スーパーは特に魅力的な存在というわけではありませんでした。今も、魚屋や地元農家の朝市に立ち寄る時間がないときに「今日はスーパーでいいかな」という気持ちで足を運んでいるというのが正直なところ。そんな私自身の体験と感覚を伝えると、井口さんは日本のスーパーの置かれている厳しい状況について聞かせてくれました。

井口さん 今、スーパーに並ぶ魚も野菜も、質を悪くする外圧にさらされているんです。

たとえば魚介類は、水揚げが不安定になっていること、担い手不足により市場にいい魚が集まりにくくなっていることに加え、海外からの買い付けニーズがすごく増えています。漁師さんにとっては国内のマーケットに流通させるよりも海外に出したほうが実入りがいいという状態になっていて、国内の魚や野菜は値上がりしています。

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(画像提供:みらいマルシェ)

その危機感はスーパーに関わる人々も肌身で感じており、産地と直接取引しようと試みることも多いのだとか。でもスーパー単独でそれをやるには多大なコストがかかり、多くの場合はうまくいかないと井口さんは指摘します。

井口さん これまでスーパー単独では難しかったところに、複数のスーパーと複数の産地を直接プラットフォームにのせてやりとりする場をつくったことで、どちらにとってもメリットのある形で産直が実現できるようになりました。

今はまだ全国すべての産地を網羅しているわけではないですし、それぞれの漁港の波もあるため、みらいマルシェの魚が市場よりも安い場合もあれば高い場合もあります。品質も、良い場合もあれば悪い場合もある状態です。

ただ、スーパーのバイヤーにとっては市場だけに依存するのではなくみらいマルシェという選択肢ができたことで、安定供給が実現できるようになったことは間違いありません。

井口さんによると、現在は大衆魚と呼ばれるアジやサバ、サンマなど大量供給・大量消費が前提となっている魚種に関しては、まだ既存の市場の方が安く品質もいいことが多い状況とのこと。一方でそれ以外の、スーパーの売り場に彩りを与えてくれるような魚種に関してはみらいマルシェの方が良いものが集まりやすく、スーパーのバイヤーのなかには、すでに仕入れの大部分を頼ってくれている方もいるのだとか。

その背景には、スーパーという市民の台所を担う立場で抱いているこんな想いがあるようです。

井口さん 最近、スーパーに関わる方たちが「この20年、魚離れという状況をつくってきたのはスーパーだ」とおっしゃるようになってきました。

大衆魚に頼りすぎて、とにかくアジとサバを並べてマグロやサーモンを追加する、といった品揃えのスーパーが増えて、魚が美味しくなくなり、消費者も美味しくないから食べなくなった。そのためにスーパーは魚を置かなくなり、仕入れコストが上がっていき、ますます魚は「高くて不味い」状態になっていってしまったと。

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井口さん 本当は市場がとれたものをとれただけ供給して、スーパーは見知らぬ魚種でもとにかく流通させて食べ方を案内していき、消費者が「実はおいしかったんだね」と感じたら、魚が好きになっていきますよね。それなのに、スーパーが大衆魚のみの売り場にしてしまった。そんな課題意識を、スーパーの方たち自身が感じていらっしゃるんです。

それを変えていこうと、最近、対面販売で丸魚(内蔵の処理などがされていない、まるごとの魚)を売っていこう、ライブ感を出していこうと考えるスーパーが増えてきました。そうしないと生き残れない、鮮魚の文化が終わってしまうという想いで問い合わせをいただくようになったんです。

スーパー側の課題意識の向上とともに、デジタル化や働き方改革に向かう時代の流れも追い風となり、みらいマルシェは徐々に生鮮品流通に関わる人々に受け入れられるようになっていきました。

2025年春には青果の取扱を本格展開しはじめ、10月には米の取扱もスタート。今後はさらに、現在の大衆魚の流通のDX化や高積載率を実現する物流事業など、生鮮流通のあらゆる課題に真正面から取り組もうとしています。

食文化を根底から変えていくために

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いわゆるBtoBのビジネスに取り組むみらいマルシェですが、最近は消費者とのコミュニケーションにも取り組みはじめました。その背景には、井口さんのこんな想いがあります。

井口さん 産業も自然環境も危機的な状況にあるなかで、産地とスーパーをつなげて需給マッチングをしていくだけではなく、消費者の意識を食文化や環境へ向けていかないといけないのではと考えはじめました。

ただスーパーに並んでいるものを信じて食べればいいのではなく、安ければいいわけでもなく、消費者自身が「どうやってここに届いたのか」「食べると何がいいのか・何が悪いのか」ということを考えながらスーパーで生鮮品を手に取る。この産業の維持発展のためには、そんなふうに社会が変わっていく必要があるのではないかと。

そんな問題提起のため、みらいマルシェはこの夏、大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)に催事出展しました。海の環境保護をテーマにしたパビリオン「ブルーオーシャン・ドーム」にて、スーパーの魚がどこから来ているか、そこにどんな課題があるかということを体感してもらうため、子どもたちにスーパーのバイヤーになってもらい、オリジナルの仕入れカードを用いて自分だけの売り場をつくってもらうワークショップを開催しました。

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大阪・関西万博のブルーオーシャンドームにてマイクを手にとる井口さん(画像提供:みらいマルシェ)

幼児から小学生まで、合計61名が参加したワークショップでは、子どもたちがそれぞれに選んだ魚を仕入れて売り場をつくり、「お父さんが喜ぶ魚を選んだ」「珍しい魚で売り場をつくった」など、それぞれの言葉で発表してくれたのだとか。

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産地と魚種、大きさ、魚の特徴とともに値段が書かれたカードを手に、カードゲームのように仕入れ体験を楽しむ子どもたち(画像提供:みらいマルシェ)

ワークショップ後には、参加した子どもの保護者から嬉しいメッセージも受け取ったそう。

井口さん 「子どもが『これ、万博で見た魚だ!』と、スーパーの売り場で産地や魚種に目がいくようになりました」と書いてありました。それってすごく大事なきっかけだと思うんです。ただ「魚」を食べるんじゃなくて、「境港」や「気仙沼」の「レンコダイ」や「メカジキ」を食べる。

消費者が産地と魚種を意識して食べるようになることで、産業が変わっていく。これからはそういう文化づくりにも取り組んでいきたいと思います。

また、消費者との接点であるスーパーの売り場におけるコミュニケーションツールとして、『食べてほしい、産地のお魚』と書かれたのぼりやステッカー、珍しい魚の特徴や魅力が記されたPOPなどみらいマルシェオリジナルの販促支援キットを、希望するスーパーに提供しています。2025年10月現在、都内では東急ストアなどでも目にすることができるのだとか。

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(画像提供:みらいマルシェ)

さらに、消費者が産地に触れるきっかけとして、スーパーが「産直フェア」を開催しやすい仕組みづくりも行っています。

井口さん たとえば浜田港(島根県)は春や秋の水揚げがとても多いのですが、そこに複数のスーパーが押しかけてそれぞれ産直フェアを開催しようとすると、産地側の負担がとても大きくなってしまいます。スーパーにとっても、チャンスではあっても一社でフェアを企画するのは負荷が高く、開催に踏み込めないことも少なくありません。

そこで、水揚げの多い時期になるとみらいマルシェが産直フェアを開催するスーパーを募り、たとえば10社共同開催という形で「浜田港フェア」を開催します。浜田市と官民連携で取り組んでいますが、この仕組みなら、スーパーも開催しやすく、産地の負担も軽減されますよね。

みらいマルシェ グリーンズ

2023年より島根県浜田市と官民連携で開催している「浜田港フェア」の様子。浜田港特産の鮮魚を紹介するPOPをスーパーに提供し、産直フェアの開催を支援。学者もウッカリ見間違えた「ウッカリカサゴ」や油のノリの基準を満たした「どんちっちノドグロ」など、ユニークな名前に思わずにっこり(画像提供:みらいマルシェ)

BtoBの枠を抜け出し、行政とも連携し、さまざまな枠を越えて消費者とのコミュニケーションに力を注ぎ始めたみらいマルシェ。

すべては日々の食卓を豊かにするために。生鮮流通のあり方を問い直し、食文化を根底から変えていく挑戦は、まだ始まったばかりです。

ビジネスで社会課題を解決していくモデルに

みらいマルシェの代表として日々奔走する井口さんですが、特に生鮮品に思い入れが強かったわけではないと笑います。この事業に取り組むモチベーションは一体どこにあるのでしょうか。

井口さん ビジネスという手段を通して社会をより良くしていく、そのひとつのモデルをつくりたいと思っています。

ビジネスのためのビジネスではなくて、社会課題解決のためのビジネス。その成功事例をつくれたら、これからのスタートアップのあり方も変わってくると思います。「株主のために利益を上げなくては」という外圧のなかでビジネスを組み立てるのではなく、本当に純粋に社会貢献のためにビジネスをする、そのモデルになりたい。

若い人たちの意識も今、社会貢献に向かっていますが、その手段のひとつとしてビジネスが有効なツールだということを提示できれば、もっと社会を良くすることができるのではないかと思います。「企業の社会的責任」といいますが、社会貢献は責任ではなくて、企業の「存在意義」だと思っているので。

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現在、みらいマルシェは産地の人やスーパーのバイヤーから取引額の4%の手数料を受け取っています。産地と消費者を直接つなぐプラットフォームではおおよそ25%、飲食店向けは10〜15%ほどの手数料モデルが主流で、しかも従来の消費地市場では5〜10%の手数料がかかるなか、この4%という数字は業界内でも驚かれるのだとか。

でもさらに驚くべきことに、井口さんは将来的にただでさえ安いこの手数料を1%まで下げていきたいと考えています。それはなぜなのでしょうか。

井口さん 手数料が安ければ安いほど流通は絶対に良くなるからです。

たとえば今、米不足という情報が入ってマーケットが上がっていますが、生鮮市場がマネーゲームのツールになってしまわないように、投機マネー(※)が入る余地をなくしていく必要があります。

生産者の手取りを増やしながらも消費者の元に安く届けていくために、手数料を下げていくのは必須ですし、今後AIの力も借りながら工夫すれば需給マッチングのシステムはさらにコストをカットできるので、手数料1%も夢ではないと思っています。

※「投機マネー」とは、短期的な値上がり・値下がりを利用して利益を得ようとする目的で市場に投入される資金のこと。

もうひとつ、井口さんがこだわっているのは、小さな組織でやっていくということ。

井口さん 今は4人で会社をやっていますが、組織は小さければ小さいほどいいと考えています。手数料を下げていくために、事業を大きくして組織を小さくしていきたい。

そしてこれからAI時代が来るなかで、いかに小さいリソースで大きな課題を解決していけるかということを世に証明していきたい。目の前にある社会課題を、ビジネスというツールを使って、それも新しい組織のあり方で解決していきたい。それが今、自分のなかでの挑戦ですね。

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「どのスーパーに行っても盛り上がっている。それが日常に溶け込んでいる光景が見たい」と嬉しそうに語ってくれた井口さん。きっとその光景は、それぞれの食卓にそのまま映し出されていくでしょう。

「選べる人が選んで買い物をする」という状況をつくるサービスはgreenz.jpでも数多く紹介してきましたが、それだけでは社会は本当には変わっていきません。

その段階から一歩踏み出し、誰もが特に意識せずにいつものスーパーで買い物をしているだけで、「実はそれがとても豊かな食であり、環境にも良いものであった」という状況を目指す「みらいマルシェ」。

このような自然体で豊かさを享受し、同時に環境を良くしていける仕組みづくり、文化づくりが、今まさに求められていますし、社会や自然環境は、その段階にいかなければもう後がない状況にまで至っているということを、私たちは真摯に受け止めなければならないのだと思います。

決して簡単な道のりではありませんが、井口さんの柔らかで軽やかな語り口からは、元気なスーパー、元気な食卓が現実のものとして当たり前に存在する未来がすぐそこにあるようにも感じられます。

今度スーパーに足を運んだら、ぜひ生鮮品に目を向けてみてください。そこに当たり前のように生命力溢れる魚が並んでいることを想像してみましょう。そんな一人ひとりの想像力が、しなやかで強い、信じられる未来をつくっていくと思うのです。

みらいマルシェ グリーンズ

(編集:山中散歩)
(撮影:大塚光紀)